朝日が昇るか昇らないかみたいなそんな時間だと思う。目に入ってくる光の加減がそう物語ってる。
がさがさとうるさいから目が覚めちゃったじゃない!
まだ私が起きるには早いわ。あと2時間くらいは寝ましょう。
どことなく漂う花の香りが余計に私の眠気を誘う。おやすみ。
…………。
ああああああ!
マジでウざい!
揺らさないでよ!
さっき二度寝し始めたところなんだから!
まだ朝じゃないし!この暗さはまだ夜なんですけど!
「姫?起きてください?出発の時間です。」
「あー、もう少し寝させてよ。こんな時間に起こしに来たことないじゃない、アンドレ。私はまだ寝るわ!」
「姫?私はアンドレではなくオルガです。もう旅を始めますから起きてください。」
うわー、ずっと揺らしてくるんですけど。
やば。マジでイライラしてくる。
今日のアンドレはウザいわね。あとでお仕置きしてあげようかしら。
って、あれ?
「オルガ!?」
「ええ、私はオルガです。おはようございます、姫。」
ああ、そうか。思い出したわ。私勇者と旅に出てたんだった。
あー、オルガとの旅はこんな時間に起きるんだ。無理なんですけど。
「姫が早く魔王討伐に行きたいとおっしゃっておりましたので、少々早いかとは思いましたが。町が明るくなってきましたので出発としたいと思います。さあ、起きてください。新しい仲間もおりますので。」
「そりゃ、魔王討伐は早くしたいけど、こんな早く起きなくてもいいじゃん。」
ん?
オルガ以外にもう一人いるわね。女の子?しかもめっちゃきわどい服なんだけど。え、どういう経緯?
「ねえ、オルガ?」
「何でしょうか、姫。」
「もしかしたらだけど。私が寝ぼけてるせいかもしれないんだけど。そこに女の子が見える気がするんだけど。」
「そうですよ。先ほども言いましたが新しい仲間が加わりました。ローズです。昨夜私たちの仲間に加わりたいと話を貰いましたので、是非にということで仲間になってもらった次第です。」
「初めまして。ローズでーす。マジで姫なんだね。私王国のこと何も知らないからよく分かんないけど、仲間になったからよろしくねー。」
「こら、ローズ!先ほども申しましたがこちらの方は現国王様の一人娘であらせられるアンナ・バーバラ・ヴェラ=ルフォンターナ様だぞ。もう少し敬ってだな。」
「そんなことしてたら疲れちゃうよ。何日一緒にいるつもりなの?私のことはローズでいいから。ファミリーネームとか特にないから。改めてよろしくね、アンナ。」
「え?は?アンナ?よろしく?」
あんまり頭が回ってないからいろいろ言われても困るんだけど。
って、ローズが近寄ってきた。
(ねえ、アンナ?この勇者結構ポンコツね。ちゃんと誰か監視役いないとマジでヤバイと思うわよ?昨日もとんでもないぼったくりに全財産持ってかれるところだったわよ。)
(は?うそでしょ?マジで?)
(マジもマジ。大マジ。で、聞いたところアンナも世間知らずらしいじゃん。オルガから昨日の話聞いたよ。そんな二人だけで旅したらどうなると思う?)
(…………。魔王のとこに着く前に、路頭に迷うわね。)
(おお、意外と話せるじゃん!というわけで、私が世間のこと教えてあげるから。仲間に入ってあげる!)
(なんでそんな上からなのよ!私は姫なのよ!)
(あー、それね。姫とか国王とか、私よくわかんないからさ、どうでもいいの。てかそういうの関係なくてさ、楽しくやれる奴と楽しくやるってそれだけ。ちなみに私さ、アンナと結構ウマが合うと思うよ。マジでよろしくね。)
そう言うと、私から離れていった。
「ローズさん。失礼なことしてないでしょうね?相手は姫ですよ。」
「私そういうの関係ないから、大丈夫!ねー、アンナ!」
「ええ、まあ、そうね。」
正直オルガと二人きりで魔王討伐というのも限界があったと思うし、仲間が増えた分私が楽できる可能性が増えたし、早く魔王討伐できる可能性も増えたし。まあいっか。
てかもう出発するんだよね。早く着替えちゃわないと!
「あああああ!おいいいいいいいい!アンナ!何してるの!?」
「何って着替えよ。アンドレが居なくても私だって一人で着替えくらいできるんですからバカにしないで頂戴!そこで見てて!」
「いやそうじゃなくて!オルガがいるじゃん!ああああああ、もおおおおおお!オルガは外に出てて!」
「おい、なんだよ急に!おい、ローズ!俺を追い出して何する気だ!さては姫に危害を加える気だな!」
「ちがうちがう!ちがうーーー!女の子が着替えるんだから外に出てなさい!アンナも男の前で服を脱ぐなー!」
いまいちよくわからないことで怒られた気がするけど、オルガが外に出された。
そしてローズからはくどくど怒られた。男の前で服を抜いじゃいけないとかいうけど、じゃあ召使雇えないじゃない!
世間とか一般論とか言ってたけど、そんなこと気にしてたら疲れるわ。
やっぱローズは仲間に入れない方が良かったかもしれないわ。
「で、勇者様は王国の姫である私ではなくて、娼婦のところに行ったと。」
「はい、その通りです。姫を瑕ものにしては国王様に合わせる顔がありません。そんなこと絶対に出来ません。」
「あれれー、アンナ?もしかして自分が抱かれなかったのがそんなに不服なのー?」
着替えを終えて、オルガを部屋に戻してから昨日の夜のことを少し聞いた。
どうも聞き込みだけじゃなくて、いろんなところで遊んでたらしい。
「そんなこと言ってない!ただ、娼婦のところに行けば病気を貰うわ、金は使うわでいいことなんて一つもないんだから、じゃあ私を抱けばいいじゃないってだけよ。」
「姫様、それ以上は……」
「なによオルガ!娼婦に相手してもらってさぞかしいい気分なんでしょうね!お金も使っちゃってね!パパに絶対に言ってやるから!」
別に私は勇者を慰めるためにパーティにいるわけじゃない!
仮にも国王の一人娘よ!
慰めるのはそれこそたしかに娼婦の仕事よ!
でも初日に行かなくてもいいじゃない!私が一人で泣いてた時にオルガが娼婦のところで遊んでたかと思うとイライラしてくる!
「ねえ、アンナ。そうやってオルガに当たるのはかわいそうだぜ。だってオルガは結局金を払ってないんだから。」
「は?娼婦に相手してもらって金を払ってないの!やり逃げね!流石オルガ!」
「そうじゃなくてですね姫。」
「いいわよ、オルガ。むしろそういう武勇伝を残してこそ勇者ってものよ。私を一人にしてたのは許さないけど、お金を払ってないならギリギリ許してあげるわ。娼婦なんかに払うお金なんてないものね!」
「その娼婦がですね。」
「私だったってことさ、アンナ。」
「マジで?」
「マジ」
まじでかああああ!
いや、そんな。ね。オルガが娼婦のところに行ってただけじゃなくて、その娼婦をパーティに入れちゃうってどんだけよ!バグってるわ。
ん?あれ?
「ねえオルガ、ひとつ聞きたいんだけど。」
「はい、何でしょう。姫。」
「なんであんた、娼婦のところなんか行ったのよ?」
「それは勇者たるもの当然の行動だったのですが?理由が必要ですか?」
はああああああああああああ!!!!!!!!!!!
堅物だと思ってたけど、こいつ、勇者とか言う身分を最大限利用してやがる。抜け目ないわね。
「あのな、アンリ。」
「何よ、娼婦。」
「そうカッカするなって。オルガはアホだからさ。騙されたんよ。」
「騙された?」
うしろで『勇者たる自分を侮辱してはいけません!』とか言ってるバカ勇者もいるけど、いったん無視しとく。
「そう。たぶんオルガは情報収集のために街を歩いてたんでしょうけど、そこで私の店の若いやつに声かけちゃったんでしょうね。『勇者なんだが、この町のことを調べてる。』とかさ。そしたらアホ丸出しなの分かるじゃん!『勇者たるもの情報収集は下の店と相場が決まってます!』とか言われたんでしょ。ノコノコ付いていった先にいたのが私ってわけ。」
「あー、分かるかも。」
「でしょー。私に会って、こいつ開口一番になんて言ったと思う?『私は勇者だ。情報を求めてる。』って。もう笑っちゃったよね。勇者プレイしてるお客さんかと思っちゃったもん!」
ああ。世間と隔絶されて育てられるとこういう頭の悪い勇者が生まれちゃうんだ……。
「とりあえず座って話を聞いてたらさ、マジで勇者らしいし、これは利用できると思ってパーティに志願したの。建前としては、私って見た目が見た目だから、オルガができないような裏の汚い世界を渡れると思うわって。本当の理由は、魔王倒して有名になって、荒稼ぎするって感じ。」
「まあそのあたりは、一般的には至極全うね。」
「ありがと。もっと批判されるかもと思ったけど、杞憂に終わったわね。で、利用してやろうと思ってからはとにかく私を抱かせて既成事実にしようとしたんだけどさ、お察しのとおりよ。」
「『私は勇者でありますので、魔王を倒すために旅をしているだけです。女性との夜を目的としておりません。』みたいなところでしょ?」
「大正解。そうするとさ、普通そんな奴相手にする娼婦いないわけ。でもさ、いままでゴミみたいな客ばっかり相手してたからさ。私さ、たぶん気づいたらオルガに惚れてたっぽいのよ。」
は?娼婦に恋される勇者?なによそのカリスマ。
「だからさ、もう気づいたときには恋のパワーよね。勇者をだましてさ、宿まで帰ってきてさ、『私と一緒に寝てくれたら情報あげる』って言ったの。」
「じゃあ、オルガとローズは……」
「まじでベッドで一緒に寝ただけ。私の恋は成就しそうにないわ。オルガが寝た隙に襲ってやろうかと思ったけど、気づいたら私も寝ちゃってて。起きたのはあんたが起きるちょっと前。で、今に至るわ。」
なるほど、納得したわ。あ、しょんぼり待ってたオルガも復活したわね。
「まあ、そのような経緯がありましたので、ローズさんには仲間に入ってもらうことにしました。さあ、私たちの旅を始めますよ!」
「おー!」
「…………。ぉー。」
「ねえ、オルガ。これどう?かわいくない?」
「ローズさん。私たちは魔王討伐の旅の途中なんですよ。楽しむのはほどほどにしませんと。」
「やだやだー。あ、あそこのアクセサリーも可愛くない?ねえオルガ―!」
別にオルガとローズがイチャイチャしてる分にはどうでもいいわ。心底どうでもいいわ。
いや、本当にマジでどうでもいいわ。
最近巷で流行ってる「ツンデレ」とかいうのとわたしは違うわ。本当にどうでもいいわ。オルガはどこをどう切り取っても私のストライクゾーンに入ってこないから。
問題なのは……
「ねえ、オルガ。そこの屋台で美味しそうだったから買ってみたの!はい!あーん。」
「私にいただけるのですか?それではありがたく頂戴します。」
「いやーん。『あーん』しちゃった!もうこれって夫婦じゃん!愛してるオルガ!」
「いやはや、非常においしいですね。ローズさんの愛情籠ったお食事もいただきました。では、魔王城へ行きましょう。」
問題なのは、昨日と比べて歩くスピードが四分の一くらいまで落ちてること。
歩くときは腕にべったり。お店を見つけては顔を出してオルガと会話を試みる。
傍から見れば私たち三人は複雑な関係を持つ恋心を抱いた関係達に見える気がする。
もー!早く王宮に戻りたいだけなのにー!