ソードアート・オンライン 《Another Hero》   作:YASUT

1 / 11
転移結晶に関してちょっと改変あり。
ストーリー的には大した影響じゃない……と思う。
当人達はたまったもんじゃないでしょうがw





ホロウ・エリアⅠ

「……あれ」

 

 気が付くと俺は、薄暗い森の中にいた。

 どこの森かまでは分からない。

 これまで攻略組の一員として様々なダンジョンを踏破してきたが、それでも全く見覚えのない景色だった。

 

「……」

 

 状況を確認するため、辺りを見渡す。

 天を突かんとばかりにそびゆる大木の群れ。

 じめじめと湿った空気。

 そして、どこまでもリアルに再現された草木の匂い。

 

 ……うん、やっぱり森だ。

 

 とはいえ、この『ソードアート・オンライン』ではそこまで驚くことではない。

 ダンジョンのギミックや迷宮区のトラップなど、こういった強制転移はよくあることである。

 ましてやそれが、第76層の迷宮区なら尚更だ。

 きっと、何かのミスでうっかり転移してしまったのだろう。

 

 慣れた手つきでメニュー画面を開き、ステータスを確認する。

 プレイヤー名、《Arcanum》。異常はないな。

 

 ……ちなみに《アルカナム》とは、ラテン語で“奥義”、“秘密”という意味だ。

 厨二臭がすごい名前であることは、とうの昔に自覚している。

 ラテン語って時点で厨二臭がプンプンなのに、単語のチョイスも負けず劣らず厨二ってる。

 何でこんな恥ずかしい名前にしたんだ!と過去の自分を責めたのは、一度や二度ではない。

 

 剣は《ブレイブハート》。

 銀の刀身と白い柄の片手剣。

 盾は《ディニタースバックラー》。

 木と鉄で出来た、簡素な円形の盾……なのだが、性能自体は悪くない。

 見た目が安っぽいだけである。

 

 ……装備に異常は見当たらない。

 76層に初めて上ったときのような文字化けは起きていないようだ。

 

 少し安心した。だったら、こんなところはさっさとオサラバせねば。

 メニューの中からアイテム欄をタッチする。

 無数の項目の中から《転移結晶》を選択すると、手のひらに青い結晶が現れた。

 

「よし。転移…えーと、《アークソフィア》。」

 

 確か、今は76層より下の層には転移できなかったはずだ。

 攻略組ではないプレイヤーも76層から戻れなくなってしまったため、多くのプレイヤーが《アークソフィア》を拠点に活動している。

 結果、あの町にはプレイヤーメイドの屋台や店が山ほどあり、かなり賑やかになってきているのだ。

 帰ったらとりあえず、新しく出来た屋台でホットドッグでも食うか―――

 

 そんなことをぼんやり考えていたところで、異変に気付いた。

 

「……転移、できない?」

 

 転移結晶は、“転移”の掛け声の後に街の名前を発声することで起動する。

 上手く発音できなかったのだろうか……。

 

「転移!《アークソフィア》!」

 

 もう一度転移結晶を掲げ、今度ははっきりと町の名前を口にする。

 だが……

 

「…………」

 

 頼みの綱の転移結晶様は、ウンともスンとも反応しない。

 

 ……こいつは、ちょっと参った。

 この森、転移結晶が使えないのか。

 

 転移されることはあっても、することはできない。

 とんだトラップだな、これは。

 

「……って、ちょっと待て。これ、冗談抜きでピンチじゃないか……?」

 

 見知らぬ森林で一人ぼっち。孤立無援。

 おまけに、この森のモンスターのレベルもまだ判っていない。

 

 ……考えれば考える程、少しずつ状況の悪さが分かってきた。

 こんな時、万が一固有名(ネームド)モンスターに襲われでもしたら……

 

「……い、いや待て、落ち着け。大丈夫大丈夫、大丈夫だ。

 うん、きっと、多分。」

 

 ああ、心臓の鼓動が止まらない。

 嫌な汗も流れてきた。

 とにかく、慎重かつ迅速に、この森から脱出しないと―――

 

「きゃっ!?」

「うおっ!!?」

 

 得体の知れない衝撃。

 そこそこ勢いがついていたらしく、視界が大きく揺れる。

 が、背後からの衝突だったため、何とか転ばずには済んだ。

 

「ったく……一体誰……だ―――?」

 

 ぶつかってきた何か……おそらくはプレイヤー……を確認するため、振り返って―――

 

 ―――振り返った時には、既に遅かった。

 

 煌めく凶刃。

 刃はスキルによる補正を受け、高速で俺を貫く。

 

「な……くっ!」

 

 咄嗟に体を捻り、躱す。

 得物が短剣であったことが幸いした。

 短剣はスピードがある分、リーチは短い。

 

「……え?」

 

 ――色が見えた。

 何事かと、敵の姿を確認する。

 

 青のコートと、金の髪の少女。

 視線の動きに合わせ、少女の頭上にカーソルが表示される。

 

 色は、オレンジだった。

 この世界――ソードアートオンラインでは、犯罪者を示す色。すなわち――

 

 ――――人殺しだ。

 

 

「っ―――!!」

 

 

 恐怖か、それとも憎悪か。

 そんな黒い感情が、俺に剣を抜かせた。

 

 圏外でプレイヤーに剣を向けること。

 それは最悪のマナー行為だ。

 ……相手が、犯罪者(オレンジプレイヤー)でもない限りは。

 

「はあぁっ!!」

「っ―――!」

 

 少女は短剣を逆さに返し、こちらの反撃を防ぐ。

 かなり特徴的な短剣だった。

 そして、だからこそ覚えがある。

 

「な……!」

 

 この形状……おそらくはソードブレイカー。

 峰の凹凸で剣を受け止め、折ること、叩き落とすことを可能とした短剣。

 下手に戦えばこちらの剣の耐久値が削られる。

 このままでは拙い……!

 

「っ、せあああっ!」

「っ―――!?」

 

 全筋力(STR)を集中させ、短剣ごと少女を吹き飛ばす。

 やはり軽い。

 だが、敏捷値はあちらの方が上らしい。

 こちらの吹き飛ばしを物ともせず、少女は一瞬で体制を立て直した。

 

 

「――――――――――」

 

 

 静寂が訪れる。

 こいつは一体誰なのか。何故斬りかかってきたのか。

 

 ―――そんな疑問(こと)は、最早どうでもいい。

 

 気にする余裕がない。

 

 今のやり取りで、筋力値(STR)は俺の方が上であることが判明した。

 次からはおそらく、敏捷値(AGI)を生かした連続攻撃がくるだろう。

 ソードスキルか少女自身の剣技か、それは分からない。

 しかし、この世界での戦闘はプレイヤー・モンスターを問わず、全てがソードスキルを基準としている。

 

 ……短剣の攻撃、一撃一撃は大した威力じゃない。

 なら、ソードスキルの発動にのみ集中する。

 

「…………。」

 

 こちらの気配を感じ取ってか、表情が微かに変わる。

 やがて少女はソードブレイカーを構え直し―――

 

「はっ……!」

 

 こちらへ向かって駆け出した。

 敏捷値の補正を受けた少女は、爆発的に加速する。

 速度は先ほどと同等……否、それ以上。

 

「来るか……!」

 

 距離が詰まるにつれ、短剣の刀身が赤い光を発し始める。

 おそらくはソードスキル。

 その速さゆえ、右手の剣だけでは対処仕切れないだろう。

 だが、そのための盾。そのための防御だ。

 狙うはカウンター。

 盾で捌き、剣で斬る―――!

 

 

「ゴアアア――――――――――ッッッ!!!!」

 

 

「「っ―――!?」」

 

 何かの咆哮。

 明らかに少女のものではない。

 直後、巨体が上空から着地し、大量の土煙が舞い上がった。

 少女は発動中のソードスキルを中断し、俺から距離をとる。

 

 警戒しつつ、視線をゆっくり土煙へと向ける。

 そこには。

 

「な……っ!!?」

 

 煙の向こうには、ヤツ(・・)がいた。

 

 一番の特徴は、骨でできた巨大な鎌。

 骸骨の眼の部分からは、どす黒い赤色が見え隠れしている。

 

 全身が骨でできた巨大な百足。

 《スカルリーパー》

 そこにいたのは、アインクラッドの75層で攻略組を苦しめた、最悪のフロアボスだった。

 

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。