ただのモブで終わる筈だった。   作:食べる辣油

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突然現れるのは不審者の特権




#22

 

 

 年端も行かない年齢で内定が決まり、親を安心させることができました。

 

 嘘です。安心どころか逆に心配されました。

 連絡だけ入れられた後に、数枚の資料と社内専用の端末まで渡され、家の前まで送ってもらったは良いものの、家に入ればに母親と親父交えた家族会議が始まった。

 

 詐欺じゃない? 人身売買とかそういう類? 後から誘拐されて身代金とか要求してくるタイプ?とか、聞き覚えのある犯罪と聞く機会のない犯罪組織が母親の口からボロボロ出て来た。

 

 落ち着いてから後日社内に案内されるまで信用しないくらいには心配された。

 

 息子の顔見知りの異性と名前も知らない社会人じゃ、確かに後者を警戒するわな。

 

 でもいい加減三影がしれっと家に上がる事と、親戚の子と同じ感覚で招いている事に違和感を覚えて欲しい。俺のプライベートがないに等しくなる。

 

 

 法律関係はよく分からんので保険も保証関係も親に丸投げ。ただ書類だけは本人の記入が必要だから、直接俺が関わったのはそこくらいだ。

 

 いくら前世で社会人でも、遠く離れた異世界の未来の”日本っぽいところ”の法律はよく分からん。明るかったら逆に怖い。

 

 同じ名前の法律でも効力も記載事項も全然違うから、むしろ任せないと後々面倒になる。

 

 それらがある程度片付いたら、開発チームとの顔合わせとか施設内で軽い研修と、目を通さなきゃいけない資料に目を通して、必要な端末と守秘義務の遵守とかとか。

 

 まぁ自社製品の開発だから色々情報と最新機器も回ってくるから、必要な事だってことは分かってるけど、人間って新しい環境にはストレスを感じるもの。

 

 向こうも気遣ってくれているものの、やっぱりちょっと落ち着かない。

 

 特に慣れない事ばかりで、小さな失敗でも心配性故に考えてしまうから余計落ち着かない。

 

 責任もついて回ってくるから頭が痛い。

 

 

「はぁ……」

 

 あっという間に1日が終わって日も落ちた時間帯。帰宅ラッシュに遭遇して駅構内の飲食店で時間を潰している。

 

 学校は休んだし、今日は特別帰りが遅いのも親には言ってあるけど、ラッシュが早く終わる事を願う。頑張れ鉄道会社。

 

 適当に頼んだフライドポテトが美味いから、それを摘みにスマホをポチポチ弄っている。

 

 ……なんか、最近ため息しかしてない気がする。

 

「にしても……」

 

 なんで檜山はサイバーランスに顔見知りが居るんだ?

 そりゃあ、巷で有名なプレイヤーだから専用機開発の話が出てもおかしくない。

 

 更に言えばテスターとして囲い込んで、商品開発とネームバリューを企業が欲しがる。そう言う過去があるのかも知れないが……

 

 ……あぁ。でもプレイヤー以前に元は科学者の端くれでもあったのか。

 檜山自体もどの勢力に属しているわけでもない。表面上はフリーの一個人、秘密抜きにしても駄弁るくらいの友人がいること自体は不思議ではないのか。

 

 その辺、新しい上司に聞いてみる他ないな。

 他人のことは他人にしか分からないし、当たり障りのない範囲で聞き取り調査でもするか。

 

 

「……怖ぇ奴だ」

 

 言っちゃ悪いが、権力の使い方が下手で騙しやすい身内に甘い友人が居て、父親を取り返したい子供まで利用する。

 

 自分の計画を実行するのには快適な環境だ。

 

 見え透いた餌を掲示させて、助言を説いてやればイノベーター側の目も釘付けに出来るし、向こうも自分の思惑までは探ってこない。

 

 しかも自分は友人の兄が設立させた地下組織の重役。

 

 組織の目標は檜山本人が目指す物とは相容れないが、イノベーターを掌握する上で自分が動かなくても大抵のことはやってくれる。

 

 ほんと、復讐の為なら何でもする典型的なヤベェ奴だ。

 

 いや、まぁあの過去あって真人間になったらそれはそれで精神状態を疑うけども。

 

 

「……うまっ」

 

 やめよやめよ。もう考えたってしょうがない。

 

 そんな事より、珍しく三影から返信らしい返信がない事についてでも考えよう。

 

 

 

 

 

 

「隣、いいですか?」

 

 

 そんな時だった。ふと後ろから声をかけられる。

 

 カウンターに座ってるからか、一席開ければいいのになんとも律儀な人だと思いながら「どうぞ」と返す。

 

 隣に座って来たのは同年代くらいかの女子。癖っ毛が強い黒髪のセミボブで眼鏡を掛けていてる。

 

 服装は……まぁ、うん。うちの学校の女子がみんな奇抜なのが原因なのか? 相対的に見て年齢の割には大人っぽいし大人しい。

 

 

「……何か付いてます?」

 

「いえ……ふふ、気にしないでください」

 

 

 いや、ごめん多分ヤベェ奴だ。

 見ず知らずの他人の顔覗き込んで笑ってる奴とか、相手が女性でもちょっとお近づきにはなりたくない人種だよ。

 

 なんか周囲の視線も刺さり始めて来た。

 やめろよ一番恥ずかしいのは何の脈絡もなくこんな状態にされた俺なんだぞ。

 

 

「あの……何処かで会ったりしてます?」

 

「えぇ、まぁ? 会ってはいますね〜」

 

 

 何だコイツ。

 

 いや、俺が言った言葉もアレだけど無いなら無いとかあるならあるではっきりしろよ。

 

 アミとは別タイプで面倒臭い奴だ。

 いきなり現れて自分のペースで物事を進めるせいでこっちがやる事なす事が全部裏目に出そうで怖い。

 

 

「……本当に分かりません?」

 

「いや誰よアンタ」

 

「…え? 本当に覚えてない?」

 

 

 なんか急に焦り出したぞ。

 だからやめろよ。何もしてないのに視線がさらに痛くなったぞ。

 

 誰かと勘違いして声かけたら全くの別人とかやられる方も溜まったもんじゃないんだぞ。

 

 

「……本当に覚えてない?『悟』くん?」

 

 

 名前を呟かれた。

 

 ちょっと待て。何でこの女は俺の名前を知ってるんだ? 初対面のはずだぞ。

 

 あんまり会わない親戚や学校の友達にもこんな奴はいない。コイツの名前は知らないが少なくとも俺の周りにこんな女は居ない。

 

 ……いや、待てよ。俺の名前の呼び方には聞き覚えがある。

 誠に不服だが、あのサイコスキャニング女(サイキャス女)とコイツの顔が重なる。

 

 

「…お前、”あの時”の……」

 

「ッ!! そうそう! やっぱり覚えてるじゃん!」

 

 

 いきなり砕けた喋り方になった。

 うわっ。敵じゃん滅ぼさなきゃ(島津脳)

 

 いや待て。もしあのサイキャス女なら何でこんなところにいる? 確かサイコスキャニングって装置と薬物付でまともな精神状態じゃいられないはずだぞ。

 

 精神病棟に入れられる精神疾患者みたいな虚さがコイツから感じられない。

 

 

「…で? 何用だよ」

 

「冷たいなぁ、私と君の仲じゃない?」

 

「いやそんな交流してないし……」

 

「これから始めよう?」

 

「いや、友達は間に合ってるんで……」

 

「……捨てるの?」

 

 

 お前いい加減にしろよ?

 

 本当にやめろよ。

 何で被害者の俺がこんな冷たい視線浴びなきゃいけないんだよ。悪いのコイツだろ。

 

 クソッ、店員まで冷ややかな目ぇし始めたぞ。

 

 

「…で、お前は何で出歩き出来てるんだ? 見立てが間違ってなきゃ、お前の施されてる……」

 

「”サイコスキャニングモード”? 別に、常時発動してる訳じゃないんだから出歩けて当然でしょ?」

 

 

 なんか平然ととんでもないこと言ってるぞ。

 

 アレって発動時に全力出せる様に投薬したり手術したりとか、どっかの製薬会社みたいな倫理観のもとで実験が行われてる筈なんだ。

 

 アルテミスで発動した以外にも、施設内で何度も試験の為に発動しているはずだ。

 灰原ユウヤが普段から消沈気味なのも、普段の試験で発動しまくってるからだろう。

 

 現に精神崩壊(カミーユ)になったりしてる故に、発動中にかかる精神的負担は計り知れないはず。

 

 なのにこの女はケロっとしている。

 なんかキャラスーンみたいだなこいつ。

 

 

「所で、何でそんな事(サイコスキャニングモード)知ってるの?」

 

 

 やべ。下手打った。

 

「組織って一枚岩じゃないだろ? そういう事だよ」

 

「ふ〜ん。まぁ、今はそういう事にしてあげるよ」

 

 

 不審には思われたが、追及はされなかった。

 向こうも下手に突いてくる訳じゃないらしい。

 

 

「……で? 結局何の用だよ」

 

「今日、山野バンを含めた一向が海道邸に侵入した」

 

 

 お前そう言うの早く言えよ。

 

 通りで三影から返信が返ってこない訳だ。逆探防止か、そもそも海道邸に電子戦機器があるのか妨害されてるのか。

 

 絶対後者だと思うけどな。

 

 

「で、それを俺に伝えてどうするんだ? 俺はお前の飼い主とは敵対してるんだぞ?」

 

「いや、特に意味なんてないよ? 邸宅が襲撃されたから集まれって連絡は来てるけど」

 

「……え、何でお前ここにいんの?」

 

「だって管轄外だし」

 

 

 そう言ってバーガーに齧り付いてモッキュモッキュと咀嚼する。

 

 いや、職務放棄ってマジかよ。

 うちにもこんなモンスター社員いなかったぞ。

 

 

「私がいなくてもアイツが居るし……」

 

「海道ジンか」

 

 

 そう。と言って俺のフライドポテトに手を伸ばす。

 

 一々会うのも面倒だから、伸ばされる手を拒むことなく受け入れる。

 

 なんか、懐いてるのかいないのかわからない猫に餌付けしてる感覚だ。

 

 

「…そういや、俺に近づいた理由は…」

 

「あぁ。それはね、”あの時”の事でかな?」

 

「あの時?」

 

 

 あの時ってなんだ?

 

 少なくともコイツと交流を持った事はないし、なんなら顔を見たのもさっきだ。

 

 それ以前の記憶? 三影よりも前にコイツに会ってるのか?

 

 いつ? 何処で? 何が遭って…………遭って?

 

 いや待て、”遭って”ってどう言う事だ?何に遭ったんだ?

 喧嘩売られたなら三影の時だろ? それ以前の?

 

 

「…話の意図が分からん」

 

「いいの。私が覚えていて、それで十分なの」

 

「答えになってないぞ」

 

「今の私がいるのは貴方のおかげ」

 

「だから……」

 

 

 次の言葉を吐こうとした時、唇に人差し指が当たる。

 

 犯人は勿論、目の前の女だ。

 カウンターで行われる中学男女の行為に、流石に周囲の目から冷たさがなくなる。

 

 代わりに目立ったせいで色んなところから視線が飛んでくる。

 おい、これどうやって帰ればいいんだよ気まず過ぎだろ。

 

 

「シー……答えはまた今度に、ね?」

 

 

 そう言って唇から指を離す。

 

 この調子じゃ、これ以上は何を聞いてもはぐらかすだけだろう。これ以上は何も言わないし聞かない。

 

 ただ、最後に知っておきたい事はある。

 

 

「…お前、名前は?」

 

 

 進めていた足を止めて、振り返ってみせる。

 

 さっきのお茶らけた雰囲気はなかった。

 真っ直ぐとした目は誰でもない俺を見つめている。

 

 俺の問いに、アイツは満面の笑みでこう答えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「私は灰原ユウナ(祐奈)。よろしくね、悟くん!」

 

 

 

 





三影の後継機どうしよう(最近の悩み)
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