黒衣の探求者 ~神殺しの刃~   作:黒の夢

21 / 21
映画公開記念で


番外編 破壊と慈愛

 かつて――荒廃した世界で三人の人間と死闘を繰り広げた。

 そして、生き残った儚い生命の力に敗れたオレは、魑魅魍魎の鬼が巣くう別宇宙の地球で目覚めた。皮肉なことに抹殺の対象だった人間に消えかけだった命を繋がれ、生き恥を晒した。失意の中、劣勢を覆すほどの底知れぬ力を発揮する人間の底力の理由を探し求めた。

 強さの探求を続ける中でもう一人の自分と再会するも考えの相違により敵対、互いの正義をぶつけ合い、強さの理由を知り、自身の弱さを克服して打ち勝った。

 それは、自身の死を意味していた。

 しかし、別時空の超ドラゴンボールの願いにより、全宇宙を統べる王でさえも想定外の復活を遂げる。破壊神の付き人天使ウイス。そして、かつて手にかけた師ゴワスの進言を受け、正式に界王神の座についた。世界、宇宙の再生を手がけてから一年が過ぎようとしていた。

 

「⋯⋯宇宙の創造」

 

 一度完全消滅した宇宙の創造は、想像を絶するほどの困難を極めた。現在神が存在しない12ある宇宙すべてを、新たな界王神が誕生するまでの年月を独りで、統轄、管理、観察し続けなければならない。

 しかし、これは己の責務。

 己の理想を信じ、己の正義を突き進んだ末に提示された結果。自らが責任を果たさなければならない。

 

「お茶にいたしましょう。根の詰めすぎはいい結果をもたらしませんよ」

 

 そう助言したのは、別時空の第7宇宙の天使ウイス。地面を軽く突いた杖の先が光輝き、テーブルとティーセットを出現させた。沸いた湯を適温に冷まし、茶葉を入れたティーポットに注ぎ、茶葉が開くのを待つ。

 

「うーん、とてもいい香りのお茶ですね。いかがですか? 宇宙の創造は」

「やはり、新たな破壊神の選定は急務です。しかし⋯⋯」

「この宇宙には適性候補がいらっしゃいませんからね。別時空へ移住したトランクスさんは、時の界王神さんの助手になられましたし。仮に呼び戻したところで、あなたと協力関係を築くことは困難でしょうし。私も頻繁には来られませんからね。ふむ⋯⋯」

 

 口元で人差し指を立て考え込み、探るような視線を向けてきた。

 

「正当な方法ではありませんが、心当たりがあります。いかがなさいますか」

「今は、天使の機能再開が最優先事項。形式に拘っている状況ではありません」

「ホッホッホ、まさかあなたの口からそのような言葉を聞けるとは思いませんでした。分かりました。では、当たってみます。ところで、そろそろ抽出が終わったのではないですかね。素晴らしい! ゴワスさんが絶賛した通りですねー!」

 

 この茶葉は空気に触れるほど上品に香り立つ。

 しかし、腕を伸ばした高さから茶を淹れただけで大袈裟なリアクション。

 

「全王様はお戻りにならないのですか?」

「全王様はあちらの世界をたいそう気に入っていらっしゃいましてねー。"力の大会"についてはお話ししましたね」

 

 実在する12の宇宙の中で人間レベルの低い八つの宇宙から選ばれた各宇宙10名の戦士たちが宇宙存続を賭けて戦う、武道大会。優勝した第7宇宙の願いにより、消滅した宇宙すべてが復活。その際、この時空の全王様が消滅させた、この時空の宇宙も復活を遂げた。

 

「側近の神官と共に、第二回大会の実施に向けた打ち合わせをしておられまして。お戻りになられるのは早くても、第二回大会が閉幕後になるでしょう」

「なんと悠長な⋯⋯」

「信頼でしょう。今のあなたに対する。もしもの時は、また消滅するだけですからね。では、次伺う際は破壊神候補をお連れしてきます。それでは――」

 

 そう告げると、ふっ、と姿を消した。

 ひとつ息を吐き、界王神の責務へ戻る。

 宇宙復活後、新たに創造した星に新たな生命が誕生した。時の指輪の力で時空を往き来し、進化の過程を見守る。細胞分裂を繰り返し、長い年月をかけ進化を重ね、やがて、一際高い知能を持った生命体が生まれた。

 

「人間⋯⋯」

 

 いつの時代も争いを引き起こすのは極端な自尊心、闘争本能、野心、行動力を持ち合わす一部の人間。そんな狂人に惹かれ、振り回されるのもまた人間。いつの時代も同じ過ちを繰り返す、もう二度と同じ過ちは繰り返さないと誓いながら。

 しかしそうした犠牲、経験の積み重ねがやがて秩序を生み、徐々ではあるが、文明を築き上げてゆくこともまた事実。

 何百億年という長い時を経て、ひとつの星の最後、人間の最期を見届け、現世へ帰還。

 川の畔に立ち、瞑想と共に自問自答。介入すべき事案だったのか、それとも星の――ひいては宇宙の成長のために必要なことだったのか。今はまだ、答えが出ない。

 なにより、宇宙の矯正は破壊神の務め。

 そして破壊神は、創造主の界王神と表裏一体であり、一心同体の存在⋯⋯いったいどのような人間を連れてくるのやら。

 

「ん?」

 

 莫大な気を有する者が複数この界王神界へ近づいている。

 

「この気は⋯⋯まさか!」

 

 姿を現したのは、別時空の天使ウイス。

 そして、二人の人間。ひとりは上下山吹色の道着を、もうひとりは胸部を保護するプロテクターを装着し濃紺のタイツを身に纏っている。

 

「久しぶりだな、ブラック」

「まさか本当に復活していやがったとはな」

「孫悟空、ベジータ⋯⋯またしても禁忌を犯すか、愚か者め」

「まあまあ、落ち着いてください」

 

 二人の人間を連れて来た張本人が割って入る。

 

「どういうつもりですか? まさか、この者たちが破壊神候補とでも」

「いいえ。候補の方には了承をいただいたのですが、諸事情があり、破壊神候補の方の都合で少々時間がかかりましてね。一度地球に戻った際ビルス様と話していたところを悟空さんに聞かれてしまい、どーしても手合わせしたいと聞かなくて」

「オメェ、別の世界でスゲー力身に付けたんだろ? 見せてくれよ」

 

 孫悟空が前に出ようとしたところを、ベジータが制止した。

 

「待てカカロット、オレが先だ! あの癪に触る面一発ぶん殴らなければ気が済まん!」

「そりゃねーだろ、ベジータ。あの時はおめえに譲ったんだからよ」

「うるさい! それとこれとは別だ!」

「しょうがねーな。じゃあ一発入れたら交代だぞ」

 

 12存在する宇宙の創造、再生。今、現在する界王神はオレ独りだけ。超ドラゴンボールが存在しない以上考えるまでもない。踵を返し背を向ける。

 

「お前たちに構っている暇はない、今すぐ帰れ」

「まあ、よろしいではありませんか。先日お話したとおり生き抜きも必要です」

「しかし⋯⋯」

「新たな破壊神が正式に着任した折りには、この時空の私が活動を再開いたします。そうなれば、大魔界へ赴く時間ができます」

「大魔界? ウイスさん、大魔界ってなんだ?」

 

 孫悟空が、会話に割って入ってきた。

 

「大魔界とは、各宇宙に存在し、現世とは別の世界。そして、各宇宙の界王神たちの生まれ故郷でもあります。第7宇宙では遙か昔、大魔界が異常気象に見舞われた際、大魔界から現世へ移住した種族がいました。移住した種族の中でもとりわけ"龍族"と呼ばれる種族は、不思議な能力を有していました。ケガを治癒する能力、どんな願いでも叶える不思議な宝玉を作り出すことも」

「願いを叶える玉って⋯⋯ドラゴンボールのことか?」

「大・正・解! この宇宙にもナメック人の生き残りは存在しますが、通常のドラゴンボールでは別宇宙にまで影響を与えるほどの力はありません。この宇宙では消滅していますが、大魔界には、新たな"超ドラゴンボール"を作り出せる龍族の生き残りがいるかもしれません。超ドラゴンボールの願いならば、ザマスが手にかけた全宇宙の神々を蘇らせることが可能なのです」

 

 各宇宙の界王神が蘇れば、破壊神も蘇り、破壊神に使える天使も機能が回復する。界王神の座が空席だった第7宇宙を除き、元通りの宇宙に戻る。後任の界王神の選定に時間を割くことができ、この宇宙での役目を終えることができる。

 

「大魔界か⋯⋯なあウイスさん、大魔界ってトコには強ぇヤツいるんか?」

「ふむ。単純な強さでは、今のあなた方の足下にも及ばないでしょうね。ですが、気とは別種の"魔法"や"魔術"を使用しますし、現世にはない不思議な力を持つ道具なども数多く存在します。かつてあなた方が戦った"魔界の王・ダーブラ"も、地上では本来の力ではありませんでした」

「ダーブラかぁ⋯⋯そういえば、変な技使ってたなぁ」

「そんなことはどうでもいい! 貴様にその気がないのなら――ハァーッ!」

「おわっ!?」

 

 ベジータの右手から放たれた気功波は孫悟空のすぐ横を通り過ぎ、オレの目の前で方向転換し、上空で弾けた。

 

「あっ、あぶねぇ~」

「次は、当てるぞ」

 

 安い挑発をする。かつてのオレであれば、容赦なく断罪するところではあるが⋯⋯。突然、頭の中に直接天使ウイスの声が響いた。

 

『お二人にはオフレコですが、第7宇宙の大魔界には他の宇宙にはない懸念がありまして』

『懸念?』

『ええ。なんでも、無限の力を持つ者が存在するそうで。通常の戦法では太刀打ちできないという話しです』

『無限の力⋯⋯神以上ですか?』

『魔界は私たちの管轄外ということもあり、全容を把握できていないのでなんとも。ですが、用心に越したことはありません。勘を取り戻すには持って来いの相手ではないかと思いましてねぇ』

 

 破壊神との会話を聞かれたと言っていたが、ワザと聞こえるように仕向けたということか。通常の戦法では太刀打ちできないような相手が存在するのであれば、対策は立てておくべきか。

 

「何を黙っていやがる。怖じ気づいたか?」

「⋯⋯神に対するその態度改めてさせてやろう」

 

 その挑発的な態度、利用させていただくとしよう。

 

「あそーれ!」

「服が道着に⋯⋯感謝します」

 

 左腕を視線の高さ、右腕は腰の高さで軽く拳を握り。腰を据えて、左前の半身で構える。

 

「いくぞ、ブラックッ!」

「野蛮なサイヤ人め⋯⋯身の程を知れ!」

 

 突進から繰り出されたベジータの右拳を左腕でいなし、カウンターで下段から右のショートアッパーを打ち返すが、最小限の重心移動でいとも簡単に躱された。

 たった一度の一瞬のやり取りだけでも、別の世界線で戦った鬼とも、もうひとりのオレとも比ではないことが解る。

 互いに距離は取らず、接近戦。ヒットすればダメージは免れないショート・ミドルレンジでの攻防。序盤はディフェンスに徹し、徐々に反撃の手数を増やし回転数を上げる。

 

「喰らえ!」

「くっ!」

 

 距離を測る左に合わせられた右が、顔の遥か先を目がけて突き抜ける。頬に風を切る風圧。突き抜けた衝撃波が、背後の岩を砕いた。息をつく暇もなく矢継ぎ早に拳が飛んでくる。

 

「くたばりやがれ!」

「フッ――」

「チッ! 小賢しいマネを!」

 

 僅かに大振りになった一瞬の隙をついて体勢を入れ替え、上空へと飛んで距離を置く。向こうの時間ではどの程度の時間かは定かではないが、こちらの感覚でたった一年の間に更に力を身に付けるとは。

 

「なあ、ウイスさん。本当に強くなったのか?」

「あなた方も成長しているからそう感じるのですよ。ま、彼は一年近く実戦から離れていましたから本調子ではないのでしょう。徐々に感覚を取り戻していくでしょうが、ベジータさんはあんな感じですからね、本領発揮する前に決着がついてしまうかもしれませんねー」

「いいっ!? そりゃねーぞ! おい、ベジータ!」

 

 突然孫悟空が、ベジータとの間に割り込んで来た。

 

「何のマネだ、カカロット!」

「いきなり飛ばしすぎだぞ。ブラックは勘が戻ってねぇんだ」

「そんなこと貴様に言われんでもわかっている! だから、こうして超サイヤ人にもならず戦っているんだ。おい、ブラック! いい加減身体も温まってきただろう! さっさとロゼになりやがれ!」

「フッ。まさか、お前に気を遣われていたとはな⋯⋯」

 

 地上に降りる。ベジータの言うように、徐々にではあるが感覚は戻りつつある。肘を曲げて左手を顔の高さまで運び、手首を回しながら軽く拳を握る。

 覚醒のきっかけは、激しい怒りの感情。そして、神の気。

 しかし、それはきっかけでしかない。目を閉じ、感情の起伏には頼らず、この身に宿る二つの気を静かに高める。

 

「ほう。これはこれは」

 

 目を開ける。視界に映るのは、自らの身体が纏う青白い輝き、驚いている孫悟空。そして、見るからに苛立っているベジータ。

 

「あ、青!? あいつブルーになれるんかっ!?」

「⋯⋯超サイヤ人ブルーだと? 何処までもイラつかせる野郎だ、カァッ!」

 

 ベジータもオレと同じく青白いサイヤ人の神の気を纏った。

 しかし――想像を超えるほどの力ではない。

 

「早とちりするな。今から貴様に超サイヤ人ブルーの本当の力を見せてやる! はあぁーッ!」

「こ、これは――くっ!?」

 

 ブルーの状態から更に気を高めたベジータを中心に大地が揺れ、木々がざわめき、空気が震える。猛烈な圧力と風圧が徐々に治まっていった。

 

「ふぅ⋯⋯待たせたな。これが超サイヤ人ブルーを超えた超サイヤ人ブルーだ」

 

 なるほど、超サイヤ人ブルーの限界を更に打ち破るとは⋯⋯やはり、サイヤ人には無限の可能性があるということか。一瞬孫悟空へ視線を移す。驚いている様子は一切ない。孫悟空もベジータと同等の力を有していると見受けられる。だが、この"進化"は――。

 

「いくぞ! ぜやーッ!」

 

 ――速い! 爆発的な突進からの右ストレートを、左腕で受ける。追撃二撃目のスマッシュ気味の左腕もしっかりガード⋯⋯するも微かに身体が浮いた。スピードだけではなく、パワーは申し分ないということか。見かけ倒しの変化ではない、真正面からまともにやり合うのは得策ではない。激しいラッシュの中、パンチに比べ必然的にモーションが大きくなる蹴りに合わせて瞬間移動で背後を取り、背中を右足で蹴り飛ばし更に瞬間移動で先回り。気を溜めた手のひらを腹部に密着させる。

 

「残念だったな、ベジータ」

「舐めるなーッ!」

「なに!? チィ!」

 

 気弾を放つ寸前強引に体を捻り回避された上、死角に入られた。

 

「喰らいやがれーッ!」

 

 左後ろ。振り向いた左頬に右の拳が眼前に迫る――防御⋯⋯瞬間移動も間に合わない、これは貰うしかない。直後。衝撃が左頬に走り、身体が大きく吹き飛ばされる。地面に叩きつけられる前に空中で体勢を立て直し、着地と同時に前を見る。ベジータは怪訝な表情で、自分の拳を見詰めていた。

 

「どうしたんだ? ベジータのやつ。止まっちまったぞ」

「おそらく感覚にズレがあるのでしょう。パワーは上回っているにも関わらず、攻撃の手応えが薄い」

「手応え⋯⋯不死身ってことか?」

「いいえ。単純な力ではブルーの限界を超えたベジータさんの方が上ですが、このままでは先に消耗しきってしまうでしょう。なにせ進化したブルーは燃費が激しいですからねー」

「ベジータ! 交代だ!」

「ふざけるな!」

「顔に一発入れたじゃねーか。約束だったろ? ブルマに言いつけちまうぞ」

「くっ!」

 

 苦虫をかみつぶしたような顔を覗かせたベジータは二人の元へ飛び立ち、変身を解いた。ベジータと入れ替わりで、孫悟空がやって来る。

 

「カカロットの野郎⋯⋯」

「まあまあ。ベジータさんもお気づきだったのでしょう。防御に徹していたブラックに有効打を与えるには"一撃で殺す"以外の手段はない、と。そしてそうしなかったのは、あなたも彼の変化に気づいていたから」

「フン!」

 

 腕を組んでそっぽを向いたベジータがいたところへ、孫悟空が降り立った。

 

「ブラック、はなっから全力でいくぞ。はぁーッ!」

「ん? 孫悟空、お前はブルーの限界を超えないのか?」

「超サイヤ人ブルーの限界を超えられるのはベジータだけだ、オラには出来ねぇ」

 

 ベジータの方が孫悟空より優っていたということなのだろうか。

 

「いくぞー!」

「ふっ!」

 

 拳を合わせて確信した。やはり単純な力では、ブルーを超えたベジータに一段劣る。しかし、力量の差を補って余りある学習能力の高さ――孫悟空はそれを持ち合わせている。

 

「へっへっへ、なんとなーく解ってきたぞ」

 

 その言葉を裏付けるように、打ち合いの中で徐々に孫悟空の反応速度が上がってきた。このままではいずれ捉えられる。今までガードしていた上半身への攻撃を回避し、左の後ろ回し蹴りを繰り出して反撃に転じる。腹部に直撃したハズが感触が薄い。

 

「やはり、ワザとか⋯⋯!」

「オラの番だ!」

 

 ガード越しに振り抜かれた拳の衝撃が伝わる。見切られた上に防御だけではなく、攻撃にも応用してきた。間違いない。孫悟空は、オレの技術を体得しつつある。

 

「攻防の一瞬、身体の一部だけ気を高めて攻撃力と防御力を瞬間的に増幅していやがる。どこまでもムカつく野郎どもだ⋯⋯!」

「ベジータさんとの戦いを見て、悟空さんも違和感を覚えていました。おそらくは別の世界での不死身のザマスとの戦いで、継戦能力を重視する中で身についたスタイルなのでしょう」

「ザマスとの戦い? どういうことだ。超ドラゴンボールの影響でブラックが復活したとしか聞いていないぞ」

「聞く耳を持たなかったではありませんか。まあ、いいでしょう。異世界で目覚めた彼――ブラックは、同じように異世界で目覚めたザマスと戦い、自身の存在を賭して打ち破り、異世界の秩序を守ったのです。でなければ、全王様に消滅させられています」

「信じられん⋯⋯」

「信じようが信じまいが事実は変わりませんよ」

 

 攻撃を防いだ腕を軽く振り、受けたダメージと痺れを逃がす。

 

「こんな戦い方があるなんてよ。けど、これだけじゃねぇんだろ? 見せてくれよ、おめぇの本気を」

「フッ、ずいぶんと楽しそうだな、孫悟空」

「強ぇヤツと戦うのはワクワクすっからな」

 

 やはり、孫悟空の身体が求めていたということか、強者との戦いを。人間の気を閉じ、純粋な神の気のみを解放。青から一転、鮮やかな淡い薄紅色の気を身に纏う。一方、孫悟空は――。

 

「――界王拳! さあ、第二ラウンド始めようぜ!」

 

 身体に負担がかかる分、気も、パワーも、スピードも倍増する強化技。しかし、今のオレには孫悟空の動きのすべてがスローモーションのように見える。

 

「あの野郎、涼しい顔でカカロットの攻撃すべてにカウンターを入れていやがる⋯⋯。ヤツも身勝手の極意の使い手なのか⋯⋯!」

「身勝手とは少し異なりますね。悟空さんの反射とザマス本来の才気――二つが融合した姿なのでしょう」

「あのー」

「おや」

「なんだ? その――」

 

 すれ違い様、鳩尾に強烈な一撃を叩き込む。腹部を押さえ後退りした孫悟空の変身が解けた。正に、たたみ掛ける好機。だが、オレの中の何かが足を進めるのを拒む。今までに感じたことのない強烈なプレッシャーに足がすくむ。

 孫悟空が顔を上げた刹那、眼前に右拳。寸前で回避しつつ左を合わせるも、白銀の気を纏った孫悟空は既に遥か遠くにいた。

 

「まさか、人間が辿り着くとは⋯⋯身勝手の領域に!」

「長くは保たねぇ、一気に決めさせてもらうぞ!」

 

 身勝手の極意を極めた孫悟空との戦いは、互いの攻撃が当たらない。どれほど策を講じようと異次元の超反応で回避される。しかし、こちらも目で追えないと想った時には身体が自然と反応する。打撃戦では埒があかない、互いに腰に両手を構えようとした時だった。

 

「そこまで!」

 

 ウイスが割って入ってきた。

 

「なんだよ、ウイスさん」

「破壊神候補の方がご到着されました。あちらです」

 

 視線を向ける。

 蝶をモチーフにした髪飾り、アサギマダラ模様の羽織、そして馴染み深い耳飾りが目に入った。先に声に出したのは、孫悟空。

 

「女か? 破壊神候補ってあの子なんか?」

「ええ。さあ、行きましょう」

 

 互いに変身を解き、ベジータと破壊神候補の娘の元へ。

 オレの姿を確認した破壊神候補の娘は小さく微笑み、礼儀正しく頭を下げた。

 

「⋯⋯これはいったいどういうことですか? ウイス様」

「気難しいあなたのことですから、見ず知らずの方よりよろしいかと想いまして」

「おめぇの知り合いなんか?」

「私からお話ししましょう。こちらは、破壊神候補の胡蝶しのぶさん。別世界の住人です。ブラック⋯⋯こちらの孫悟空さんのお弟子さんです」

「な、なんだと!?」

「い、今のが一番驚れぇたぞ! 弟子いたんか!」

 

 二人への説明はウイスに任せ、破壊神候補もとい――胡蝶しのぶと話す。

 

「ご無沙汰しております」

「大往生だったと聞いている」

「はい、お陰様で天寿を全うしました。あれは、私が死期を迎える直前のことです。あちらの方――」

 

 ウイスへ顔を向けた。

 

「ウイス様から、死後別世界で悟空さんお手伝いをしないかと。最初はタチ(性質)の悪い冗談と思いましたが、死後改めて依頼されまして」

「破壊神がどういう存在か理解しているのか?」

「ならず者をお仕置きするお役目ですよね? ふふふっ」

 

 大きく外れてはいないが。わざとらしく笑ってみせていた胡蝶は一転、真面目な顔つきで言う。

 

「現世の輪廻転生から外れることは承知しています。あちらで迎えた死後ウイス様のお力添えで、姉、両親と再会の機会をいただき話し合いました。あなたにいただいた時間です、私にお手伝い出来ることがあるのでしたら」

「と言うことです。こちらの私が全力でサポートしますのでご心配なく」

 

 乗せられている。だが、今優先すべきは各宇宙の安定。後任の界王神候補の選定、育成もしなければならない。選り好みしている状況ではない。

 

「では。今この時より、胡蝶しのぶは正式に第7宇宙の破壊神となります」

「何か変わったのでしょうか?」

「たいして変わりはしないが、オレが死ねばお前も死ぬ。座している間、肉体は全盛期が保たれる」

「なるほど、神と破壊神は対の存在ということですか」

 

 突然、空が光り出した。

 差し込む光の中から、この世界のウイスが舞い降りた。

 

「ご苦労さまです。ここからは私が後を引き継ぎます。あちらへお出かけになられている全王様によろしくお伝えください」

「承知いたしました。それではお二人とも、元の世界線へ戻りますよ」

「まだ決着ついてねぇぞ。なあ、ベジータ」

「オレは帰る。目指す方向性が見えた、オレはまだまだ強くなれる」

「ったくしょうがねぇな。決着はまた今度つけようぜ。またな!」

「フン! 何かしやがったら、オレがぶっ飛ばしてやる!」

「では、失礼します。あそーれ!」

 

 別時空のウイスが杖をつき、歪んだ時空間へ三人は消えていった。

 

「騒々しい連中だ」

「よろしいではないですか。彼らのおかげで、あなたも勘を取り戻せたでしょう」

 

 否定はしない。同等以上の相手と手を合わせる機会は貴重だった。

 

「それでは、さっそく修行を始めましょう。胡蝶さんにはまず、神の気。そして、破壊の力を扱えるだけの実力をつけていただきます」

「あの。稽古着に着替えたいのですが」

「少々お待ちください」

 

 杖を振ると杖の先端の球体が輝き、少し離れた草原に、蝶屋敷によく似た屋敷が出現した。庭先には、アサギマダラが優雅に舞っている。

 

「間取り等は生前の居住を再現しています。ご自由にお使いください」

「ありがとうございます。悟空さん、これを――」

 

 左耳で揺れる耳飾り⋯⋯ポタラの片割れに手を持って行く。

 

「付けていろ。この世界での存在の証になる」

「そうですか、わかりました。では改めまして、幾久しくよろしくお願いいたします」

 

 丁寧に頭を下げ、笑顔を見せた胡蝶は稽古着に着替えるため、蝶屋敷へ。しばらくして、着替えを終えた胡蝶が戻ってきた。

 

「お待たせしました。戸棚にお団子がありました、いかがですか?」

「お団子⋯⋯スィーツですか。この串に刺さってる球体に絡んでいる飴色の液体はなんでしょーか?」

「みたらしです」

「み・た・ら・し! なにやら魅惑的な響ですねー。ではさっそくおひとつ⋯⋯んーんっ! これは、甘塩っぱいソースと丸めたお米のモチモチ食感がとーてもクセになりますねー!」

「よろしければ、食事は私が用意します」

「なんと魅力的な提案! 今後の楽しみが増えますねー」

 

 やはり、人選を誤ったか。

 

 今さら後悔したとて時既に遅し。一刻も早く破壊神に相応しい実力と品格を持ってもらう他ない。

 

「では、始めましょう。気の制御はできますね? まずは目一杯高めてください。できましたら、空に浮かぶ印を追って飛んでください」

「はい」

 

 胡蝶は、気を高める。

 最後に会った頃より遥かに熟練度は増している。

 舞空術の滑空も滑らかで、アサギマダラ模様の羽織が相まって、正に蝶のように優雅に、そして、自由自在に空を飛び回る。

 

「礼儀正しく、素直で向上心もある。彼女は伸びます。胡蝶さんは、全宇宙で一番優しい破壊神になるやもしれません」

「矛盾していますが?」

「優しさと甘さは異なります。世界の歪みの破壊プラスαをもたらす存在――そのような気がするのです。まあ、前任のビルス様はとーても気分屋でしたからねー、ホッホッホ!」

 

 この世界線の第七宇宙の界王神・破壊神不在の理由は、本来であれば破壊神案件だったにもかかわらず対応せず、眠っている間に界王神が殺されてしまい、死を知らぬまま死んでしまったと聞いた。

 

「前任と同じ轍を踏まないようご指導のほどお願いします」

「もちろん。機能停止中は私も退屈ですからね」

 

 胡蝶の鍛練は破壊神専属の付き人・天使ウイスに任せ、己の任に戻る。

 

「全宇宙で一番優しい破壊神、か」

 

 破壊と慈愛⋯⋯相反するが、はたして――。

 天使は復活した、時間はある。見届けるとしよう。

 与えられた己の責務、宇宙に瞬く星々の行く末を見守りながら。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
※参考:評価数の上限
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。