ソードアート・オンライン 《Another Hero》 作:YASUT
バステアゲートの浮遊遺跡?
知らんがな! 一気に飛ばすぜ!
ボス戦とかめんどくさいし……
……後々挿入投稿するかもしれんけど。
※フィリア視点。オリジナルあり。
「チッ、ようやく行ったか。相変わらずチンタラしやがってよぉ……」
「!!! 誰っ!?」
咄嗟に短剣を引き抜き、振り向く。
奥には、
机にそのままキーボードがついたような台と、ホロウエリアの転送先が表示された巨大な画面。
――その奥には、見慣れない影が一つあった。
「おっと危ねぇ、いきなりそんなモン突きつけるなよ。怖くて膝がブルっちまうぜ」
コンソールの裏から現れたのは、長身の男だった。
キリトよりも、アルよりも、頭一つ高い。
黒と緑が混ざったコートで全身を隠していて、顔はよく見えない。
「どうやってここに……」
「そんな事ぁどうだっていいだろう? 世の中、不思議な事だらけだしなぁ」
男を注視するとシステムが認識し、カーソルが現れる。
色はオレンジ。
長身。全身を覆い隠すコート。
この特徴には、覚えがある。
「もしかして……キリトが言ってた、《ラフィン・コフィン》とかいう……」
「おーおー、俺らも有名になったな。こっちの世界でも知られてるとは」
「っ――!」
SAO最大の殺人ギルド《ラフィン・コフィン》
その一員であることに、男は同意した。
彼らについてわたしは詳しく知らない。
でも、そんな人殺しがわざわざ来たということは――
「……わたしを殺しに来たの?
そう簡単にやられると思って――!」
「――――――あ゛?」
「っ……!」
蛇に睨まれた蛙。
そんな言葉が頭に浮かんだ。
眼を見た瞬間、嫌でも理解させられた。
――この男は違う、と。
本物の眼。
今まで何人ものSAOプレイヤーを殺してきた、正真正銘の殺人鬼だ。
「……おっと。悪い悪い、つい癖でな。
まぁ落ち着けよ。別にお前を殺しに来たわけじゃねぇ」
「……じゃあ、何の用」
短剣を思いっきり握って、なんとか理性を保つ。
……正直に言うと、怖い。
逃げ出してしまいたい。
でもそれ以上に、こんな男に弱みは見せたくなかった。
「そんな怖ぇ顔するなよ。同じオレンジ同士だろぉ?
肩身の狭いオレンジ同士、仲良くやろうぜ」
「……ハッ。よくいう……」
そんなはずはない。絶対に同じじゃない。
確かにオレンジ同士だけど、わたしとこの男とでは天と地ほどの差がある。
ここまでわたしは、殺人鬼の眼はしていない……!
「――知ってるぜ、俺は。お前が、一体何をしたか」
「なっ……!!」
――その言葉が、ひどく耳にこびりついた。
わたしのしたことを……知っている……?
どうして……どうやって――
「言えないよなぁ、言えるわけないよなぁ……あのビーター野郎には」
「ビーターって……キリトのこと? キリトに何かしたら……!」
「おお、怖い怖い。分かってるって」
「っ、この……!」
おちょくるように男は笑う。
知らない間に、短剣を握る手が微かに震えていた。
「――今は、
「……?」
ぼそり、と男は呟く。
そのせいで、あまりよく聞き取れなかった。
「ま、そっちはいいか。
でも俺たち、話が合うと思うぜ。少なくとも、あんなヒーロー気取りのガキよりはな」
「……用がないなら消えろ」
「ハハッ。まあ、そう言うなよ。こっちは親切でわざわざ出向いてやったんだからよぉ」
フードから口だけ覗かせて、ニタリと笑う。
そして――
「……お前ぇ。アイツ等と一緒にいたら、死ぬぜ」
「っ――!!」
男は、何よりも耳障りな一言を言い放った。
「ちょっと、それどういう意味!?」
「だぁから、そう怒るなって」
こっちの気も知らず、男は笑いながら肩をすくめる。
「俺の推測が当たってるとしたら、お前ぇはそろそろ『自分の正体』ってヤツに気づいているはずだ」
「え――」
体が芯から凍りついた。
自分の……正体?
……分からない / 分かりたくない 。
この男が何を言ってるのか、わたしには――
「違うか? オレンジホロウのフィリアさんよぉ」
「……だから、なに?
ホロウとか、よく分からないことを言って……」
――やめろ。
――違う。
――聞きたくない。
「はぁ~~~~。だからさぁ~~」
男は大げさに、わざとらしくため息をついた。
そんなことも分かっていないのか、と。
そんなことも……
「お前とあいつらとじゃ、住む世界が違う。文字通り、そのまんまの意味でな」
――やめて。
「お前ぇは所詮、影の世界……《ホロウ・エリア》の住人なんだよ。
俺も含めてな。そう……俺達は、人間じゃあない。何から何までそっくりの、ただのコピーだ。俺はPoHとかいう男の、お前ぇはフィリアとかいう女の、な」
「違う! わたしは……」
「じゃあ、なぜお前はあっちに
「っ……!」
反論できない。
でも――違う。
違う、違う、違う、違う、違う。
そんなはずはない。
「……わたしはお前らとは違う。わたしは……わたしは人間だって――」
「ただ認めたくねぇだけだろ。自分は人じゃぁないってことをよ。
お前ぇは俺らと同じ。な~んも変わんねぇよ」
「……」
……それが、止めだった。
“俺らと同じ”
それは、オレンジ同士って意味じゃなかった。
そのままの意味。
わたしたちは――人間じゃない。
「
その表情、いいねいいねぇ! 思わず涎が出ちまうよ」
「だから……だから、なんだって言う!」
それでも、負けたくなくて、声を張り上げる。
「人間じゃなくたって……キリトも、アスナも、アルも、アーテルも!
四人は、わたしの為に戦ってくれた!
わざわざ危険なホロウ・エリアまで来てくれて……大事な攻略の時間まで割いて……わたしを手伝ってくれた!」
それだけは、胸を張って言えた。
最初の数回だけだったら、ただの興味だけだったら、ここまでわたしのわがままを聞いてくれるはずがない。
ただの気まぐれだったのかもしれない。
それでも四人は確かに、わたしのために戦ってくれて――
「本当にそう思ってるのか、お前。こいつは傑作だぜぇ」
「どういう意味!?」
「アイツ等は、ホロウ・エリアにある新スキルやアイテムに興味を持ってんだ。
お前ぇは……そうだな。言ってみれば、“便利な案内人”ってとこか」
「……嘘」
――何かが、割れた気がした。
「嘘よ……そんなこと、ない……そんなことない!」
「じゃあ何か?
会ったばかりのヤツを、命張って助けるってか?
ましてや――いきなり自分に斬りかかってきたヤツを手助けするってかぁ? ナイナイナイナイ!
大体よぉ。お前ぇ、アイツを見てて本当に気づかなかったのか?」
「……アイツ?」
「アルカナム、とかいうガキだよ。
遠目で見ただけだったが……あのヤロー、お前ぇと組んでるときは大抵壁になってただけだったなぁ」
「……それが、何?」
アルはタンク職のプレイヤーだ。
だったら、パーティーの壁になることは間違っていない。
「だーかーら、違うんだよ本来は。
キリトとかいうビーターから教えて貰っただろ? 俺達は以前、攻略組とドンパチやらかしたって。はっきり言って俺は、どんなプレイヤーよりもヤツが怖かったぜぇ。
……だが。肝心のヤツは、まだお前ぇに手の内を隠してる」
「意味……分からない」
「そうだよなぁ、分かんねえよなぁ。
つまりお前ぇは、ヤローにとってその程度の存在なんだよ。
“信用はされても、信頼はされていない”
実力は認められても、頼られていない。それが今のお前ぇだ。
……自分がしたこと、もう一度振り返ってみな」
「……ぁ」
……後悔した。納得した。
言われてみると、確かにその通りだった。
……ホント、馬鹿みたい。
なんであのとき、アルに斬りかかったんだろ、わたし。
「……あんた、どこまで知ってるの?」
「ALL、ALL ALL ALL!
残念ながら全部知ってんだ。何から何まで全部な!」
「だからなんで、なんであんたが知ってるの!?」
「はぁ~~~? なんで知ってるかって? んなこたぁどうでもいいだろ。
大事なのは“なんで”じゃなくて“何を”だ。念のためもう一度言っておくぜぇ」
男は――PoHはゆっくりと腕を上げ、指を差し、改めて宣言した。
「――俺は、お前の全てを知っている」
「っ……」
……嘘じゃない。
この男は、本当に全部知っているんだ。
わたしが人間じゃないことも。
わたしが――――を殺してオレンジになったことも。
何もかも、全部……!
「で、ようやく本題だ。
お前ぇこのままだと……死ぬぜ?」
死の宣告。
お前は死ぬ。
今度は、きちんと理解できた。
「……なんで」
「お前ぇだけじゃねぇ、俺もだ。
このままだとホロウエリアにいる連中全員……みんな、み~んな、仲良く
「……意味がわかんないし。そんなこと、信じられるわけがないじゃない!」
「ちょっと考えりゃぁすぐ分かる。
あの四人はこのホロウ・エリアで確実に強くなる。
俺から言わせれば、このゲームはかなりヌルイ。となると、ヤツらが100層をクリアする可能性も高くなるだろう。
そうなったら……このホロウ・エリアは、俺達は、一体どうなると思う?」
100層をクリア……このゲームがクリアされたら、わたし達がどうなるか。
そんなこと、考えなくても分かる。
でも――分かりたくなくて、嘘をついた。
「知らないわ」
「そうやって逃げるなよ臆病者。
……SAOの世界がなくなったら俺達がどうなるか、想像くらいはつくだろ?」
「……」
――右手から唯一の武器がこぼれ落ちた。
カシャンと音を立て、短剣が跳ねる。
「……ザッツライト。そういうこった。ゲームがクリアされれば、データに過ぎない俺達は消える。このままだと俺達は、ヤツらに殺されるってことだ」
「違う。そんなこと……」
「まぁた“違う”か~? いい加減くどいぜ。
お前ぇがどう思ってようがどーでもいいんだ。大事なのは、俺達が“殺される”って結果なんだからなぁ。
このままだと俺は殺される。だから俺はヤツらを止める。だってよぉ……いくらなんでも、死にたくねぇしなぁ」
ぼやくように、どこまでも弱々しく。
死にたくないと、男は言った。
「だから、お前ぇの力を借りに来たんだぜ」
「わたしに……裏切れっていうの……?」
できるわけがない。
今更そんなひどいこと、わたしには――
「NON、NON、NON。心配すんな、俺もそこまで鬼じゃねぇ。なぁに、ちょいと誘い出すだけでいいのさ」
男は悪魔のように。
どこまでも甘く、わたしを誘う。
「お前ぇは何もしない、何も見てない。
いつものように探索してたら、思わぬアクシデントにあってしまった。ただそれだけのことよ」
「そんなこと……できるわけないでしょ……」
視界が滲む。
頬を伝い、何かが零れた。
……力が入らない。
いつもみたいに、声が出ない……
「大丈夫、アイツらは死なない。俺も殺さない。
ただ、俺達と同じ世界の住人になるだけなんだから」
「同じ……世界……?」
「そうだぜ。よぉく考えてみろ。
このまま誰にも気づかれず、一人で虚しく消えるか。
それとも同じ存在になってもらって――
「ぁ――」
――最後の壁が溶かされた。
越えてはいけない、壊れてはならない、最後の境界が。
何気ない誘惑で、いとも簡単に。
「――じゃあな。次に会ったとき、返事をくれ」