高校生というものは思ったよりも男女で下校というものに抵抗がないらしい。高森さんは何も恥ずかしがることもなく、俺を学校からカフェまで連れて行くそうだ。男女の違いを気にしだした中学生以降ではこういった下校をしたことがないので少し恥ずかしい。
「おっ、藍子じゃん。今帰り?隣にいるのはもしかして??」
「ちょっと!そんなのじゃありません!この人は昨日知り合った同じ部活動の人で...」
「まあ、そんなわけないかー。勝負に出なさそうな藍子がもう男子に手を出すわけないよねー。そこの少年!私達の藍子を泣かせたらただじゃすまないぞー!」
「えっと、うっす」
高森さんの友達らしき人々にからかわれて顔を真っ赤にしてしまう高森さん。高森さんもしかして何も考えずに俺とカフェに行こうとしたのか。やはり抜けている。友達さんが俺に注意してきたので適当に返しておく。女の子を泣かせる状況なんか普通は来ないからね。
「あ〜もぉ!なんでこうちょうどこんな場面見られちゃうかなぁ?」
「まだ学校だからそういうこともあるさ」
「恥ずかしい...」
恥ずかしさにしばらく悶えていた高森さんを待って数分、落ち着いた高森さんが意を決して歩き出し、俺も後をついて行く。
「カフェ行こうって言い出したときは何も動じないから高森さんはこういうの慣れてると思ったよ」
「忘れてください!なんだかちょっと舞い上がってて気づかなかっただけです!」
さすがにこの件をさらに追求するのはかわいそうなのでここらでやめておこう。それに万が一に泣かれてしまったら多分タダじゃ済まない。
「さっき人達は高森さんの友達?」
「はい。今日もいろんな部活動を見て回ってるはずです。よくからかわれもしますけど優しい人達ですよ?彼女たちの好みの男の子像に清崎君は当たらずも遠からずってくらいの見た目なので、もしかしたら嫉妬されちゃったのかもしれません」
「それ、喜んでもいいのかな?」
「よければあの子達紹介しましょうか?話くらいなら喜んで聞いてくれると思います」
「なんかキープされてるようにしか思えないので結構です」
俺の人生設計にチャラ男ルートは計画されてないので、たくさんの女子とお近づきになるような目標はない。ただでさえ、高森さんのような可愛い女の子と高校生活初日から1on1で交流をするとは思ってなかったのに。
「あっ、紹介といえば!清崎君、よければ連絡先交換しませんか?」
「あー、まだやってなかったな。コード出すから読み取ってくれる?」
「分かりましたっ♪」
二人とも慣れた手つきでチャットアプリの連絡先交換をする。顔と名前が一致しないクラスメイトだらけの連絡先の一覧に『高森藍子』が追加される。ありがたやありがたや〜...
「わぁ!清崎君のプロフの画像すっごく可愛い猫ちゃんですね!清崎君の飼い猫ですか?」
「いや、こいつは前住んでたところの近くの港に住みついてた野良。よく釣った魚をねだってきてみんなあげてたのよ」
「みんなに愛されてた猫なんですね。ところで清崎君は釣りをするんですか?」
「ああうん、暇な日は釣りしてたな。結構楽しいもんよ。こっちにきてからはまだ忙しくてできてないけどね。高森さんの画像は町の風景?」
「はいっ!私のお気に入りの場所から撮ったこの町の風景です!いつか機会があれば案内しますよ!」
「へぇ、楽しみだな」
プロフィール画面の画像で割と盛り上がって校内で時間を使ってしまったが、少しは仲良くなれたような気がするのでよし。ただ、校内で話していると邪魔者が入ってくるもので。
「おいそこの男子!柔道部に興味ないか!!」
「いやいや、その体格ならハンドボールで全国制覇が目指せるぞ!!」
「すみません、もう入部決めたんでお断りします」
「ふむ。ところで何部に入ったんだ?」
「日常記録部です」
「ああ、あの相葉会長の...いやいや、文化部なら兼部もできるけどやはり興味ないか?そこの子も一緒にマネージャーができるぞ!」
「いや、だからお断りしますって...」
「気が変わればいつだって柔道部に来てくれ!」
「いやいやそのときは是非ハンドボール部に!!」
ほんと部活動の勧誘お疲れ様だよ。俺はもうこの部に腰を据えるだけだというのに。本当に全国に行けたらテレビでくらいは応援してやるからもう許して欲しい。
「モテモテですね、清崎君♪」
「別に筋骨隆々な野郎からモテても嬉しかねえけどな」
「でも、清崎君スポーツできそうなのになんで文化部を選んだんですか?」
「いやぁカッコ悪い話なんだが、中学のときの部活がハードすぎて高校で運動部には入らないって決めてたんだ」
「へぇ。ところで何部だったんですか?」
「バスケ部。頭を使いながらシャトルランを32分続けるようなスポーツだから練習がキツすぎてね」
「それはお気の毒です。32分もシャトルランって想像もつかないなぁ」
「シャトルランは例えだけどね。バスケに限らずどのスポーツも練習が大変だろうから高校は文化的に過ごしたいなって思ってたんだ」
「文化的かぁ。そうなるように頑張りましょうね!」
「ああ」
いろいろ雑談してようやく校門を抜ける。二人分の荷物を載せた自分の自転車に車道側の犠牲になってもらいながら二人でゆっくりと歩いていく。
「目的地までちゃんと向かってるのかな?」
「この辺りなら慣れてるので、引っ越してきた清崎君よりはよっぽど詳しいですよ?」
「本当かなー?」
「本当ですっ!」
「それで、高森さんはカフェによく行くの?誰かと一緒だったりする?」
「いつもはお散歩の途中に見つけたいい感じのカフェに一人で行ってますね。お散歩の休憩に入るとすごくリラックスできるんですよ!友達と遊ぶときにお散歩で見つけた場所をたまに紹介します♪」
「へぇ〜」
「近所でよくお散歩するんですけど、バスや電車に乗って遠くまで行くこともあるんですよ」
「ふーん。部活でお出かけするときは参考にするかもしれないな」
「そのときは任せてくださいっ♪」
その後もたわいない話を続けてたら距離も時間もすぐに経ったようで、目的地のARというカフェに到着する。
「いらっしゃいませー!」
「おばあちゃんこんばんは〜!」
「おや、こんばんは、藍子ちゃん。制服姿も似合ってるよ」
「ありがとうございます!先日、白岸高校に入学して帰りに寄りました!」
「ありがたいねぇ。藍子ちゃんみたいな若い子は新鮮で助かるよ。そこの男の子は彼氏かい?」
「ち、違いますよぅ。この人は清崎君で、同じ部活の人ですっ!」
「はじめまして。清崎と言います。高森さんとは同じ部活で...」
「あらあら丁寧に。はじめまして。藍子ちゃんなかなかいい男捕まえたねぇ。ゆっくりして行ってください」
「もうっ!おばあちゃんってばぁ!」
一部自分も被弾している内容で高森さんがお婆さんにいじられてるのを横目で見ながら、カフェを眺める。二組程度は入れそうなテーブルと椅子、自作みたいな絵画に工作、シンプルなメニュー表。隠れ家って感じのいい雰囲気だ。
「ほんとおばあちゃんはお話が大好きなんだから...清崎君置いてけぼりにしてごめんね。ここは定年退職をした夫婦が趣味で始めたカフェなんです。いい雰囲気でしょ?」
「いい雰囲気だと思うよ。なんだか手作りのカフェって感じで」
「そうなんです!二人ともカフェとは関係ない仕事をしてたから初めてのことばかりで楽しいって言ってました!」
「褒めてくれて嬉しいわぁ。二人とも何頼むかな?」
「私はミルクティーでお願いします!清崎君は何にする?」
「うーん...じゃあ、クリームソーダで」
「ありがとう。ちょっと待っててね」
お婆さんが奥へと戻っていく。歳を取ってるようだがなかなかエネルギッシュなお婆さんだったな。
「清崎君ってなかなか可愛らしいのを頼むんですね♪」
「見慣れないメニューばかりだったから無難そうなのをね」
「へぇ〜。意外とコーヒーとか飲まないんだー」
「生憎よ機会がなかったからなぁ」
「ここのお爺ちゃんは美味しいコーヒーの淹れ方を研究しているんだって!私はコーヒー飲めないから分かんないけど、清崎君は今度挑戦してみない!?」
「ああ、うん、そうしてみてもいいかな」
「じゃあ、部室のレイアウトの相談始めましょっか!」
そう言うと、高森さんは鞄からノートを取り出して広げる。その後、白いページに部室の見取り図を書いていく。まだ出入り口と窓くらいしかないが。
「このカフェみたいにしたいんだっけ?」
「うーん、そうなんだけどそうじゃなくって...えっと...そう!さっき清崎君が言ってたような手作り感が欲しいんです!」
「手作り感?DIYでもするの?」
「それはいいかもしれませんね♪何作ろうかなぁ?」
「机や椅子は自分で作ったのを使うのはちょっと怖いかなぁ。棚とかは作ってみてもいいかも」
「棚かぁ。ちょっと調べてみましょうか。これなんてどうですか?」
「ディアウォール?なんだかオシャレだね」
「でしょ?簡単そうだしいろいろ小物やお花を置くだけで彩り豊かになりそうです!」
話している最中にお婆さんがカップを二つ持ってきた。
「仲良くお話中にごめんねぇ。お待ちどうさま、ミルクティーとクリームソーダだよ」
「「ありがとうございます!」」
「あら、面白そうなの見てるじゃない。ちょっと見せてもらってもいいかしら」
「いいですよ」
「わぁオシャレ!うちでも今度やってみようかしら。ありがとうね」
「おばあちゃんならどんな風に使ってみます?」
「そうねぇ...主人の作品とか、いい感じの写真とか立てかけるのがいいかねぇ?」
「いいと思います!是非参考にさせてもらいます!」
「いえいえ。こんな年寄りを参考にしなくても、若いなら若いなりの面白い発想で考えてもいいんだよ」
「年寄りだなんてそんな!私はここの雰囲気が大好きなので参考にしたいだけです!」
「ありがたいねぇ。是非頑張っておくれ」
「こちらこそありがとうございます!」
「じゃあおばさん奥に戻るからゆっくり過ごしておくれ」
と言いながらお婆さんは奥へと戻っていく。楽しそうな退職後の人生を送っていて、学生の身ながら羨ましく感じる。頼んだクリームソーダに口をつける。アイスの甘さにソーダの炭酸が混じって美味しい。
「清崎君、クリームソーダ美味しいですか?」
「うん、美味しいよ」
「良かった〜。清崎君に合ってて嬉しいです!」
その後も二人で部室のことについていろいろと話し合った。相葉先輩のために花を育てるだとか、アロマディフューザーを置くだとか、部活の思い出の写真を立てるだとかたくさん意見が出たので、一旦話題を持ち帰って明日続きをすることにした。
「というか外暗くなってきたけど大丈夫?」
「うーん、ちょっと不味いかも?もう帰りましょっか。お婆さんお会計お願いします!」
「はいよ。来てくれてありがとうね」
「こちらこそ!いつもどおり落ち着けました!」
「俺もこういう所初めてでしたけどクリームソーダ美味しかったです。ごちそうさまでした」
「私も若い男の子が来たから少し張り切っちゃって少しアイス増やしたのよ!満足してくれて嬉しいわぁ」
「ミルクティーごちそうさまでした!また来ますね!」
「二人ともありがとうねー!またいらっしゃい!」
笑顔で見送ってもらった。なかなかいい気分だ。これまで無骨な飲食店でお腹を満たすための少ないやりとりしかしないお店でばかり食べてきて、それはそれで良かったのだけれども、こういうお店も悪くないものだ。
「清崎君、今日は遅くまでありがとうございます。ここからだと、来た道を戻る方が早いのかな?」
「うん、そうだね。高森さんはもう近いの?」
「はい。だから今日はお別れですね。そういえば日記は清崎君が持ってましたっけ?」
「持ってるよ。今日のこと書くけどいいかな?」
「ふふっ、それが日記でしょう。いい内容になるのを期待しています♪」
「プレッシャーを感じるなぁ」
「それでは清崎君、また明日会いましょう」
「高森さんもまた明日」
2022年4月12日(火) 清崎霍弥
今日はこの日常記録部に入部した。一緒にいた高森さんもつられて入部を宣言した。部室の内装を話し合うために高森さんの提案により学校の近くのカフェARにて話し合いを行った。店主のお婆さんはとても気さくな方で、私達の話に乗ってくれたり、相談聞いてもらったりした。今日中には話がまとまらなかったので、明日以降も考えていくつもりだ。
次回、もう一人のヒロインがようやく登場。