ソードアート・オンライン 《Another Hero》 作:YASUT
その辺がまだ曖昧なんだぜ。
「ほら、ここだよ。」
エルフ似の少女―――リーファさんに案内された場所は、一際大きな喫茶店だった。
ここから少し離れた場所には、カップルのデートスポットにうってつけの噴水広場、NPC運営の野外カフェなどがある。
わざわざこんなところに店を構えるあたり、店主の“NPCの味に負けてたまるか”という意地が垣間見える。
「って、ここは―――」
そう、今更紹介されるまでもない。
ここはトッププレイヤーの一人、斧戦士エギルさんが営む茶店ではないか……
慣れているのか、リーファさんは躊躇いなくスタスタと店の中へ入っていく。
「どうかしましたか?」
ひょこり、と横から顔を出すシリカ。
「ん……いや、なんでもない。
そーだな。ついでに珈琲でもご馳走になるか。」
リーファさんに続き、俺とシリカは喫茶店の中へ入って行った。
◆
「―――――おお。」
途端、独特の香りが鼻孔をくすぐる。
これらは全てナ―ヴギアによって再現された“それっぽいもの”の延長に過ぎないが、それでもこの香りは落ち着く。
「だから言ったでしょ?
どうせその辺りをフラフラしてるだけで、そのうち帰ってくるって。」
「いや、フラフラしていたわけじゃ……」
「アスナもみんなも、心配し過ぎなのよ。」
「……おお。」
店内に並ぶいくつもの円形テーブル。
そのうちの一つで、キリトが一人の女子に説教されていた。
緑、赤、黒をバランスよく混ぜ合わせた服。
そして、シンプルな黒髪。
左胸に胸当てがあることから、弓使いのようにも見える。
だが、今のところこのゲームに弓という武器は確認されていないはずだ。
ロールプレイか何か……だろうか?
「まったく、アスナをほったらかしてどこかに行っちゃうなんてさ。
キリト、アスナにちゃんと謝ったんでしょうね?」
「あ、謝ったよ。」
今度はもう一人の女の子。
女の子。また女の子か。
赤いドレスとアーマー、そしてピンクの髪。
……彼女は名はリズベット。通称“リズ”。
こう見えても彼女は鍛冶スキルをマスターしており、ある程度戦闘もこなせるメイス使いである。
76層から戻れなくなってしまったため、多くのプレイヤーは信頼できる鍛冶屋に装備強化を頼めない。
そのため、彼女をはじめとした少数の鍛冶プレイヤー達が、攻略組の装備強化を一身に引き受けているのが現状だ。
俺自身も、何度か彼女の世話になったことがある。
ま、十中八九覚えられていないだろうが。
「―――だから、それは不可抗力だったんだって。」
「不可抗力?」
「そうなんだよ―――っと、来たか。頼むアル。証言してくれ。」
「―――――は?」
突然指名され、思わず間抜けな声が出てしまった。
三人の視線が俺に集まる。
「…………。」
……逃げられそうにないな。
仕方ない。
観念して、キリトがいるテーブルまで足を進める。
「? キリト、この人は?」
「俺、ダンジョンを探索してたら、突然転移させられたんだよ。その先で知り合ったのがアルカナム……アルだ。」
「アルカナム……?
随分と変わった名前ね。」
だって名前じゃないですしおすし。
ラテン語ですし。
“奥義”で“秘密”ですし。
というか、こういう時本当にどういう顔したらいいか分からない。
「ということは、貴方はそのダンジョンでキリトと会ったの?」
弓使いっぽい女の子が、今度はこちらに聞いてきた。
「ああ。キリトには、死にかけのところをぎりぎりで助けられたよ。」
「へえ、そうなの。見たところレベルも高そうだし……攻略組?」
「えっと……うん、まあ。」
ドサクサに紛れて参加してるような地味ギルドだけどな。
今のところ死人も出てないし、目立つような失敗も成功もしてない。
小説におけるモブギルドみたいな感じだ。
……悲しくなってきた。
「それって、攻略組でも危ないダンジョンってこと?」
「だろうな。敵のレベルも高かったし。ただ、アインクラッドとはちょっと違ってて、隠しエリアみたいなところだった。」
「隠しエリア?
そんなところがSAOにあるの?」
「ああ。モンスターも強いのが多かったし、高難度エリアって感じだな。
その分、強い装備やレアアイテムが手に入る可能性が高い。
だからその場所……《ホロウ・エリア》を探索してみようと思うんだ。」
キリトは、ホロウ・エリアでも見たような―――不敵かつ無邪気な顔で、笑った。
これをバカと捉えるか勇敢と捉えるかは、人によるだろう。
「そうかあ。
まだ見ぬレア素材……新しいスキル、かあ……ウフフ……」
「だったら、ピナのパワーアップも……!」
「きゅるるっ!」
「私の武器も、もっと強くなるかもしれない。」
「あたしも、もっと……!」
「…………。」
どうやらキリトハーレム(仮)は、ホロウ・エリアを探索する気満々らしい。
その気合いは評価すべきなんだろうけど……
―――後のことを考えると、ちょっと拙いかもしれない。
「ちょっとみんな、もしかして行くつもりなの!?」
驚きながら話すアスナ。
彼女はいなくなったキリトのことを一番心配し、動揺していた。
他の皆さんが行くと言えば、そりゃ驚くだろう。
「いいじゃないか別に。俺だってちゃんと帰ってこれたんだから。」
「ううう……でも、なんか引っかかるのよね。」
「高難度エリアで手に入るアイテムでみんなを強化できれば、この先の攻略だって楽になるだろう。」
「…………。」
みんな、ね。
……少し、怪しいな。
聞いてみるか。
「そうすれば、100層攻略も現実味を帯びてくる。」
「それは…………確かに、そうね。
うーん……でもなあ……」
キリトの正論に押され、唸るアスナ。
やがて、何かを決心したように、彼女は口を開いた。
「……なら、わたしもいくわ。キリト君だけに行かせるわけにはいかないもの。」
「―――そうだな、キリトにだけ行かせるわけにはいかないな。」
アスナに便乗し、割り込み、そして続ける。
他ならぬキリトに。
「ここはやっぱり、皆で行くべきだと思う。」
「分かってるって。強くなりたいのは、みんな同じだ。」
「……その“みんな”ってのは、いったい誰のことなんだ?」
「―――え?」
いきなり強く発言してしまったせいか、キリトが戸惑う。
周りの女子達も、同じように首を傾げている。
正直、この空気はキツイ。
キツイが……言うしかない。
「だから、その“みんな”って誰のことを指してるんだ?
もしかして、ここにいる七人のことを言ってるのか?」
「いや、違う。もう一人いるだろ。」
「もう一人……ああ、フィリアのことか。でも―――」
「―――――キリト君。誰、その“子”。」
「……。」
一瞬。
一瞬にして、空気が変色する。
サベージ・フルクラムも真っ青なブラックオーラ。
発生源は言うまでもない。
……アスナ。
黒い閃光様の誕生である。
「あ……れ、アスナさん?」
「ねえキリト君。アル君が言ったフィリアさんって……誰?」
誤解が無いように言うとアスナさん……アスナ様は今、笑っておられる。
それはまるで天使のような―――本当に天国に連れていかれそうな―――極上の笑みだ。
「…………。」
「…………。」
「…………。」
「…………。」
「……パパ。」
「……?」
あれ、何だこの空気。
アスナ様はまだ分からんでもない。あれだけイチャイチャされたら、付き合ってることくらい誰だって分かる。
パパとかいう意味不明な外国語も聞こえた気がするが、きっと幻聴だ。あとでキリトを問い詰めよう。
とにかく。
今問題なのは、ブラックオーラがアスナ様以外からも噴き出していることだ。
「えっと、フィリアってのはアルと一緒で、向こうで知り合った人で……」
「 女 の 子 ?」
「えっと……ハイ。」
キリトは、しどろもどろになりながらも答える。
ビクビクという擬音が聞こえる気がする。
これも幻聴だろうか……?
「フラフラしてただけじゃなくて、女の子を口説いてたんだ。」
「く、口説くとか、そういうんじゃないぞ!!」
「どうだか。」
ふむふむ。
ここで“口説く”という単語が出る辺り、ますます怪しいな。
まあ、まさかキリトハーレム(仮)の(仮)が取れることはないだろう。
……ないよね?
「キリト君……わたしが泣くほど心配してたのに、女の子と……」
「たまたまだって!
たまたま向こうに転移されて、アルとフィリアがスカルリーパーと戦ってたから、加勢しただけだって!」
「アル君……そうだ、アル君!」
「うおぅ―――――!?」
アスナはキリトの元を離れ、閃光の如くこちらに詰め寄ってきた。
ちょっと怖い、いややっぱ凄く怖い。
「アル君、キリト君とフィリアさん、どんな感じだった?」
「えぇ!? いや、うーん……ん?」
アスナの後ろを見ると、やはりというべきか何故というべきか、女子が全員目を鈍く光らせていた。
反対に男子……というよりキリトは、首をふるふるさせながらこっちを見ている。
―――あ、数回瞬きした。シグナルか?アイコンタクトか?
なになに……“チ ガ ウ ヨ ナ ?”
「……ふむ。」
―――――そうか、分かったぞ!
この状況で言うべき言葉。
それはすなわち―――!
「 か な り 親密でした。」
「!!?」
「アル、お前―――!!」
「知るか!
女を抱いて溺死しろ!
じゃあな!」
剣も弓も要りません。
“オンナ”で“オトコ”を囲み、爆弾を投下するだけの簡単なお仕事です。
……そして俺は、脱兎の如く逃げ出した。
見ていたい気持ちもあったが、それはあくまで見ていたいだけであって、巻き込まれたいわけではないからだ。
……そういえば、珈琲、飲みたかったな。
でもエギルさんいなかったし、しょうがないか。
登場人物が多いと書き分けが難しい……
ハーレム系って結構難易度高くない?
……俺が下手なだけか。