ソードアート・オンライン 《Another Hero》 作:YASUT
鉱石で出来た巨人――《ヴァリィストライク》が拳を振り上げた。
大きさは
その一撃は、ソードスキルに勝るとも劣らない。
盾で防ぐ。
鈍い衝突音のあと、HPバーが少量削られた。
「くっ――!」
鉱石系のモンスターは一撃が重い分、総じて鈍い。
次に攻撃が放たれるまで、秒単位で時間がある。
「ハッ――今度はこっちだ、石ころ!」
モンスターの背後。
そこでは漆黒の《刀》使い、アーテルが構えていた。
腰を深く沈めた納刀の構え。
――抜刀術。
「飛天〇剣流……奥義――!」
アーテルは
刃は光を帯び、ソードスキルが発動される。
「天翔〇閃――!」
聞き覚えがある叫びと共に、《辻風》が放たれた。
《ヴァリィストライク》の胴体を一閃。
鉱石の体が欠け、敵のHPバーが削られる。
……三割だけ。
効果はいまひとつのようだ。
「なん……だと……!」
このタイプのモンスターは斬属性、突属性に耐性を持つ。
斬属性攻撃しかない《刀》では、大したダメージは与えられない。
《ヴァリィストライク》の胴体が180度回転。
今度はアーテルに向けて、その固い拳を振りかざした。
――それでいい。
先程の俺に対する攻撃と、アーテルのソードスキルによる挑発。
これで一時的にだがヘイトは逆転し、攻撃対象が変更された。
「アーテル無視しろ! 追撃頼む!」
「む、任せろ――!」
構えを取り、スキルを起動。
剣だけではなく、全身が光を帯びる。
「っ、いくぞ――っ!」
一撃目。
全体重を乗せた体当たり。
二撃目。
回転、大振りの右水平切り。
三撃目。
ダメ押し、最後の体当たり。
――打属性三連撃、《メテオブレイク》
《ヴァリィストライク》は体制を崩し、よろける。
そこへ――
「はぁぁ――!」
アーテルが間髪入れず《浮舟》が発動。
刀身が青く輝き、勢いよく斬り上げ――
一瞬にして、鉱石の体が縦に裂かれた。
――そして追撃効果、スキルチェインが発動。
追撃エフェクトと共に、3割残ったHPバーは一瞬で蒸発。
鉱石の塊は、青いガラス片と化して消滅した。
「――決まった。龍・〇・閃」
「《浮舟》な。単発斬り上げのソードスキル」
「違う、龍〇閃だ! もしくは龍〇閃でも可!」
「いや分かんねえよ」
たぶん文字が違うんだろうけどさ。
軽く突っ込みつつ、愛剣《ブレイブハート》を背中に納める。
片手剣には特筆すべき性能はないが、全属性のソードスキルが揃っている。
相性など、この武器の前では無いも同然。
だが、ソードスキルというものは大概、癖が強く難しい。
例えば先程の《メテオブレイク》。
体当たり、剣戟、体当たりの順の攻撃。
頭突きやパンチだったならともかく、連続で体当たりというのは存外上手くいかない。
……まだまだ練習が必要か。
「凄いね、二人とも」
少し離れた場所で観戦していた一人のプレイヤーが近づいてくる。
金の髪と青いコートの短剣使い、フィリアだ。
「今のでもう5体目だよ。これなら、思ってたよりもすぐ集まりそう」
「鈴音鉱石って、全部で何個いるんだ?」
「一応、三個あればいいはずだよ」
三個でいいのか。随分と少ないんだな。
「アーテル、ドロップしたか?」
「当然だ。オレを誰だと思っている」
自慢げに言う黒い侍。
いつの間に装備したのか、防具は黒系の着物になっている。
刀と黒い着物。
どこかで見た恰好だが……思い出せない。
思い出せないということは、思い出さなくてもいいことなんだろう。
このエリアのモンスターは強力だが、二人でかかれば倒せない相手じゃない。
レベルが高いキリトとアスナ、そしてやや低めの俺達で手分けして集めることになったのだが……
「これで三個だ。クク、黒の剣士が出るまでもなかったな」
こっちだけでもう三個集まったらしい。
強化素材が多いのはいいことだ。
「よし。この調子で集めまくろう」
「なんで? 三個あれば十分じゃない?」
「いいや。鍛冶屋が失敗したときのことを考えると、三個じゃだめだ。
二回頼めるように、せめて六個。プラスアルファとして、キリト達と合わせて九個集めよう」
「どうしてそんなに……いやな思い出でもあるの?」
「…………」
「なにその沈黙」
「いや……」
フィリアから視線をそらす。
……武器強化。
それはすなわち、理不尽な運試し。
成功率90パーセントのはずなのに失敗したり、60パーセントなのに失敗して逆に弱体化してしまったり、なんていうのはザラだ。
折角強化した数値がプロパティチェンジ――
勿論、実際にはそんなことしないけど。
「おーい。アル、フィリア、アーテル」
キリトが手を振りながら、遠くから近づいてくるのが見えた。
少し後ろにはアスナもいる。
どうやら、二人も鈴音鉱石を集め終わったらしい。
キリトとアスナを発見すると、アーテルの顔がわかりやすく歪んだ。
どんだけ嫌いなんだよ。
「鉱石、集め終わった、けど……どうした、アーテル」
「……なんでもない。
ともかく、これで鈴音鉱石は合計六個。ひとまずは任務完了だな」
「いや、合計九個だ」
「……何?」
キリトはメニュー画面を開き、全員に見えるよう可視モードに変更する。
アイテム欄の中には、
“鈴音鉱石×6”
と表示されていた。
……二倍か。
どれだけハイペースで狩ってたんだ、この二人。
「なん……だと……!
キリト達は六個。対し、オレ達は三個。
二倍……だと……」
俺の感想を代弁し、がっくりと項垂れるアーテル。
対してドヤ顔なキリト。
……同じ《黒》でもここまで差があるとは。
恐るべし、二刀流。
「……?
ちょっと待てよ……?」
キリトのアイテム画面を眺めていると、上の方に気になる項目を見つけた。
一番左は“USE”
この欄は、主に消費型アイテムが詰まっている。
回復ポーションや転移結晶などだ。
次は“EQUIP”
ここは武器、防具。
三つめは“OTHER”
素材や鉱石等。手に入れた鈴音鉱石もこの中に入っている。
……問題は、その隣。
「キリト。なんでストレージの中にアスナの名前があるんだ?」
“Asuna”
俺の知る限りでは、これは“アスナ”と読めると思うんだが……
「あー、えっと、それは」
「わたしたち、夫婦ですから」
「………………は?」
代わりにアスナがきっぱり答える。
キリトは照れたのか、少し頬を赤らめた。
……ていうか、フウフってなんだっけ?
「なん……だと……なんだとぉぉ――!?」
素で驚くアーテル。本日何回目だ。
でもこの様子から察するに、“フウフ”ってのはやっぱり夫と妻的なアレのことか。
「キリト、結婚してたんだ」
「ああ……まあ、な」
フィリアも驚きを隠せない様子。
同年代(?)が結婚してると聞けば、そりゃ驚くか。
でも、この世界での結婚はボタンをポチポチするだけで出来ちゃうわけだし、正直俺はあまり驚いてない。
もっと聞きたいことがあったのを、“夫婦”で思い出した。
「なあキリトクン」
「な、なんだアル。なんでクン付け?」
「じゃあ――“パパ”で」
「ぱ……!?」
「ねえパパ。俺、パパに聞きたいことがあるんだけどー?」
「……」
キリトは気持ち悪い、と言わんばかりに後ずさり。
ちょっとショック。
「ちょ、パパって……!」
「アルカナム……貴様、そういうことだったのか――!」
後ろの二人も同様に距離をとる。
すごいショック……
「パパって……ユイちゃんじゃないんだから」
「そのユイちゃんについて聞きたいからわざわざパパって呼んだんだけど……」
分かってくれたのはアスナだけか。
……あれ? アスナもちょっと下がってる? みんな引いてる……?
そんな馬鹿な……
「クク……まさか、貴様が魔王キリトの息子だったとはな。
道理で闇の波動を強く感じたはずだ」
と思ったが、アーテルはいつも通りだった。
距離をとったのは引いたからではなく、演技だったかららしい。
やっぱり、分かってくれるのはお前だけだ……心の友よ!
「して、ユイちゃんとは一体何者だ? 貴様の妹か?」
「え? いや、俺も知らない」
「兄すら知らぬ妹の存在……か。
魔王の娘、ユイ。ヤツは一体、何者なんだ……!」
知らんがな。
目の前の
「いや、ユイはアルの妹じゃないぞ」
「分かっている。では、やはり貴様の娘ということか。
……ん? ならば貴様は、以前アスナとまぐ――」
まずい……!
言い終える前に一瞬で距離を詰め、渾身の掌底を撃ちこむ――!
「掌〇破!」
「ごはぁっ――!?」
攻撃特化のアーテルの防具は、比較的軽装だ。
タンクの一撃であっても、いい感じで直撃すれば十分な威力になる。
とはいっても所詮ソードスキルじゃないし、武器も使ってないから、一割削れたらすごいレベルだが。
「ごふっ――クク、タンクでありながらその身のこなし……あれから衰えてはいないようだな。
……というかアルカナム、なぜ今攻撃した。冗談抜きで分からんのだが」
「そうか、分からないか」
次は左手も同時に行くか。
久しぶりに腕が鳴るぜ……物理的な意味で。
「双撞掌底――」
「ま、待て分かった。そういうことだな、R指定的なアレだな」
「――分かればよろしい」
両腕を下げ、構えを解く。
……子供がいるということは、きっと“そういう”経験をしたということだ。
この“そういう”の部分は絶対に言語化してはいけない。何時如何なる時でも。
明確な理由は分からないが、何故かそうしなきゃいけない気がする……!
……ユイについて最初に言及したのは俺なんだから俺が悪い気もするが、ここは敢えて目を瞑ってもらおう。
たぶん反論できないから。
「――さてと。アイテムも集まったし、管理区に戻ろう」
よく考えたらホロウ・エリアのエピソードって、POH登場まで適当にエリア探索してるだけだった……