ソードアート・オンライン 《Another Hero》   作:YASUT

7 / 11
前回、アーテル(オリキャラ)の登場が未定と言ったな。
あれは嘘だ。


ホロウ・エリアⅣ

 ――《管理区》。ホロウエリアにおける唯一の拠点。

 空は青くて暗く、まるで夜だ。

 浮いている黄色の文字列が明かりになっており、この空間を照らしている。

 

「ここが噂に聞く《ホロウ・エリア》か。

 ――虚ろなる世界。フッ、中々にそそるネーミングではないか。殺風景極まりないこの景色にも納得がいく」

 

 到着早々、相方のアーテルが何かを呟いた。

 突っ込むとキリがないので、基本スルー推奨である。

 

「んー……やっぱりか。これは公開しない方がいいかもなぁ」

「公開? 何のことだ、アルカナムよ」

「攻略組への情報公開、だよ。もし制限が無かったら、攻略組“みんな”で探索したかったんだけどな」

 

 どうやら、ホロウエリアに連れて来れるのは一人だけらしい。

 おそらくキリトも同じだろうから、探索できるのは最大で4人だけということになる。

 タンクは攻撃力が高くないから、パーティープレイの方がラクなんだけど……

 

「ククッ、案ずるな。そのためにこのオレがいるのではないか。

 貴様はただ、盾となればいい。その代わり、剣たるこのオレが魔物共を殲滅してくれよう。

 働き次第では、LAのボーナスアイテムを譲ってやらんでもない」

「そうか、それは助かる」

 

 ギルド《グレイトフル・デッド》には、守るべきルールが一つだけある。

 それは、手に入れた装備の平等な分配だ。

 レア度に関係なく、手に入れた武器が片手剣ならば俺かマリアさん、刀ならばアーテル、短剣ならばハシーシュさんに、無条件で渡す。

 それ以外は一旦ギルドに持ち帰り、売却後、平等にお金(コル)を分配する。

 自分勝手な理由での装備売却は許されないのだ。

 

 ……とはいっても、要するに

 “この装備いらんからお前にやるわ”

 程度のルールに過ぎないのだが。

 

「ん――?」

「……あ」

 

 奥の転移用コンソールの前には、前回別れた時と同じように彼女がいた。

 青いコートを羽織った短剣使い……フィリアだ。

 だが、以前とはどこか違う。

 振り返ったフィリアの表情は――なんというか、少しだけ柔らかかった。

 

「……また会えたね」

「ああ……今度は、襲い掛かってこないんだな」

「再会して第一声がそれ?

 わたし、貴方の中ではどう思われてるの?」

「危ない人」

「……それ、どういう意味?」

「ごめんなさい」

 

 頭を下げる。

 ……しかし怒るということは、本人も少しは気にしてると考えてもいいのだろうか。

 もしそうなら、二度と俺には攻撃しないよう注意してもらいたい。

 流石に二度目は躱せる気がしない。

 

「……アル、アル。聞こえるか、応答せよ」

 

 後ろからアーテルが俺の鎧を何度か叩いた。

 ノックか。

 

「何だよ。俺はここにいるぞ」

「そうか、ならばいい。そして、だからこそ訊こう。

 アルカナムよ。あの少女は一体何だ」

「何って、ギルド会議で言っただろ。ホロウ・エリアで知り合った女の子だ」

「ということは――――ほう。

 やはりオレンジか。オレの目が狂っていたわけではないようだな」

「っ――!」

 

 ……犯罪者(オレンジ)

 こちらの会話が聞こえてしまったのか、フィリアは警戒を露わにした。

 いつ戦闘が始まってもいいように、臨戦体制をとっている。

 それを見て――

 

「ク――――ククククク。」

 

 アーテルは、見下すように笑った。

 まるで、怯える少女を追い詰める悪魔のように。

 同時に黒い侍はゆっくり……ゆらゆらと歩を進め、俺とフィリアの間に立った。

 

「クク。アルカナムから聞いたぜ。相方が随分と世話になったらしいな――犯罪者(オレンジ)さんよ」

 

 紅い瞳が少女を捉える。

 それに対しフィリアは、黙ってアーテルを窺っている。

 おそらく感じ取ったのだろう。

 立ち振る舞い、口調、装備から。

 

 ――コイツは、今までのプレイヤーとは違う、と。

 

 アーテルは腰に差した得物―――《村雨》の柄を握り、抜刀する。

 銀色に光る美しい刀身を、魅せつけるように。

 

「ここで会ったのが運の尽きだ、犯罪者(オレンジプレイヤー)

 見えるか、この剣の輝きが。聞こえるか、コイツの声が。

 そう。コイツは今、猛烈に血を欲している。

 安心しろ、殺しはしない。そのかわりに、少しばかり踊ってもらうぜ。

 かつて《音速舞踏(ソニック・レイヴ)》と恐れられた、このアーテル様とな!」

 

「……えっと……?」

「……はぁ」

 

 フィリアは今、確信したはずだ。

 

 ……コイツは、今までのプレイヤーとは違う、と。

 

 そんな彼女の思いなど知る由もなく、アーテルは紅い眼を光らせ、頬を歪ませる。

 

「クク……いくらオレンジとはいえ、所詮は子供。震えて声も出ないか」

 

 勝利を確信する黒侍を無視して、フィリアは俺を見た。

 既に敵意は見えない。

 寧ろ、驚きと困惑でいっぱいみたいだ。

 こういった手合いには、あまり慣れていないのかもしれない。

 

「……ねえ。誰、その人」

「一応、俺と同じギルド所属。名前は――」

 

「アーテル。《黒》のアーテルだ。

 混沌(カオス)より生まれ、人の心を持ってしまった悲しき魔物。

 その尋常ならざる戦闘力とスピードから、戦場を舞う漆黒の侍―――《音速舞踏(ソニック・レイヴ)》と呼ばれている――」

 

「という設定のキャラを演じてる、ただの厨二病だ。悪い奴じゃないから、あんまり気にするな」

「……へえ。そうなんだ」

 

 フィリアは短剣から手を放し、棒立ちのまま適当に相槌を打つだけだった。

 それを見て、アーテルはようやく刀を納める。

 戦う必要はないと判断したのか。

 ――それとも、始めから戦う気はなかったのか。

 そのどちらかは、俺にも分からない。

 

「ふむ、成程。確かに犯罪者(オレンジ)だが――匂いがしないな」

「は……匂い!?」

 

 匂いと聞いて狼狽えるフィリア。

 女の子……匂い……香り……

 あ、これはまずいな。フォローフォロー。

 

「ちなみに、何の匂いだ?」

「言うまでもないだろう。……血の匂いだ」

「ですよねー」

 

 言うと思った、そういうこと。

 

「…………」

 

 じろり、と俺を睨むフィリア。

 なんで俺なんだ。

 セクハラっぽくなったのコイツのせいじゃないか。

 無自覚と自覚ありの差か……?

 

「まあ何にせよ、貴様は犯罪者(オレンジ)だが悪ではない。

 否、悪であったとしても敵ではない。アルカナムが信じたのならば、オレもお前を信じよう。

 貴様、名は?」

「……フィリア。」

「《Philia(フィリア)》……古代ギリシャ、4つの愛のうちの一つ、だったか。

 その意は、友情と友愛。クク、なんとも美しい名前よな」

 

 無駄にそういう知識は豊富なんだな。

 そこは本気で感心するよ。

 

「オレはアーテル。二つ名の方で呼んでもらっても一向に構わんぞ、《虚栄殺人(ホロウ・マーダー)》よ」

「え……何、それ」

「気にするな」

 

 ……《虚栄殺人(ホロウ・マーダー)》、か。

 まさか、こんな短期間でフィリアに二つ名がつけられるとは……

 アーテル、気を許すのが早すぎるぞ。

 それだけ俺を信じてくれてるのは、悪い気はしないが。

 

「……分かった。なるべく気にしないようにする。

 それで、二人は何しに来たの?」

「ホロウエリアの探索。アーテルが連れてけって、うるさかったからな」

「フン、当然だろう。何せ未知なるフィールドだぞ。MMOプレイヤーとして、黙って見ているわけにはいかん。

 ……それに、ヤツとの力の差を埋めるチャンスでもあるからな」

 

 ヤツ、とはおそらくキリトのことだろう。

 アーテルは黒色を好む。

 色が被ること、そしてソロでもあの強さを誇るキリトに対抗心を燃やしているのだ。

 

「そういえば、あれからキリトは来たのか?」

「ううん、来てない。でも、そろそろかな。」

「そろそろ?」

 

 その時、後ろにある転移門が光を発した。

 青い球体の光。誰かが転移するときのエフェクトだ。

 球体は二つ。ということは、転移してくるプレイヤーも二人。

 

「――到着っと。アスナ、大丈夫か?」

「うん。ちゃんと転移できたみたい」

 

 光の中から現れたのは、二人の剣士。

 《黒の剣士》キリト。

 そして、血盟騎士団副団長――《閃光》のアスナ。

 

「なん……だと……!

 おい、これは一体どういうことだ! 説明しろアルカナム!」

 

 かませっぽい発言をしたのは、言うまでもなくアーテルだ。

 そういえば、キリトもホロウエリアに来れることは説明してなかったか。

 

「あれ、アル。なんでここにいるんだ?」

「探索と案内。相方がどうしても来たいってさ。そっちも似たようなものか?」

「まあな。アスナ、こっち」

 

 キリトは俺を追い越し、奥にいるフィリアのところまで歩み寄る。

 途端、アスナの顔が少しばかり不機嫌そうに歪んだが、黙ってキリトについていった。

 

「うぐぐ……これ見よがしに自分の女を見せつけるとは……!

 《黒の剣士》。やはりヤツこそが、いずれは倒すべき宿敵……!」

「宿敵は俺じゃなかったか?」

「確かに貴様は宿敵だが、ルビは“トモ”だ。普段は敵対しているが、物語のクライマックスでは共闘するポジションだ。

 だがヤツは違う。ヤツこそは魔王キリト。今は無理だがいずれは、必ずこの手で……!」

 

 握り拳を作り、アーテルはキリトを睨みつける。

 当の本人はフィリアと絶賛自己紹介中で、こちらのことは物理的に眼中に無いらしい。

 

「くそぅ、見るに耐えん! 行くぞアルカナム!」

「は?」

 

 がしり、と腕をつかむアーテル。

 力が籠っているせいか、若干痛い。

 

「待てって、どこ行くんだ。あと放せ」

「アインクラッドだ。今日はとことん付き合ってもらう。ボス部屋まで一気に行くぞ!」

 

 なんと無茶苦茶な……よほどキリトが嫌いらしい。

 けど、気持ちは少しわかる。

 “強い”、そして“彼女がいる”。これだけならまだいい。

 だが、“自分よりも年下である”という現実が、こちらのプライドに傷をつけてくる。

 要するに、ただの嫉妬だ。

 そして、年下相手に嫉妬している己の小ささにも、余計腹が立つのだろう。

 

「はぁ……」

 

 気持ちはわかるから、抵抗はしない。

 今日は厄日だと割り切って、付き合うとするか。

 

「あ、ちょっと待って、アル。と、変な人」

「むっ……!」

 

 俺を引きずるアーテルが止まり、振り返る。

 引き止めたのは、キリト達と自己紹介を終えたフィリアだった。

 

 というか、変な人って何だ。

 そして反応するなアーテル。ほとんど認めてるぞ。

 

「……まあいいか。で、なんだフィリア」

「えっと、一つ頼みがあるんだけど、時間いいかな?」

「頼み、か……アーテル、いいか?」

「……構わん。たかが人間一人の願い、叶えることは容易い」

 

 渋い顔をしたまま、アーテルは腕を放してくれた。

 アスナがアーテルの言葉遣いに怪訝そうな顔をしているが、スルーしよう。

 キリトがなんとかしてくれる。

 

「ありがと。実は、武器を強化したいんだ。

 ホロウエリアのダンジョンの敵がドロップする、“鈴音鉱石”ってアイテムが必要なんだけど……私一人じゃ苦しいから、手伝って欲しいなって」

 

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。