転生したけど記憶なし?!とりあえず生きることだけ考えます。 作:もっち
目が覚める。
起き上がる。
そして今日も生きてる事を確認する。
この森に来て5日目。
4日目は筋肉痛が酷すぎてろくに動けなかった。
でも鹿肉をたらふく食ったお陰か、青い実を食べたからか、はたまたその両方か。
俺の体は、前よりも少しだけ肉が付いていた。
本当に少しだけ。
以前と何が違うのかと言われると殆ど変わってないと思う。
でも指がほんの少しだけ太くなっている気がしないでもない。
……ここまで言っておいてあれだが気の所為ということにしよう。
取り敢えず、昨日よりは酷くない筋肉痛を抱え、今日も今日とて川へ向かう。
俺の一日は川に始まり川に終わる。
さぁ、今日も狩りに行こう。
「…ふぅ、死んだか」
この前と同じように鹿を殺す。
1回やれば2回目はもう躊躇いなく殺れる。いわゆる慣れだ。
周囲に気を配りながら鹿肉を生でもちゃもちゃ食べる。
この間はゴブリンが来た。1度来たという事はまた来てもおかしくないという事。
以前より疲れてはいないが、それでも3日目の疲労がまだ体に残っている気がする。出来るだけ会いたくない。
さて、今回は肉だけじゃなく、もっと欲しいものがある。
それは骨だ。
軽くてそれなりに丈夫な骨は、様々な道具を作る材料になる。
基本的には武器だ。
今鹿を殺すために使っている錆びたナイフもいつか壊れる。その時にナイフの代わりになるものが欲しいのだ。
いざとなったらゴブリンと戦うかもしれないし。
鹿の肋骨をゴリゴリとナイフで削って折る。
鹿の血と肉に塗れてるが、まあ川で洗えばマシになるだろう。
そして4日目に気付いたのだが、あの青い実。
どうやら
4日目は筋肉痛でほぼ動けず、予め取っておいた青い実を少しずつ齧りながら食いつないでいた。
その時に見たのだ。足にある細かい切り傷が、みるみる塞がっていくのを。
辛味を抑えるとか、痛みを鈍らせるとかではなく、傷そのものを塞いでいたのだ。
切れた筋肉の繊維を自然治癒力を高めて無理矢理繋ぎ、切り傷すらも塞ぐ。
毎日命が危うい俺にとっては、願ったり叶ったりの代物だ。
ただ思うのがこれはきっと傷を塞ぐだけなんだ。
無い腕を生やしたり、死体を蘇らせたりは出来ない。
辛味が引いたとはいえそれでも少しヒリヒリしてたし、筋肉痛も和らいだが決して痛まなくなった訳ではなかった。
あくまでも少しだけ回復する程度。それでもありがたいが過信は良くない。
結局痛いものは痛いし、苦しいものは苦しい。
怪我も病気も、負わずならないのが1番だ。
「…そろそろ戻るか」
ある程度鹿の肉を食べ、骨も採取して立ち上がる。
相変わらず血塗れだ。川に行って体を洗ってから小屋に戻ろう。
そうして、一日が過ぎていった。
しばらくそうやって暮らした。
木の実を食べ、小動物や鹿を探して食べ、川の水を飲んだ。
たまにゴブリンに追いかけ回されるが何とか生き延び、一日の生活に慣れ始めた。
この小屋に来て大体20日が経った。
20日も経てば、色々変わってくる。
まず、体が大分太くなった。
こう言うと太ったように思われるが、筋肉がついてきたという事だ。
ゴブリンに追いかけられたり、鹿を狩ったりとかなりハードな運動に、鹿の肉を食ってしっかり栄養を取って居たからだろう。
骨ばっていた指も少し太くなり、ふくらはぎや二の腕辺りにも筋肉がついてきているのがわかった。
それから骨の道具を作った。
骨のナイフ、骨の短い槍の2つだ。
錆びたナイフで削って作ったがかなりいい。
耐久性は劣るが、切れ味は錆びたナイフで切るよりも切れる。
お陰で狩った鹿の皮を剥げるようになり、今までぐちゃぐちゃの肉を食っていたが、ある程度形を保って切り取ることができるようになった。
そして骨の短槍だが鹿狩用の武器だ。
この武器だけでゴブリンに対峙するのは少し厳しい。
近距離戦闘は奴らの間合いだ。あの爪に引っかかれて変な感染症にでもなったら困る。
現在も彼らとは戦闘していない。
いつか戦う日が来るかもしれないけど。
あと、鹿の皮を剥げるようになったから布団を作った。
と言ってもただ皮を剥いで洗って乾かして、毛の部分を下にして体に掛けてるだけだけど。
それでも冷える夜には暖かかった。
難点があるとすればめちゃめちゃ獣臭い事くらい。
匂いで起きてしまう日も何度かあったが、今では慣れた。
鹿狩りをしているのだ。今更である。
服は相変わらず上裸だ。いい加減寒いが文句も言ってられない。
上着の即席布袋は結構使うのだ。
ところで、最近寒くなってきた。
どうやら転生した時期が悪かったようで、もうすぐ秋か冬が訪れそうなのだ。
秋か冬かわからないし、実際には秋でも冬でもなく、ただ寒い時期、冷涼期とかなのかもしれないがそれらを知る術を俺は持たない。
どうにかして乗り切らなくては。ここまで来たのだ。死んでなんかやるものか。
青い実を採取しながらそう決意する。
今日は狩りをしない日だからこのままあと帰るだけだ。
「さ、かーえろ」
袋に青い実を詰め込んで、その場を後にした。
小屋が、無い。
元々そこにあったはずの小屋が、無くなってる。
いや理由はわかる。
崩れてるのだ。目の前に小屋だったものの残骸がそこに積み上がっていた。
ようやくこの生活に慣れ始めてきたのに、また宿無しになってしまった。
「待て待て、落ち着け。まずは埋もれてるものを回収しないと」
悲しむのはいつだってできる。
今は下敷きになってるであろう毛皮の布団なんかを回収するのが先決だ。
近くに袋を置いて残骸をどかそうとする。
だが、
「ふん…!うぬぬぬぬ!!!!」
持ち上がらない。めちゃくちゃ重たい。たかが子供の腕力では木材は持ち上げることが出来なかった。
となれば毛皮の毛布は断念することになる。
正直とても悔しい。でも現状回収する手段がなかった。
「なんでだ。なんで崩れた!俺が川に行って戻ってきた時はまだ立ってた!経年劣化…?それならもっと前に兆候があっても良かった!」
わからない。なぜ倒れた?なぜ今壊れた?
そうだ、理由があるはずだ。自然現象で壊れたのなら仕方ない。このやりようのない怒りを胸に閉まってまた1から進んでいくしかない。
だが、これが自然ではなく、何者かの仕業によるものなら…
周辺を探る。
壊れた小屋の残骸の周り、元々小屋のあった場所の周辺。
探って、見つけた。
不自然に草が折れている。
足跡だ。
それもひとつじゃない。
この大きさ、この形、見た事がある。
忘れるはずも無い。毎日のようにコイツに会わないよう警戒してるのだ。
「ゴブリン…!」
とうとう奴らが直接俺に危害を加えてくるようになった。
奴らは俺を自分達より弱いものと思っている。
どこかでこっそり後ろを着いてきて俺の居場所を特定したのだろう。
こんなのただの嫌がらせだ。
食べるためでも、生きる為でもない。
ただ娯楽として俺の住んでいた場所は破壊されたのだ。
そう考えると、胸の内からふつふつと激情が湧き上がってくる。
思えば初めて鹿を捕った時だって奴は俺の鹿を横取りした。
今までも散々追いかけ回して、怖い思いをして。
いい加減、堪忍袋の緒が切れた。
「ぶっ殺してやる…!絶対に!」
幸い武器は袋に入ってる。食料も取ってきたばかりで潤沢だ。
殺るなら、今しかない。
俺は袋を担ぎ、ゴブリンの足跡を辿り始める。
生きたいとか、そういう感情はなく、ただ自分の住処を娯楽として破壊された事に対する憤り。
本来、生きる事だけを目的とするならそれは必要のない行為だけど、それでも俺は許せなかった。
だから立ち上がる。
もう、無抵抗な俺じゃない。
足跡を辿る。かなり続いているようだ。
1日で辿り着けるのだろうか分からないが、今はただ進むことだけを考える。
青い実を齧り、水に湿らせた袋を絞って水分を補給する。
足跡は分かってるだけでも5つ。
少なくともここに来たのは5匹のゴブリンである。
5匹同時に相手するのは難しい。だが1匹ずつであれば戦えるだろう。
なら戦闘は1匹ずつ行うべきだ。だが奴らを1匹ずつ釣れるだろうか?
巣か住処があると厳しいかもしれない。
まずはゴブリンたちの寝床を突き止めなくてはならない。
話はそれからだ。ただこのまま考えるだけでは取らぬ狸のなんとやらだ。
…確かそんな使い方だった気がする。相も変わらず記憶はあやふやなままだ。
それにしても長い。こいつら何処まで歩いてきたんだ?
そんな遠くから俺の所まで歩いてくるなんて奴らもどんだけ暇なのだろうか。
なにか理由があるのだろうか?
寝床が移動して俺の小屋に近くなったからとか。
そもそもあいつらは俺の小屋を、俺の事を覚えていられるだけの知能はあるのか。
知能があるから俺の小屋を壊せたのか、知能がないから行き当たりばったりで壊したのか。
「まあ、どうでもいいか」
どうせ殺してしまえば理由なんて意味が無くなる。
理由を知って俺が奴らに何か温情を掛けたりはしない。
絶対に奴らは殺す。
いずれにせよ、この世界に来た時点で殺し合いはしなきゃいけなかった。
それが早いか遅いかだけの違いだ。
そして、それが今であるだけ。
そうやって追っていると、見つけた。
ゴブリンたちの足跡は、崖の下の洞窟まで続いている。
奴らの寝床はあそこらしい。周囲に動物の気配はしない。
中にはゴブリンたちがいるのだろうか。
洞窟からは今かなり離れているから中の様子は確認できない。
少しずつ、物音を立てないように近づいていく。
足元の木を踏んづけたり、物を落としたりしないようにそっと洞窟に向かって忍ぶ。
近づいていくと見えてくる洞窟周辺の状況。
洞窟の入口周辺には、何か文字のような紋様が書かれている。
あれはゴブリンの言語だろうか?そもそもこの世界の言語が分からないからゴブリンの言語も勿論わからない。
…理解する必要も無いだろう。
外に出ているゴブリンは居なさそうだ。監視をしているゴブリンがいるかと思ったが、奴ら思っているよりも不用心らしい。
かと言ってそのまま突っ込んでいくのも、死にに行くようなものだ。
俺は予め折っておいた木の枝を洞窟の入口端っこに狙って投げる。
…かなりの距離があったからか、全くもって届かなかった。
仕方ない、もう一度投げてみよう。
投げる。届かない。
投げる。届かない。
投げる。届かない。
困った、手元の枝が無くなってしまった。
近くの枝を折って使おうにも音が出る。もし洞窟内のゴブリンに聞こえてしまったらすぐに襲われてしまうだろう。
どうしようかと悩んでいると、洞窟の中から誰かが出てくる。
ゴブリンだ。
奴はどうやら俺が何回も投げた木の枝に興味を引かれてやってきたようだ。
幸い奴は1匹だけだ。
俺はそっと後ろに回りながら音を立てないように近づく。
ゴブリンは気づかない。
まだ遠い。近づく。
気づかない。
もうすぐ届く…今、間合いだ。
俺は袋から骨のナイフを取り出して、ゴブリンの背後から首に目掛けてナイフを突き立てる。
ザシュ、と肉を裂く音共に血が吹き出す。
「Gyaaaaaaaaaaaaa!!!!!!」
断末魔が響く。ゴブリンは必死に俺を引き剥がそうと暴れるが。俺はナイフを首に突き刺したまま体当たり。肩で地面に押さえつけながら、空いた左手で暴れるゴブリンの左肘を掴んで抑える。
さらに深くナイフを突き立てるとゴブリンが一瞬ぶるっと震えたと思ったら、動かなくなった。
すぐに立ち上がり、洞窟の方を見る。
すると、洞窟の方から何かが走って来る音がした。
またゴブリン。それも3匹。
どうやらまだ終わりではないらしい。
首から骨ナイフを引き抜いて袋から錆びたナイフを取り出す。
俺の戦いは、まだ始まったばかりだ。
追記:投稿時間ミスりました
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