ソードアート・オンライン 《Another Hero》   作:YASUT

3 / 11
ホロウ・エリアⅢ

 ◆

 

「ぎっ―――――!!」

 

 スカルリーパーの大振りの一撃を、真正面から盾で防ぐ。

 本来なら防ぎきれない一撃。

 だが、短剣のソードスキルによる攻撃力ダウンと、

 盾スキルによって強化された防御力が、それを可能にする。

 

 スカルリーパーの残りHPはあと僅か。

 奥義級のソードスキルを食らわせれば、そこで終わる。

 だがそれは、タンクの役割ではない。

 後は二人に託す……!

 

「ゴルアア―――――ッ!!!」

「っ、まず……っ」

 

 骨の百足は、二つ目の鎌を大きく引いた。

 一つならともかく、流石に二つは防げない。

 このままだと、また殴られる……!

 

 ―――このまま、だったなら。

 

「やっ―――!」

「ゴッッ―――――!!?」

 

 少女がスキルを発動し、骨の鎌を大きく打ち上げた。

 使用されたスキルはおそらく、《ウェポンバッシュ》。

 連続使用はできないが、高確率でスタンを与える万能型ソードスキル。

 

 鎌は弾かれた。

 もう一つは、俺が盾で抑えている。

 

 今のヤツは無防備同然。

 ここで。

 ダメージディーラーたるこの剣士の、怒涛の連続攻撃が炸裂する。

 

「っ―――!」

 

 黒い剣士は俺を追い越し、更に前へと踏み込む。

 特定の構えの後、両の剣が光を放つ。

 色は白銀。その輝きは、(ソラ)に輝く星の如く。

 

 ―――《二刀流》奥義、《スターバースト・ストリーム》

 

 

「うおおおあああ!!!!」

 

 

 本来両手で扱うような重剣を、その剣士は軽々と振るい、スカルリーパーを斬り刻む。

 その速さは、他のスキルの追随を許さない。

 

 ……74層のボス戦。

 当時この剣士は、二刀流による五十連撃でボスを倒した、と噂された。

 そんなものは誇張だと思っていた。

 いや、実際そうだろう。どうみても五十回には見えない。

 だが。

 目の前のこの光景は、そう見えても不思議ではないと、納得できるほどの凄まじさだった。

 

「ゴアア―――――…………」

 

 短く吠えた後、スカルリーパーは青いガラス片と化して消滅した。

 直後、視界に取得経験値とコルが表示される。

 

「……ふぅ。」

 

 ……HPバーの残りは、約半分。

 我ながらよく耐えたものだ。

 

「はあ……はあ……はあ……何とか、倒せたか。」

 

 二刀流の剣士はスカルリーパー……正確には、スカルリーパー“だった”ガラス片を眺めながら、息を整える。

 ……正直、油断していた。

 彼の助けがなければ、俺はきっと死んでいただろう。

 

「助かったよ。ありがとな、キリト。」

「え……あ、ああ。」

 

 歯切れの悪い返事……。

 どうやら、向こうは俺のことを知らないらしい。

 まあ、それも当然か。

 黒の剣士キリトはただ一つのユニークスキル持ちで、ヒースクリフ……茅場昌彦に勝利した英雄様。

 対し俺は、一攻略ギルドの(タンク)プレイヤーに過ぎないのだから。

 

 戦場を駆けまわっていた青いコートの少女が短剣を納め、俺達の所に戻ってきた。

 自然、体が固くなる。

 

「スカルリーパー……こんなモンスター、初めて見た。」

「……75層のフロアボスに似ていた。」

「フロアボス……!?

 なんでこんなところに……」

「さあな。でも、ステータスは大分弱くなっていた。同じステータスだったら、とても三人じゃ勝てなかったよ。」

 

 そこまで言ってキリトは、ようやく剣を背中に収めた。

 ……さて。

 スカルリーパーは無事倒した。

 が、その前の件はまだ終わっていない。

 

「……それで、どうするんだ?」

「え?」

「いや、「え」じゃなくてさ。だから、さっきの続きだよ。やるのか?」

「…………。」

「俺としては、できれば遠慮したいんだけど。」

 

 正直、疲れている今だとこの少女に勝てる気がしない。

 さっきみたいな展開は極力避けたい。

 

「待ってくれ。さっきのって、一体何のことだ?」

 

 ああ、そうか。

 キリトは知らないのか。

 

「……まあ、デュエルみたいなものだよ。スカルリーパーが来る前、ちょっと揉めてな。

 で、どうする?」

「…………。」

 

 無言を貫く金髪の少女。

 その視線はやはり、どこか硬い。

 第三者であるキリトがいなかったら、また襲い掛かって来そうなくらいだ。

 

「えーっと……部外者の俺が言うのもなんだけど、デュエルなら安全なところに移動してからでも……」

「っ……!」

「あっ……いや、なんでもない。」

 

 少女は俺から視線を外し、キリトを睨む。

 ……どうも、様子がおかしい。

 俺個人に恨みがあるわけではなさそうだ。

 相対する人間、全てが敵だと言わんばかりの態度。

 ……何かを警戒しているのか?

 

「あんた達は、あいつらの仲間じゃないの?」

「?」

 

 あいつら……?

 思わせぶりな言い方だな。

 

「あいつらって、誰のことだ。」

「……そう。知らないならいいわ。でも、見えてるんでしょ。わたしのカーソル。」

「……ああ。オレンジだな。」

 

 オレンジプレイヤー。

 それは、この世界では犯罪者を意味する。

 このカーソルのプレイヤーは皆、なにかしらのルールを破った人間だ。

 最も代表的な例として、プレイヤーキル―――人殺しが挙げられる。

 

「それを見て、なんとも思わないの?

 今だってそう。なんで普通に話しかけてこられるの?」

 

 ……なんで、か。

 それは、多分……

 

「……スカルリーパーと一緒に戦ってくれたから、かな。

 俺は盾を装備している。要するに壁、タンクだ。

 タンクは防御力がある分、スピードが遅い。

 アンタが本当に俺を殺す気なら……そして殺人に慣れているなら、俺を見捨ててモンスターPKをすると思うんだ。」

 

 モンスターPKとは、簡単に言えば自分ではなくモンスターにPKをさせる行為だ。

 これならば、自分がオレンジになることなく人を殺せる。

 その便利さ故、犯罪者(オレンジ)ギルドもよく使っている方法である。

 

「……関係ないよ。

 ………わたしは、確かに人を殺した。だから、わたしには関わらない方がいい。」

 

 静かに、少女はそう呟いた。

 

 ……塞ぎこんでいる、のか。

 

 何が理由かは知らないが、この少女は人との関わりを避けようとしている。

 VRMMOにおいて、ソロプレイは何より危険な行為だ。

 ……きっと、この少女なりに深い理由があるんだろう。

 下手に深追いすれば、傷つけてしまうかもしれない。

 

 少女は踵を返し、立ち去ろうとする。が―――

 

「いや、ちょっと待ってくれ!」

 

 放っておけないと思ったのか、これまで黙っていたキリトは少女を呼び止めた。

 

「……何?

 関わらない方がいいって言ったでしょ。」

「それは……分かった。

 ただ、もう一つだけ聞きたいことがある。ここは一体どこなんだ?」

「……分からない。一か月前からここにいるけど、わたしは何も知らない。生き残ることで精一杯だったから。」

「一か月……!?」

 

 予想以上の期間に、溜まらず声をあげてしまった。

 一か月間。

 そんな長い間、こんな森の中で生き延びてきたのか……

 

「……それはまた、とんでもないサバイバルだな。階層も表示されてないし。これが本当の神隠しってやつか。」

「縁起でもないこと言わないでくれ……ここ、転移結晶は使えないのか?」

「少なくとも、さっきは使えなかったな。原因は分からないけど―――」

 

 多分、結晶無効化エリアなんだろう。

 そう続けようとしたが、俺の声は第三者の声によって遮られた。

 

 

『《ホロウ・エリア》データ、アクセス制限が解除されました。』

 

 

「アナウンス……?」

 

 ということは、この状況はエラーでもなんでもなく、ソードアート・オンラインの仕様なのか?

 

「……あんた達、それ……」

「え……?」

 

 少女は、俺達二人の手元を見た。

 

 ……右手から、光が発せられている。

 ソードスキルのモノではない。

 光は手のひらで、得体のしれない紋様を描いていた。

 

「!

 いつの間にこんなものが……さっきまではなかったのに。」

「十中八九、さっきのアナウンスだろうな。

 《ホロウ・エリア》とアクセス制限……要するにここ、超特別なフィールドか何かなんだろうな。」

 

 手元から目を離し、景色を見渡す。

 周りにはとにかく木、木、木。

 そして、無駄に青い空。

 海で空を眺めると大らかな気持ちになれるが、こういう樹海で空を眺めると気持ちが沈むのは、なんでだろうな。

 転移結晶が使えない以上、自分達の足だけでこの森を抜けないと。

 

「ん……?」

 

 何気なく空を見ていると、妙な物を見つけた。

 いや、正確には物というサイズじゃない。

 とにかく巨大な、黒い球体。

 そんな自然の景色に全く合ってない建造物が、少し離れたところで宙に浮いている。

 球体の一番下から申し訳程度に木の幹のような物が生えており、そのまま地面に続いている。

 

「なあ。あの丸いの、何かわかるか?」

 

 浮いている建造物を指さし、少女に話しかける。

 

「うおっ、なんだアレ。球体の……ダンジョンか何かか?」

「分からない。わたしも入ったことない……というより、入れないの。」

「入れない……?」

「ええ。でも、あんた達がいれば入れる気がする。ここから近くに、それと同じ紋様が描かれてる装置があったから。」

「へぇ……じゃあ、案内頼めるか?」

「別にいいけど……でも、いいの?

 そんな簡単にオレンジ……いいえ、レッドを信じて。」

「さっきも言ったけど、本当に俺を殺す気ならもう殺してるだろ。

 それどころか寧ろ、一緒に戦ってくれた。

 アンタが自分をどう思っていようと、少なくとも悪い人間じゃない……と、俺は勝手に思ってる。」

 

 いきなり斬りかかってきたことはまだ許してないがな。

 ……まあ、“あいつら”とかいう連中と間違えて斬りかかったんだと思えば、仕方ないか。

 

「…………。」

 

 ……あれ、仕方ないのかな?

 顔をよく確認せず斬りかかるって、相当ヤバくないかな……?

 い、いやきっと、“あいつら”ってのは何か凄い組織なんだろう。

 で、この少女は怯えていた。

 故に相手をよく確認せず、斬りかかってしまった。

 そういうことにしておこう。

 無理矢理納得しよう。

 

「ああ、俺もそう思う。SAOの中で、一緒に命がけの戦いをしたんだ。それだけで十分信用に値するよ。」

「……そう。」

 

 キリトの援護射撃。

 そう、仕方なかったんだよ、絶対。

 悪いヤツじゃないと思ってるのは本当だし。

 

「俺はキリト。キミは?」

「……フィリア。」

 

 そしてさり気なく名乗る黒い剣士様。

 答える金髪少女。

 ……いいよな、そういう名前っぽい名前。

 まあ、今となってはもう慣れたが。

 こういう時は出来るだけ機械的に、定型文のように話せばいい。

 

「じゃあ、あんたは?」

「……アルカナム。呼びにくいと思うから、アルでいい。」

「フィリアと、アルか。よろしく。」

「ああ、よろしく。

 じゃあ挨拶も済んだし……とりあえず、行こう。

 先頭は案内のフィリア。俺がその後ろでカバーして、キリトは背後の敵の警戒。で、いいかな?」

「了解。」

「了解よ。」

 

 勝手に役割を決めてしまったが、二人に異論は無いみたいだ。

 よし。

 なら出発だ。早くこの森を抜けよう―――

 

 

 

『規定の時間に達しました。これより、適性テストを開始します。』

 

 

 

「?」

 

 またアナウンス……。

 ……テスト、か。

 

「い、いきなり何?」

「さっきのアナウンス……?

 既定の時間? 適性テスト?

 おいフィリア、これはいったい何だ?」

「わたしに聞かれても困る!」

「……要するに、なんかのイベントじゃないか?」

 

 アナウンスは確か、適性テストと言っていた。

 さっきのスカルリーパーの討伐が開始条件だったのかもしれない。

 

「―――なんだか知らないけど、面白いじゃないか。要するに、ここを抜ければいいんだろ?」

 

 不敵に、かつ無邪気に笑うキリト。

 その表情は、この絶望的な状況を楽しんでいるようにも見えた。

 

「あんた……こんな時によくそんな前向きになれるわね。」

「この状況でテストとやらを回避できると思うか?

 それに、未知のフィールドにはやっぱわくわくしちゃうんだよな。」

「…………。」

 

 ……言い分はともかく、キリトの存在は頼もしい。

 壁役(タンク)状態付与役(デバファー)攻撃役(アタッカー)

 一人ずつとはいえ、これで三拍子揃った。

 本来ならここに回復役(ヒーラー)も欲しいところだが、SAOというゲームのシステム上、仕方ないだろう。

 

「……もしかしてキリトって、バカなの?」

 

 ズバッと躊躇なく言い切るフィリア。

 だが同感だ。

 

「もしかしなくてもバカだな。重度のゲームバカ。楽観視し過ぎ。

 ……けどまあ、絶望して沈むよりは何倍もいいと思う。

 理由はどうあれ、どんな時でも前向きになれるのは、間違いなく長所だよ。」

「それは…………そうかもしれないけど。」

「……フィリア?」

「なんでもない。ほら、行くよ。」

 

 そう言ってフィリアは、俺達二人を先導し始めた。

 

 青いコートをなびかせ、先頭を歩く少女。

 一見、その姿は頼もしく見える。

 

 ……だけど。

 気のせいか俺には、どこか寂しそうにも見えた。

 

 

 




ストック終了~。

次回以降(続くとしたら)、クオリティは落ちると思います。


  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。