ソードアート・オンライン 《Another Hero》 作:YASUT
◆
「ぎっ―――――!!」
スカルリーパーの大振りの一撃を、真正面から盾で防ぐ。
本来なら防ぎきれない一撃。
だが、短剣のソードスキルによる攻撃力ダウンと、
盾スキルによって強化された防御力が、それを可能にする。
スカルリーパーの残りHPはあと僅か。
奥義級のソードスキルを食らわせれば、そこで終わる。
だがそれは、タンクの役割ではない。
後は二人に託す……!
「ゴルアア―――――ッ!!!」
「っ、まず……っ」
骨の百足は、二つ目の鎌を大きく引いた。
一つならともかく、流石に二つは防げない。
このままだと、また殴られる……!
―――このまま、だったなら。
「やっ―――!」
「ゴッッ―――――!!?」
少女がスキルを発動し、骨の鎌を大きく打ち上げた。
使用されたスキルはおそらく、《ウェポンバッシュ》。
連続使用はできないが、高確率でスタンを与える万能型ソードスキル。
鎌は弾かれた。
もう一つは、俺が盾で抑えている。
今のヤツは無防備同然。
ここで。
ダメージディーラーたるこの剣士の、怒涛の連続攻撃が炸裂する。
「っ―――!」
黒い剣士は俺を追い越し、更に前へと踏み込む。
特定の構えの後、両の剣が光を放つ。
色は白銀。その輝きは、
―――《二刀流》奥義、《スターバースト・ストリーム》
「うおおおあああ!!!!」
本来両手で扱うような重剣を、その剣士は軽々と振るい、スカルリーパーを斬り刻む。
その速さは、他のスキルの追随を許さない。
……74層のボス戦。
当時この剣士は、二刀流による五十連撃でボスを倒した、と噂された。
そんなものは誇張だと思っていた。
いや、実際そうだろう。どうみても五十回には見えない。
だが。
目の前のこの光景は、そう見えても不思議ではないと、納得できるほどの凄まじさだった。
「ゴアア―――――…………」
短く吠えた後、スカルリーパーは青いガラス片と化して消滅した。
直後、視界に取得経験値とコルが表示される。
「……ふぅ。」
……HPバーの残りは、約半分。
我ながらよく耐えたものだ。
「はあ……はあ……はあ……何とか、倒せたか。」
二刀流の剣士はスカルリーパー……正確には、スカルリーパー“だった”ガラス片を眺めながら、息を整える。
……正直、油断していた。
彼の助けがなければ、俺はきっと死んでいただろう。
「助かったよ。ありがとな、キリト。」
「え……あ、ああ。」
歯切れの悪い返事……。
どうやら、向こうは俺のことを知らないらしい。
まあ、それも当然か。
黒の剣士キリトはただ一つのユニークスキル持ちで、ヒースクリフ……茅場昌彦に勝利した英雄様。
対し俺は、一攻略ギルドの
戦場を駆けまわっていた青いコートの少女が短剣を納め、俺達の所に戻ってきた。
自然、体が固くなる。
「スカルリーパー……こんなモンスター、初めて見た。」
「……75層のフロアボスに似ていた。」
「フロアボス……!?
なんでこんなところに……」
「さあな。でも、ステータスは大分弱くなっていた。同じステータスだったら、とても三人じゃ勝てなかったよ。」
そこまで言ってキリトは、ようやく剣を背中に収めた。
……さて。
スカルリーパーは無事倒した。
が、その前の件はまだ終わっていない。
「……それで、どうするんだ?」
「え?」
「いや、「え」じゃなくてさ。だから、さっきの続きだよ。やるのか?」
「…………。」
「俺としては、できれば遠慮したいんだけど。」
正直、疲れている今だとこの少女に勝てる気がしない。
さっきみたいな展開は極力避けたい。
「待ってくれ。さっきのって、一体何のことだ?」
ああ、そうか。
キリトは知らないのか。
「……まあ、デュエルみたいなものだよ。スカルリーパーが来る前、ちょっと揉めてな。
で、どうする?」
「…………。」
無言を貫く金髪の少女。
その視線はやはり、どこか硬い。
第三者であるキリトがいなかったら、また襲い掛かって来そうなくらいだ。
「えーっと……部外者の俺が言うのもなんだけど、デュエルなら安全なところに移動してからでも……」
「っ……!」
「あっ……いや、なんでもない。」
少女は俺から視線を外し、キリトを睨む。
……どうも、様子がおかしい。
俺個人に恨みがあるわけではなさそうだ。
相対する人間、全てが敵だと言わんばかりの態度。
……何かを警戒しているのか?
「あんた達は、あいつらの仲間じゃないの?」
「?」
あいつら……?
思わせぶりな言い方だな。
「あいつらって、誰のことだ。」
「……そう。知らないならいいわ。でも、見えてるんでしょ。わたしのカーソル。」
「……ああ。オレンジだな。」
オレンジプレイヤー。
それは、この世界では犯罪者を意味する。
このカーソルのプレイヤーは皆、なにかしらのルールを破った人間だ。
最も代表的な例として、プレイヤーキル―――人殺しが挙げられる。
「それを見て、なんとも思わないの?
今だってそう。なんで普通に話しかけてこられるの?」
……なんで、か。
それは、多分……
「……スカルリーパーと一緒に戦ってくれたから、かな。
俺は盾を装備している。要するに壁、タンクだ。
タンクは防御力がある分、スピードが遅い。
アンタが本当に俺を殺す気なら……そして殺人に慣れているなら、俺を見捨ててモンスターPKをすると思うんだ。」
モンスターPKとは、簡単に言えば自分ではなくモンスターにPKをさせる行為だ。
これならば、自分がオレンジになることなく人を殺せる。
その便利さ故、
「……関係ないよ。
………わたしは、確かに人を殺した。だから、わたしには関わらない方がいい。」
静かに、少女はそう呟いた。
……塞ぎこんでいる、のか。
何が理由かは知らないが、この少女は人との関わりを避けようとしている。
VRMMOにおいて、ソロプレイは何より危険な行為だ。
……きっと、この少女なりに深い理由があるんだろう。
下手に深追いすれば、傷つけてしまうかもしれない。
少女は踵を返し、立ち去ろうとする。が―――
「いや、ちょっと待ってくれ!」
放っておけないと思ったのか、これまで黙っていたキリトは少女を呼び止めた。
「……何?
関わらない方がいいって言ったでしょ。」
「それは……分かった。
ただ、もう一つだけ聞きたいことがある。ここは一体どこなんだ?」
「……分からない。一か月前からここにいるけど、わたしは何も知らない。生き残ることで精一杯だったから。」
「一か月……!?」
予想以上の期間に、溜まらず声をあげてしまった。
一か月間。
そんな長い間、こんな森の中で生き延びてきたのか……
「……それはまた、とんでもないサバイバルだな。階層も表示されてないし。これが本当の神隠しってやつか。」
「縁起でもないこと言わないでくれ……ここ、転移結晶は使えないのか?」
「少なくとも、さっきは使えなかったな。原因は分からないけど―――」
多分、結晶無効化エリアなんだろう。
そう続けようとしたが、俺の声は第三者の声によって遮られた。
『《ホロウ・エリア》データ、アクセス制限が解除されました。』
「アナウンス……?」
ということは、この状況はエラーでもなんでもなく、ソードアート・オンラインの仕様なのか?
「……あんた達、それ……」
「え……?」
少女は、俺達二人の手元を見た。
……右手から、光が発せられている。
ソードスキルのモノではない。
光は手のひらで、得体のしれない紋様を描いていた。
「!
いつの間にこんなものが……さっきまではなかったのに。」
「十中八九、さっきのアナウンスだろうな。
《ホロウ・エリア》とアクセス制限……要するにここ、超特別なフィールドか何かなんだろうな。」
手元から目を離し、景色を見渡す。
周りにはとにかく木、木、木。
そして、無駄に青い空。
海で空を眺めると大らかな気持ちになれるが、こういう樹海で空を眺めると気持ちが沈むのは、なんでだろうな。
転移結晶が使えない以上、自分達の足だけでこの森を抜けないと。
「ん……?」
何気なく空を見ていると、妙な物を見つけた。
いや、正確には物というサイズじゃない。
とにかく巨大な、黒い球体。
そんな自然の景色に全く合ってない建造物が、少し離れたところで宙に浮いている。
球体の一番下から申し訳程度に木の幹のような物が生えており、そのまま地面に続いている。
「なあ。あの丸いの、何かわかるか?」
浮いている建造物を指さし、少女に話しかける。
「うおっ、なんだアレ。球体の……ダンジョンか何かか?」
「分からない。わたしも入ったことない……というより、入れないの。」
「入れない……?」
「ええ。でも、あんた達がいれば入れる気がする。ここから近くに、それと同じ紋様が描かれてる装置があったから。」
「へぇ……じゃあ、案内頼めるか?」
「別にいいけど……でも、いいの?
そんな簡単にオレンジ……いいえ、レッドを信じて。」
「さっきも言ったけど、本当に俺を殺す気ならもう殺してるだろ。
それどころか寧ろ、一緒に戦ってくれた。
アンタが自分をどう思っていようと、少なくとも悪い人間じゃない……と、俺は勝手に思ってる。」
いきなり斬りかかってきたことはまだ許してないがな。
……まあ、“あいつら”とかいう連中と間違えて斬りかかったんだと思えば、仕方ないか。
「…………。」
……あれ、仕方ないのかな?
顔をよく確認せず斬りかかるって、相当ヤバくないかな……?
い、いやきっと、“あいつら”ってのは何か凄い組織なんだろう。
で、この少女は怯えていた。
故に相手をよく確認せず、斬りかかってしまった。
そういうことにしておこう。
無理矢理納得しよう。
「ああ、俺もそう思う。SAOの中で、一緒に命がけの戦いをしたんだ。それだけで十分信用に値するよ。」
「……そう。」
キリトの援護射撃。
そう、仕方なかったんだよ、絶対。
悪いヤツじゃないと思ってるのは本当だし。
「俺はキリト。キミは?」
「……フィリア。」
そしてさり気なく名乗る黒い剣士様。
答える金髪少女。
……いいよな、そういう名前っぽい名前。
まあ、今となってはもう慣れたが。
こういう時は出来るだけ機械的に、定型文のように話せばいい。
「じゃあ、あんたは?」
「……アルカナム。呼びにくいと思うから、アルでいい。」
「フィリアと、アルか。よろしく。」
「ああ、よろしく。
じゃあ挨拶も済んだし……とりあえず、行こう。
先頭は案内のフィリア。俺がその後ろでカバーして、キリトは背後の敵の警戒。で、いいかな?」
「了解。」
「了解よ。」
勝手に役割を決めてしまったが、二人に異論は無いみたいだ。
よし。
なら出発だ。早くこの森を抜けよう―――
『規定の時間に達しました。これより、適性テストを開始します。』
「?」
またアナウンス……。
……テスト、か。
「い、いきなり何?」
「さっきのアナウンス……?
既定の時間? 適性テスト?
おいフィリア、これはいったい何だ?」
「わたしに聞かれても困る!」
「……要するに、なんかのイベントじゃないか?」
アナウンスは確か、適性テストと言っていた。
さっきのスカルリーパーの討伐が開始条件だったのかもしれない。
「―――なんだか知らないけど、面白いじゃないか。要するに、ここを抜ければいいんだろ?」
不敵に、かつ無邪気に笑うキリト。
その表情は、この絶望的な状況を楽しんでいるようにも見えた。
「あんた……こんな時によくそんな前向きになれるわね。」
「この状況でテストとやらを回避できると思うか?
それに、未知のフィールドにはやっぱわくわくしちゃうんだよな。」
「…………。」
……言い分はともかく、キリトの存在は頼もしい。
一人ずつとはいえ、これで三拍子揃った。
本来ならここに
「……もしかしてキリトって、バカなの?」
ズバッと躊躇なく言い切るフィリア。
だが同感だ。
「もしかしなくてもバカだな。重度のゲームバカ。楽観視し過ぎ。
……けどまあ、絶望して沈むよりは何倍もいいと思う。
理由はどうあれ、どんな時でも前向きになれるのは、間違いなく長所だよ。」
「それは…………そうかもしれないけど。」
「……フィリア?」
「なんでもない。ほら、行くよ。」
そう言ってフィリアは、俺達二人を先導し始めた。
青いコートをなびかせ、先頭を歩く少女。
一見、その姿は頼もしく見える。
……だけど。
気のせいか俺には、どこか寂しそうにも見えた。
ストック終了~。
次回以降(続くとしたら)、クオリティは落ちると思います。