「んー…。今日もいい天気!」
朝六時。朝食を食べ終え、着替えを済ませた紬は近くの公園でストレッチをしていた。早朝という事もあって人通りは少なく、春が始まって間もない事もあってか、肌寒さも若干ながら感じる。
天気は雲一つない快晴。陽の光が目の前にある全てのものに輝きを齎し、喜びに満ちた小鳥たちの囀りが聞こえる。
公園にある自然の全てを感じ取った紬は小豆色の長袖ジャージを身に纏い、首にタオルを巻いていた。和やかな気分でストレッチを終えた紬は公園のトラックを軽く二十周する。
「さてとー、まだまだ時間はありそうかな。よし、学校に行って時間でも潰そう!」
数十分経ち、ランニングを終えた紬は汗をタオルで拭き、制服に着替えると自身の登校している学校であるリジェルマ女学園へと向かった。
それから数時間後、百合ヶ丘女学院では一柳隊とアールヴヘイムのメンバー、そして晴海が闘技場で各々の特訓をしていた。その様子をギャラリーから購買部のレジ店員の男性が見守っていた。
「おーおー。こりゃ荒れてんねぇ。」
男の言う通り、特訓に励むリリィ達の表情は必死の形相であり、戦闘スタイルも普段見せているような余裕のある戦い方ではなく全力に近い飛ばし方をしていた。
それを見ていた彼のもとに一人の少女が現れた。少女は灰色の髪を肩まで伸ばしており、それでいて温和な雰囲気を持ち合わせていた。男は彼女を一瞥すると、その名を呼んだ。
「ごきげんよう。ここにいらしていたのですか、お兄さん。」
「あっ、祀ちゃん。やっほー。」
秦 祀。百合ヶ丘女学院の三年生であり、夢結のルームメイトでもある。また、百合ヶ丘女学院に在籍する三人の生徒会長、通称“三役”の一人であり、オルトリンデを務めている。昨年は代行という形で就任していたが、今年は正式な形での就任となっている。
「どうしたの?闘技場の壁ならもう修理したし、生徒会の子が、それも生徒会長の一人が僕に関わる用は無いと思うけど。」
「いえ、ただ校内の見回りをしていた際にお兄さんがここにいたので彼女達の事を心配しているのかなと。」
「うーん、別に。僕が心配するようなタマの奴らだったらまずリリィになれてないと思う。」
「うふふ、確かにそうですね。」
男は祀が自身に声をかけてきた理由を知るも特に何の反応も示さずに淡々と語る。そんな男の隣で祀は彼と共に梨璃達の特訓の様子をギャラリーから見る。
「ご存じかとは思いますが一柳隊とアールヴヘイム、そして晴海さんは先日特別指定上級ヒュージに敗れました。その悔しさが彼女達を突き動かしているのかもしれません。」
「ふーん。」
祀の言葉は的を得ていた。今の彼女達は傷が癒えていない状態である。それに構わず特訓をするという事は勝ちたい、或いは強くなりたいという執念があると言う他無い。
「勝ちたいと思うのは良い事だけど、そのせいで何かを見失う事もある。人間ってのはそんなもんだよ。そこで君達三役に頼みたいんだけどさ、今後一柳隊とアールヴヘイムを出撃させる時は慎重な判断をしてくんね?」
「承知しました。生徒会でも審議すべき議題だと考えていたので、丁度いいタイミングでした。では私はこれにて失礼致します。」
祀は丁寧にお辞儀をすると、闘技場から去って行った。男はそのまま残り、再び特訓の風景を一瞥する。
「頑張んなくたっていい。でも
男はそう言い、工廠科に向かうためにギャラリーから去っていった。彼の言葉は梨璃達には聞こえなかったが、彼女達なら大丈夫だと男は確信していた。
時を同じくして、都内の廃墟ではケルヴス、ロゼラ、セレン、ベヒームの四体の特別指定上級ヒュージが人間態の姿で集合していた。
「何故俺の順番を飛ばした。」
ベヒームは目を三角にし、ケルヴスの胸ぐらを掴む。当のケルヴスは表情を一切変えずにベヒームを自身のマギで吹き飛ばした。
吹き飛ばされたベヒームは何が起きたかわからず、一瞬で地面に這いつくばる姿勢となっていた。
「ぐだぐだとうるせぇんだよ。デネテの順番を飛ばされたぐらいで騒ぐな。」
ケルヴスは不機嫌を声色に表すと木製の椅子に座った。ベヒームはゆっくりと立ち上がり、痛みに耐えながら服についた埃を取り払い、ロゼラに尋ねる。
「次は誰だ。」
「クラケネだ。」
ベヒームの質問に答えたロゼラは薔薇の花をポケットから取り出し、投げる。ロゼラの投げた薔薇はダーツの的に突き刺さり、薔薇は見事中央に刺さっていた。それを見て笑っていたケルヴスを見てロゼラは彼に不信感を抱いた。
「ケルヴス、貴様何があった?」
「どういう意味だ?」
「以前と比較すると貴様の様子は明らかにおかしい。何故そこまでヴェルンドにこだわる。」
ケルヴスは考える素振りを見せ、辺りはしばらく沈黙に包まれる。そして数分後、ケルヴスはようやくロゼラの問いに答えた。
「何でだろうな…。俺にもわかんねぇ。“愛”を知ったのがいつだったかは…。ただな、これは
「何?」
「良く見えるもの、自分の手の内に無いもの。欲しくなっちまうんだ。どれだけ手を伸ばしても届かない。そんな物を見つけちまったら手に入れてみたくなるだろ。」
ケルヴスの言葉の意味がわからず、ロゼラ達は彼に対してかける言葉を失っていた。そして何よりもケルヴスも自身の異変に対して強く疑問を抱いていた。
翌日の土曜日の朝、公園で晴海を除く国上のメンバーはCHARMを持って一同に会していた。早朝という事もあり、紬以外の四人の眠気はまだ取れずにいた。
そんな中、紬がいつものように明朗快活な声色で伽奈芽達に今日やる事の内容を伝えた。
「今日は戦場に行って暴れるよ!みんな、ご飯はしっかり食べておくんだよ!」
未だに眠気が覚めない四人は紬に対して疎に返事をする。そんな中、凛音が口を開く。
「そういや、晴海はどうした?」
「晴海ならしばらくの間出撃を禁止してるよ。凛音と陽向と希はいなかったからわからなかったかもしれないけど、晴海結構傷ついちゃったからさ。独走しないか心配なんだ。」
凛音の質問に紬が答える。昨日、晴海の所属するガーデンである百合ヶ丘女学院の生徒会は会議で一柳隊とアールヴヘイム、そして晴海の一週間の出撃禁止の決議をした。その話は国上日本支部の局長である紬にも話が届いており、紬自身もそれを承諾した。
「数日ぐらい休んで、頭を冷やせれば良いんじゃないかとは思うけどね。」
紬はそう言い、隣に置いていた二つのCHARMのケースを肩にかける。それに続くかのように伽奈芽も口を開く。
「晴海、悔しいだろうな…。」
「それを乗り越える事も国上メンバーとしての役目だよ。じゃあ時間も時間だしそろそろ行こっか。」
紬は四人を連れてある場所へと向かう。その場所は神庭女子藝術高校だった。伽奈芽達も聞き馴染みがあり、誰が所属しているかがすぐにわかった。
「ここ、あのグラン・エプレの…!」
校舎を見たところで陽向が口を開く。グラン・エプレ。そのリーダーである今 叶星と伽奈芽は先日の百合ヶ丘女学院での合同会議で初めて遭遇した。そしてそれ以来一度も顔を合わせていない。
「そう。そして今日はそのグラン・エプレと一緒にヒュージの討伐任務を遂行するよ。」
紬達はそのまま神庭女子藝術高校の校門をくぐる。するとそこに一人の少女が立っていた。グラン・エプレのリーダー、今 叶星であった。
「おはようございます、叶星さん!お久しぶりです!」
「ごきげんよう、紬さん。こちらこそお久しぶりです。」
紬と叶星は共に一礼を交わし、後方の伽奈芽達も紬に続いて叶星に頭を下げる。その後、叶星に会議室へと案内をしてもらい、遂に国上の五人はグラン・エプレのメンバーと初めて対面した。
「ごきげんよう、国上の皆様。グラン・エプレの宮川 高嶺です。」
まず最初に自己紹介をしたのは宮川 高嶺だった。高嶺は神庭女子藝術高校造園学科の三年生であり、叶星の幼馴染である。そのクールかつ妖艶な佇まいは多くの少女を虜にしている。
「こ、国上の皆様初めまして…。土岐 紅巴です、よろしくお願いします!はっ!松山 伽奈芽さんと櫻田 希さん…。数あるリリィのカップリングの中でも特に有名なお二人…!!すみません早速メモしてきます!!!」
「ちょっと紅巴!お客様のいる前でやめなさい!」
自己紹介を始めている内に急に暴走を始めた紅巴を桃色の髪色の少女が制止する。伽奈芽と希を見て興奮する紅巴の様子を見た凛音は何故か不機嫌を表情に出した。
「えー、失礼したわね。あたしは定盛 姫歌。世界一可愛いリリィよ!」
紅巴の暴走を止めた後に自己紹介を始めた姫歌だったが、世界一可愛いリリィという単語を聞いた際に急に辺りが静まり返った。それに不服を感じた姫歌は伽奈芽達に一言物申す。
「ちょっと!何か言いなさいよ!」
「いや、カナさんが『あたしは世界一最強のリリィだ!』って言ってるのと同じものを感じただけだ。」
「は!?」
同族嫌悪なのか、伽奈芽は凛音の言葉に対して嫌がる素振りを見せる。それを見た姫歌はジト目で伽奈芽を睨みつけた。自信家な一面のある姫歌だが、グラン・エプレのサブリーダーでもある。
「最後はぼくだね!ぼくは丹羽 灯莉。よろしくね〜!」
最後に制服の上からパーカーを着た少女、灯莉が自己紹介をした。どことなく紬と似通った雰囲気を持った灯莉を見て伽奈芽達は不思議な感情を抱いた。彼女にはどこか、共通点のようなものがあると。
「改めて、国上日本支部局長の大里 紬です。左から順に二条 凛音、櫻田 希、松山 伽奈芽、相馬 陽向です。」
国上の代表として紬が自己紹介をし始めた。すると、暴走が治ったはずの紅巴が再び暴走を始めた。
「あ、あの!
「あー、えーと…。」
「だから困ってるからやめなさいって言ってるでしょ!!」
再び暴走した紅巴を姫歌が母親の如く制止した。しかし紅巴の瞳は先程とは違い、スリマの戦いについて何かを知ろうとしている、知的探究心を宿した瞳であった。
「ねーねー、スリマの戦いって何?」
「言われてみればあたしもよくわからないわね。」
灯莉と姫歌はスリマの戦いという言葉が何の事なのかわからず、疑問視する。それに答えたのは当事者である紬本人ではなく、高嶺であった。
「スリマというのは、紬さんが使用しているCHARMの名前よ。そしてスリマの戦いというのは紬さんを語る上で欠かせない伝説と言っても過言ではないほどの有り得ない実話よ。」
高嶺はそう言いながらソファに腰をかける。そして灯莉達にゆっくりとその話を語った。
スリマの戦いは二年前、即ち紬が高校一年生だった頃の出来事である。
二年前、突如として富士市にヒュージの大群が出撃した。その群れを率いていたのは世界七大アルトラ級ヒュージの一角であるファーヴニルだった。ファーヴニルを除けばヒュージの数はおよそ数千体。これはファーヴニルが富士市に面する海の底にヒュージネストを作った事が原因であった。
その時戦ったのは外征で富士市に来ていたリリィ達や地元のリリィ達である。彼女達は結託し、多くのヒュージの討伐に成功したが裏で控え、侵攻を開始してきたギガント級ヒュージの群れによって全滅した。その数は百八十七体。
誰も富士市を守る者がいなくなり、もはや人類は滅亡するのかと思われたその時、一人のリリィが現れた。ヒュージの大群が現れたという報せを聞いてやって来た紬である。その時の紬の服装は制服ではなく作業着だった。肩にはCHARMのケースをかけており、左手には弁当の入った袋を持っていた。
紬の心の中にあったのは仲間を殺された復讐心でも、自分が富士市を守ってみせるという使命感でもなかった。彼女はただピクニックに行く気分で戦場に現れたのである。
たった一人のリリィ如きに負けるわけがない。そう高を括っていたヒュージ達は紬を襲った。しかし彼女のCHARMの一振り、たった一振りでギガント級ヒュージの半数以上は殺された。そして紬は恐怖心から逃げ惑うギガント級ヒュージを全て殺害した。
大里 紬。たった一人でギガント級ヒュージをものの三分で殲滅。そんな彼女に畏怖の念を植え付けられたファーヴニルはヒュージネストごと富士市から撤退した。
その後、紬は死体処理班と救急車を呼び出し、彼らと共に怪我人の介抱や死体の処理を行った。
「全然面白くなかった。むしろつまらなかった。」
ギガント級ヒュージを撃破した紬は後にこう語っている。そしてこの伝説と言っても過言ではない出来事は紬のCHARMの名前が由来で“スリマの戦い”と呼ばれる事となった。
この事件の後、紬が紫電一閃流の当主、大里 宗二の娘である事が発覚し、この出来事から“鬼の大里”という異名が彼女につけられた。
「な、何よそれ…!?」
スリマの戦いの全容を聞いた姫歌は驚愕し、開いた口を塞げなかった。自身の眼前にいる紬は温和な雰囲気を漂わせ、それでいて陽気だったためである。それぞれを別物として考えるのであればまだしも、今目の前にある現実と高嶺から聞かされた話を照合させると俄には信じ難い事実であった。
「すっごーい!でもそんな人を呼ぶって事は今日は大きな任務を遂行するんだよね?」
灯莉は驚いていたが、姫歌とは違い信じているようだった。そしてそんな灯莉の質問に答えたのは叶星だった。
「うん。今日は特別指定上級ヒュージのいる潜伏先がわかったからそこを殲滅するよ。」
特別指定上級ヒュージの潜伏先を特定した。これはかなりの功績であった。特別指定上級ヒュージは通常のヒュージとは違い、ヒュージネストを作らない。また、どのような場所に会しているかも不明であり、発見は困難だった。
しかしグラン・エプレはそれを見事発見した。そしてその在処を国上と共に駆逐するというのが今回の任務の内容であった。
「それは凄いけど晴海の事はどうすんの?あいつは出動禁止命令が…。」
「伊坂さんの事なら心配ありません。代わりに私が戦場に行きますわ。伊坂さんよりは心許ないかもしれませんが、それでも剣の腕には自信があるので。」
希は自身のCHARMが入ったケースを見てそう語る。普段は司令塔として国上の頭脳を担っている希が戦場に出るという事は珍しい事であった。希が出るという事は国上も全勢力を持って出撃する事を意味していた。
「何があってもあたしが守るから安心しろ、希。」
「松山さん…。」
するとそんな二人の雰囲気に嫌気がさしたのか、凛音は一人部屋を去って行った。グラン・エプレの五人は心配そうに見ていたが、国上の四人は心配していなかった。
「まぁまぁお気になさらず。いずれ戻ってきますよ。今回はG.E.H.E.N.A.も関与しないわけですし、凛音も協力してくれます。」
紬がそう言い、作戦決行の時刻まで残り十分となった。その後、凛音も戻り現時点での作戦に誤算は生じなかった。
そして十分後、遂に一同は特別指定上級ヒュージのアジトに到着した。
「…変だ。」
「カナさん、どうしたんですか?」
異変を感じ取った伽奈芽に紅巴が声をかける。辺りは明らかに静寂に包まれており、アジトと思しき廃墟からは殺気の一つも感じられない。伽奈芽はそれを疑問に思っていたのだ。
「特別指定上級ヒュージどもの住処にしては静かすぎる。一体…。」
「カナさん、長話はそこまでだよ。私達はどうやら囲まれてたみたいだね。」
陽向に言われて伽奈芽達が辺りを見渡すと、スモール級やミディアム級、さらにはラージ級などあらゆる種類のヒュージの群れが彼女達を囲んでいた。その中には特別指定上級ヒュージが一体いた。
「チッ、嵌められたのはこっちか…!」
「道理であんなにわかりやすく発見できたと思ったら…!」
凛音と高嶺はCHARMを持ち、既に臨戦態勢に入っていた。それに続き、伽奈芽達もCHARMを取り出す。すると希は紬のある変化に気づいた。
「お姉様、そのCHARMは…。グングニル・カービンですか?」
「そっ!百由さんに頼んで作ってもらったんだー!もちろん私好みにカスタマイズしてあるから普通のヒュージだったら一撃で倒せるよ!」
スリマではなくグングニル・カービンを使用する事に紅巴は少々物足りなさを感じていたが、そんな思いに浸っている暇もなく戦闘が開始された。
ヒュージとリリィの混戦により辺りは銃声や地面が破壊される音、マギがぶつかり合う音などそれまで平和という静寂に包まれていた場所は一気に戦場と化した。
「赤炎一撃拳初弾・
陽向はミディアム級ヒュージに対して“赤炎一撃拳初弾・饕餮”を繰り出す。饕餮はマギを纏った拳でヒュージの身体を貫く技であり、それを喰らったヒュージは青い血を噴き出し、絶命した。
「紫電一閃流初斬・昇り龍!」
一方、紬はラージ級ヒュージを相手にしていた。相手の攻撃を受け流し、それを活かして上方に斬り上げる技、“紫電一閃流初斬・昇り龍”を喰らったラージ級ヒュージは致命傷を負い、立ち上がる事なく地面に落ちた。
「いいねー、これ!マギの燃費も良いし、何より使いやすいし!」
ヒュージを相手にしながら百由から受け取ったグングニル・カービンの性能を試していた紬はその使い勝手の良さに感動する。
一方、残りの八人もヒュージと力の限り戦っていた。すると痺れを切らしたかのように特別指定上級ヒュージが動き出し、リリィ達に攻撃を仕掛けた。
「ぐっ…!やっぱり今までのとは段違いのマギだ…!」
「テヌルウパユシアメユツハク。」
特別指定上級ヒュージによって放たれたマギの斬撃は単純だが強力なものだった。自分達の眼前にいる化け物をどうにかしない限り、他のヒュージも対処し切る事ができない。そんな時、紬が肩に背負っていたCHARMを取り出し、特別指定上級ヒュージと対峙した。
「私がやるよ!カナさん達はヒュージを頼む。」
「ラジャー!」
伽奈芽達に指示を出した紬は“スリマ”をその場にいた者全員に見せた。長さは自身の身長の二倍近くはあり、太さも通常のCHARMのそれとは違う。銃の形態に変えようものならそれはもはや大砲と言っても過言ではなかった。
「あれがスリマ…!」
「私も初めて見たけど、あんな大きいのを振り回したらスピードが殺されるんじゃ…!」
巨大な体積を誇るスリマを見て姫歌と叶星は驚きを隠せないでいた。紬はそんなスリマを片手で持っており、相当な腕力を持っているという事が一目瞭然であった。
「相手になるよ、タコさん。」
「シアユユツセミシソ、クラケネ・シルヴィスプ!」
クラーケンの性質を持った特別指定上級ヒュージ、クラケネはそう名乗ると紬との戦闘を開始した。それに合わせるかのように伽奈芽達は通常のヒュージとの戦闘を再開した。
「はぁっ…!中々減りませんね…!」
「確かに、これでは埒が開きませんわ…。」
次から次へと出没するヒュージを相手にし続け、紅巴と希のマギは尽きようとしていた。そして残りのマギが少ない事は陽向以外は全員同様であった。いくらエリートの国上と言えども、多数の敵を相手にすれば消耗するマギの量も増加する。
「さーて、早速だけどもう決めるよ。」
クラケネと戦っていた紬は腰を深く落とし、前に重心を傾けた。倒れそうになったが倒れず、そのままの姿勢で止まっている。敵が隙を見せた事に喜んだクラケネは紬に襲い掛かろうとする。
「危ない!!!みんな伏せろ!!!」
何かを察した伽奈芽は希を押し倒す。それに続き、他のリリィ達もヒュージとの戦いを中断し、地面に伏せる。そして遂に紬の渾身の一撃が放たれた。
「紫電一閃流中斬・亜斗霧斬り!!」
確実に自身よりも重量のあるスリマを紬は軽々と振り、クラケネに斬撃を浴びせた。その斬撃は絶大な威力を誇り、クラケネだけでなくクラケネの後方にあった廃墟ごと切断した。
紬がスリマを振った瞬間に辺りに爆風が発生し、伽奈芽達は近くのものにしがみつく。爆風が治まり、伽奈芽達は全てが終わった事に気がついた。自分達が先程まで戦っていたヒュージも紬の一撃で絶命しており、死後痙攣も起きなかった。
「危ないじゃないすかお姉様!!!危うく死ぬところでしたよ!!!」
「紬さん、もう少し振り切りってものを考えてほしいです。」
「あー、ごめんごめん。久々の実戦だからつい張り切っちゃって…。」
伽奈芽と叶星は分け目も振らずに攻撃した紬に対して不満をぶつけた。先程まで戦場だった辺りの岩や廃墟などは全て紬の技で切断されており、見る影も無かった。
「すごい…。これが国上日本支部局長の実力……。」
紬の実力を目の当たりにした紅巴は驚きながらも目を輝かせていた。自分達が苦戦していた特別指定上級ヒュージを紬がたった一撃で倒した。その事実を目の当たりにできた事に彼女は感動していたのだ。
「しっかしまぁ、ここまで派手にやってくれたお姉様を見るのは久々だな。確実に二年前より腕が上がってる。」
「あはは、伊達に鍛えてるわけじゃないからね。」
凛音と会話をしながら紬はスリマとグングニル・カービンをケースに戻し、二つのケースを肩にかける。
その後に十人で神庭女子藝術高校でお茶会を開き、今回の国上とグラン・エプレの会合はこれでお開きとなった。
神庭女子藝術高校でのお茶会で伽奈芽は別室で一息休憩をついていた。お茶会は予想以上に盛り上がっていたが、少し疲れを感じた伽奈芽は別室に移動したのだ。
「先程の戦闘でマギを使いすぎたのですか?」
すると、伽奈芽の後に別室に入ってきた希が声をかけてきた。自身の顔色を見て心配したのか、と推測した伽奈芽はこれ以上を悟られないようにいつものように振る舞う。
「いや、ちょっとね。黄昏たくなっただけ。何も用なんて無いよ。」
「そ、そうですか…。」
伽奈芽と希は飲料水の入ったペットボトルを手にし、しばらく沈黙を貫く。外から雀の鳴き声が聞こえ、二人のいる空間に落ち着きを与える。数分後、それまで床の方に視線を向けていた希が顔を上げる。
「あの、松山さん!実は…。私、ずっと前から松山さんの事が好きでした!!今も、昔も!だから…。私とお付き合いをしていただけませんか!!」
希からの衝撃的な告白。それを聞いていたのは伽奈芽だけではなかった。伽奈芽と希、二人のいる部屋に入ろうとしていた陽向もこの事を聞いていたのだった。
「……え?」
さて、今回希が伽奈芽に告白したという事で恋愛要素も盛り込んでいきます。そういうわけなのでタグをいくつか追加しておきます。
アサルトリリィの百合といえば、どこか平和的な部分がある印象を受けました(自分は)。アニメもそうですし、一番は“ふるーつ”がそうだと思います。ですが本作ではシリアスさにより一層拍車をかけていきます。これからますますハードな展開になるとは思いますが是非今後もご覧いただけたら幸いです。