満開の後遺症と無限に近いバーテックスの数に風は一度、完全に心が折れてしまっていたが、必死に戦い続ける樹の姿を見て、再び立ち上がっていた。
「ごめんね、樹。アタシはもう大丈夫よ。さあ、ここから犬吠埼姉妹の―――」
風が星屑に向けて大剣を構えた瞬間、紫の一閃と黄色い十字の斬撃が星屑達を一気に消し飛ばした。
「……へ?」
「……!?」
出鼻を挫かれ、抜けた声を洩らした風と驚いた表情で目を見開く樹の前に、二つの影が降り立つ。
一人は槍を右手に携え、薄紫の勇者服に身を包んだ金髪の少女。もう一人は長さが異なる斧のような刀を両手に携え、山吹色の勇者服に身を包んだ銀髪の少女だ。銀髪の少女の勇者服の作りはどことなく夏凜に似ている。どちらも自分の足ではなく、腰から伸びている美森と酷似した四本の細長い白い襷で立っている。
金髪の少女と銀髪の少女―――園子と銀は二人へと振り返った。
「初めまして~。私は乃木園子でこっちはミノさん。勇者の先輩だよ~」
園子の自己紹介に、銀も同意するように頷く。
両耳が聞こえない筈の銀が聞こえているような態度が取れたのは、勇者に変身してる為だ。戦闘に支障を来さないように精霊による補助が働いている為、周りの音や声が“なんとなく”分かるようになっているからだ。
“なんとなく”であるため、具体的な会話の内容は全然分からないが。
「勇者の先輩……!?もしかして、友奈と東郷が会ったという……!!」
「そうだよ~。ちなみに会ったのは私。ミノさんはお留守番してたから~」
風の言葉を園子はあっさりと肯定する。
園子と銀が勇者として此処にいる理由。一言で言えば大赦にある。
風が暴走している時に大赦の神官達が園子と銀の勇者端末を引っ提げ、風の暴走を止めるように依頼してきたのだ。
風が暴走した原因を察していた二人はどうしようかなー?という態度で神官達を困らせていたが、両方の端末に表示された【特別警報発令】を見るとさすがに悩んだ。
何せ文字通り世界の危機なのだ。勇者端末がすぐ傍にあったことで樹海に召喚された園子と銀は動くべきか、見守るべきかを悩んだ。これが勇者部全員の出した結論なら、申し訳なさと共に受け入れるつもりだったからだ。
しかし、園子と銀は勇者としてこの場に赴いた。その理由は。
「実はこーりんからメールが届いてね。あなた達が答えを出すまでは手助けしてやってほしいって」
園子はそう言ってスマホを召喚し、その画面を風と樹に見せる。
そう。今回の事態は美森一人の暴走で、勇者部全員の意思でないと分かったから園子と銀は動いた。
だからこそ……園子は残酷な事実を口にする。
「もう察してると思うけど、バーテックスは無限に湧いてくる。戦いは“ならされてしまった”勇者が戦えなくなるまで終わらない。加えて散華のこともある。その上で……二人はどうするの?」
顔の半分が包帯で隠れているが、左目が真っ直ぐに風と樹を見ていることから真剣であることが窺える。
園子の真剣な質問に対し……先に動いたのは樹だった。
樹はスマホの画面をいじり、その画面を少しムッとしたような表情で園子の前に突きつけた。
『私はお姉ちゃんの隣で歩みたくて、勇者部のみんなと一緒にいたいから勇者になったんです。だから、ならされてしまったなんて言わないでください』
樹はあくまで自分の意思で選んだのだと園子に伝える。それを見た園子は少し驚きつつも微笑みを浮かべた。
「そっか……失礼な事を言ってゴメンね。私はみんなのこと、詳しくは知らなかったから……本当に強いね」
そう言って園子は素直に謝る。樹もあくまで自分達のことを心配しての言葉と察していたので、やんわりと首を振って大丈夫と伝える。
そんな樹を園子は強い子だと改めて感じた。この状況でも自棄にならず、大切なものの為に戦うことを選んだのだから。銀も同じ気持ちのようで、微笑ましげな視線を樹に向けている。
「そうね……アタシの妹は本当に強いわ。そんな自慢な妹の前で、これ以上情けない姿を見せられないってもんよ!!」
「そっか……二人は戦うんだね?」
園子のその言葉に風と樹は揃って頷く。その二人の答えを確認した園子と銀は、どう動くべきかを決めた。
「ならあの穴の外に向かって。バーテックスの方は私とミノさんが倒すから」
園子は風と園子にそう告げると同時に先程と同じように槍を振るい、再び集まってきていた星屑達を一掃する。銀も両方の斧刀に炎を宿し、巨大な炎の剣として振るって同じく星屑達を一掃する。
「私とミノさんじゃわっしーを止められない……厳密に言うなら力づくでなら止められるけど、できればそれはやりたくないから」
千晶はおそらく力づくでも美森を止めようとするだろう。けれど、園子と銀はそこまで出来ない。大事な友達で、その気持ちも痛いほど理解できるから。
そんな気持ちを察したのか、話の流れからわっしーが美森のことだと察した風は決意に満ちた表情で口を開いた。
「任せなさい!勇者部部長として、先輩として東郷を止めてくるわ!!だから、バーテックスの方は頼んだわよ!!」
風のその言葉に樹も同意するように頷くと、姉妹は共に壁に向かって進んでいく。そんな二人を園子と銀は優しげな表情で見つめる。
「……頼んだよ」
園子はそう呟くと、徐々に近づいてくる未完成体らしき双子座の群れへと槍を構える。どうやら派手に暴れているバーテックス達を隠れ蓑に、此処まで接近していたようである。
銀も大小二つの斧刀―――“大鷲”と“小鴉”を振りかぶり、現在進行形で迫って来ている双子座の群れへと突撃していくのであった。
―――――――――
「はぁああああああああああ―――ッ!!!」
千晶が雄叫びと共に黄色い光を纏った長銃鎌を振るう。その一振りで周りにいた大量の星屑達が一気に消し飛んでいく。
それを察知したのか、乙女座が下部にある瓢箪のような口を千晶に向け、ソコから爆発物を幾つも放ってくる。
「無駄だ!」
千晶は迫り来る爆発物を一瞥し、長銃鎌の銃口を乙女座に向けてから引き金を引く。
途端に銃口から極太のレーザーが放たれ、乙女座が放ってきていた爆発物を爆散させながら乙女座の上半身を穿つ。
極太レーザーによって身体の半分が消し飛んだ乙女座は、そのまま虹色の光を放ちながら砂となって消えていく。
そんな乙女座を瞬殺した千晶の隙を狙うかの如く、無数の星屑達が千晶に殺到していく。
「ふんっ!」
千晶はすぐさま長銃鎌を十字を描くように振るい、星屑達を切り裂く。その星屑達を突き破るように、鋭い針を持った二本の尻尾が突き進んで来る。
「ぐっ!」
千晶は咄嗟に長銃鎌を盾代わりとし、右腕の痛みに耐えつつ攻撃を後ろへと受け流す。攻撃してきたのは未完成状態である二体の蠍座だ。
「せいやっ!」
千晶は二本の尻尾を押し飛ばすと、すぐさま長銃鎌の鎌で両断する。そのまま攻撃手段を一時的に失った二体の蠍座に急接近し、長銃鎌を縦横無尽に振るい二体の蠍座を瞬時に細切れにする。
その間にもバーテックス達は侵入を続け、世界を滅ばさんと迫っていく。
(さすがに数が多い!外にいる須美をどうにかしない限り、このままじゃじり貧だ!)
泳ぐように迫ってきていた魚座を散弾レーザーで星屑ごと吹き飛ばしながら、千晶は苦虫を噛み潰した表情をする。
バーテックスは実質無限。強力な個体の侵入が続いている今ではどんどん追加されて戦いが終わらない。満開の使用時間にも限りがあるし、勇者と違い肉体にも大きくダメージが入る千晶ではいずれ物量で押し潰される。
そんな焦りを覚える中、樹海に紅い花が咲いた。
(あれは満開!花の色からして……夏凜か!)
千晶のその考えを証明するように、刀を持った四つの巨腕を携えた夏凜は未完成状態の天秤座を両断しながら千晶へと飛んできた。
「ったく!壁が壊されてるとはいえ、さすがに来すぎでしょ!?出来立てのようなヤツも来てるし!」
「弱音なら、すまないが後にしてもらえないか?それに付き合える程、俺も余裕がないからな」
「そういうあんたは弱気になってるんじゃないの?御免ライダーはメンタルが弱いのかしら?」
千晶の言葉に対し、夏凜は挑発で言葉を返す。この分なら大丈夫そうだと千晶は苦笑する。
「……いいんだな?」
「この状況で良いも悪いもないでしょ。それに、友奈には笑顔でいてもらいたいしね」
千晶の最後の確認にも夏凜は肩を竦めて返す。世界の真実を知っても、満開の恐怖も呑み込んで夏凜は戦うことを選んだ。
しかし、それは決して世界の為でも大赦の為でもない。勇者部の……大事な友達の笑顔を守る為に戦うのだ。
「そうか。なら、須美……美森を頼めるか?アイツは今外にいて、俺じゃ止めに行けないからな」
「そうしたいのは山々だけど、これだけ多いとそうもいかないでしょ?」
夏凜はそう返すと、完成体の蠍座へと単身で突撃していく。そんな夏凜に千晶は少し呆れながらも、自身に迫って来ていた無数の水弾を長銃鎌で弾き飛ばす。
水弾を飛ばしてきた相手―――完成状態の水瓶座はならばと言わんばかりに左右の水袋から高圧の水砲を放つが、千晶はそれを避けて急接近。そのまま水瓶座を連続で輪切りにする。
その直後、不愉快な音が辺りに響き渡る。
千晶は顔を顰めながらも、その音の発生源―――三体の未完成体の牡牛座を長銃鎌の極太レーザーで撃ち抜き、すぐさま黙らせる。
そのタイミングで、満開が解除された。
「くっ!このタイミングでか!」
浮遊能力を失ったことで地面に向かって落下しながら、千晶はスマホの画面を確認する。
同時に右腕が無くなっている事に気付く。右腕は全然動かず、火傷の痛みも無くなってしまっている。
(右腕を持っていかれたか……幸か不幸なのかは微妙なところだな)
右腕に白い装飾が追加され、感覚で右腕を動かせるようになる。
それを確認した千晶は再度スマホの画面を確認する。満開ゲージは満タン。再度使用が可能な状態となっている。バーテックスは未完成体も含めてまだ存在している。
千晶はスマホを手甲鉤に翳し、再び満開を発動させる。
再度満開モードとなった千晶は再び握られた長銃鎌を振るい、猛烈に回転しながら迫ってきていた複数体の天秤座を力任せに纏めて両断する。
今度は光の矢が大量に降り注ぐ。千晶はそれを長銃鎌を回転させて防ぐが、そこで動きが止められる。
そんな矢の雨霰を仕掛けている射手座の軍団に、夏凜が突撃していた。
「勇者部五箇条、ひとーつ!悩んだらぁああ、相談んんーーーっ!!!」
そんな雄叫びと共に四つの巨腕が持つ刀を振るい、射手座の軍団を切り裂いていく。
「本当に数が多いわね!ちゃんと色が着いてたやつより弱いけど、面倒極まりないったらありゃしないわ!!」
未完成体のバーテックスは完成体と比べたら確かに弱いが、星屑と比べたら遥かに強い。
それが何体も同時に攻めてきているのだ。満開でなければその数によって押し負けていたであろう。
そんな夏凜に向かって、数体の未完成体の魚座が突撃してくる。
「はっ!?」
夏凜は咄嗟に四つの巨腕で防御しようとしたが、その前に魚座すべてが消し飛ばされたので杞憂に終わる。
何の衝撃も来なかったことに疑問に感じる夏凜のすぐ後ろに、その魚座の群れを殲滅した千晶が現れる。
「さっきは助かった。俺にはバリアがないからごり押しが出来ないからな」
「そこはお互い様よ。それでデカイのは後何体なの?両目が持ってかれたからよく分からないのよ」
その言葉からして、夏凜は両目を散華してしまったようだ。そんな夏凜に、千晶はあくまで冷静な声で伝えていく。
「残りは後一体だ……未完成体の獅子座、だがな」
千晶がそう呟く視線の先には、樹海の内部にて急拵えで作ったのか白とオレンジが歪に混ざっている獅子座が千晶と夏凜に向かって迫って来ている。
いくら未完成と言えど最強クラスに位置するバーテックス。苦戦するのは容易に想像できる。
「そう……なら、最後のトリは特別に譲ってあげるわ」
夏凜はそう告げると、勘と精霊の補助で大まかに把握した獅子座へと突撃していく。
そんな夏凜に対し、獅子座は太陽のごとき巨大な火球を解き放った。
「勇者部五箇条、ひとーつ!為せば大抵いいいぃ……何とかなぁああああああるっ!!」
そんな雄叫びと共に、夏凜は六本の刀を振るう。ぶつかり合う六本の刀と太陽のような火球。一瞬夏凜が押されるも、それを気合いと根性で押し返す。
「これが……讃州中学勇者部部員!三好夏凜の、実力だぁああああああああああああッ!!!」
咆哮と共に振り切られる六本の刀。それに呼応するように火球に六本の斬線が入り、盛大な爆発を起こす。
その衝撃で夏凜は吹き飛ばされながら満開が解除されてしまい、同時に勇者装束も解けてしまう。
「いっけぇえええええええええっ!!御免ライダーァアアアアアア―――ッ!!」
「ああっ!!」
樹海へと落下していく夏凜の後押しに応えるように、千晶が両手で長銃鎌を構えながら頷き、爆風でバランスを崩している獅子座へと肉薄する。
千晶は両手で長銃鎌を構えたまま独楽のように回転していき、その勢いのままに獅子座を切り裂いていく。
上から下に掛けて、切り裂かれていく獅子座。混ざりきっていなかった星屑が飛び出てくるも、すぐに長銃鎌の餌食となって切り裂かれ、未完成体の獅子座はそのまま為す術なく消滅した。
未完成体の獅子座を倒した千晶が木の根に降り立つと、それが限界だったのか満開が解除される。
「うっ!?」
胸に突如不快感が襲いかかり、千晶は胸ぐらを押さえてその場で踞ってしまう。それで、どこを散華してしまったのかを理解してしまった。
「二回目で心臓か……園子と御揃いになってしまったな」
記憶でないだけマシとすぐに思い直した千晶は、スマホで位置を確認してから夏凜のいる場所へと向かっていく。
少しして目的の場所には夏凜だけでなく、制服姿の友奈もいた。
「その声……誰なの……?どうして私の名前を知ってるの……?」
「え……?嘘、だよね……?冗談、なんだよね……?夏凜ちゃん……」
夏凜の告白に、友奈は信じられないといった表情でショックを受ける。その会話でどこを捧げてしまったのかを察した千晶は、無言で二人へと近づいていく。
「こーりんさん……!」
「こーりん……他にも誰かいるの?この子は誰なの……?ひょっとして、先代の勇者……?」
「……いや。彼女はお前と同じ、勇者部の一員だ」
千晶のその言葉で夏凜は彼が御免ライダーだと気付くと同時に、どこか申し訳なさそうな、寂しげな表情となる。
その理由は……どこを捧げてしまったのか、それに気付いてしまったから。
「そっか……そこを持ってかれちゃったのか……ゴメンね。あなたのこと、何も思い出せないの……」
「夏凜ちゃん……夏凜ちゃん……!うぁあああああああ……!」
散華の残酷さを目の当たりにした友奈は、夏凜を抱き締めたまま泣き崩れる。そんな友奈に、夏凜は儚げな笑みを浮かべ、抱き締め返すように友奈の背中に手を回した。
「ふふっ……私の為にこんなに悲しんでくれるなんて……それに胸の内も暖かくなる……きっと、私は勇者部だけじゃなく……あなたの為にも戦ったのね……ねえ……あなたの名前、教えてくれる……?」
「ぐすっ……友奈だよ……!私の名前は、結城友奈だよ……!讃州中学勇者部所属で、夏凜ちゃんのお友達の……!」
「友奈……か。いい名前ね……」
涙を流し続けながら自己紹介した友奈に、夏凜は微笑みを浮かべてその名前を口にする。
名前を聞いても何も思い出せない。それでもその名前を聞いて胸の内が更に暖かくなった夏凜は、友奈にあるお願いをする。
「ねえ……友奈……この戦いが終わったら……また…私と、友達になってくれないかな……?それで……どんな風にあなたと過ごしたのか……教えて…ほしいの……」
「うん……うん……!」
「ありがとう……そうと決まれば……東郷を……止め……ない…と…………」
体力的に限界だったのか、夏凜は笑みを浮かべたまま意識を失ってしまう。そんな彼女達に、再度侵入してきたらしい星屑達が近づいてくる。
「本当に空気が読めない奴らだな……」
友奈と夏凜のやり取りを見守っていた千晶は、そんな星屑達に悪態を着きながら手甲鉤と銃剣で迫ってくる星屑達を消し飛ばしていく。
「どうすればいいの……?私は一体どうすればいいの!?東郷さんを止めたいのに、勇者になれない私はどうすればいいの!?」
どうやら今の友奈は勇者への変身ができないようである。そんな哀しみに暮れる友奈に対し、千晶は少し呆れた感じで指摘した。
「東郷……須美を助けるのに勇者である必要はないんじゃないか?それはあくまで手段だった筈だ」
「……え?」
千晶のその言葉に、友奈は虚をつかれたような表情となる。そんな友奈に背を向けたまま、銃剣で星屑達を撃ち抜きながら千晶は自身の考えを口にしていく。
「力があるから守るんじゃない。守りたいから力を求め、選んだ筈だ。そこだけは、履き違えてはいけないんだ」
「守りたいから……」
その言葉を友奈は反芻する。
勇者だから友達を守るのか?勇者だから世界を守るのか?
それは―――きっと違う。
少なくとも最初にバーテックスと戦った時は、勇者部の仲間を、親友を守りたくて勇者になることを選んだ。それは否定できない事実だ。
だが―――
「だけど……満開してもし記憶を失ったら……東郷さん達の事を忘れてしまったらと思うと……!」
今の友奈は親友の苦しみに気付けなかったショックだけでなく、満開の本当の意味での残酷さも目の当たりにしている。美森も含めた勇者部のみんなとこれからも一緒にいたいという想いと、その想いが消えてしまうのではないかという恐怖が攻めぎ合い、心の中がぐちゃぐちゃとなっていく。
「俺もそう思っていた。だけど、それは間違いだったようだ」
「……え?」
ゆえに、星屑達を倒し続ける千晶のその言葉が友奈の胸に突き刺さった。
「須美は二年間の記憶を散華しながらも、園子から貰ったリボンを大事に持ち続けた。夏凜はお前との記憶を散華しながらも、胸の内が暖かくなると言った。その二人を見て、俺は気付いたんだ。捧げられたのは記憶じゃない。その記憶を思い出す機能なんだと」
記憶を本当の意味で失ったわけじゃないからこそ、美森は園子から渡されたリボンを肌身離さず持ち続けた。夏凜は友奈に対して胸の内のぬくもりを感じた。
だからこそ―――
「本当に大切で、大事なものなら……心に強く残る。思い出せなくても、その魂が覚え続けている。だから……本当に大事な記憶は決して消えないと……今ならそう思える」
「こーりんさん……」
そんな二人の前に、真っ白な巨大なバーテックスが姿を現す。
「急拵えでまた作り上げたのか。だが―――」
蠍座の姿をした真っ白な巨大バーテックスに千晶は銃剣を構えるも、不意にその場で崩れ落ちてしまう。
「―――がはっ!?」
千晶は口元を押さえ、そのまま吐血してしまう。散華によって死なないとは言え、心臓が動いていないのだ。身体のダメージと相まって、不調を来さない筈がない。
そんな致命的な隙を晒してしまった千晶に、鋭い針を持った尻尾が襲いかかる。
「ぐっ―――」
千晶は顔を歪めるも、その針が千晶を貫くことはなかった。
何故なら―――友奈が千晶の前に立ち、桃色に輝く左手でそれを弾いたからだ。
「……そうだ。その通りだ」
再び振るわれる尻尾。今度は桃色に輝く右足で蹴り飛ばす。
「強く思えば、例え思え出せなくても決して忘れない!夏凜ちゃんが、それを証明してくれた!!」
今度は上段からの叩きつけ。それを再び右足で蹴り飛ばし、大きく仰け反らせる。
「そして!私が勇者だから守るんじゃない!守りたかったから勇者になったんだ!!だから―――」
友奈はそのまま飛び上がり、全身が光に包まれる。
「私は苦しんでいる東郷さんを助ける!東郷さんと、勇者部のみんなを守り、これからも一緒にいる為に!!」
そして勇者装束に身を包んだ友奈が握り締めた右手でそのバーテックスを殴り飛ばし―――一撃で撃破する。
勇者である結城友奈は、今ここに復活を果たした。
「どうしようかな~?犬吠埼風さんは、今のところ大赦にしか用がないみたいだし?」
「お願いします園子様!大赦に何かあれば、この世界が滅びかねないのですよ!?」
『いやいや。ちょっとボコられた程度でそうなるわけないだろ?むしろ強引に止めたら悪化するかもしれないし』
「銀様まで何を仰るのですか!?」
「その通りだねミノさん。だから放置でいいかな~?」
『だな。少しボコられた方が、多少はマシになるかもしれないし』
「「「「「「園子様!!銀様ァ!!」」」」」」