転生したけど記憶なし?!とりあえず生きることだけ考えます。 作:もっち
「いっ…つつ」
起き上がる。俺はまだ死んでなかったらしい。
どうやら穴に溜まった枯葉がクッション代わりになったようだ。
あとは俺の体重が軽かったり、そんなに穴が深くなかったり。
一応登って出れなくはなさそう。
上手く土の壁に手と足を掛けて、よじ登る。
俺を突き飛ばした猪もどきはどっか行ったらしい。穴に落ちた俺を見失うあたりそこまで頭が良くないのだろう。
ぐぅぅ、と腹の虫がなる。
あれだけ動けば鳴って当然だろう。問題は何が食べれて何が食えないのか。
穴から這い出て、周囲を見渡す。
木の上だったり、そこら辺の薮だったり。
どうやら周囲に食べられそうなものは無さそうだ。
「仕方ない、奥に進んでみよう」
あの商人から逃げるために一心不乱に走っていたからどっちがどっちなのかわからん。
本当にこの世界に来てから分からないことだらけだ。
理解出来たことなんてひとつもない。
あ、でも死にかけてるってことは理解してるか。
はっはっはー。
「…虚しいなぁ」
この先一人で生きていくのだ。この程度慣れていかないと。
しばらく真っ直ぐ森の奥へ進んでいると、小ぶりだが、赤い木の実を見つけた。
知っている、リンゴだ。
あの町にも似たものが置いてあったのを覚えてる。
でもあの町にあるものよりも小ぶりで、赤黒い色をしている。
種類が違うのかもしれない。
でもきっと食べれるだろう。
ちょっと木に登れば届きそうなので、えっちらおっちら木に登る。
途中で落ちそうになりながらも、なんとか1個、もぎ取ることが出来た。
「じゃ、一口。んぐんぐ……?!」
すっっっっぱ!!!?!?!
なんだこれすっぺぇ!
あ、でもちょっと甘い。でもすっぱ!!!!!
「うぇぇ…野生だからか…そりゃそうだよな、敵から食われたくないよな」
だけど、食えないほどじゃない。
折角なのでもう何個か貰っていこう。
と言っても、しまう場所が無いので片手で持っていくことになるのだが。
なんかしまう場所があればいいのだが、生憎そんなものを持ち合わせていない。
しかし今食べるのは空腹が襲ってきた時に困る。
「あ、そうだ」
俺は徐に上の服を脱ぎ、袖と襟の部分を固く口を縛る。
これで簡易的な袋の完成だ。
どうせ森の中だ。他人の目を気にする必要も無いだろう。
裾の部分からリンゴ入れて、結び目が解けないか確認する。
重たいものだと怪しいが、小ぶりなリンゴ程度であれば問題なさそう。
「もう2個くらい取って行こうかな」
この先、食べられるものがあるとも限らないし。
俺はまた木に登ってリンゴを2つ取って袋にしまうと、そこから更に奥へと進んで行った。
しばらく歩くと段々暗くなってくる。
夜が来る。この世界に来て初めての夜だ。
だが油断はできない。昼間の猪もどきがいると分かれば、夜には夜の危険な奴が居るはずだ。
正直、今まで栄養足りない、水分足りないな状態の俺がここまで歩いてこれたのは、アドレナリンかなんかだろう。
そのアドレナリンがなんだったのかはよく覚えてないけど、こういう状況によく出るものだったはずだ。
よく見れば足がボロボロだ。爪と爪の間に砂が入って血が出て固まり黒く変色してる。
明日になったらきっと痛い。
「気にしたら痛い気がしてきた」
気にしないでいこう。
兎にも角にも何処かで休みたい。
完全に安全な場所とまでは行かなくても、せめて雨風のしのげる屋根のある場所へ。
だがここは森だ。そう都合よく洞窟なんてあるものだろうか。
最悪夜の間に起きて、昼は寝る夜行性動物みたいな生活を送らなければいけないかもしれない。
と言うよりも、段々腹が痛くなってきた。
「てか、吐きそ…う」
急に目眩がして、その場に踞る。
そして吐いた。
何がダメだったのかって何もかもダメだったのだろう。
落ちてるパンも腐りかけだったし、喉を潤すために泥水を啜った。
井戸の水を飲んだとはいえその前でダメだった。
胃が気持ち悪い。さっき食ったリンゴも腹から出てきてしまっていた。
一通り吐き終えると、俺は袋からリンゴを取りだして齧る。
強い酸味が口の中でいっぱいになる。
「……死んでたまるか」
まだ何もしていない。死にたくない。
俺はまだ生きていたい。
その気持ちだけで歩き続ける。
そうして歩いてしばらくが経った。
あたりは真っ暗でほとんど何も見えない。月明かりが辛うじて俺の歩く道をほんのりと照らしてくれている。
すると、不意に少し開けたところに出た。
そこにはボロボロだが、木製の小屋があった。
奇跡だ。まさかこんなところにこんなものがあるなんて。
本当に幸運だ。
もうそろそろ本当に限界を迎えそうだった俺は、小屋に駆け寄り扉を開ける。
中には椅子と、いくつかの道具があるみたいだったが、この暗闇では何があるのかよく分からなかった。
でもいい、一先ず雨風のしのげる場所であるなら。
俺はもうそこから1歩も歩けそうになかった。
しっかり扉を閉めたことを確認すると、そのまま床に倒れ込む。
そして気を失うように眠りについた。
瞼に光が差し込んでくる。
めちゃくちゃに重い体をなんとか起こし、立ち上がる。
足の裏が死ぬほど痛い。まともに歩こうとすると激痛が走る。
あと背中と腰も痛い。硬い床でそのまま寝たからだ。
今が朝なのか昼なのか分からないが、なんとか今日も生きている。
俺は袋から昨日齧ったままにしてあったリンゴをひと齧り。
強烈な酸味が眠気を吹き飛ばした。
さあ、今日も今日とて生き延びよう。
転生してから2日目だ。
まずはこの小屋の中を調べてみよう。
あるのは机と椅子。ボロボロの錆びた短い刃物、多分元はナイフだったもの。折りたたまれた動物の皮、そして
「なんだこれ」
中に何も入っていないランタンの形をした何か。
何か穴のようなものが空いているが、燃料を入れるようなところはない。全くもって使用用途も使用方法も分からない。
役に立ちそうなものは、錆びたナイフと家具、で問題の動物の皮は何なのだろう。
机の上に広げてみると、何か絵が描いてある。
縦に三角形を2つ並べたマークが大量に書いてある。これは木だろうか?見た目が木っぽい。一部そのマークのない場所に三角形が1個だけ描いてある。
それから波線が引いてあって、2つの波線の間に短い波線がいくつか書いてある。
川?それとも何か別の模様だろうか。
でもどことなく、ここら一帯の地図のようにも見えなくもない。
「一旦地図として、この三角形はなんだ?」
直感だ。直感で考えよう。
地図だとして、そんなに分かりにくく描くだろうか?簡潔でわかりやすく描くだろう。
だとするとこのマークは…
「もしかしてこの小屋か?」
一度小屋の外に出る。
鬱蒼とした森だが、小屋の周囲には木が生えていない。
この皮に書かれている三角形の周囲にもそれらしいものは描いてなかった。
「もしかしたら地図なのかもしれない」
とすると近くに川がある筈だ。
よく耳を澄ましてみる。
すると、遠くから水が流れているような音が微かに聞こえてきた。
幸運すぎる。まさか、川まであるなんて。
俺は痛む足を我慢して水の流れる音のする方向へ向かう。
茂みが邪魔で、たまに引っかかって肌を切るが知ったことでは無い。
ずんずんと進んでいく。
すると、
「あった…あった!あったあったあった!!!」
川だ!川がそこにあった。
陽光が反射してキラキラと光る川がそこにあった。
そこまで深くないが、少し流れが早い。
流されないように川に入っていくと、水の冷たさが肌を刺す。
めちゃくちゃ痛い。
痛いけど、それよりも、さらに発見があった。
魚が居るのだ。
食べ物だ。
「魚が捕れれば、しばらくここで暮らしていける!」
しかしどうしたものか。手で掴もうにも魚に逃げられる。
水に手をつけて掴もうとしても、するりと手から離れて言ってしまう。
釣り、という知識があったが、それをするための竿がないし、竿を作ることも出来ない。
…今の所はどうにか出来そうに無さそうだ。
「でも、ここの川の水は飲めそうなくらいに綺麗だから、飲水は確保できるんじゃないか?」
それだけでも収穫だ。
一先ず、あの小屋を拠点にして生きていこう。
魚を捕るのはまた後で考える。
手で水を掬い、口に運ぶ。
美味い。飲んでも大丈夫そうだ。
折角だし体も洗っておこう。
腰布を脱いで、全身で川に浸かる。
冷たいし、傷口に染みる。
流石に痛すぎるので早々に川から出て腰布を履く。
「ここまで来ると食べ物を取れるようになりたい」
安定して取りたいとかじゃない。
その日限りでもいいから食べられるものをなんとか集められるようにはしたい。
そうなるとまず狙いはあの魚だ。
毒がないことを祈るが、捕れないと話にならない。
頭の片隅に置いておこう。
小屋に戻って、食べかけのリンゴを齧る。
このリンゴもあと何日もつのか。
「…食べ物探しにいこう」
念のため錆びたナイフを持っていく。
無いよりマシだ。何かを切れるとは思ってないが、何も無いよりは武器になる。
せめて殴れるくらいの強度であって欲しい。
「昨日小屋を見つけた時は入口が反対側にあったから、今日は入口の方に行ってみようかな」
上着で作った簡易袋とナイフを持って、森の探索を始めよう。
通った木にナイフで傷をつけながら、俺は来た道とは反対方向の森を探索することにした。
「緑色の木の実、きのこ、青い果実。よく分からないぐるぐるした植物はこれ食べていいのか…?」
リンゴに関しては食べないとやばかったし、実際食べられたからよかった。
そして今もお腹に余裕はないが、1日目の時よりは余裕があるのでそこら辺で採った食べ物に危機感を覚えてしまう。
いやどっちにしろ食べない事には死んでしまうから食べられるのであれば食べたい。
「…きのこはやめとこ」
素人知識で食べていいものでは無いだろう。多分。
そうなるとあとは緑色のベリーっぽい何かとよく分からない青い果実。
楕円型で、ヘタがついてる。
青い木の実も正直食べる気が失せてる。
しかし現状動物を捕れてないので食糧不足。出来るだけ食べれるものは増やしたい。
一応これが生ってる木に印を付けてきたから取りに行こうとすればまた取りに行けるのだ。これで食べられそうなら定期的に取りに行きたい。
躊躇っていても始まらない。そう思い俺はその青い果実に齧り付く。
「…味がしない」
美味くもないが不味くもない。
すごいしゃりしゃりする。あと果汁がすごい。
躊躇っていた割には拍子抜けで、危惧していたよりは普通に食べても大丈夫そうな味。
体の異常もないし、少なくとも即効性の毒は無さそうだ。
なら定期的に取りに行こう。腹に入るものであれば現状なんでもいい。
緑色の木の実はあまりにも小粒すぎるので、青い果実が食べられそうならやめておこうかと思っていたが、まあちょっと食べてみよう。
「………?!?!かっっら!!!!」
からい!からい!からい!
めちゃくちゃ辛い!舌がヒリヒリする。
青い果実に齧り付く。味がしないが水分はあったので幾らか辛さが和らがないかと思って噛んだ。
「…あれ?」
みるみる辛さが引いていく。
すごい、この青い果実そんなことが出来るのか。
これは何かの役に立ちそうだ。
もう何個か取りに行こう。
俺は来た道を戻り、青い果実の生っている木から5つ取って小屋に戻る。
幸いにも道中獣に襲われること無く帰れたので、昨日とは違ってかなり運がいい。
この幸運がずっと続いてくれれば尚いい。
なんてお気楽に考えてしまうくらいには今日の俺はツイていた。
小屋に戻った頃にはもう日が暮れ始め、森に暗闇が降りようとしていた。
俺は扉を閉める前に、袋に入れてた齧りかけのリンゴを芯まで食べ切った。
それを外に捨てて、小屋の扉を閉める。
窓も閉じて、小屋の中は完全に真っ暗になる。
俺はまた床に横になり、蹲るようにして目を閉じた。
また明日には動けるように、いくらでも眠って体力を回復しておきたい。
明日は、川の魚を捕りたいな。
どうやったら捕れるだろうか。
あとは動物も捕りたい。
上手く捕れるといいんだけど、罠とかいるのかな。
そんな風に思考をめぐらせているとだんだん瞼が重くなってくる。
俺はこうして今日も、泥のように眠るのであった。
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