ソードアート・オンライン 《Another Hero》 作:YASUT
煙の向こうには、
一番の特徴は、骨でできた巨大な鎌。
骸骨の眼の部分からは、どす黒い赤色が見え隠れしている。
全身が骨でできた巨大な百足。
……《スカルリーパー》
そこにいたのは、アインクラッドの75層で攻略組を苦しめた、最悪のフロアボスだった。
「嘘だろ……?」
あの戦いでは、多くのプレイヤーが殺された。
ヤツの巨大な鎌で、無残に殺された。
……馬鹿げている。
そんな化け物が、なんでこんな森の中にいるんだ……!
「っ……なんとか撒いたと思ったんだけど……やるしかないか。」
金髪の少女は短剣を構え、スカルリーパーの方を向いた。
どうやら、アイツから逃げている最中だったらしい。
「…………。」
一プレイヤーが走って逃げられるということは、おそらく75層よりも弱く設定されているのだろう。
とはいえ、逃げ切れるような相手ではない。逃げると逃げ切るは別物だ。
……ならば。
ならば、倒すのみ。
生き残るにはそれしかない。
「なあ、アンタ。」
「……なによ。」
「……とりあえず、一時休戦だ。まずはコイツを倒したい。協力しよう。」
剣と盾を構え、意識をスカルリーパーに集中する。
「……正気?
私はオレンジよ。戦闘中、後ろからあんたに斬りかかる可能性だって、ゼロじゃない。」
「斬りたいならそうすればいい。そうすれば、俺もアンタもアイツに殺されて終わりだ。
一人だと勝てない。そう判断したから、逃げてきたんだろう?」
「っ…………。」
……少し、意地の悪い質問だったか。
だが図星だったらしい。
……安心した。
きっとこの少女は、困っている人を見捨てられないお節介な人種なのだ。
真っ先に『俺を置いて逃げるかもしれない』ではなく、『俺を斬るかもしれない』とあからさまな挑発をしたのが何よりの証拠。
彼女は既に、戦うことを選んでいる。
―――そして。
それは同時に少女が、《スカルリーパー》を俺達二人でも倒せると判断した、ということだ。
大丈夫だ。勝算は十分にある。
「…………わかった。今だけ協力してあげる。」
横目でこちらを確認した後、少女は再びスカルリーパーへと視線を向ける。
「……ありがとう。」
共闘の意思は固まった。
あとは―――
「ゴアアア――――――――――!!!」
スカルリーパーが再び咆哮する。
75層でのことを思い出すと、戦慄せずにはいられない。
「……作戦会議の時間はない、か。
盾持ちの俺が鎌を受け止めるから、攻撃を頼む。それでいいか?」
「……。」
少女は隣で、無言で頷いた。
「……よし、行くぞ!」
それが合図。
少女は短剣を構え、スカルリーパーの視界から外れるように駆け出す。
が、それだけでは振り切れない。
スカルリーパーの視線は、高速移動する少女に釘付けになっている。
しかし。
こういう状況でこそ、盾が生きてくる。
「こっちだ!」
特定の構えをとると同時に、剣が光を帯びた。
ソードスキル―――《ホリゾンタル》
「せあっ―――!」
ダメージ量はさほど大きくない。
だが、それでも構わない。
敵の注意を引きつけること。それが今の俺の仕事だ。
「ゴアアァァ――――――!!!」
スカルリーパーの赤い瞳がギロリ、とこちらを向く。
同時に、その巨大な鎌が振るわれた。
やはり速い……が、対応できない程ではない。
盾を構え、再びソードスキルを発動。
―――《シールド・ディフェンス》
「ッッ!!づぅ……!」
盾を通し、左手に鋭い衝撃が走る。
だが、HPバーの減少量は少ない。
この程度なら、なんとか……!
「グゴアアァ―――――!!」
鎌の切っ先はどちらかといえば、日本刀よりも西洋の剣に近い。
スカルリーパーは斬るどころか、寧ろ押し潰さんとばかりに二度目の鎌を振り下ろす。
―――その直前。
「ふっ―――!」
少女による、短剣のソードスキルが発動された。
スカルリーパーは体制を崩し、攻撃が中断される。
ここからでは、少女の姿はよく見えない。
だが、表示される《スカルリーパー》の名前の隣に、小さくアイコンが表示されていた。
防御力ダウンを示すアイコン。
短剣の最大の特徴は、豊富なデバフ効果にある。
これで、こちらの攻撃はより有効になった。
「「まだまだ……!」」
注意を引くため、この隙にもう一度ソードスキルを発動。
《ブレイブハート》の白い刀身が、一瞬にして黒く染まる。
―――《サベージ・フルクラム》
ステータス補正値に優れ、かつ攻守ダウンを付与する片手剣スキル。
黒い刀身で三角形を描く。
水平、
斬り上げ、
斬り下ろし。
最後の三撃目をヒットさせた瞬間、スカルリーパーは大きくよろめいた。
「……よし。今のうちに……」
この僅かな隙に回復ポーションを使用し、自身にリジェネをかける。
このゲームにおけるポーションは、回復というよりも
使うことで一定時間、自分のHPが少しずつ回復し続けるという仕様なのだ。
弱体化しているとはいえ、相手はボス級モンスター。
万全を尽くさなければ、とても二人では戦えない。
「―――っ!?
何してるの!避けて!!」
「え―――?」
懐を探っている最中、短剣の少女の声が聞こえた。
切羽詰まった声に驚き、顔を上げる。
―――そこには既に、鎌を引いた骨の百足がいた。
「な……んで……!?」
よく見ると、敵のHPは既に三分の二を切っていた。
スカルリーパーはゲージが一本減るたびに全ての動作、そしてスタンからの復帰速度も早くなる。
それは知っている。
だが、それがおかしい。
これまでに与えた攻撃は、精々ソードスキル三発。
弱体化してるとはいえ、たったそれだけでこんなに削れるはずが―――
「ゴアアア―――ッ―――ッ!!」
「がっ――――は……!」
鎌で薙ぎ払われると同時に、視界が揺れる。
無防備に固まった状態のまま、無様に吹き飛ばされた。
「っ―――く、そ。なん……で……?」
……分からない。
視界に表示されたHPバーが、三分の一ほど削られていた。
おまけに出血状態も付与されている。
このままだと徐々にHPが削られて……死ぬ。
……納得がいかない。
何か、致命的なミスをしたのか……?
もしそうなら、何を間違えて―――
「ゴアアッ―――――!!」
「な―――――がっ……!?」
また視界が揺れた。
一瞬だけの、この絶妙な浮遊感。
ジェットコースターみたいで気持ち悪い。
HPゲージが、また減少する。
「ごっ……っ……は、ぁぁ……っ!」
鎌の直撃を受け、地面を転がりながら吹き飛ばされた。
おかげで体の節々が痛い。
……前々から思っていたがこのゲーム、こういうところは無駄にリアルだ。
「っ……。」
何が起こったのか確認するため、視界の隅の
……そこには、見慣れない単語が書かれていた。
―――――《連携絶技・ホロウシンクロナイザー》
「……ははっ、なんだそれ。」
よく分からないが、どうやらソードスキルによる追撃効果らしい。
なるほど。
要するに、予想以上にダメージを与え過ぎた結果、怒らせてしまったわけだ。
「――――――――――。」
スカルリーパーが、再び鎌を振り上げる。
声を発することなく。
それはまるで、死神のように。
「逃げて―――!!」
少女の叫び声。
逃げて、と懇願する声。
―――無理だ。
動こうにも、動けない。
立ち上がれない。
どうやら、スタン状態に陥ってしまったらしい。
「……く、そ。」
……悔しい。
上手くいっていたはずだ。
戦力的には十分だったはずだ。
……だと、いうのに。
こんなことで、俺は、死―――
「―――――死なせるかぁぁ!!!!」
「「!?」」
剣と剣を交差させ、ギロチンのような鎌を受け止める。
黒いコート。黒い髪。黒い片手剣。
そして、それらと対照的な白い片手剣。
―――《二刀流》
たった一人のプレイヤーにのみ与えられた、
ああ……この男を、俺は知っている。
知らないプレイヤーなどいない。
―――『キリト』
それが、絶体絶命の俺を助けた剣士の名前だった。
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