「ほーら、ルーちゃん!たかいたかーいなのだー。」
「もーなんかい言ったら分かるのー!その子はピースっていうの!」
「はあ?こいつは生まれた時からずっとルーちゃんなのだー。」
「ピース!」
「ルーちゃん!」
「「むむむむむ!!!!!」」
あの洞窟を出てすぐのこと。ミリスが、『やっぱりルーちゃんと居たいのだー。』と言い出してしまったので応急処置的にピースをドラゴンってことにしてしまった。
ピースのペットの癖にピースは頭が良かったみたいで、私の説得を素直(?)に理解してくれた。もう心の底から今はドラゴンである。こればっかりはちょっと申し訳なかったりする。心の中でピースに謝る。
でもここに一人納得できない子がいる。
「ねえ、おにいさん!ミリスがピースのピースとっちゃった!」
「それはですね、私が洞窟のドラゴンをたおs……」
「あのね!ミリスはあのトラのことを、昔から飼ってたドラゴンと勘違いしてるらしいの。おねがい、少しだけ許してあげてくれない?」
「いやです!ピースは昔からピースなんです!」
「おい、アンナ、聞こえてるのだー。」
「ちがうのよ、ミリス。あのー、あのね、ピースはルーちゃんのことを昔から飼ってた虎と勘違いしてるのよ。ちょっとだけ許してあげて頂戴?」
「それだけはできないのだー。ルーちゃんはルーちゃんなのだー。」
「…………。ねえオルガ?アンナは何をやってるの?」
「姫は我々にはできない”交渉”というご機嫌取りをされているようです。私が手を貸そうとすると『オルガは黙ってなさい!かき乱すだけなんだから、この空気読めない勇者!』といわれてしまいましたので、ただ姫の動きを勉強させていただいてるのです。」
「アンナも必死ねえ。」
「お姉さまー!私はお姉さまのペットにしてくださいましー!」
「…………。あんな迷惑もいるしね。…………。アンナって不幸体質ね……。」
そろそろ私の元気も限界よ。早く魔王を倒して王宮に帰らないと。
こんな生活何日もしてられないわ!ああああ、誰か助けてええええ!
「力が欲しいか……・?」
「え!?」
「いや、『力が欲しいか」って?」
「誰よあんた。あと、どこよあんた。」
「あーあー、アンナが壊れちゃった。独り言言ってるわ。オルガ、アンナはもうダメよ。放っておきましょ。」
ローズがウダウダ言ってるわね。なるほど、私にしか聞こえてないのね。ちょっとパニックよ。
「パニックなの!それは大変ね。簡潔に話すわね。私はあなたの心の中の天使。が成長しまくったやつよ。成長しすぎて、自我を持ってしまったし、力も持ってしまったわ。正直私もびっくりよ。」
…………。
私二重人格的なやつになっちゃった?あれよね、あまりのストレスがかかると自分を守るために、違う人格を自分の中に作り上げてしまうとかいうやつ。
それがよりにもよって”天使”を名乗っちゃうんだ。私痛くない?
「なんて失礼なの!?せっかく力をあげようって言うのに!」
私の心の言葉と会話しないでくれる!面倒くさいんだけど!ただでさえパニックなんだから!姿現せないの?
「ええー、しょうがないなあ。でも、私はあなたなんだから同じ姿形しか出せないわよ?」
はあ!?そんなことされたら、周りが次パニックになるじゃない!
てかあんた力持ってるんでしょ!その力とやらで別人の姿になりなさいよ!
「え、でもそんなことに力使っちゃったら…………。」
いいから!とにかく、私とは違う姿になって、私たちの前に現れなさい!
「えっと、ちょっと話聞いて?」
無理よ。そろそろ私の心も限界なの!早くしなさい!
「ええぇ。分かったわよ、もう。」
ふう。一回落ち着きましょ。心の中の私が現れてから落ち着いて話をしましょ。
「姫?先ほど少し様子がおかしかったように見えますが?お加減如何ですか?」
「え、あ、ごめんなさい。もう大丈夫よ。安心して。」
「それならばよろしいのですが。決して無理はなさらないでくださいね。」
無理はしたくはないんだけどね。もう成り行き上このパーティを維持するしかなくなっちゃったから、無理するしかないのよ。気づきなさい。そして下手に首を突っ込まないようにしなさい。オルガ。
「はい、現れたわよ、これで文句ないかしら?」
「「「「「「うわああああああぁぁぁ」」」」」」
「なによ、私までびっくりすることないじゃない!」
さすがにいきなり現れるとびっくりするわね。でも知ってた私でびっくりしてるんだから、知らないみんなは余計びっくりしてるでしょうね。
「あなた、いまどうやって姫に近づいたのですか!?今すぐ離れなさい!場合によっては斬ります!」
「「ちょっとちょっとちょっと!まったああああ!」」
「姫、大丈夫です。姫には指一本触れさせません。今すぐ離れてください!」
「「違うのよオルガ、待って、大丈夫だから!剣をしまって!」」
「んん?姫がそこまで言うのであれば?しかし、そこのお前も…………、分かりました。」
よかった。理由は分からないけど、オルガが剣を収めてくれたわ。
「で、あんたさ、力くれるのよね?どんな力くれるの?」
「いや、さっき説明しようとしたのに聞いてくれなかったからあれなんだけど…………。」
「なによ、もったいぶってないで早く話しなさい。」
「姿を現すのに力使っちゃったから、もうあなたにあげられる力は残ってないわ。」
「は!?」
「だから、『えっと、ちょっと話聞いて?』って言ったのに…………。あなたせっかくの力を、また無駄にパーティの人数を増やすことに使ってしまったのよ?気づいてる?」
「…………。」
グッバイ、私の平穏。私の目の前は真っ暗になった。遠くの方で『おねえさまー!死んじゃいやーーー!!!!』とか聞こえてくる。
ああ、もう死んでしまった方が楽かもしれないわ。
ちょっと違う旅に出ようかしら。
おやすみなさい。私。
「「すごいすごーい!」」
「でしょ、私はもっとすごいことができるのよ?」
「何々お姉ちゃん?」
「じゃあちょっとアンナを起こしてみようかしら。そしたら面白いことができるわよ。」
絶妙に揺れてる気がするわ。ハンモックかしら。ありがとう、アンドレ。
ちょっと暑いから仰いでくれると嬉しいわ。
…………。ああ、そうよ。やるじゃない!私の表情から求めてることを察してくれるのね。
んー、もうちょっと涼しくてもいいかしら。でも、ちょっとよ、ちょっと。
涼しくし過ぎたらお腹壊しちゃうから。
「「「せーのっ。」」」
「うわわ!なに?なに?は!?ちょっと水かけなくてもいいじゃない!?」
「でも涼しかっただろ?」
「これは涼しいじゃないわ!」
せっかく夢見心地だったのに、顔に水をかけられて台無し。
最近見ることなかった穏やかな夢だったのに。私の分身め!
「ねえねえおねえちゃん!」
「ん、どうしたの?ピース?」
「お姉ちゃん今『涼しくしてほしい』って思ってたのか?」
「ええ、そうよ。王宮の夢を見てたわ。アンドレにもうちょっと仰いで涼しくしなさいってお願いしてたわ。」
「「すげえええええええええええ」」
「…………は?」
「お姉ちゃんすげえな!人の夢見れるの本当だったんだ!?」
「そうよー、お姉ちゃんはそこのいじわるなお姉ちゃんと違って嘘もつかないし、夢も見れちゃうのよー。」
「すごいすごい!今度はピースの夢も見て!」
「あー、ごめんね。この力は1年に1回しか使えないの。また今度ね。お姉さんと約束。」
「うー、じゃあ仕方ないのだ。約束!」
あー、こいつ私を使って信用を得ただけじゃなくて仲間も得てやがるのね。憎たらしいわね、私の心の中の天使だった奴。
ってかあいつ、みんなに名前名乗ったのかしら?
「さて、ではそろそろ私の正体を明かすときが来たようです!」
「「「「「「えっ!?」」」」」」
え、ちょっと待って、正体を明かすって何?
私の心の中の天使とか言うわけ?まずくない?私までまとめて痛い人じゃない?
それは阻止しないとまずいわね。
「ごほんっ。私の正体は!アンナの「わああああ!!!!」双子の妹でーす!」
「えっ?」
「どうしたのお姉ちゃん?大きな声出して?」
「え、いえ、な、何でもないのよ。オホホホホホ。」
「変なお姉ちゃん。」
はー、びっくりしたわ。「アンナの」なんて言うからとっさに誤魔化すために大声出しちゃったじゃない!
一応曲がりなりにも私の心ですものね。
私が思ってることと同じことくらい、理解できてて当然でしたわ。
「それにしても、姉より優れた妹って初めて見たよ。」
「そんなことないですよ、ローズさん。私のお姉ちゃんは世界一なんですから!」
「いやいや、そうやって謙遜できるあたりがやっぱり『あの』姉とは違うよな。仲良くしようね。ちなみにお名前は?」
「あ、私、カンナって言います。みんなよろしくね!」
この女、主人である私をダシに使いやがったな。私には分かるわ。あいつの腹のつもりが良くわかるわ。手に取るように分かるわ。
だって、元々私だったんですもの。
どうにかして追い出せないかしら。
「道理でお顔がそっくりだったわけですね。得心しました。ではカンナさん、アンナさんのお世話はお任せしました。」
「りょうかいですっ!」
もう、ウインクした目から星が飛び散りそうなバチバチの笑顔。
あれ、これって、いつの間にか私よりもあいつの方が良い立場になってない?
あー、放っておくとむしろ私が追い出されちゃう的な?
しかも、本当は双子の妹なんていないから、このまま王宮に帰ったら、そのまま私のポジションとられちゃうんじゃない?
え、本当にまずい。
「じゃあみなさん!早く魔王の城まで行きますよー!」
「「「「「おー!」」」」」
カンナの掛け声で一致団結したパーティは私のことなんて目に入らないような風に旅に出かけてしまt…………
「ねえ、待ちなさいよ!あ、待ってよー!私姫なのよー!」