ソードアート・オンライン 《Another Hero》 作:YASUT
澄み渡った空。雲一つない晴天。
樹海で見ると気分が落ち込んだが、《アークソフィア》で見ると全然違う。
文字通り晴れ晴れする。
うっかり寝落ちしてしまいそうなくらいだ。
「……アークソフィア。戻ってこられたのか。」
続いてキリトが転移して来た。
その声からはやはり、安心の色が見える。
「転移門の設定は……よし、あそこにも行けるみたいだ。」
キリトの言った“あそこ”とは、あの黒い球体の中のことだ。
あの場所には、《管理区》と名前が付けられていた。
ホロウ・エリアの探索済みのエリアは、あそこにあるコンソールから転移できる。
そしてここ……《アークソフィア》とも、転移門を通じて繋がっているようだ。
「……なあ、アル。お前はどう思う?」
アークソフィアと管理区の繋がりを確認した後、キリトは真剣な声で話しかけてきた。
「どうって、何が?」
「あの子……フィリアのことだ。
いろいろと事情はありそうだけど、俺には、PKをするような子には見えなかった。」
「…………そうだな。」
それに関しては同感だ。
同感だ、けど……
「……けど、関係ないだろ、そういうの。
PKをしそうとかしなさそうとか、さ。」
そうだ、見た目は関係ない。
ましてやそれがゲームの中なら、尚更。
「キリトだって、“殺人犯を殺してしまった一般人”は怖いだろ?」
「まあ……どちらかといえば。」
「だったら、あの子はオレンジだよ。
仮に正当防衛だったとしても、殺人は殺人だ。
それに本人も言ってたじゃないか。わたしは人を殺した、って。
確かにフィリアは信用できるけど、信頼はできないな、俺は。」
フィリアというプレイヤーがどれだけいい人間だったとしても、信頼することは出来ない。
寧ろ、いい人間だからこそ信頼できない。
彼女の後ろには、そんな人間がオレンジになってしまうだけの事情がある、ということなのだから。
「キリト君!」
少し離れた場所から、一人のプレイヤーが近づいてきた。
緑を基調とした服と、金髪のポニーテール。
肌は妖精のように白く、耳も若干尖っている。
名前を知ってることから、キリトの知り合いらしいことは分かるが……
「キリト。あれ、誰だ?」
「あー……俺の知り合いだよ。個人情報に関わるから、これ以上は言えないけど。」
「それ、自分からばらしてるのと同じだぞ。」
「あっ……!」
しまった、とばかりに停止するキリト。
「……悪いけど、今のは聞かなかったことに……」
「分かってる分かってる。別に何もしないさ。
しかしまあ……知り合いねぇ。」
それも女性ときた。
まあ、血盟騎士団のアスナと深い仲なんだから、他に女性と知り合っていてもおかしくないか。
このゲームの容姿は全てデータだが、基本的に本人とそっくりに再現されている。
見た目も悪くない、むしろ良い。
まさに両手に花ってやつ―――
「キリトさん!」
おっと、またキリトの名前が。
今度は……小さい飛龍を連れた少女だ。
あの子は知ってる。“ビーストテイマー”の“シリカ”。
モンスターを連れていることとその愛らしい外見から、一部ではファンクラブも出来つつあるらしい。
今ではもうちょっとしたアイドルだ。知名度はかなり高い。
「シリカとも知り合いなのか?」
「あー……まあ、な。」
確かにシリカは有名だが、レベルは中層プレイヤー程度のはずじゃなかったか。
流石に今はもう少し上だろうけど……
いやそもそも、ソロで攻略プレイヤーのキリトがどうやって彼女と接点を持ったんだろうか……?
「よ、よかった~。」
キリトの無事を確認して安心したのか、緑の少女が大きく息を吐いた。
「リーファにシリカ。どうしたんだ、そんな血相変えて。」
「き、キリトさんの位置情報が長時間ロストしたから……あたし……」
「うん……あたしも、てっきり……」
「あ……そうか。ごめんな、二人とも。」
口には出していないが、この二人はキリトが死んだと思っていたらしい。
75層のエラーのせいで、今はここより下には転移できない。
一層にある生命の碑を確認しようにも、出来ないのだ。
「キ、キリト君!」
来ると思った、三人目。
キリト氏、これは一体どういうことかね。
帰還しただけで女の子三人がお出迎えとか、ちょっと現実離れし過ぎな気がする。
とはいっても実際、ここはゲームの中なわけだが。
「やっぱり、アスナも来たのか……」
「だ、大丈夫だったの……!?」
「落ち着けアスナ。見ての通り、大丈夫だから。」
「よかった……なんか変な胸騒ぎがして、キリト君を探してたんだよ。
そしたら、位置情報を確認できなくて……
丸一日ロストしてたんだよ……!?
メッセージだって、皆で送ったんだから!」
「あ。そういえば……」
言われて、キリトはメッセージ欄を確認する。
……ついでに俺もしておこう。
メニューを開き、メール欄をチェック。
とりあえず一番上……ギルドマスターからのメールを確認すると―――
『 返 信 シ ロ 』
「……。」
件名と要件抜きでただ一言、そう書かれてた。
だが、最後に来たのは今から5時間前だ。
一見怒っているように見えても、それは5時間前の話。
履歴を見直すと、同じように『返信ください』だの、『メールしてください』だの、果てには、ひたすら意味のない空メールが連打されていた。
……どうやら、随分と心配させてしまったらしい。
「もう、キリト君のバカ!
う、ううう……」
「お、おい……泣くなよ……」
口では罵倒しつつ、泣き崩れるアスナ。
彼女もまた、よほど心配してたんだろう。
「……?」
いつの間にいたのか、アスナの隣にはもう一人女の子がいた。
ただし小さい。シリカよりも。
来ている服も防具らしくなく、武器も持っていない。
そんな小さな子が、じーっとキリトを睨んでいる。
睨んでいる……つもりなのだろう。
外見のせいで全く怖くなく、一周まわって愛らしさすら感じてくるが。
……おかしい。
ナーヴギアには年齢制限があったはずだ。
一番下は確かシリカより少し下くらいで、少なくともこんな小さな子供がSAOにいるわけ……
「あ……ユイ。
ユイからもアスナに何か……」
「 パ パ ! 」
「!――――――――――?」
―――――その瞬間。
俺は―――考えることを、辞めた。
「は、はい!」
「今回はパパが悪いです!
ママは、ずっとパパのことを捜していたんですよ!?
それなのにパパは……!」
「ご、ごめん……」
「わたしじゃなくて、ママに謝ってください!」
「ご、ごめんアスナ。事情はちゃんと説明するから。
とりあえず、宿に戻ろう。」
「……うん。」
「お、おいアスナ。こんな街中で……」
「パパ!」
「す、すいません、このまま行きます……」
「あーあ、やっぱり今回もアスナさんかぁ……」
「でも、無事に見つかってよかったです。」
「そうだけどさ……。」
「……仕方ないですよ、今回だけは。」
「心配ばっかりさせるんだから、キリト君は。」
「きっと事情があったんだと思います。詳しい話を聞いてみないと、ですね。
……そちらの方にも。」
「あー……そういえばそうだね。キリト君と一緒にいたみたいだし……とりあえず、エギルさんのとこ連れていこっか。
……おーい、聞こえるー?」
「――――――――――ハッ!?」
ふと、目が覚めた。
欠けた夢を、見ていたようだ。
……欠けた夢ってなんだろう。
……夫婦の夢?
なんというか、夫がいなくなって、妻が街中捜し回るような―――
「?」
気が付くと目の前には、二人の女性がいた。
片方は金髪の女性。
フィリアと違って明るい金だ。
緑を基調とした服と、金髪のポニーテール。
肌は妖精のように白く、耳も若干尖っている。
もう片方……こちらは知っている。
シリカ。数少ないビーストテイマーの一人だ。
彼女も76層に来てしまっていたのか。
「君、さっきまでキリト君と一緒にいたんだよね?」
「え……ああ、まあ。」
「じゃあ、悪いんだけど一緒に来てくれないかな?
キリト君、気を使って本当のこと話さないかもしれないし。」
「あー……わ、分かった。」
本当のこと……とはつまり、ホロウ・エリアのことか。
あのフィールドは、無茶さえしなければ絶好の稼ぎ場だ。
強力なアイテムが手に入り、アインクラッドにまだ存在しないスキルを試せて、経験値とコルも入る。
その分危険度も段違いだが、パーティーを組めば対処できる程度。
100層攻略を進めるため、情報は共有した方がいい。
「じゃあ行くよ。ついでに皆にも、君のこと紹介しないと。」
「皆……?」
「うん。皆良い人だから、すぐ仲良くなれると思うよ。」
「ふーん……そっか。ありがとな。」
心配させてしまったギルドマスターに、適当に謝罪のメールを送る。
『件名:しつこい
本文:メールしつこいよ、うざい。
ゴメン。
後で何か奢る。』
うむ、我ながら惚れ惚れするツンデレ文。
このまま送信ボタンをタッチ。
……送信完了、と。
「……よし。じゃあ、案内頼むよ、リーファさん。」