ソメイヨシノは穢れない   作:スターフルーツくん

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第2話ですが早速不穏さ全開です。
ではどうぞ。


第2話「毒蛇はサディスト」

「えー、これより週に一度の国上日本支部のミーティング特別編を始めまーす!」

 

 時刻は朝の六時、紬は明朗快活な声色でミーティングの進行を進める。日曜日にも関わらず早朝に全員集合しているのにはとある理由があった。それが今日彼女達のやる事である。

 

「それにしてもマジなんすか?百合ヶ丘女学院のリリィ達と合同で特訓って。」

「大マジ。」

 

 伽奈芽の問いに対して紬はそう断言し、屈託のない笑みを浮かべる。それとは対照的に晴海以外の四人はどこか不服の念を抱いていた。

 

「どうしたの?陽向(ひなた)は賛成しそうだと思ったのに。」

 

 紬は国上のメンバーの一人である相馬(そうま) 陽向に視線を向ける。陽向は黒王女学院の二年生であり、肩まで伸びた緑色の髪の毛先は外側にハネている。彼女の真面目さと明るさからくるその凛とした態度は戦士としても女性としても様になっている。

 

「合同で特訓する事自体には賛成なんですけど、それで国上の情報が漏洩したらどうするんですか?」

 

 陽向の意見に他の反対派の三人も首を縦に振って納得する。国上は全ての戦力をヒュージ側に対して明らかにしているわけではない。ヒュージがこの特訓を監視していた場合、自分達の手の内を相手に見せてしまう事になる。加えてヒュージだけでなく非人道的なヒュージ研究で名高いG.E.H.E.N.A.もいる。そんな彼らに国上の情報を流されるわけにはいかないのだ。

 

「その時はその時だよ。とにかく今は一柳隊の皆様方をお待たせするわけにはいかないから行こう!」

 

 紬はそう答え、晴海以外の四人をまとめて引っ張りながら百合ヶ丘女学院に連れて行った。そうして彼女達が向かった先は百合ヶ丘女学院の闘技場であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ヴェルンドの中にも強力な戦士が現れたようだな。」

 

 東京都内のファストフード店で食事をしていたパーマのかかった白色の髪の持ち主の男性はそう語る。男性は白い半袖のTシャツの上に袖のない革ジャン、下にジーンズを履いているというバンドマンのような見た目をしていた。

 男の声色には驚きや喜びといった感情は無く、ただただ事務的な報告の意のみが含まれていた。

 

「ヴェルンドの言葉では奴らは国上、国際連合直属特別指定上級ヒュージ対策班と呼ばれている。」

 

 そう言ったのは薔薇の花飾りを首に付けた女性だった。女性の鼻は高く、唇は赤いリップが塗ってあることでその厚さが際立っている。その容姿は「可愛い」ではなく「綺麗」或いは「美しい」という形容の仕方がふさわしいほどの美形である。

 

「そんな事はどうでもいい。次のデネテは一体誰が進行する?グモンもタウロも、他の者達も皆殺された。」

 

 薔薇の花飾りをつけた女性に対してまた別の男性が答える。男の肩幅は広く、全身に筋肉がぎっしりと詰まっている。そしてその眼は今にも獲物を狩ろうとしかねない、飢えた野獣の眼である。

 

「次はペグルスだ。」

 

 屈強な身体つきの男の質問に薔薇の花飾りをつけた女性が答える。すると、また一人別の女性が現れた。その女性は金色の髪を肩の辺りまで伸ばしており、メイクも相まって現代のギャルを彷彿とさせるような見た目であった。

 

「ピソノオホリエプ、リリィ。」

「ここではヴェルンドの言語で話せ、セレン。」

 

 薔薇の花飾りの女が周囲を気にして金髪の女性、セレンに注意する。特別指定上級ヒュージの言語は人間にとっては未知の言語である。そのため、そのような人間が集まる場でそのような言葉を話す事は自身達の行動範囲を狭めることに繋がる。

 

「リリィはどうするつもりだ。」

「奴らはまだ油断している。一人ずつ始末するのが最善だ。」

 

 薔薇の花飾りの女は先程と変わらない事務的な口調でそう言うと、注文していたジュースを一口飲んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「それじゃあ、一柳隊の皆様方と合同で特訓を始めよー!おー!」

 

 数分後、一柳隊と国上は百合ヶ丘女学院の校舎にある闘技場に集合していた。貸し切りなのか、一柳隊と国上のメンバー以外の生徒は闘技場内にはおらず、辺りも人気が無く閑散としていた。そんな中紬は一人上機嫌で始めようとするが、相変わらず晴海以外の国上のメンバー四人はやる気になれずにいた。

 反対に一柳隊の九人は国上の局長とは思えない紬のテンションに唖然としていた。

 

「ん?どうしたの?もうちょっとこう、盛り上がるかなーって思ってたんだけど…。」

「やってられっか!アタシは帰る!大体、どこの馬の骨ともわからないような連中の相手するほどあたしは暇じゃないんだよ。いくらお姉様の頼みとはいえ、聞けないね。」

 

 一方的な取り決めに我慢の限界を感じていたのか、遂に国上のメンバーの一人である二条(にじょう) 凛音(りんね)が声をあげた。凛音は国上日本支部の副長補佐兼三番隊隊長であり、銀色の髪を一つ結びにし、三つ編みにしている。その髪型はまさに彼女の異名の“毒蛇”を彷彿とさせるような見た目である。

 

「何じゃと!!」

 

 凛音の言葉にミリアムは激昂し、凛音の胸ぐらを掴む。それに対抗して凛音もミリアムの胸ぐらを掴み、取っ組み合いが始まろうとした寸前で伽奈芽と雨嘉が仲裁に入る。すると、凛音と一柳隊の一員と思しき一人の赤い瞳の少女が対峙した。

 少女は金髪をリボンで一つにまとめており、彼女の頭頂部に生えている一本の毛は重力に逆らっている。しかし、その赤色の瞳はただ真っ直ぐに眼前の凛音を捉えている。その目つきは凛音と同じものであった。

 

「たしかに、国上の皆様の気持ちはよくわかります。ですが、私達は皆様と共にヒュージと闘いたいと思ってます。そこに決してやましい思いはありません。ですから、一つゲームをしませんか?貴女と私が一対一で対決する、それがゲームの内容です。」

 

 他の一柳隊と国上のメンバーは突然の提案に動揺を隠せないでいた。それに対して凛音はフッと笑うと返答した。

 

「わかった。やってやるよ。アンタ、名前は?」

「安藤 鶴紗。」

「そうかぁ、じゃあ始めよう。国上日本支部副長補佐兼三番隊隊長、二条 凛音。いざ参る。」

 

 この展開を予想していなかったのか、伽奈芽は少し驚いた後に一歩前に出ようとする。

 

「ずるいぞ凛音!あたしにやらせろ!」

「まぁまぁ。松山さんはまず私を目指しましょうね。」

 

 鶴紗と闘いたがる伽奈芽を晴海が諭し、しばらくして辺りが静寂に包まれる。どちらも自身のチームメイトの武運を祈る事しかできない中、先に沈黙を破ったのは凛音だった。

 

「泣き喚いても知らねーよ?」

「そのセリフ、そのままアンタに返す。」

 

 凛音はそう言うと自身のCHARMである“タングニズル”を手に取った。タングニズルは白と黒のみで構成されたモノクロのデザインが特徴的であり、刀身には返しが付いている。

 鶴紗もそれに応戦するようにティルフィングを手に取り、構えをとる。

 

「はじめっ!」

 

 誰に言われるわけでもなく急に審判をやり出した紬の一声で戦いの火蓋が切って落とされた。先に動き出したのは凛音だった。先手はタングニズルによる斬撃。しかしその位置はかなり低く、何もしなければ両足を切断される。

 鶴紗は両足で跳躍し、ティルフィングを銃の形態にして銃口を凛音に向ける。

 

「終わりだ。」

 

 鶴紗がそう言い、躊躇なく引き金を引いた瞬間、凛音はそれまで両手で持っていたタングニズルを右手のみで持ち、空いた左手で別のCHARMを取り出し、銃弾を弾いた。左手のCHARMは短剣であり、これの刀身にも返しがついている。

 凛音は左手のCHARMを鶴紗めがけて投擲するが、鶴紗は咄嗟にティルフィングを剣状に戻し、刀身で防御した。すると鶴紗の左足に思いもよらぬ激痛が走った。鶴紗は右足だけで着地した後、左足に視線を移す。すると彼女の左足には凛音が左手で持っていたものと同じCHARMが突き刺さっていた。

 

(何でここにCHARMが…!?あの時弾いたはず…。まさか…!)

 

 鶴紗は瞬時に理解した。先程凛音が投擲し、鶴紗が弾いたCHARMはただのブラフであり、本命は左足に突き刺さったこのCHARMだったのだ。

 一度目の投擲はティルフィングで視界を塞ぐ事、自身がもう一つCHARMを隠し持っている事を悟られないようにする事が目的であり、二度目の投擲こそ相手にダメージを与える事が目的だったのだ。

 通常CHARMを同時に使用できる事はまずない。しかしこの芸当を成し得る能力を鶴紗は知っていた。

 

「この能力、アルケミートレース…。お前、私と同じ強化(ブーステッド)リリィか…。」

「当たり。『私と同じ』ってことは、お前もかぁ〜。」

 

 アルケミートレース。血液を媒介にしてクリスタルコアを擬似的なCHARMに変化させる事が可能であり、G.E.H.E.N.A.によって人体実験を受けた強化リリィ固有の能力である。

 

「あー、取ろうとしたらダメだよ。それ、返しついてるから抜けないよ。力任せに抜こうとしたら超痛いから勘弁しといたほうが…。」

 

 凛音の忠告を無視し、鶴紗は凛音のCHARMを左足から引き抜いた。左足からは多量の血液が流れたが、それも瞬時に再生された。これには予想していなかったのか、凛音はそれを見て目を大きく開いた。

 

「へぇ、リジェネレーターか。でも傷を再生したからと言って体力まで再生できるわけではねーな。むしろパワーもさっきより落ちてる。」

「ぐっ…!こんな痛み、あの時に比べれば大した事ないっ…!」

「強がりはやめた方いいよ〜。じゃあ続き、やろっか。」

 

 痛みで足元がおぼつかない鶴紗に凛音は容赦なくタングニズルによる攻撃を仕掛ける。しかし鶴紗も負けじと凛音の攻撃をティルフィングで受け止める。

 

「こりゃあ凛音が一枚上手だな。」

「あの安藤 鶴紗という方は二条さんの攻撃を避け切れるだけのスピードを持っているという事は先程の攻防で明らかになっていますが、そのスピードも落ちてますわね。やはり二条さんの一撃が相当響いたのかもしれません…。」

 

 伽奈芽と希は凛音が優勢である事を認識し、凛音の勝利を予測する。実際、攻撃を仕掛けているのは凛音であり、防戦一方の鶴紗には反撃の機会すら与えられていない。戦況を考えればどちらが有利かは明白であった。そしてそのままでは凛音の勝利は確実である。

 

「うーん、それはどうでしょうね?」

「え?」

 

 突如として晴海が口を開いた。現在の戦況を見れば凛音が優勢である事実は揺るがないが、一体晴海にはどこまで見えているのか、二人には想像がつかなかった。

 そして一柳隊にも伽奈芽や晴海らと同じように考えている者が少なからずいた。

 

「どうしましょうお姉様!このままじゃ鶴紗さんが…!」

「梨璃、狼狽えるのはまだ早いわ。鶴紗さんを見なさい。あれはまだ諦めてない証拠だわ。」

「ああ、夢結の言う通りだ。」

 

 そう言って二人に声をかけたのは吉村・Thi・梅だった。緑色の瞳と髪をしており、見た目通り明るい性格の持ち主である。

 

「あの目と動きでわかる。鶴紗は起死回生の一撃を狙ってる。」

 

 梅がそう言った次の瞬間、鶴紗はありったけのマギをティルフィングに込めて凛音のタングニズルを弾き返した。そしてそれまで両手で持っていたティルフィングを右手に持つと凛音に反撃する。

 しかし、それを予測していない凛音ではなかった。凛音は瞬時に体勢を低くし、鶴紗の一撃を躱すと、カウンターの一撃を鶴紗の腹部に喰らわせた。

 

「グハッ…!」

 

 鶴紗は倒れ込み、傷口を左手で覆う。手の平には鶴紗の腹部から流れた血液が付着し、凛音から受けた傷口はリジェネレーターの能力ですぐに塞がった。

 

「もうやめなよ。いくら治癒能力があるっつっても失った血液は元に戻らねー。それにお前のその能力には副作用があるはずだ。同じ強化リリィのあたしがよく知ってる。だからもう無駄な抵抗はやめてあたしよりも弱いっつー事を認め…。」

 

 次の瞬間、鶴紗は凛音に向かって左手から何かを投擲した。瞬時に危機を察知した凛音は鶴紗が投げた物をタングニズルで弾いた。闘技場内にタイルと金属がぶつかり合う甲高い音が響き、凛音は音がした方向を見る。

 

(あれは擬似CHARM…!チッ、クリスタルコアを持っていたのか…。)

 

 凛音がこの一連のやりとりについて考察している中、鶴紗は立ち上がり凛音に向かって巾着袋を見せた。

 

「なっ…!それはあたしのクリスタルコア…!一体どうして…。まさかあの時に!」

「はぁ…はぁ…。作戦成功だ…。」

 

 自身のクリスタルコアが入った巾着袋を見せられたことで凛音は全てを理解した。

 あの時鶴紗が動いたのは凛音に攻撃を喰らわせるためではなく、自身のクリスタルコアを奪取するためだった。そして鶴紗自身が擬似CHARMを形成するためにわざと凛音の攻撃を喰らい、媒介となる血液を入手した。まさに命をかけた作戦だった。

 

「何だあいつ!?凛音の目を盗んでクリスタルコアを奪った…。」

「やっぱり私の勘が当たりましたね。松山さん、後でジュース奢ってくださーい。」

 

 晴海と紬以外の国上のメンバーは鶴紗の賭けとも言える行動に驚愕する。そしてそれは国上だけではなく一柳隊のメンバーも同じだった。

 

「鶴紗さんすごい!でもどうやってクリスタルコアを…。」

「おそらくあの時防戦に徹してたのは凛音さんがクリスタルコアを隠してる場所を見つけるためだったんだろうナ。けど攻撃を受け止めながらそんな事するなんて中々できないゾ。」

 

 梅は鶴紗の行動の意図を見抜き、その度胸に感心した。

 すると、校内に警報が鳴り響いた。ヒュージが出現した証拠である。今日の当番は一柳隊であり、本人らもそれを認知していた。

 

「行きましょう!」

「うっ…!うあぁぁぁぁぁ!!!」

 

 突然、鶴紗が頭を抱えて倒れ込んだ。その拍子に巾着袋を落とし、クリスタルコアが床に落ちる鈍い音が鳴る。苦しんでいる彼女に伽奈芽が駆け寄り、肩を組む。

 

「強化リリィ特有のスキルを使った副作用か…。誰か保健室案内しろ!連れてく!」

「私も手伝いますわ!このままでは危険です!」

「わっ、私が連れて行きます!」

 

 伽奈芽同様希も鶴紗の肩を組み、梨璃が二人を百合ヶ丘の保健室へと案内する。危機的な状況が重なり、一同は困惑していた。

 

「一体どうしますの?梨璃さんが不在ではどうにもなりませんわ。」

 

 そう口を開いたのは楓・J・ヌーベルだった。楓は百合ヶ丘女学院に主席で合格し、入学した才嬢であり、その名を知らない者はいない程の世界的なCHARMメーカー、グランギニョルの総裁の娘である。

 茶髪に青い瞳をした美形の顔、グラマラスな体型、戦闘の技量。全てにおいて欠点は無いほどの完璧超人である。

 

「出動は無理に決まってるでしょう。メンバーが一人欠けている上にリーダー不在のレギオンはある程度のヒュージには対抗できても確実に特別指定上級ヒュージには対抗できない。」

 

 夢結がそう言うと凛音は鶴紗が落としたクリスタルコアの入った巾着袋を拾い、スタスタと闘技場から去ろうとする。

 

「待って!凛音、どこ行くの?」

 

 紬に呼び止められた凛音は彼女の方へと振り向き、口を開いた。

 

「あたしがやる。一人で。」

「それなら私も…。」

「陽向ちゃん、お前は来なくていい。アタシ一人でやってくる。これはアタシ自身がやりたい事だからな。」

 

 凛音はそう言い、闘技場を後にすると特別指定上級ヒュージが現れた場所へと急ピッチで向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 凛音は現場へと到着し、辺りを見渡した。瓦礫が散乱しており、それまで青かった空は鈍色に染まっている。人気が無い事を踏まえると避難が完了しているのだろうと凛音が推測していると、特別指定上級ヒュージが現れた。

 

「いいねぇ。人がいないってのは。心置きなく暴れられるってもんだ!!」

「リリィプム。クケハメムッハワオ。シアユリリィコツオリミ、ペグルス・ブロムプ!」

 

 凛音はタングニズルを構え、ペグルスに攻撃を仕掛ける。しかしペグルスはツルハシ型の武器を取り出し、それを使って凛音のタングニズルによる攻撃を防いだ。互いの武器がぶつかり合い、火花が生じると同時に無機質な音が周囲に響く。

 

「へぇ、武器持ちか!こいつは当たりだ!」

 

 凛音はクリスタルコアを取り出すと手榴弾型の擬似CHARMを形成し、それをペグルスに向かって投擲した。しかしペグルスはそれを武器で受け流し、手榴弾はペグルスの後ろで爆発した。

 

「ピコネフ?ニミハセピツ?」

「何言ってやがるか全然わかんねーし、わかりたくもねーな!」

 

 次なる手に打って出ようと考えた凛音はまずペグルスの足元を切り裂こうとタングニズルを低い位置に構え、ペグルスの足を狙った。

 しかしそれを予測していたのかペグルスは後ろに退き、自身の背中から翼を生やした。そしてそのまま凛音の方へと飛び、蹴りを仕掛けた。凛音は咄嗟にタングニズルで防いだが強すぎる威力を受け止めきれずそのまま倒れた。

 

「ぐっ…!速いし重い…!一体どうすれば…!」

 

 刹那、凛音は先程の鶴紗との一戦を思い出した。戦闘の開始から自身が鶴紗にクリスタルコアを奪取されるまでの数分がフラッシュバックした凛音はペグルス攻略の一手を思いついた。

 

「アタシもあいつみたいに、賭けに出てみるか。」

 

 凛音はそう言うと、タングニズルを下ろし構えをとる行為をやめた。それが何を意味するか。その答えは一つ。ペグルスの蹴りをノーガードで受け止めるというものだった。

 エリートのリリィ、しかもリジェネレーターを所有している強化リリィであるからこそダメージはある程度減るものの、何の力も持たない一般人が同じような事をするというのは自殺行為である。もっとも、ダメージを減らせるからと言って全くダメージが与えられないわけではない。エリートのリリィである凛音ですらも打ちどころが悪ければ死に至る可能性もある。

 しかし凛音はそれを覚悟の上でこの一手に賭けた。そして先程と同様のペグルスの蹴りを避けも防ぎもせず、腹部に喰らった。

 

「がはっ…!」

 

 次の瞬間、凛音は口から吐血しながらもペグルスの右足を左手で掴んだ。そして不敵な笑みを浮かべながらその目でペグルスを睨む。

 

「つーかまえた♪」

 

 ペグルスは瞬時にツルハシを凛音に向かって振り下ろそうとする。しかしそれよりも早く凛音のタングニズルがペグルスの胴体に突き刺さっていた。

 

「グギャアアアアアアア!!!!!」

「いいねぇ、その悲鳴。もっと聞かせろよ。」

 

 ペグルスはタングニズルを胴体から引き抜こうとしたが、刀身に返しがついているため中々抜けない。無理に引き抜けば多量の出血が伴う。ペグルスに残された道は死、ただ一つであった。

 凛音はタングニズルの柄を前に押し出し、ペグルスを倒す。その後、ペグルスの両手両足にゆっくりと返しのついた短剣型の擬似CHARMを突き刺した。

 

「ガアァァァァァァァァァァ!!!」

 

 辺りにペグルスの悲鳴のみが虚しく聞こえ、遂に凛音がペグルスに刺さったタングニズルの柄を掴んだ。

 

「バイバーイ。」

 

 凛音はペグルスからタングニズルを勢いよく引き抜いた。言わずもがなペグルスの胴体からは青黒い血液が噴水のように吹き出し、ペグルスはそのまま息絶えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「アタシの負けだ。」

「え?」

 

 百合ヶ丘女学院に帰還した凛音は突然鶴紗にそう言った。先程喰らったペグルスの一撃で肋骨が何本か砕け、内蔵も潰れかけていた凛音だったが彼女もまた強化リリィである。リジェネレーターによって傷は完治しており、血液の補充をするだけで済む状態であった。

 

「アタシがお前だったらあんな危険な賭けはしなかった。だからアタシの負けだ。さっさと特訓始めるぞ。」

「凛音ー!」

「お姉様!引っ付かないでください!」

 

 凛音が承諾した事により晴れて一柳隊と国上日本支部の合同の特訓が開始される運びとなった。

 休憩時間に入り、汗をタオルで拭く梨璃に伽奈芽が近づき、隣に座った。

 

「お疲れ様です、伽奈芽さん。」

「あー、お疲れ。」

「その…。嫌じゃありませんでしたか?最初乗り気じゃなかったみたいで…。」

「まぁアンタらなら信用できるからいいよ。それにあたし達だけじゃなくてアンタらにも強くなってもらわないと困る。」

「え?」

 

 伽奈芽の発言が何を意味しているかわからず梨璃は首を傾げ、素っ頓狂な声を上げる。それに構わず伽奈芽は話を続けた。

 

「ここ数年のスパンで見たら特別指定上級ヒュージは確実に強くなってきてる。正直あたし達の力だけじゃ限界がある。だからアンタ達の力も借りたい。協力してくれる?」

「はい!勿論です!」

 

 伽奈芽の頼みを梨璃は承諾し、伽奈芽と梨璃は互いに協力し合う約束が成立した。

 一方、鶴紗はペットボトルの中の飲料水を飲んだ後、希に声をかけた。鶴紗が保健室で休んでいる間、希は彼女の看病をしていた。鶴紗はその事について感謝の意を伝えたかったのだ。

 

「あの、先程はありがとうございました。」

「いいんですのよ。当然の事ですから。」

 

 鶴紗に対して希は天使のような微笑みを見せる。それを見た鶴紗の頬は紅潮し、彼女は希から視線を逸らす。

 それを不思議に思いつつも深く考える事をやめた希は凛音に声をかけた。

 

「二条さんもお疲れ様です。」

「えっ、あぁ、うん…。」

 

 凛音は希から渡されたタオルで顔を拭き、やるせない感情を溜息に乗せた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「んー…。これ、どうしましょうねぇ…。」

 

 その頃、百合ヶ丘女学院の工廠科の部屋で百由は伽奈芽が殺害した特別指定上級ヒュージの死体を眺めていた。

 本来ならば死体は腐っていたが、百由が紬を通して伽奈芽に渡した冷凍保存カプセルのおかげで腐敗が止まっている状態だった。

 

「どうするもこうするも、解体して調査する以外に手はなくね?」

「あのですね、私は工廠科の生徒であって生物科の生徒ではないんですよ。()()()()。」

 

 百由がそう言い放った相手は百合ヶ丘女学院の購買部のレジ担当の男性だった。男は椅子に座って百由が製作していたCHARMを勝手に触る。

 

「まぁいいじゃん。引き受けてくれる伝ならあるんだし。データさえあれば後は百由ちゃんでもどうにかなるよ。」

「んー、そうですかね。まぁまずその言い方されると腹立つところはあるんですが…。それにしても、さっきの話は本当なんですか?」

「うん。でも科学的に証明しないと事実認定はできないからこうして特別指定上級ヒュージの死骸持ってきてもらってるんじゃん。送ったら結果を待つのみだよ。」

 

 男は百由の製作したCHARMを置き、冷凍保存カプセルに近づいた。死体を見つめる男の目は興味も恐怖も無く、ただ事実を証明するための道具としか見ていないような冷酷な目であった。

 

「何はともあれ、今後も二人っきりで会うのはできるだけ人目につかないようにしよう。今二人で会ってることがバレたらかなりまずいし。」

「そうですね。特にこれはきちんとした所に送る必要がありますからね。」

 

 男と百由の目的は何なのか、それは後に衝撃的な事実として梨璃達の前で語られる事となる…。




ソメ穢、第2話をご覧いただきありがとうございました!早速お気に入り登録をしてもらえて、作者のエルモも嬉しい限りでございます。

さて、今回のお話は如何だったでしょうか?個人的に好きなシーンは鶴紗ちゃんと凛音ちゃんの戦闘シーンですね。直前までどう作ろうか悩んでいた部分なのですが客観的に見ても綺麗にまとめる事ができたのでスッキリしてます。このシーンの見所はなんと言っても夢結ちゃんと梅ちゃんの洞察力です。個性派揃いの一柳隊の中でも姉御肌気質の二人、一柳隊の影のリーダー感が出ていてカッコいいです。

そして今回メインのオリキャラ、二条 凛音ちゃん!一言で言えば一匹狼です。この手のキャラで熱い展開といえばやはり共闘。この凛音ちゃんというキャラは共闘してくれるのか、もし共闘するならそれは何がきっかけか。第2話以降の見所ですね。

次回、第3話は登場順では最後から2番目の相馬 陽向ちゃん!僕が作ったオリキャラの中でも特に好きなキャラなので活躍させられる事、非常に嬉しく思います。早く第3話公開したいー!
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