Unbeständige Träume   作:gh0sttimes

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第二十二話 死んだ者

博麗神社の裏手にある薄暗い森を貫く未舗装の道は、多くの名もない樹木の中の無名の墓へと続いていた。

遠く離れた場所ではまだ幼い妖怪の死体が残っていた。

紅色の巫女は重い足取りでとぼとぼと歩いていく。

自然は長い間使われていなかったこの墓を緑で覆い隠していた。

狭い通路には雑草が生い茂り、根っこが蛇のように地面を這っている。

雑草に混じって生えているイヌワラビは時々、紅色の巫女の脛に当たった。

しばらくして、道なき道を進んできた紅色の巫女は壊れかけた墓の前に立った。

 

<博麗霊樹 ここに眠る>

 

彼女の弟が死んでから20年の時が経ち、彼女は心身ともに立派な大人になったが、ほとんど墓参りが出来なかったのだ。

彼女はゆっくりとその墓に花を置き、手を合わせ、過去に意識を飛ばした。

当時、5歳だった彼女は修行が終われば弟とよく遊んでいた。

そんなある日のことだった。

彼女の弟は妖怪の山にいる友人に会いに行ったきり、帰ってこなかったのだ。

それからしばらくして、妖怪の山の見回り天狗が博麗神社を訪ねてきた。

 

「妖怪山警備隊第一連隊の者です。博麗霊花さんですね?」

「はい。」

「2時間前に貴方の弟と思われる遺体が妖怪山の中腹付近で発見されました。また、同地の警備隊が管理していた監視カメラ映像に妖怪に襲われる貴方の弟の姿が確認されました。」

 

そう伝えられた時、彼女の意識は肉体から離れていた。

気づいた時には、その見回り天狗は黒焦げの状態で倒れていた。

彼女の手には夢想封印を使うために使う陰陽玉が握られていた。

 

しばらくして、現実に意識を戻した彼女の目には涙が流れていた。

彼女はいつまでも過去の囚人である。

心を表に出さない博麗の巫女であっても、この時ばかりは心を表に出していた。

しばらくして、彼女は立ち上がり、ゆっくりとその場をあとにした。

 

紅魔館。

咲夜は眠らずに自室の机に座り、新聞を読んでいた。

5年前に発生した吸血鬼異変を報じた新聞である。

 

幻想郷が混乱する中、現地のジャーナリストによると、人里に吸血鬼の部隊が侵攻を開始し、急速に紛争が拡大しているようだ。

新たに幻想入りした吸血鬼は各地に侵攻を行っており、妖怪の山東部の守備隊は侵攻から3日で壊滅。

西部の守備隊は窮地に立たされている。

それと同様の事態が人里においても発生するのではないかという懸念が広がっている。

5年近く、博麗霊夢は幻想郷の安定を維持してきたが、人里において敗走を繰り返している血まみれの守備隊兵士の心情はというと、カメラに向かって「あの巫女はどこにいるんだ?」と言っているようだった。

 

 


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