日常記録部の部室らしき場所でゆっくりとした少女と出会い、ついつい思考が緩んでしまった。気を取り直して元の目的である部活について聞いてみる。
「ええっと、ここって何をする部活なんでしょうか?日常記録ってあまりピンと来なくて。」
「ごめんなさいっ。私もついさっきここに見学に来たばかりでよく分からないんです。それで机にこれが置いてあったから見ていただけです。」
まさかの同学年だった。この子が部員でないのなら本当の部員はどこにいるのだろうか。そもそもこの子以外に人がいた気配を感じない。
「んで、その本には何が書いてんの?なんか面白いことでもあった?」
「日記みたいです。三人で交代しながら書いていたみたいです。ええっと・・・あなたも読んでみます?」
「うん、読んでみる。」
勧められて彼女の向かいの席で日記を読む。二十一期日常記録部と書かれている日記帳だ。一ページごとに日付や出来事が書かれ、ときには写真や絵もついている。そして日によって筆者が違い、それは内容にも現れている。
相葉夕美なる人物は花が好きらしく、毎日の出来事の他に花の成長記録が書かれている。他にも学校中の先生達と交渉して校内の花壇の手入れができるようになったとか、近所のお花屋さんの店員と仲良くなったとか、クラスの友達もお花の世話を手伝ってくれるようになったとか、ほぼ全て花関係のことで非常にアクティブな人だったらしい。
鷺沢文香なる人物は読者が好きらしい。本のタイトルから著者、出版社まで記し、そこに一ページ埋まるかというほどの感想が丁寧に書かれている。この人は毎日夏休みの読者感想文レベルの文章を書いていたのだろうか。対して当日の出来事はあまり書かれていない。こういう人を本の虫というのだろう。
そして最後の一人、生田憧人は非常にやる気のない人物だ。一ページほとんど空白で、日付と名前と一言を書くだけで終わっている。見かねたのか空きスペースに相葉さんのものだと思われる筆跡で、生田さんへの質問や彼がその日にした行動が書かれていた。相葉さん、みんなで仲良く花壇作りしたとか書いてるけど、鷺沢さんはともかく生田さんには無理矢理させてない?
そして、この日記の日付は三年前。最初の方のページに入部云々のことが書かれていたので、彼女達は当時一年生で、今は卒業してこの学校にはいない。
「もしかしてこの先輩達しかいなかったのか?ねぇ、んーっと、ごめん、名前聞いてもいいかな?」
「はいっ。高森藍子ですっ。あなたの名前も教えてもらえないかな?」
「そうだな、自分も言わないとな.。清崎霍弥です。1年C組にいます。よろしくお願いします。」
「私B組ですっ。教室近いね。何かあったらよろしくね。清崎君♪」
クラス外に初めて交友関係が出来た瞬間である。中学までの友人が誰一人といない中で高森さんとのつながりは非常にありがたいし嬉しい。それにすごい可愛らしい子だし。それはそれとしてまずはこの部活のことだ。
「それで高森さん、この部活ってなんだと思う?この先輩達以外にも部員とかはいないのかな。」
「うーん、そうだ!去年の分の日記を探してみない?何か手がかりになるかもしれません。」
「よし、そうだな!」
探すと言ってもこの部室には机と椅子以外に箱ぐらいしかないのでそれを開けていく。十二期が九冊...十三期が十冊...二十年くらい前のものばっかりだ。この箱は外れか。
「ありました!相葉さん達の日記がたくさんありました!」
「でかした!」
高森さんが見つけてくれた九冊に加えもともと置いてあった一冊、合わせて十冊が並ぶ。他の代と比べて綺麗とはいえどれも使い込まれている。
「すごい思い入れを感じますねっ!こういうのいいなぁ。青春の思い出がこういう風に残るのって憧れちゃいます。」
「そうだな。多くの意味で思い出に残りそうだ。」
日記という形で残る青春。一人で書くのではなくみんなで作り上げる三年間の記録。なんとなくいい響きだ。これまで見てきた部よりもなんとなくしっくりとくる。この部ならもしかしたら最高の高校生活を送れるかもしれない。
「じゃあ清崎君。一番新しいのを・・・」
ピーンポーンパーンポーン
『下校時刻になりました。部活動に所属していない生徒は速やかに下校しましょう。一年生のみなさん。本日の部活動見学はただいまをもって終了です。本入部していない生徒は速やかに下校してください。繰り返します...』
いつのまにかこんなに時間が経っていたのか。もっと時間に余裕があると思っていたんだが、思っていたよりも時間が経つのが早いらしい。
「部活見学の時間が終わっちゃいましたね...清崎君って入りたい部活は決まってますか?」
「いや、まだ決まってないな。妥協案で漫画部だけど正直なんか違う気がする。」
「ならっ!なら明日もまたここに来ませんかっ⁉︎私もまだ決まってないんですけどなんとなくここがいいかなって。あと、一人だとちょっとだけ寂しいですし。」
「そうだな。俺もなんとなく居心地がいい気がしたし、先輩達の日記もまだ読めてないしな。明日も来るよ。」
正直、この部の活動実態が全く分からないが、何か分からないものに惹かれる。そういった曖昧なものを頼りに部活を決めるのも悪くないだろう。それに高森さんもいるから一人じゃないし。そういえば高森さんも一人で周ってたけどもしかして・・・
「むぅ...今、私のこと友達いないんじゃないかって思いませんでした?別に一人で部活見学してたのはそんな理由じゃないんですよっ。『藍子ちゃんゆっくりだから一緒にいると日が暮れちゃう〜』って友達に言われちゃったんですよ。私もちょっとはそんな自覚があるから迷惑かけちゃ悪いかなぁって。それにカッコいい先輩探しに行くって意気込んでいたから、そういうのあんまり興味ない私がついて行ってもなぁって思って一人で周ってたんですっ!それこそ清崎君だって一人じゃないですか!」
いや、まだ何も口に出してないんだが心読めるのか?これまでのゆるふわオーラが一瞬揺らいだぞ。というかなんか時間経つの早いと思ったら、この子のせいか!いや、人のせいにするのは良くない良くない...それに俺だって友達くらいいるし。他の県に。
「俺は入学と同時に引っ越してきたからな。この学校に誰も知った人がいない。」
「あっ、そうなんですか。それは大変ですよね。清崎君人柄良さそうですし大丈夫な気がしますが、早く馴染めるといいですね。」
「本当にな。早くいろんなことに慣れないとな。」
ピーンポーンパーンポーン
「うわっ、ゆっくりしすぎた!じゃあ高森さんまた明日!放課後すぐここに来るから!」
「清崎君また明日!部室で会いましょう!バイバーイ!」
高森さんと明日会う約束をしながら下校する。これは幸先のいい高校生活のスタートでは?最近植樹されたらしい小さな桜の木を見ながら、この木の将来のように、華やかな青春が送られる未来を想像して期待で胸が膨らむ。ああっ、三年間が楽しみだ!
『二十一期日常記録部卒業記念 相葉夕美 鷺沢文香 生田憧人』
この木は相葉先輩達の仕業ですか...楽しい高校生活が送れたようでなによりです。
若干難産でした。イチャラブならテンション上がるんだけど、出会ってすぐイチャラブする物語なんか見たくねぇ!ってやつです。序盤が難しすぎる。
オリ主達の名前ですが、清崎霍弥君は、『プロデュース』の日本語訳の『制作する』『企画する』を組み合わせていい感じにしました。先代の主人公的存在の生田憧人君は、憧れの人≒アイドルを生み出す,育てる、って感じで考えました。あんまりプロデューサーから遠ざけて好き勝手に名前付けるのもなんか嫌だったのでこんな名前です。
これからもそれなりのペースで書いていくので待っていただけると幸いです。