黒衣の探求者 ~神殺しの刃~   作:黒の夢

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最終話 託された願い

 暗い世界。微かな光さえも射すこともない常闇。

 未知なる力の答えを知り、人と鬼が争う世界で神の責務を果たし、元の世界へ帰ってきた。

 いや、煉獄のように己の責務を全うすることは出来なかった。最後の最後、罪を犯した。決して犯してはならない大罪。だから今、牢獄ような世界に囚われているに違いない。

 しかし、悔いてなどいない。全てを理解した上で行動した。

 自らが犯した過ちの罪は全て、謹んで受けよう。

 ただ、唯一気がかりなことがあるとすれば、再び暴走しないかということ。己が正義を貫き通そうという執念だけは、我ながら呆れ果てるほど強い意思を持っていた。

 要らぬ心配、憂慮にも値しない。何度試みようが、必ず阻まれることだろう。理屈では語れない、人々の強さの前に⋯⋯。

 では、始めるとしよう。

 いつ許されるかも分からない償いを、常闇の世界で。

 意識を閉じようとした時、声が聞こえた気がした。聞き覚えのある声だった。あの世界へ導かれた時と同じ声。

 背中が温かい。振り返る。光――そう、光だ。光すらも飲み込んでしまいそうな常闇の世界で微かに照らす光は、輝く蝶へと姿に変えた。

 

           ☆ ☆ ☆

 

「ここは⋯⋯」

 

 気がつくと一人佇んでいた。

 数え切れないほど倒壊した建物、火災の跡、いたる所で煙が立ち込め、薄暗い雲が空を覆っている。

 ここは、荒廃した世界。

 なぜ、ここに居る? この世界は消滅したと言っていた。

 

「お気づきになられたようですね」

「天使⋯⋯」

 

 第七宇宙の破壊神、ビルスに仕える天使ウイス。

 

「この世界は、復活を遂げたのです」

「⋯⋯復活だと?」

 

 あり得ない。消された世界は、元に戻ることはない。

 

「驚くのは無理はありません。正直なところ、私たちにも想定外の出来事です。順を追ってご説明するところなのですが、早急に行わなくてはならないことがあります。先ずは、こちらをお受け取りください」

 

 地面を突いた杖から出現した小箱の蓋がひとりでに開く。収められていた物は、馴染みのある代物――対のポタラ。

 

「見ての通りです。この宇宙には現在、神が存在していません。本来であれば、トランクスさんを新しい界王神に据えるところなのですが。あいにく、過去の世界へ移住してしまわれました」

「⋯⋯罪人であるオレに、界王神になれと?」

「緊急事態とはいえ、どうかと想いましたが。自らの存在を顧みず、管轄外の世界の秩序を守ったことを大変高く評価されました。特例で、あなたを蘇らせることが決まりました」

 

 ――秩序を守った。ならば、犯した罪も修正されたということか。しかし、犯した過ちに変わりはない。己の師を、神々を、多くの命をこの手にかけた。今さら、神の座に就く資格など⋯⋯。

 

「引き受けなさい」

「アラ、ゴワスさん。おいでになさったのですね」

「はい。保管庫の整理をしていた際、時の指輪が増えていることに気がつき。畏れながら、参上した限りです」

 

 二度も手にかけた師、ゴワス。

 

「ザマスよ。確かにお前は、取り返しのつかない罪を犯した。しかしそれは、弟子を導けなかった私の罪だ。無論簡単なことではないが、共に償って行こう」

 

 左耳の翡翠色のポタラを師に返し、新しいポタラを両耳に付け直す。

 

「人の行為に対する神の責務は、行く末を見届け、時に試練を与え、時に導き、時に罰すること。ならば、神が犯した過ちは自らが罰しなければならない。これは、オレが始めた罪。償いは、オレの務め⋯⋯」

「そうか。ではお前に、私を殺した罪の償いをして貰おう」

「⋯⋯何をすればいい?」

「茶の席で、お茶を振る舞いなさい。全ての罪を償った後で――」

 

 ――茶は、淹れた者の心を表す、か。

 産屋敷から託された刀も同じだった。今のオレは、どのような色で表すだろうか。

 

「お話しはお済みになられたようですね」

「貴重なお時間を頂戴し申し訳ありません」

「いいえ。では、界王神として最初のお勤めをお伝えします。ですがその前に、お伝えしておかなければならないことがございます。あなたのお弟子さん。胡蝶しのぶさんは、お亡くなりになられました」

 

 ――やはり、胡蝶の死は変えることの出来ない運命。運命を覆すまでは至らなかったか。結局、伝えられず終い。闇の中、光の蝶から預かった伝言も。

 

「大往生だったそうです。医学の道へ進んだ彼女は、病で苦しむ多くの人々を救い、常に優しく、時に厳しく、慈愛に満ちた姿はまるで、女神のようだったと」

「ほう、それはそれは。良い弟子を持ったな、ザマス」

「彼女は最期の時まで、預かったものを肌身離さず身に付けていたそうです。あなたの最初のお勤めは、時の指輪の回収。心の準備は、よろしいですか? 悟空さん」

 

 ――ザマス、悟空。神として、人間として、自らが犯した過ちを償わなくてはならない。この身体の寿命が尽きる時まで。

 

「戻ったら伝えて頂きたい。目上の者に対する礼儀をわきまえろ、と」

「ホッホッホ。私も常々、注意しているんですけどねえ。しかし。言づてを伝えれば、戦いたいと申し出るでしょう。新しい力を身に付けたあなたと。ところで、道着のままでよろしいのですか?」

「今のオレは、孫悟空。向こうでも」

 

 この身体も、返さねばならない。

 

「なるほど。それでは、参りましょう」

 

 杖を突き、光の筒に包まれ、荒廃した世界から飛び立つ。

 目的地に着くまでの間、天使から経緯を聞かされた。全王に消された世界は、別の次元で執り行われた宇宙の存亡をかけた力の大会なる武道大会において、優勝者には「超ドラゴンボール」が寄贈された。優勝者の願いは「全王に消されてしまった宇宙の復活」。願いにより、消された世界は復活を果たした。

 しかし、主催者側にとっても想定外のことが起きた。大会主催者が大会が行われた次元と、荒廃した世界の次元の全王が存在していたことで、この世界も復活してしまった。

 

「世界を覆っていたザマスの怨念、執念も復活したため、もう一度消し去ることを検討していた際、突然消滅しました。時の指輪を通して原因を辿っていくと、あなたの行いによるものと知ることになったのです。さて、そろそろ到着しますよ」

 

 人里を少し離れた場所に降り立つ。

 

「先程ご説明した通り、もう二度とこの世界を訪れることは叶いません。ご注意ください。では私は、ビルス様の分もこの世界のスィーツをいただいてまいります。それではのちほど、ごゆっくりどうぞ」

 

 互いの世界は、鏡の裏と裏を合わせたような関係性。互いを映し出すことは決して無く、時の指輪の気配を辿って移動しているだけにすぎず、天使の力を持ってしても探知は不可能。

 風に乗って微かに香る藤の花の匂い、アサギマダラの蝶が庭先で舞う、蝶屋敷。ここへ足を運ぶのは、遊郭の跡地へ出向いた夜以来。無惨との死闘からあまり時間が経っていないようで、住民たちの忙しない声が聞こえてくる。

 

「これは⋯⋯フッ、まったく」

 

 ――女神、か。

 思わず息が漏れる。変わらなかったのも道理というもの。

 人間の可能性というものは、神をもってしても計り知れない。

 門を潜り、気を頼りに中庭へ回る。

 探し人は、薄紅色の花びらが舞う桜の木を並んで見上げる竈門と栗花落の後ろ姿を、縁側に座って見守るように見つめていた。

 不意に目が合い、一瞬驚いた顔を見せた後、小さく微笑んだ。

 よく知る作り笑顔とは違う、心からの穏やかな表情。右手の人差し指に、時の指輪が光っている。

 

「答えは、見つかりましたか?」

「伝えに来た。答えと、蝶の願いを」

「蝶の願いですか?」

 

 微かな光すらも射さない常闇の狭間の世界で、救いの手を差し伸べた声の主の願いを伝える。指輪を外し、伏せていた顔を上げた目には涙が浮かんでいた。

 

「⋯⋯お返しできてよかったです。もう二度とお会いできなのではないかと想っていました。お伝えしていただけますか? 精一杯生きます、と⋯⋯」

 

 受け取った時の指輪を人差し指に通し、頷いて返事を返す。

 この世界は、胡蝶たちは、探し求めていた答えを、強くなれる理由を教えてくれた。それは自身ではなく、大切なものを想い、大切なもの守ることが、未知なる力を生む。

 例え、宇宙を統べる天使でさえも干渉することが叶わないとしても。生涯唯一の弟子の願い。師として、神として、必ず伝えると誓おう。

 狭間の世界で漂っていた思念、光り輝く蝶の願い。今となっては、無理難題になってしまった願い。しかし、人間というものは時に神の想像を遥かに超える。己の運命すらも変えてしまう程の。ふと溢れた笑みを見て、不思議そうに小さく首を傾げた胡蝶に、片割れを手渡す。

 

「これは⋯⋯」

「オレもまだ半人前だ」

 

 光り輝く蝶の願い。それは――。

 ――胡蝶に。妹に、普通の娘として幸せに長生き欲しい。

 死してなお、姿を変えてまで。ただそれだけを、純粋に願っていた。




以上で完結になります。
長々とお付き合いいただきありがとうございました。
本編では補完しきれなかった設定を書いておきます。興味がある方はどうぞ。

大まかな設定。

〇孫悟空(ゴクウブラック、以降ゴクウ)
トランクスに切り裂かれた、ザマスの半身。
人間に敗北したことで、自身に足りなかったものを求めるザマスの思念。

〇ザマス
トランクスに切り裂かれた、合体ザマスの半身。
敗北を認めず、世界の秩序になろうとしたザマスの執念の思念。実は、弱さを棄てた姿ではなく。貫こうとする執念と怨念だけが形になった存在。

前者は、強さを求める悟空の影響を受けた姿。
後者は、体を失っても最期まで自身の正義を貫こうとしたザマスの姿。

全王に消された時の時差の影響で、前者の方が先に来ている。
生死と隣り合わせの世界で生きる人々との交流を通して徐々に、自分に足りなかったものに近づき。自身との戦いの中で身を呈して負傷した胡蝶の姿をきっかけに覚醒し、探し求めていたものに気付く。探し求めていたものを見つけ、自身の弟子である胡蝶に罪であると知りながらも「時の指輪」を託した。

最後の姿のイメージは、ゴクウブラックから禍々しい青紫の気が消えた純粋なロゼ。目灰色ではなくブルーと同様、髪色と同じ薄紅色。人間(悟空)の気を全て胡蝶に渡したことで、純粋な神の気だけで超サイヤ人ゴッドを超えた変身と想っていただければ。

神様とピッコロ、魔神ブウの設定から、同じ神の気を持つもの同士のため不死身のザマスにダメージを与えられ、同時に元々ひとつの存在のため、与えたダメージは自身も受ける。どちらが死ねば、両者とも死ぬ。
ザマスの方はそれを知っていたため、影響を受けないでいられる「時の指輪」を欲していた一方、ゴクウは答えを見つけたため自身の死を躊躇わず、自身の未熟さに終止符を打つ。

1話と最終話の声の正体は胡蝶の姉、胡蝶カナエ。
以上が大まかな設定です。

遅い時間の更新にも関わらず感想をいただけたりと、楽しんくれる方がいるならと完結まで辿りつくことが出来ました。重ねてお礼申し上げます。
ありがとうございました!
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