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いつ選択を間違えたのかは分からない。
成人して、職についた事で親を安心させて、仕事にも慣れてきていた。社会に出ることに若干の不安があった。自分の知らない世界へと旅立つのは容易なことでは無い。
それでも今の仕事なら頑張れる。厳しいがしっかり指導してくれる先輩も上司もいた。来年には後輩も出来るからより一層仕事に取り組めた。
やる事も多いし責任もついて回ってきた。それでも毎日楽しかったし、自分の出来る事も増えていく達成感があった。
そんな毎日は、突然終わりを迎えた。
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自分自身は自分自身。
その感覚は意識としては解っていても、違和感を拭うことはできなかった。
気が付いたら子供の体。知らない部屋、知らない環境、知らない世界、冷静になればなるほど湧いてくる存在しない記憶。平静を保ててしまう自分に嫌悪してしまう自分。
読んだ事もない名前を発して、行った事もない学校へ通って、会った事もない友人と遊び、両親でもない人間と家族関係を築き、最後は寝る。
自分を表に出せない。今までの自分を自らが否定して、今の自分に合わせなければ生きて行けない。それが耐えられなかった。
今までの人間関係を捨てて、知り合いもしなかった人間と関わり、顔も知らなかった親と呼べる存在と過ごす。
正直に甘えられず、友人ともギクシャクする様になり、日々がストレスだった。
そんなある日の、ある出来事がキッカケだった。
世界初の高耐久ダンボールの開発。
全年齢対象ホビー「LBX」の販売。
日本の研究者「山野淳一郎」の失踪。
ここはダンボール戦機の世界で、俺はその世界の住人。
所謂モブだ。
物語の主人公でも、登場人物でもない。
街中でバトルを仕掛けたり、イベントの為に主人公たちから勝負を挑まれるだけの存在。なんのターニングポイントにもならないし、活躍する事もない。
彼らの冒険に、出来事に、歴史に関わることは無い。
昂った気分は、冷静に考えた途端に冷めていく。
自分はこの世界でモブとして生きて、普通に生活して最後は死ぬ。
だったらせめて自分の趣味で生きて見よう。
時間はかかるが、考えはいくらでも出てくる。時間も困らない程余っている。
好きな事で生きて、静かに死ぬ。それが、この世界での自分の人生だと。
最初は、そう思っていた。
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「悟?」
「え?あ、ごめん。なんでもない」
ボーッとしていたら声を掛けられた。
話掛けられたと言うか、話の途中でぼーっとしてた俺が悪いんだが。
「大丈夫?」
「うん、大丈夫。ちょっと寝ぼけてるだけ」
「ちゃんと、寝た?」
「朝は弱いからね」
彼女は三影ミカ。
青みがかかった黒髪のツインテールと青と黒が基調のフードコートを着こなし、口数が少なく口を開けば割と辛口という、とっつきようがない同級生だ。
ダンボール戦機序盤で現れ、終盤までなんだかんだ主人公達の近くで行動している。ゲームだったらランキングにも登場して、確かそこそこ強かった筈だ。
だが、結局は小学生であり、同学年のクラスメイト。それだけの関係の筈だった。
なのに、ここ最近になって彼女はぐんぐん距離を詰めてくる。
「最近、大丈夫?」
「あー……多分、大丈夫」
三影の問いに、少し間を置いて返答する。
「本当? 大丈夫?」
「うん。心配しなくても元気だよ」
更に問いかけてくる三影に対して笑って誤魔化す。
心配してくれる同期の女子がいる。前の環境だったら死ぬ程嬉しかった。でも今は複雑な気分だ。
親以外に自分のことを気にかけてくれる存在が居てくれるのは、正直嬉しい。嬉しいだけに、分類状モブで有る自分が彼女と共にいても良いのだろうかと卑屈な考えになってしまう。
そんな心境を知ってか知らずか、三影は距離を縮めてくる一方だった。