ソメイヨシノは穢れない   作:スターフルーツくん

3 / 7
第3話が1番好き。何故なら自分一番好きなレギオンのヘルヴォルが活躍できるから(知らんがなって言われるかもしれないけど)
ではどうぞ!


第3話「努力のパワー」

 

 

「ハアッ!!」

「ヤアッ!!」

 

 月曜日の夕方、公共施設の闘技場で凛音と陽向は特訓をしていた。学校も違う国上のメンバーは互いに特訓をする際には昨日の一柳隊との合同特訓のような例を除いて他校の闘技場を借りることがない。他校の生徒を招き入れての特訓は手続きが面倒であるからだ。故に手続きが比較的楽な公共施設の闘技場を借りる方が彼女達には好都合であった。

 

「おっと!危ない危ない…。陽向ちゃんさぁ、また()()やろうとしてたでしょ?」

「だから?」

「別に?」

 

 陽向の攻撃を後退して避けた凛音はタングニズルを力強く握り直す。すると闘技場に一人の人物が現れた。

 青い髪に凛々しい眼差し、闘いに明け暮れている二人でもその少女の名は知っていた。その人物が視界に入った瞬間、二人は特訓をする手を止めた。

 

「ようやく見つけました…。」

「アンタ、相澤 一葉か…。」

 

 相澤 一葉。エレンスゲ女学園の二年生であり、“ヘルヴォル”というレギオンのリーダーでもある。しかし一葉の凄みはそれだけにとどまらない。なんとエレンスゲ女学園全体における序列が一位なのである。

 学園内の序列は戦闘における技量やマギの保有量など、あらゆる観点を総合的に考慮して順位がつけられる。

 そしてその序列の数字に違わぬ実力も持ち合わせている事もまた彼女の知名度の高さに起因している。

 

「貴女方にも名が知れ渡っているとは光栄です。国上日本支部副長補佐兼三番隊隊長、二条 凛音様。国上日本支部二番隊隊長、相馬 陽向様。ん?陽向様のそれは…。」

 

 一葉は陽向が両腕に装着している籠手を一瞥する。陽向が装着しているものはガントレット型のCHARM、“スルーズ”である。

 スルーズはスキラー数値が低いからといったような理由で通常のCHARMを使用できない人間のために開発された量産型CHARMであり、手の甲に装着されているマギクリスタルコアによりラージ級以上のヒュージに対向する事が可能となっている。

 これはAIがヒュージのマギの出力方法をチャート化したものを学習し、出力方法をパターン毎に分ける事で通常のCHARMと同じ機能を持つ事を可能にしている。まさに毒を以て毒を制する武器なのだ。当初は通常のCHARMと同じ形にされる予定だったが、AIを搭載した場合にシステム的な不具合を起こしてしまうため籠手の形に落ち着いた。

 言わずもがな一葉もスルーズの事についてはよく理解していた。そしてその情報から陽向の事を推測する。

 

「そう。私は国上の中で一人だけCHARMが使えないの。」

 

 CHARMを起動できる条件の一つはスキラー数値が五十以上の者である事だが、五十未満の者はCHARMを起動できない。二十五以上かつ四十九以下のスキラー数値を持つ者、俗に言うマディックであったとしても、かろうじてアンチヒュージウェポンと呼ばれる武器を使えるが、陽向のスキラー数値は十一。CHARMはおろかアンチヒュージウェポンも到底使用できる才はなかった。

 

「陽向ちゃんの事について聞きにきたわけじゃねーだろ?何しに来た?」

「あぁ、申し訳ありません。実は…。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「合同でアルトラ級ヒュージを討伐!?」

 

 凛音と陽向に呼ばれ、伽奈芽達もエレンスゲ女学院に合流した。

 

「はい、その件に関しては我がレギオンの飯島 恋花が説明をさせていただきます。恋花様。」

「はいはーい。」

 

 一葉に呼ばれて飯島 恋花という少女が前に出る。恋花は黒い瞳を持ち、茶髪を一つに結んでいる容姿をしている。その声色から察せる通り砕けた性格であり、チームを一つにまとめている。

 

「あたし達がかねてより追跡していたウールヴヘジンが諏訪湖で発見されました。しかし、敵側の総合的な戦力を考慮しても学園全体でかかっては倒せない。そこで国上の皆様にウールヴヘジンの討伐を依頼したいのです。」

 

 ウールヴヘジン。“災厄”とも呼ばれるアルトラ級ヒュージの名前であり、その強さはどのアルトラ級ヒュージよりも強い。その強さの理由はウールヴヘジンがレストアである故なのだ。

 レストアもといレストアードとは損傷を受けながらもネストと呼ばれるヒュージの巣窟に戻って傷を癒したヒュージを指す言葉であり、修羅場を乗り越えてきた経験を持っている。故にレストアの個体は通常のそれよりも手強いのだ。

 

「つってもさぁ、エレンスゲにかかればたかだかアルトラ級を倒すのにあたし達を呼ぶ必要ないでしょ。」

 

 伽奈芽の言葉は正論であった。いくらレストアのアルトラ級ヒュージと言えども学園全体でかかれば倒せない敵ではない。ただそれは敵がウールヴヘジンのみの場合だった際にのみ通用する言葉でしかなかった。

 

「それができたらあたし達も苦労してないんですよ。一度学園全体でウールヴヘジンを討伐しようと考えたんですけど、特別指定上級ヒュージに邪魔されてそれが達成できなかったんです。」

「ええ、よくわかりました。じゃあみんなでヒュージを討伐しようー!」

 

 紬がいつものように舞い上がっていると凛音は一人会議室から去ろうとしていた。それに気づいた伽奈芽は彼女を引き止める。

 

「ちょっと待て凛音!どういうつもりだ!?」

「アタシは行かねぇ!!第一、そいつらはG.E.H.E.N.A.擁護派じゃねーか!アタシはそんな奴らの手を借りる気はねぇ…!G.E.H.E.N.A.は嫌いなんだよ…!!」

 

 凛音はそう言い、会議室の扉を強く閉めた。彼女の言う通り、エレンスゲ女学院はG.E.H.E.N.A.の援助を受けている。凛音や安藤 鶴紗のように悪辣な人体実験を受けて強化(ブーステッド)リリィとなった者達は特にG.E.H.E.N.A.を嫌悪しており、凛音にとってはエレンスゲ女学院に協力する事はG.E.H.E.N.A.に協力する事と同義である。

 

「今回の作戦、凛音は抜きで考えよう。まずウールヴヘジン単体で考えたらあたし達国上も手助けした方がいい。それにアルトラ級はあたし達国上の力を知らない。殺すならアサルト・フラッシュでやる以外に方法がない。ってかまず従来の攻撃は効かないって考えとけ。」

 

 伽奈芽の言うアサルト・フラッシュとはマギを彼女のランドグリーズに一点集中させ放つ強力な技であり、他のどの連携攻撃よりも攻撃力が高い。しかし、これは発動者を除いて二人以上のマギを必要とするため発動するまでに時間がかかる事が難点である。

 

「カナさん、この諏訪湖を守ってるっていう特別指定上級ヒュージは私に任せて。」

 

 すると陽向が伽奈芽にそう言った。伽奈芽は少し視線を逸らして考え込むと、陽向に対して問いかける。

 

「本気?」

「勿論。」

「よし、じゃあそれで。」

「待ってください!」

 

 伽奈芽の決定に対して待ったをかけたのはまさかの一葉だった。ヘルヴォルのメンバーも驚いた顔をして一葉を一瞥する。

 

「陽向様はCHARMを起動できません。それなのに…!」

「心配には及びません。うちの陽向は天才ですから!」

 

 紬の言葉に伽奈芽達も首を縦に振って賛同する。そんな中、希が静かに右手を挙げた。

 

「一つ提案がありますわ。相澤さん、エレンスゲ女学園(ここ)のトレーニングルームを相馬さんに貸していただけませんか?」

「べ、別に構いませんが…。」

 

 一葉は希の発言の意図がわからず困惑するが、特に理由を聞かずに許可を出した。作戦の決行はヒュージネストでウールヴヘジンが眠っていると予想される一週間後となり、その間に出没するヒュージはエレンスゲ女学園の他のレギオンが対処する運びとなった。いよいよ国上とヘルヴォルの出撃準備が始まった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 一方、都内の橋の上では大柄な肉体の男と薔薇の髪飾りをつけた女が遭遇した。陽はすっかり落ち、仕事を終わらせて帰宅する人間達が橋の上で幾度となくすれ違う。そんな中でも二人は会話をしていた。

 

「ロゼラ、次のデネテにはケトシーを向かわせた。奴はウールヴヘジンを守るそうだ。」

「そうか。奴らしいデネテだな。」

 

 大柄な男の言うケトシーという特別指定上級ヒュージは狡猾で悪質な個体であり、デネテの内容もそんなケトシー自身の性格が反映されている。

 ウールヴヘジンを守ればデネテを進められるだけでなく、邪魔となるリリィを排除できる。特別指定上級ヒュージからしてみれば非常に効率的な計画である。

 

「ガゴラのデネテはどうなった?」

「奴は既にデネテを成功させ、シルヴィス族となった。」

「…そうか。」

 

 薔薇の髪飾りの女、ロゼラ・プラティアは大柄な男の質問に対してそう答える。ガゴラもといガゴラ・ブロムはロゼラの言うデネテを成功の形で終了させ、再び新たにデネテを開始しようとしている。

 

「もしブロム族の失敗が続くようであればその時はベヒーム、貴様が責めを負え。これ以上グローアの悲願達成を阻む事をしてはならん。」

「わかっている。」

 

 大柄な男、ベヒームはロゼルに対してそう言うとひどく鋭い目つきをしながら彼女のもとから去っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 翌日、陽向はトレーニングルームでランニングマシーンを使って走っていた。その様子をトレーニングルームの入り口から恋花と赤紫色の髪色の少女がこっそり見ていた。

 

「気になりますか?飯島さん、初鹿野さん。」

「希…。」

 

 赤紫色の髪色の少女の名は初鹿野 瑤。学園内の序列は十四位であり、一葉や恋花と同じヘルヴォルの一員である。

 

「あの時相澤さんが相馬さんの出撃を止めた理由も貴女方がこうして相馬さんを監視している理由もわかりますわ。お二方は()()()の事を思い出しているのですね。」

 

 希の言う“あの時”とは日の出町の惨劇の事である。日の出町の惨劇は恋花と瑤がまだ中等部生だった頃に起きた出来事であり、旧ヘルヴォルの予備メンバーとしてマディックと共に出撃した。しかし恋花と旧ヘルヴォルの隊長が現場で対立を起こし、隊は混乱。結果として多くのリリィや民間人、更にはマディックを死に至らしめる結果を招いた。

 

「貴女方はまた目の前で誰かが死ぬ事を恐れた。特に力の無い者は。だから相馬さんを単体で強力なヒュージと戦闘をさせる事には反対していたのでしょう?おそらく相澤さんはそんな貴女方の意図を汲み取ってあの発言をした。ここまでで何か事実と違う点はございますか?」

「ううん、全部希の言う通り。むしろ悔しいほど的確すぎてぐうの音も出ない。」

 

 希の質問に瑤が腕を組みながら答えた。瑤の態度には諦めの表情が出ており、希を前にすると自身の全てを見透かされているのがわかっているような態度でもあった。

 

「お気持ちはよくわかります。しかし、相馬さんもまた国上で活躍するリリィです。彼女は我々国上の中でも一番の天才です。」

「国上で天才って言ったら伊坂 晴海ちゃんじゃないの?」

「それとはまた別の意味での天才、と申し上げた方がよろしいかもしれませんわね。いずれにせよ、その意味がわかる時が必ず訪れるのでご心配なさらず。」

 

 踵を返そうとした希だったが、何かを言い忘れたのか、「そうでした」と呟いて右手の人差し指を立てると瑤と恋花の方へと向き直った。

 

「二条さんの事はそっとしておいてあげてください。無理に作戦に参加させない事が私達にとっても、そして本人にとっても一番良いですから。」

「うん、わかった。他の子達にも伝えておく。」

「飯島さん、初鹿野さん。若輩者の私が幾度となく差し出がましい真似をしてしまい申し訳ございません。」

「良いって良いって!希はエレンスゲの一員ってだけじゃなくて、国上の一員でもあるんだからさ。そんな堅くならなくてもいいの!」

「ありがとうございます。」

 

 希は恋花と瑤に感謝の意を述べ、再び踵を返した。そして希を、陽向を信じる事にした恋花と瑤は己を鍛えるべく闘技場へと向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 三日後、陽向の様子を聞くために紬がエレンスゲ女学園に足を運んだ。一葉に案内され、紬は来客室へと足を運んだ。

 

「ん〜、美味しいですね!私のクッキーに負けず劣らずの出来…。」

「うふふ、ありがとうございます。喜んでもらえて何よりです。」

 

 クッキーを作って紬をもてなしていたのは芹沢 千香瑠であった。千香瑠は茶髪の髪をリボンで結んでおり、瞳は緑色である。その風貌の通り、姉的な立ち振る舞いをしている。

 

「陽向の様子はどうですか?」

「必死にトレーニングに励んでいます。陽向ちゃんはいつもあのようなトレーニングを?」

「ええ、時間の許す限りいつもトレーニングばかりしていますね。トレーニングしてる時間は国上の中で一番だと思います。」

 

 陽向と打ち解けたのか、千香瑠は早速陽向をちゃん付けで呼ぶ。元々、陽向は凛音と違い人付き合いも良い方なので国上のメンバー以外の誰かと仲良くなるという事は特段珍しい事でもなかった。

 

「おもしろ〜い。一回戦ってみたいな〜。」

 

 そう言って千香瑠が紬に出したクッキーを食べていたのは佐々木 藍だった。藍は灰色の髪に黄色の瞳をしており、背が低い上に童顔である。その容姿同様に性格も幼く、他のヘルヴォルのメンバーから可愛がられている。

 

「藍ちゃん!勝手に人のクッキーを食べちゃダメでしょ!」

「良いんですよ。藍さん、相手してあげるのも陽向にとっては良いかもしれません。たまには相手との戦いも必要ですから。陽向も喜ぶと思います。」

「やった〜!戦ってくるね〜。」

 

 藍はそう言い、来客室から去っていった。紬は去りゆく藍の背中を見て不思議に思いながらクッキーを口に入れた。

 

「藍ちゃん、実は凛音さんと同じ強化リリィなんです。」

「へぇ、そうなんですね!それを知ったら凛音とも馬が合いそうだったかもしれませんね…。」

「はい、ですがいつかは凛音さんとも仲良くなれると信じています。」

 

 千香瑠は子を思う母のような柔和な笑みを浮かべてそう語った。

 しばらく時間が経過して紬がクッキーを口に含めていると、千香瑠が何かを思い出したかのように「そういえば」と切り出した。

 

「今回の作戦に紬さんと希さんは出動しないとあったのですが、紬さんは出動されないのですか?」

 

 千香瑠の語った通り、今回のアルトラ級ヒュージ討伐に出向くのはヘルヴォルのメンバー五人、伽奈芽、晴海の七人である。

 凛音はヘルヴォルとの共闘を嫌ったため今回の作戦には不参加、陽向は特別指定上級ヒュージとの戦闘に専念するため除外、希は司令塔として指示をするため今回の作戦で戦闘には赴かない。しかし、残った紬は何故参加しないのかと千香瑠は気になっていた。

 

「彼女達の成長もあります。私がいなくても勝てるように。」

 

 腕を組んで首を縦に振りながら紬はそう語る。そして紬は組んでいた腕を戻すと「それに」と続けた。

 

「アルトラ級となると周りに構わず殺ってしまいそうなんでね…!!」

 

 紬の異常とも言えるほどの殺気と重圧に千香瑠は戦慄し、背筋が凍った。その顔にはいつもの陽気な笑みは無く、強い獲物を狩る獣の如き表情があった。

 

「お姉様、殺気漏れてる。」

「あっ、カナさん。いつからそこに?」

 

 伽奈芽が現れたことに気づかなかった紬は肩を揺らして少々驚く。その瞬間に紬の殺気は消え、千香瑠は安堵のため息をつく。

 

「今さっきですよ。突然お姉様の殺気を感じたんで『もしや』と思ったらこれですよ。それよりも千香瑠さん、相談したいことが…。」

「はい、何でしょうか?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 三日後、遂に作戦実行の日が訪れた。作戦の内容は特別指定上級ヒュージを陽向が足止めしている間に諏訪湖の中に潜んでいるウールヴヘジンを伽奈芽がアサルト・フラッシュでヒュージネスト諸共殲滅するというものである。

 しかしこの作戦を実行するにあたって、一葉にはどうしても気になる事があった。

 

「待ってください!何故千香瑠様だけ水着姿なのですか!?」

 

 今の千香瑠の服装は黒のビキニ姿であり、水着の上の部分にはフリルがついている。煽情的でありながらも女性の求める可愛らしさを兼ね備えたデザインの水着である。

 一葉をはじめとする他のヘルヴォルのメンバーは普段通り制服のため、水着を着ているのは千香瑠のみという状態である。加えて千香瑠がバランスの取れたスタイルの持ち主のため、彼女と会話する際には目のやり場に困る。

 

「許可は取ってるわよ。あれ?もしかして一葉ちゃん、これを着たかったのかしら?」

「い、いえ!そうではなく!大事な作戦を実行するのに何故千香瑠様がそのような格好をなさっているのかを聞いているのですが…!」

「あぁ、実はカナさんのアサルト・フラッシュは発動した後にカナさん自身の身体が動けなくなるっていう代償もあるの。技の発動にどうしてもレアスキルが必要らしいから。その時に溺死しないように私がカナさんを助けるの。」

 

 頬を赤らめてあからさまに視線を逸らす一葉に対して千香瑠がくすりと笑いながら答える。

 今回のアルトラ級ヒュージ討伐に際して、アサルト・フラッシュは水中で発動される。技を発動し終わった直後に全身が動かない伽奈芽を助け出す役割を水泳の得意な千香瑠が引き受けたというのが事の真相である。

 

「カナさんはウェットスーツを着ているのですがそれは良いのでしょうか…。」

「ダイビングライセンスなら持ってる。言っとくけど、たかだかアルトラ級をぶっ潰すのに手間暇はかけてらんないぞ。」

「は、はい!」

「じゃまた。」

 

 伽奈芽はそう言い、スキューバを背中に装着したまま諏訪湖の水中へと潜った。それに合わせるようにヘルヴォルのメンバーと晴海はお互いのCHARMを合わせてそのマギを伽奈芽に送る。

 

「晴海のCHARM、すごいね。攻撃力がありそう。」

「あはは、それほどでも…。」

 

 瑤が注目したCHARMの持ち主である。晴海が笑った。晴海のCHARM、“グリフォン”は二つの武器に分かれている。一つは晴海が右手に持っている短剣、もう一つは晴海が左手に持っているドリルである。どちらもマギクリスタルコアが埋め込まれており、柄の端に鎖が付けられている。どちらの武器も鎖で繋げられている状態である。

 

「皆さん、急がないとウールヴヘジンが目覚めてしまいます。ハッ、来ました!相馬さん!」

 

 通信機から聞こえる希の指示で遂に陽向が特別指定上級ヒュージと対峙した。

 陽向は建物の陰から特別指定上級ヒュージを待ち構えており、敵が現れたタイミングを見計らって行き先を塞いだ。

 

「お前の相手はこの私だよ。」

「シリネイセ。ピソネハリネエフセヲソプム。シアユハクヌセ、ケトシー・ブロムプ!」

 

 ケットシーの性質を持つ特別指定上級ヒュージであるケトシーは剣を取り出し、陽向との戦闘を開始した。先に動き出したのはケトシーだった。先手はケトシーの突き。陽向の心臓を狙っていた。しかし陽向はこれを難なく躱し、ケトシーの右手の指の骨を折った。

 

「ガァァァァァァァァァァァ!!!」

「ふぅ…。」

 

 これこそが陽向が剣や銃などのCHARMを持っていなくとも十分に強い理由である。彼女の代名詞は武器を持っている相手の指の骨を折る“指抜き”。この技が効かなかったヒュージは一体たりとも存在しなかった。

 

「まだまだ!!」

「グッ!!」

 

 怯むケトシーに対して陽向は連続攻撃を浴びせていく。フック、アッパー、水平チョップ。陽向の単純だが強力な攻撃にケトシーは追い詰められ、遂には土下座をした。

 

「ハァ…ハァ…。すまなかった!許してくれ!命令されてやっていたんだ…。だから頼む!」

「ヒュージが人間の言葉を…!?」

 

 ケトシーが日本語を喋ったことに対して一葉が驚く。当の陽向は一葉と違い、ケトシーが日本語を喋った事に対しては大して驚く様子を見せず、ケトシーに右手を差し伸べた。

 しかしケトシーは陽向の隙をついて剣による斬撃を陽向に喰らわせた。

 

「がはっ…!」

「陽向さん!」

 

 傷を負った陽向は膝をついて倒れ込む。ケトシーは陽向に休む間も与えず蹴りや斬撃を浴びせていく。斬撃は何とか避けた事で傷は浅い程度で済んだが、それでも多量の出血である。

 

「ねぇ、陽向を助けに行った方がいいんじゃ…!」

「大丈夫です。私達はマギを松山さんに送るのに集中しましょう。」

 

 ケトシーの攻撃を喰らい、サンドバックのような状態となっている陽向を見て恋花は援護を提案するが、晴海が却下する。

 今六人の中の誰か一人でも離れた場合、伽奈芽にマギを送る事が不可能となる。紬と希に援護を要請するにしても現場の諏訪湖に到着するまでにかなりの時間を要する。陽向を援護する手段は皆無である。

 

「でも…!」

「だいじょーぶ。ひなたと戦ったらんが言うんだからまちがいない。」

 

 焦る恋花を藍が諭す。三日前に陽向と特訓をした藍の言葉には恋花も沈黙するような説得力があった。

 

「そうですわ。それに相馬さんは窮地に陥ったり相手が強かったりすれば相馬さん自身も強くなります。」

 

 通信機越しに希も語る。その言葉に応えるかのように陽向が遂に反撃を開始した。ケトシーの斬撃を避け、側面から剣を攻撃して破壊すると、ケトシーの胸部と腹部の中間の部位を右手の人差し指と中指の第二関節で突いた。

 

赤炎一撃拳初弾(せきえんいちげきけんしょだん)狴犴(へいかん)!」

 

 赤炎一撃拳初弾の技である狴犴を食らったケトシーは内臓を破壊されそのまま吐血した後、倒れ込んだ。

 ため息をついた陽向は右手と左足の膝をついて晴海達の様子を見守った。

 そして陽向の戦闘を見ていた一葉達は開いた口が塞がらずに唖然としている。晴海はそんな一葉達を見てニヤリと笑っていた。

 

「申し上げた通りでしょう?相馬さんは天才ですの。努力の。」

「努力…。」

 

 通信機から希が陽向の事を語る。それを聞いていたのか、一葉達に対して陽向はその場で親指を立て、サムズアップをしてみせた。一葉達もそんな陽向を見て笑顔を見せると、親指を立て返した。

 

「マギが溜まりました!今です!」

 

 水中の様子を別のカメラで監視していた希が合図を出し、伽奈芽の“アサルト・フラッシュ”がウールヴヘジンとヒュージネストに炸裂する。諏訪湖の水中は激しい光に包まれ、その後、大爆発を起こした。

 

「芹沢さん!」

「えぇ!!」

 

 希が通信機から指示を出し、千香瑠がCHARMを瑤に渡して諏訪湖に飛び込んだ。

 しばらくして、伽奈芽の肩を担いだ千香瑠が水面から現れ、伽奈芽の顔から潜水マスクを外した。

 

「ウールヴヘジン及びヒュージネスト、討伐完了!」

 

 一葉達は歓喜に打ち震え、互いに抱き合ったり手を握り合ったり、快哉を叫んだりしてその喜びをぶつけ合った。

 そしてエレンスゲ女学院に帰り、希と紬と合流した事で伽奈芽達と一葉達の別れの時がやってきた。

 

「今回は誠にありがとうございました。次の機会があれば是非お願いします。」

「いや、リリィとして当然の事をしたんだから礼を言われる筋合いはない。次は凛音も説得してみるよ。」

 

 伽奈芽と一葉はお互いの右手を固く握り合う。そこに陽向が現れ、一葉に言葉をかけた。

 

「全員で力を合わせる事の大切さ、私達もよく分かったよ!次に戦う時もお互いに力を合わせて頑張ろう!藍、また組み手しよう!」

「はっ、はい…。」

「うんー。」

 

 陽向はそう言うと一葉の右手を両手で握った。突然の出来事に一葉は頬を紅潮させ、陽向から視線を逸らして困惑する。

 

「おい陽向、行くよ。」

「はーい!」

 

 踵を返す伽奈芽達を一葉達は手を振って見送った。そんな一葉の心の奥には正体のわからない感情が芽生えていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 一方その頃、百合ヶ丘女学院の工廠科の部屋では百由から実験結果を記載した資料を受け取った購買部のレジ打ちの男性は特に驚く様子を見せる事なく資料を黄色のファイルに入れた。

 男の動作や持ち物を見て彼はあらゆる可能性を慮っているのだろうと百由は推測する。

 

「驚かないんですね。」

「そりゃ予想通りの結果だったんだから驚きもしないよ。もっと言うなら僕からしてみればつまらない結果だけどね。」

「…私からしてみれば十分驚きですよ。」

 

 百由の言葉に対して気の抜けた表情を崩さずにラムネを噛み砕いている男は相変わらず何を考えているかわからない表情と雰囲気をしており、行動を共にしている百由自身も彼を難物として見ていた。

 

「けどまだデータは必要。次の調査依頼頼んどいて。」

「これだけじゃまだダメなんですか?これだけでも十分に強い論拠になるとは思うのですが…。」

「全然。今から第二段階入るよ。今度は時間かかるかもしれないから届くまでゆっくりしときなね。絶対ダメなのはこのやりとりがバレる事、僕が百由ちゃんとこっそり会ってる事なんだから。」

 

 男は普段通り、緊張感を感じさせない声色で話す。そもそも百合ヶ丘女学院は女子校であり、若い男性がいるという事も珍しい事なのだがその男が黒色のマニキュアを塗り、目元の見えるサングラスと両耳にイヤリングを付けているため、厳格な百合ヶ丘女学院の校風の否定を顕示しているような見た目の彼は十分な注目を集める。

 そんな彼が百由とこのような怪しげなやりとりをしているとなれば根拠のないゴシップを流されかねない。加えて二人が調査しているものの情報が漏洩して外部に広まるような事態になれば最悪の状況となる。

 

「第二段階は何を調べれば良いんですか?」

「んー、次はルナティックトランサーの調査でもしよっか。」

「それはどうやって行うつもりですか?」

「No problem.僕がちょっと潜入してくる。」

 

 男の次なる計画は何か。果たしてそれはどのような内容のものなのか。それは彼以外には知る由も無かった。




3月の終わりにもう1話投稿できれば良い方ですな
ちなみにこの不穏な展開はもうちょいで終わります
終わりますってかまた更に問題が積み重なるだけなんだけど…
それではまた次回!
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。