ただのモブで終わる筈だった。   作:食べる辣油

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#17

 

 

 ややこしい事になった。

 アミが挑発して、巻き添え喰らったバンが仙道にバトルを挑まれて、3体のジョーカーに翻弄されるまでは良かった。

 

 魔術師の術中にハマって、なすがままで一方的に押し込まれているまでは良かった。

 

 そこへエンペラーが乱入して、両者の間を取り持つまでは良かった。

 

「海道…ジン?」

 

 目の前にいる幸薄そうな吊り目の”少女”に、青島カズヤが海道ジンといった事だ。

 

 理解できない。

 服装は年頃の女子が着る様なものを一切羽織っていない。カジュアルメンズの革靴とメンズパンツにシャツとジャケットを着こなす別人。

 髪を一つに纏め、腰周りまで垂れるポニーテールの長髪。

 見た目と服装に面影を感じるがそれ以外は別人。

 

 頭が理解を拒んでいる。

 今からでも硬いものに打ちつけて正常になりたい。

 一体何を見せられてるんだ?

 

「…大丈夫?」

 

 混乱してフラフラしている自分を三影が支える。

 

「多分…」

 

「無理は駄目。ね?」

 

 三影に(さと)される。

 自分の目を見据えている三影の表情は、思った以上に心配げだった。

 そして、その視線はいつも以上に力強かった。

 

 服を掴む手にギュッと力が入る。

 視線の先に立ち塞がって、ここから遠ざけようとする。

 

「…分かった。座ってる」

 

 抵抗する理由もない。

 大人しく近くの筐体の椅子にもたれ掛かる。

 ここまで来ると一種の拒絶反応か、それとも単なるストレスか、ただ混乱して錯乱寸前なだけか。

 

 消えない頭痛に頭を抱えて項垂れていると、三影がそれを覗き込む。

 

「……本当に大丈夫?」

 

「うん。多分、偏頭痛とか…」

 

「嘘」

 

 キッパリ切り捨てられる。

 三影の見る目が変わる。心配という慈悲ではなく、何処か据わっている。

 それの意味するところが何なのかは、いかんせん自分には分からなかった。

 

「悟、何か隠してるでしょ」

 

「そんな事は…」

 

「私に言えない事なの?」

 

 いつもの、少し片言気味じゃない。

 饒舌で、知りたい答え以外を聞いていない事が低い声のトーンで伝わってくる。

 

 だが、言えない。

 どうする? 今目の前にいる少女が実は少年の筈だって言って、それを信じて欲しいなんて言ったら。

 総理暗殺の時も、あの謎の女は居る筈無かった。

 三影と自分は知り合う筈がなかった。本来の三影(お前)は郷田にぞっこんで居る筈だった。小学生の時から親しい筈なかった。

 

 こんな事言ってみろ。

 次の日から住所は精神病棟になる。

 

「今は……言えない」

 

 自分()は本来、いるはずのない人間なんだ。

 三影と一緒にいて、隣を歩いているのはおかしい事なんだ。

 そう言えたなら、この状況を共有できる人間がいたなら、こんなくだらない事で苦労はしてないのかも知れない。

 

 だから、そう答えるしかなかった。

 

「…分かった。今は”そういう事”にする」

 

 三影はそう言う。

 若干の怒りは感じる。だけど、そこにそれ以上の感情は含まれていなかった。

 

「話せる時まで 私は待つ」

 

 そう言ってくれた。

 耳元で、誰かに聞かれない様に。

 

「分かった」

 

 小さな声でそう言う。

 

「…悟、大丈夫?」

 

 こっちに気がついたアミが近づく。

 それに釣られてバンや他の面々がこっちに振り向く。

 

 だが、1人だけ反応が違った奴がいる。

 

「……悟?」

 

 海道ジンと呼ばれる少女、この名前に聞き覚えがあるらしい。

 仙道に向けていた眼差しをこっちに向け、バン達の間を縫って歩み寄ってくる。

 

 もう少しで手前というところで、三影が遮る様に前に出る。

 だが、向こうはお構いなしに話を始める。

 

「君が悟?」

 

「…で、君が海道ジン?」

 

 それ以上の会話は発生しなかった。

 お互いに目を見つめ合い、静かな時間が流れる。少し経てば向こうで勝手に完結したのか海道は視線を外した。

 

「……いや、何でもない」

 

 何か言いそうだったのを堪えて、海道はそのままゲーセンを後にする

 その背中を何も言わずに眺めていた。

 

 

 

 

 

 

 

______________________

 

 

 

 

 

 

 

 

 アングラビシダス当日。

 大会は非公式故に公平なルールはない。

 勝った人間に敗者を貶す権利はない。ただし、負ければそれまで。

 

 治安も民度も悪い。

 ある意味で檜山がトップでいるから成り立っている様な環境だった。

 

 観客席で見知らぬ人間のデスマッチを眺めながめる。

 どっちも自分が勝つために必死になっている。普段のバトルでは考えられない事だらけだ。

 

「……凄い所」

 

「あそこに立って試合するって考えると、ちょっと怖気付くね」

 

 熱心な郷田ファンではない三影がこの場所に入るのは初めてだ。

 勝つためなら手段は選ばない。

 この試合の有様を目の前で見て、改めて実感する。

 

 よく言えば死力を尽くして、悪く言えば意地汚く戦う彼ら彼女らを見る。

 みんな勝利に貪欲だ。

 罵声を浴びせたり挑発したり、それを見て外野がワイワイと叫ぶ。

 

 相手の機体を完膚なきまでに破壊して、それを楽しむ観客達。人は残酷なものが見たいという言葉があったが、あながち間違いじゃないらしい。

 

「なぁ、三影」

 

「なに?」

 

「この前の約束。覚えてる?」

 

 いつか隠し事なしで、全て喋るという約束。

 

 今日、俺は負ける。

 確証はない。だけど優勝する事は叶わない。

 その原因が郷田か仙道か、バンか海道か、それとも三影によってか、そこまでは分からない。確実に優勝からは遠い場所に居る。

 

 結局、才能がある奴に生半可な努力で追いつけるほど夢ぬるい世界じゃない。

 それでどうにかなったら、今頃バンにだって勝ててるよ。

 

 ただ三影は、静かに頷くだけだった。

 

「この大会が終わったら、色々三影に話したい事がある……それでいい?」

 

 誰かに自分のことを打ち明ける。

 今まで閉鎖的だった。打ち明けた振りをして、はぐらかして、それが本来の自分の様に振る舞っていた。

 他人に共有できないギャップを抱えて、それを気にしたくないから先の事ばかり見てどうするかを考えて日常を過ごしていた。

 

 それも今日で終わる。

 いつも隣に居てくれて、自分を見てくれる人が居る。

 親にも離せない事を抱え込まずに、内心をブチまけられる人が居る。

 

「分かった」

 

 ただし、と付け加える。

 

「やるなら全力。中途半端は 駄目」

 

 断る理由もなかった。

 





この分だとサイコスキャニングされた人物を知った時の反応も楽しみですね(ニコニコ)
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