ただのモブで終わる筈だった。   作:食べる辣油

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もう電気代高いとか言ってらんないっす(エアコン全開)



#21

 

「あ゛あ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛………」

 

 日中の最中、混み合っている訳でもない喫茶店で情けない声を吐き出して深く項垂れる。いや、項垂れたくもなる。

 

 1日2日と日は開けてきたけど、やっぱり自分が作った機体が壊れるって言うのは心にくる。

 

 もう三影に甘え倒したいとか、そんな妄言が浮かぶくらいには精神的なショックが大きかった。

 もう少しすれば大きな星がついたり消えたりするかもしれない。

 

 

 それはさておき、今更市販品を買って満足できる様な性分ではなかった。

 家に戻れば確かに積みプラとコアスケルトンは眠ってるが、じゃあそれで何を作るか? それが悩ましい問題だ。

 

 一応知識としては変形機構の仕組みは分かる。

 分かった所でそれを作る設備も材料もないから、結局何もできないから従来通り、コアスケルトンは弄らずにフレームを地道に加工するしかない。

 

 ただこれが面倒なんだ。

 必要な厚さまで削ったり、別のパーツと継ぎ接ぎしたり、研磨し直してまたくっ付けたりの繰り返し。

 

「随分悩んでるな、悟」

 

「ん、ありがとう。檜山さん」

 

 注文してたコーヒーとホットケーキが目の前に運ばれる。

 喫茶店というのは、ミソラ商店街にある檜山蓮が経営している店だ。

 

 近所で何も考えず暇が潰せるところは限られる。

 割と顔見知りが屯っているせいで会話が発生するから、全然ゆったりできない。

 

 ただし皆んな年頃の少年少女。活発な為にこう言った物静かな喫茶店に寄りつくことはないのだ。

 

 

「やっぱり堪えてるか」

 

「自分の愛機失って堪えない人間はいないと思いますよ」

 

「それもそうだな」

 

 バターをコーティングさせたホットケーキを口に入れる。

 

 やっぱりコーヒーだけじゃなくて出し物も美味いわ。

 焼き加減も完璧だし生地も甘いしモチモチだし、世界に復讐する前にケーキ屋でも開いた方がよっぽどマシは人生送ってたんじゃないかな? 特に妹に関しては。

 

 二、三口食べてから飲むコーヒー、これが結構美味いんだわ。

 

 口の中をリセットしてまた甘いホットケーキを放り込んで飲むの繰り返し。まさに幸せのスパイラルだ。

 

 

「悟は自分のLBXは自分で作ってるのか?」

 

「そりゃあもう。親父のせいで市販品じゃ満足できない様に教育されたんで」

 

「成る程な……で、もう次は決まってるのか?」

 

「……ふぅ。まぁ、一応。ただ自分の環境考えると、どうしても設備が足りないんで机上の空論ですよ」

 

 出されたホットケーキをものの一分で食い切る。腹が膨れたおかげで若干鬱っぽくは無くなった。

 

 「ヤケ食いは良くないぞ」とは言われたが、もう食わんとやってらんないわ。あのシュッとしたスタイルとシンプルな外観を作るのにどれだけ苦労した事か。

 

 ツインアイだってウォーリアーとかグラディエーターと違うから作り直した。

 胸部の排熱口とかコクピット周りのディティールとか、足裏とかのスラスター口とか、とことん手を込ませてもらった。

 ……なんか、ホビーと言うよりほぼ工芸品の類だな。

 

「……所で悟。お前の言う自作LBX、まだ他に案はあるのか?」

 

「? まぁ、腐る程浮かんできますよ? ただ作らない現状は絵に描いた餅なんで、絶対外部に口外するつもりはないですけど」

 

「絶対にか?」

 

「年端も行かないうちに黒歴史は作りたくないんてますよ」

 

 がめついぞラスボス。

 忘れがちだが、こいつは最終的に世界に喧嘩を売るつもりの男で、裏で色んなヤベェものを作っている奴でもある。

 

 試しにビルゴやサイコガンダムなんて教えてみろ。エターナルサイクラー搭載の等身大の機体作って世界中を火の海にするぞ。

 

 ただの気のいい料理ができる洒落た喫茶店のマスターじゃない。それはそうとメニュー表は中々に美味しいので是非これからも手腕を振るって欲しい。

 

 

「まぁそう言うな。ちょっと心当たりがな」

 

「何ですか、それ」

 

「知り合いに、お前が興味を持ちそうな仕事をしてる人間がいてな」

 

「へぇ……」

 

「興味ないか?」

 

「生憎、親以外からの誘いは疑う様に育てられたので」

 

 親って言うか、怪しい大人からな。

 お前のことだぞ檜山。

 

「そうか……少なくとも、お前の願いなら叶えてやれる奴なんだが……」

 

 

 ビクッ

 

 

「材料も資金も向こうが工面してくれるとは思うんだがな……」

 

 

 ビクビクッ

 

 

「少しだけ知見はあるが、アレは中々良かったぞ? タイニーオービット社(大手メーカー)にも負けないくらいの設備を、ほぼ無料(タダ)で使えるんだかなぁ……」

 

 

 ビクビクビクッ

 

 

「まぁ、今時のご時世だと不審者もいるらしいからな。美味い話は裏があるって言うし、今回の話は無かった事に……」

 

「その先方の方呼び出してもらえたりしていただけます?」

 

 

 

 

 

 

 

 

______________________

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「いやぁ!あの檜山さんが推してくる子が居るなんて意外でねぇ!」

 

 ここは都内の見知らぬオフィス。

 

 私は悟。今、絶対お高いソファに座らされて洒落たガラステーブルを境にスーツを着こなす社会人と面接地味た事をしているの。

 

 スーツの名札に堂々と”サイバーランス社”って書いてあって冷や汗が止まらない。

 

 檜山の見え透いた誘いにまんまと乗り、勢い付いて薮を突いて蛇でもなんでも出てこいやと息巻いていたが、出てきたのは蛇じゃなくてリヴァイアサンでした。

 

 殺してやるぞ檜山蓮。

 

 

「君が考えている案を図にしてもらったが、中々面白いコンセプトばかりで久々に心が躍る様な物ばかりだよ」

 

「は、はぁ……ありがとう、ございます」

 

 最初は町工場とか中小企業とか、その程度の規模を考えていた。あっても技術総合機構みたいな、試験場が複数ある施設かと思った。

 

 だが、あいつは言葉通りの奴らを連れてきた。いや連れてきやがった。

 しかも防犯機能をほぼ無いに等しくさせる性能を持ったLBXばかり出す割とヤベェ企業だ。

 

 こんなのどうしろってんだ。

 子犬みたいに縮こまって怯えるしかないじゃん。

 

「君の自作LBXと、アングラビシダスでの戦闘映像で動きを見せてもらったよ」

 

「あ、はい。結局負けちゃいましたけども」

 

「いいさ、そこは気にしてはいない。私が気になったのは君が使っていたウェポンだ。アレも君が?」

 

「いえ、元は父親の知識です。大会で使った機体を改造する時に、教えてもらいました」

 

 

 元が理系でもなんでも無いから、どう言う原理なのかは説明の仕様がない。親父の話を聞いてても途中から理解が追いつかなくて知恵熱が出た。

 

 サーベルに関してはバーナーと同じで、粒子量を絞ると伸び縮みが出来るらしい。した事ないけど。

 そもそもどうやって空気中に粒子を固定してるのかがよく分からん。磁界とかの応用なのか、それとも謎科学なのか。

 

 技術者でもないから何が凄いのかよく分からないが、先方は中々興味津々の様だった。

 

「成る程ねぇ……ちなみに、君の愛機を作るのにどれくらいの費用がかかるのかね?」

 

「……十数万」

 

「もしかしてギャグ?」

 

「いえ、割と。冗談抜きで」

 

「付属品を取り外しても?」

 

「あ、それなら数万レベルに抑え込めます。自分が苦労するだけなんで」

 

 

 相手の視線から哀れみを感じる様になった。

 普通の中学生が使う様な金額じゃないのがいけないんだろう。でも実際それくらいかかってるんだ。

 

 予算の割り振られる開発部でもないのに試作しては動かして、欠陥があったら修正ついでに作り直しを繰り返すんだ。

 諸々含めたら20万以上は確定だ。

 

 3倍の性能を求めるのに3倍の金額が、3倍の速度で溶けていくのは中々心に来るものがあった。

 

 小遣いは月にもらってるし、親父に金をせびるのも申し訳ない。だから多くもない自分の金で色々やってきた。

 

 ただ、先日にはその金の塊がものの見事なお釈迦にされた。注ぎ込んだ金額を考えれば、心が折れても仕方がないと思うんだ。

 

 

「ふむ……さて、ここまで長々話して来た。その中で、私はある決断をする事にする」

 

 未だガチガチに緊張している俺をよそに、先方は話を次の段階に進めるらしい。

 

「君、ウチで働いてみないかい?」

 

「はい……はい?」

 

 今なんて言った?

 

 働くの?この年齢で?

 確か児童労働って明治には禁止されてなかった?

 

 でも将来の就職先決まった様なもんか?

 え、でも働くってどこで?

 

「…あぁ、大丈夫かい?」

 

「へ? え、あ、いえ。別に……」

 

「いや、言葉が足りなかったかな。我々、サイバーランス社の開発部門に来るつもりはないかい?」

 

 そう言ってニコニコと微笑んで見せる先方。そこには珍しく悪意も何も無かった。

 比較対象が檜山だから綺麗に見えるだけかもしれないけど、少なくともそこにはなんの企みも無かった。

 

 ええんか?

 どっかの白兎の小娘みたいに嘲笑されると思ってただけにこの反応は困る。返答に困る。

 

「……いや、嬉しいですよ? でも、ちょっと…」

 

「無理にとは言わないよ。なんなら名刺と連絡先を渡すから……」

 

「あぁ、いや。考えだけ取られてポイ捨てされないかなって…」

 

「ウチってそんなヤバい会社に見える?」

 

「作ってるLBXの性能考えたら妥当な評価だと思うんですけど」

 

 改めて自社の印象と評判に苦笑い先方は苦笑いを浮かべる。そりゃあんな奴らの開発にゴーサイン出す人間が居るんだから仕方のない事だ。

 

 尻尾切りみたいになんらかの不祥事が起こったら責任者ごと関係者を切るって事を、見えないところで平然とやっていそうだから怖い(偏見)

 

「じゃあ、来てくれるかな?」

 

「給与と学業に支障が出ない範囲の内容なら」

 

「それなら安心してくれ。必ず融通を効かせる……ただ、ちょっと給与に関しては親御さんと要相談かな…」

 

「あぁ……確定申告」

 

「うん。まぁ、中学生で収入が発生するとかあんまり例がないし、国の目も厳しいから……」

 

 「今年も年末調整がね……」とか、元社会人としては聞きたくもない生々しい内容だったので意識からシャットアウトしておく。

 

 にしても、サイバーランスか………まぁ、現代じゃあり得なかったけど、ここは未来の異世界。

 中学生で収入が発生してもそれ関係の法律周りが少数例の為に成立してるのか、割となんとなるらしい。

 

 兎に角これで就活で地獄の様な思いもせず、中学の内から貯金を増やすことができる。

 アメリカンドリームを手に入れた人間の気持ちがよくわかる。こんな天文学的な確率の成功体験味わったら本も出したくなるはな。

 

 ただ、問題がある。

 親になんて言えば良いんだろ。

 特に母さん。

 

 






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