転生したけど記憶なし?!とりあえず生きることだけ考えます。 作:もっち
気がつけば3日目の朝だ。
なんだかんだ生きているのは本当に運がいいから。
この調子で肉も取れるようになりたい。
まあそんなにすぐ取れるものじゃないだろうから後から考える。
今はまず、魚だ。
ぼんやり考えたがそこら辺の木を折って、槍みたいにするのはどうだろうか。
細いと抵抗が少なく、素早く魚に突き刺せられないだろうか。
物は試しだ、やってみよう。
小屋から出て、そこら中に沢山ある木から登らなくても折れそうな枝を選んで折る。
錆びたナイフで少し削って完成だ。
錆びてても多少削る位はできる。めちゃくちゃ切れ味悪いけど。
そうこうして出来上がったのは、枝で作った小さい槍。
一先ずこれで試してみよう。
「ま、無理だよな」
今日も川にやってきた。そして即席の槍で刺そうとする。
結果としては、案の定無理だった。
まず魚の背中から刺さないといけないので刺せる箇所が極端に狭い。
あと水面に槍が当たった時点で魚にバレて逃げられる。
無駄骨であった。
となると欲しいのは釣り竿。
竿、糸、針、餌の4つを集めるべきだ。
竿はそこら辺にある木や落ちてる枝を使うとして、糸と針、餌はどうしよう。
「糸は植物の蔓とか?あったかな…」
針は動物の骨とかだろうか。というか落ちてるものなのだろうか。
落ちてたら落ちてたで危なそうな気がする。
俺自身で動物を狩れたらいいのだけど…
自分が動物と戦えるのか、そう思って今の姿を改めて確認する。
相も変わらずガリガリの体。ボロボロの手足。
うーん、どう頑張っても無理そう。
そういえば、俺は何故魚を取ろうとしていたのだろう。
簡単な話だ。肉を食べるのと同じものを魚から摂取出来るから。
タンパク質だったか、転生前の知識である。
今のガリガリな体を作っているのはタンパク質が不足しているからだと俺は考えている。
確かそんな働きの栄養素だったと思う。多分。
記憶を失っているから確証はないけど。
そしてよく考えてみれば魚や肉以外にもタンパク質の取れるものがあった。
それで代用できないだろうか?
なんだっけ…
「…大豆?」
とか何とかだった気がする。
…この世界にあるとは限らないだろう。
うだうだ考えてないで、大人しく動物を狩りに行った方がいいかもしれない。
そうやって考えている間にも自分の体調は悪くなっていくのだから。
大丈夫だ、いくらガリガリとはいえ木に登れるくらいは体力があるんだ。
何とかなるはずだ。
川の水をひと掬いして喉を潤す。
一度小屋に戻り、荷物を確認してから狩りに行こう。
そうして俺はいよいよ狩りに出かけることを決意した。
持ち物はそろそろ悪くなってきたリンゴ、錆びたナイフ、即席の小さな槍、それから道中青い果実の成る木からもいだ実、あとめちゃくちゃ辛かった実。
今持てる最高の装備である。
リンゴと青い実は食用、辛い実はなにかの役に立たないかと思って取ってきた。
青い実の近くに生えてるので、そこまでの寄り道じゃない。
あと上着で作った袋は今回裾側をむすんで襟側を物を入れる口にしてる。袖は腰紐替わりだ。
今回は以前探索を行った場所からさらに奥の場所に来ている。
結構歩いたつもりだが、もしかしたらそうでもないかもしれない。
自分がかなり小柄なのは、町に居た時にわかっている。歩幅が小さいからそこまではなれていないのかもしれない。
かもしれないばかりである。
仕方ない、何もわからないから。
獲物を探してしばらく歩くと、一頭の鹿を見つけた。
遠目から見ると大分小さい。子鹿だろうか?
できればあれを獲物としたいが、落ち着いて辺りを見渡す。
一瞬の油断が命取りである。ただでさえこの世界に来てから、ずっと体のだるさだとか手足の痛みだとかで体調が万全でないのだ。
その上筋力もそこまで育ってない。子鹿とは言え、舐めてかかれば蹴りや突進で命を散らすことも十分に考えられる。
周囲に親鹿だったり、思わぬ伏兵がいないことをしっかり確認し、俺はそっと子鹿に近づいていく。
槍とナイフを構えながら近づくと、鹿の見た目が良く見えてくる。
緑色の長い毛に覆われ、頭にちょこんと小さく角のようなものが生えている。
俺の記憶している鹿の特徴とは離れていたが、概ね鹿のように見えた。
少しづつ、少しづつ近づいていく。
そして鹿がこちらに気づくと同時に、
「…シッ!!!」
鹿の首に槍を突き刺す。
刺さったのはいいが、浅い。俺は確実に殺すために槍を深く押し込もうとする。
勿論、鹿も抵抗する。
鹿は俺を振り払おうと首をぶんぶん振ったり、体を大きく揺らして振り回す。
思わず槍から手を放しそうになるが、負けじと気合で耐える。
おまけにともう片方の手で握っていたナイフを鹿の目に向かって突き刺した。
また鹿が激しく暴れる。
視界がぐるぐると回って、自分の立っている位置が分からなくなる。
というか自分が立っているのかすらわからなくなる。
それでも槍とナイフから手を離さない。
絶対に、俺は生きる。
その為にも俺はこの手を離せない、離さない。
どれくらいそうしていただろうか、槍から垂れてくる生暖かいものと、痺れてくる自分の腕を堪え、必死に食らいつく。
鹿が段々大人しくなって、最後にはそこに倒れこむ。
息絶え絶えになりながら俺は最後の一押しにナイフを押し込んだ。
「っ…はぁ、はぁ、はぁ」
立ち上がり、息を整えながら動かなくなった鹿を見下ろす。
この世界で、初めて命を奪った。
熱が失われていく肉。何も思わない訳じゃない。
でも自分が生きるためには仕方ない。
「お前の骨も肉もしっかり使ってやる」
もう聞こえるはずもないが、そう言って解体し始める。
解体と言っても結局は素人。切れ味最悪のナイフを使いながら、無理矢理皮を剥いだり肉を切ったり。
お陰で切り口はぐちゃぐちゃ。剥いだ皮も使い物にならないだろう。
で、問題の肉だが勿論こっちもぐちゃぐちゃだ。
でも食べれない訳じゃない。
本当は焼くのがいいのだろうけど、今の俺には火を起こす手段がない。
一か八かで生で食う。
剥ぎ取った肉を両手で持って口に含む。
血生臭い、獣の匂いもする。
思わず吐きそうになるがぐっとこらえて飲み込んだ。
そしてまた肉を剥いで食べる。
少しでも多く、少しでも早く食べなくては。
子鹿とは言え俺よりも大きく、今の俺の力では間違いなく小屋まで持っていけない。
固くなって、食べられなくなってしまう前に。
何度も何度も吐きそうになった。
体がもう食べられないと拒否し始めるが、それでもやめない。
無理矢理体に突っ込んでいく。
またいつ肉を食べられるかわからない。
食べろ、食べろ、食べて生き残るんだ。
夢中になって食べ続け、どれだけ頑張ってももう食えないって状態になったくらいに、周りの異変に気付いた。
時折、明らかに風じゃない音が聞こえる。
数はそんなに多くないけど、明らかに何かいる足音がする。
ナイフを構えて周囲を窺う。
近付いてきてる。
もうそこまで来てる。
何だ?
何が来てる?
「Gyaaaaaaaaaaa!!!!」
飛び出してきたのは緑色の肌をした二足の化け物。
こちらに向かって襲い掛かる。
俺はそこから飛びのいて躱す。
さっき食った鹿肉を吐き出しそうになるがぐっとこらえて化け物に目を凝らす。
体長は俺と同じくらいかそれ以下。腹がぷっくら飛び出ていて、牙が飛び出てる。そのせいか口から涎が絶え間なく零れ落ちていた。
足よりも腕が長く爪も長い。あの爪に当たればひとたまりもないと直感した。
その容姿を見た時真っ先に思い浮かんだ単語は、『ゴブリン』。
奴はそんな名前の生き物だったはずだ。少なくとも、俺が転生する前の世界ではこういう化け物はそう呼ばれていた気がする。
ゴブリンはこちらを見て、威嚇するかのように唸り声を上げる。
奴はどうやら俺の鹿を横取りするつもりらしい。
そうはいくかとなればよかったが、こちらは鹿狩りで消耗済み。しかも鹿肉が口から零れそうときた。
鹿を譲って見逃してもらえるのであれば早々に立ち去りたいところである。
ナイフを構え、ゴブリンから目を逸らさないように一歩ずつ後ろに下がっていく。
このまま見逃してくれと、念じながら後退する。
しかし、ゴブリンがそんな俺の願いを聞き届けてくれるはずもなく。
汚く口角を吊り上げて、こちらに向かって走ってきた。
俺が自分よりも弱いと思って、鹿と一緒に捕まえようという算段だろう。
俺は一心不乱に駆け出した。
ゴブリンの足は短く、すぐに振り切れると思っていたが甘かった。
奴は想像以上に素早く、なかなか振り切れないでいた。
このままではいずれ追いつかれる。
何か、他に持ってきているもの…
「あ!!!」
俺は袋に手を突っ込み、緑の実を取り出す。
急いで取ろうとしたから手に残ってるのは3粒だけだった。
一度走るのをやめ、走ってくるゴブリンの方を向く。
まだ遠い。
遠い。
遠い。
今!
ゴブリンが十分近づいてきた所で、奴の目に向かって実を投げつける。
どうやら1個だけだが上手く奴の目に入ったらしい。
ゴブリンは片目を抑えてうずくまる。
逃げるなら今だと俺は脇目も振らずに逃げ出した。
一刻も早く、小屋へ。
速く!
そうして逃げ続けしばらくたった。
俺の息は上がって、上手く呼吸できずに汗もダラダラ。
それでも何とか小屋に生還することが出来た。
安心感からかその場に倒れこみそうになる。
だけど、まだ耐える。
鹿の返り血塗れだし、荷物を小屋に置きたい。
それにここで寝たらゴブリンが俺を殺しにくるかもしれない。
今回の件でわかった。この森にはゴブリンがいる。
しかも、俺にとってはかなりつらい相手だ。
ゴブリンがアレだけならいいがそんな事はないだろう。
多分ほかにも居るはずだ。
「川に行って…血を洗わなきゃ」
頑張れ俺。まだぶっ倒れるには早いぞ。
生きる為に今踏ん張れ。
大丈夫、この森に来るまでにもこういう事はあっただろう。それをもう一度やるだけだ。
軋む身体を引き摺って川につく。
袋を近くに置いて川の水を浴びる。
太ももや腹、肩や顔、腕に付いた鹿の血痕を水で擦って洗い流していく。
鹿に振り回されたり、それにしがみついたり、ゴブリンに追いかけられたりして筋肉痛がすごい。
今筋肉痛が来てるってことは体が若い証拠だと転生前の知識にあるが本当だろうか?
きっとこの知識は要らない寄りの知識な気がする。
粗方取れただろうか。
一度筋肉痛を自覚してしまうともう止まらない。
全身がめちゃくちゃ痛い。辛い。
「…ぐぁ……う……あ…そういえば」
思い出す青い実。
前に辛い緑の実を食べた時に一緒に食べたら辛さが和らいだ。
辛さは痛みだったはず。
それなら、この筋肉痛も和らげてくれないだろうか。
正直もう鹿肉食べまくったからお腹いっぱいである。
だけど流石に痛みがつらすぎたので、袋から青い実を取り出してひと齧り。
すると狙い通り少しだけ体の痛みが引いた。
恐らくこの青い実は痛みを鈍くさせる効果がある。
治してる訳ではないと思う。何かが治っているという実感がないからであるけど。
それにそう考えておいた方が青い実に依存しなくて済む。
怪我を食べるだけで治せてしまうならきっと俺は無茶をして死にに行くだろう。
過小評価しすぎるのも良くないが、大胆になりすぎるのも良くない。
ただでさえこの数日上手くいってて調子に乗りかけてる所がある気がするのだ。
これ以上慢心しちゃいけない。
自分は今明日生きれるかどうかさえも怪しいってことを再認識しろ。
今日ゴブリンから逃げられたのもたまたまだ。
この小屋を見つけたのだって、痛み止めの青い実を見つけたのだって、今こうして生きているのだって偶然だ。
明日死ぬかもしれないから生きたい。
忘れちゃいけない。
俺はこの世界で、1つも安全を手にしちゃいない。
安全とは程遠いこの場所で、俺は明日も生きていかなきゃならないんだ。
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