人には人の性転換が存在する、どんな理由であっても、性転換は性転換。性転換に関するストーリーのみの短編集。
街の公園に、ひとりの男がベンチに座っていた。
その男は
剛は今、人を待っている。
中学校卒業の直後、親の転勤を理由に遠くへ引っ越してしまった親友、
小学生と言いわれても疑わないほどの身長の男で、剛以外の人とコミュニケーションを取ることはほとんど無く、剛とふたりで居ることが多かった。
そんなふたりは今日、8年ぶりによく游んでいた公園で待ち合わせをしている。
現在の時刻は10時丁度。
予定の時間にはなったが、優らしい人はまだ来ておらず、土曜日ということもあるのか子供がブランコや砂場で游んでいた。
それから数分後に、黒い髪の女の子が公園に入ってきた。何かを探すようにキョロキョロと公園内を見ていると、その何かを見つけたのか、一直線に走り出す。
女の子が止まったのは剛の目の前だった。
「剛……だよね?」
女の子は不安そうな顔で首をかしげながら、上目遣いで聞いた。
「たしかに俺は剛だけど……」
その瞬間女の子の表情が満面の笑みに変わった。
「やっと会えた!」
当然剛には全く状況がわかっていない様子で、困惑した表情で、女の子を見つめている。
「僕だよ!優だよ!」
「ゆ、優?……もしかして妹?でもあいつに妹も姉も居ないはず……」
「本人だよ!」
「ほ、本人?……優は男だったはず……もしや、女装なのか?」
「違う!……
「手術!?……まさか性転換」
その単語、性転換という単語で剛は固まった、魔法で石化されたように。理解ができなかった、性転換という単語の意味がわからなかった訳ではない。
あまりに急な親友が女になった現実、すぐに飲み込むことはできなかったのだ。
「大丈夫剛?」
隣に座った優が、肩を強く叩くことでやっと魔法が解けた。
「あ、あぁ大丈夫……そうかぁ……試すようで悪いけど、中学生の時のノート覚えてるか?」
「あ〜!あれね!覚えてるよふたりの黒歴史の塊みたいな奴!」
「そう、その通りだけど……ノートの事を知ってるなら本当に優なのか!」
「内容までちゃんと覚えてるよ!たとえば…」
「大丈夫だ!あのことは思い出させないでくれ!」
優がノートの事を話そうとすると、剛は大声でそれを遮る。優にとってはただの昔話で済むのだが、剛にとっては思い出したくない、封印されし禁書なのだ。
「優は8年間で恐ろしいくらい変わったんだな、その身長以外は」
「なっ!……へー、そういう剛はちょっと太ったんじゃない?」
剛のお腹をつまみながらそう言う。
剛が空手を続けていたのは高校生まで、それからほとんど運動をしなくなり、脂肪は確実についていた。
「ふっ、太ってないし!」
「ほんとに〜?ぷにぷにじゃ~ん」
「ぷにぷにじゃないし!」
「ふ〜ん、現実が受け入れられないんだ〜かわいそ〜」
剛は思い出した。優と遊ぶようになってから引っ越して行くまで、奴がいかにクソガキだったのかを。
それは中学生の時、
「また勝っちゃった〜!剛よわ〜い」
「くそ!勝てねぇ!」
「レアなカード揃えても僕には勝てないね、かわいそ〜」
優は何かあるたびに剛を煽る。
たとえば運動会で、
「運動部なのに僕より遅いんだ〜!」
テストでも、
「へぇ〜90点とれたんだ、おめでと〜!僕は満点なんだけどね〜」
ことあるごとに、どんな些細な出来事でも剛を煽る。
姿は変わろうと、優という人間の本質は幼い頃から変わっていないのだ。
「今は優の話が聞きたい。その……話したくないならいいんだが……」
「女になった理由、聞きたいんでしょ?いいよ、教えてあげる。」
先程までとはがらりと雰囲気が変わり、優の表情が曇る。
「実はね……」
優が話し出すまでのほんの一瞬に理由を考えた。思い付いたのは、何かの組織に追われていて性別を変えないといけないほどだった。そんな訳がないだろうと、違う理由を考えようとしたところで、優が話す。
「実は、組織に追われてるんだ」
「……?」
再び剛の時が止まる、当たってしまったのだ、剛の予想は。
深刻な表情のまま、優が話す。
「信じられないだろうけど、本当なんだ」
「……」
久々に会った親友が女になっていただけでなく、組織に追われているというこの現実。短時間に流れ込んでくる情報の量に、剛は言葉が出なかった。
「……追われている理由は聞いてもいいか?」
優は耳元で話す
「詳しくは話せないけど、親が諜報員なんだ」
「諜報員……本当にいるんだ!」
聞き馴染みのない単語ながらも、底知れぬ恐ろしさが感じられる。
剛は優の父親とは面識があり、その体格にはいつも驚かされていた。
「それでね、剛にお願いがあるんだけど…」
「……」
ここでのお願い、危険な香りしかしなかった。
「一緒に暮らそ?」
「……はああぁぁぁぁぁぁあ!?」
これから、優と剛によるドタバタラブストーリーが展開されて行くことを、本人はまだ知らない。