黒衣の探求者 ~神殺しの刃~   作:黒の夢

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第七話 禁忌

 鬼殺隊入隊試験・最終選別が行われる藤襲山を、上空から見下ろす。鮮やかな青紫色の藤の花に囲まれた、鬱蒼とした深い森の中に感じる複数の鬼の気配の中から、目的の鬼の気配を探る。今まで何度か対峙した下流の鬼とは一線を画した、異彩を放つ鬼の気配を頭の先で捉えた。

 

「やはりか⋯⋯」

 

 時の指輪が見せた世界は、正しかった。知らぬ間に世界の理⋯⋯禁忌に触れてしまっていたのだな。しかし、神としての才を失っている今の私がなぜ、神の中でも一部の者だけが扱うことを許される、この時の指輪が語りかけたのかは、ひも解くことの出来ない謎ではあるが。未だこの世界での存在を許されているのならば、すべき事、成さなければならない事が残っているはず⋯⋯神としての責務、例え今は、力を失った紛い物の神であろうと。

 

           ☆ ☆ ☆

 

「よく来たな! 俺は、派手を司る祭りの神! 宇髄天元様だ!」

「気安く神を騙るな、人間風情が⋯⋯」

「いや、本気にするなよ、冗談だろ。怖ぇわ」

 

 宝石が装飾された髪飾り、額の鉢金、耳飾り、両の二の腕の金の腕輪、目元の紅い化粧、と自負した通りに派手な見た目の鬼殺隊隊士。確か、柱合会議に出席していた柱の一人。隊士と組み手を行うため、指定された屋敷まで足を運んだのはいいが、神を騙る愚か者の後ろに、胡蝶より年上と思われる娘が三人いるだけで、他の隊士の姿は見当たらない。

 

「お館様の方針で、柱が手合わせする事に決まったのさ。柱が強くなりゃあ、必然的に担当防衛地域も広がる。ひよっこ連中の育成にも手が回るって訳だ。つーことで、さっそく手合わせと行こーぜ! 雛鶴!」

「はい! 天元様――」

 

 後ろの三人の一人、左目の下に泣き黒子がある娘が投げ込んだ持ち手の先端の部分を鎖で繋いだ二本の木刀を掴み、やや体勢を低めに二刀流で構える。体格に恵まれた筋肉隆々の見た目とは裏腹に、機動力重視の前傾姿勢。

 

「おい。お前、木刀は?」

「必要ない。私は、素手の方が強い」

「上等!」

 

 地面を蹴ったのとほぼ同時に、最高速度に乗った。初速からこの爆発的な瞬発力、直線的な速さでは不死川より上か。

 

「不死川との手合わせを見て、並の使い手じゃねぇ事は承知してる。はなっから全開で行くぜ!」

 

 攻撃の方も力任せかと思いきや、決して無駄振りはしない。横払いの左で距離を測り、一歩踏み込んで右を振り下ろす。二本の木刀の一振り一振りに意図を持って打ち込んでくる。柱といえ、生身の人間、不死身の鬼とは違う。初手で壊してしまっては、つまらない。その一振り一振りを確実に捌き、倒してしまわない程度の反撃を丁寧に入れ、徐々に回転数を上げていく。

 

「チッ! 的確に急所を狙いやがって。けどな、見切ったぜ、お前の本質!」

 

 右手一本で遠心力を利用して勢いが増した木刀を振り回しつつ、離した左手で空中に放り投げた丸い物体に切っ先が掠めた直後、激しい発破音と共に熱風を周囲に巻き起こした。爆薬とは、小賢しい手を使う。

 

「模擬戦で、火薬玉!? 天元様!」

「わわわっ! 死んじゃいますよぉ!」

「心配要らねぇよ、この程度でくたばるタマじゃねぇ! こっからが本番だ! ド派手に行くぜ!」

 

 間合いに入られた。速度が刹那的に上昇した⋯⋯いや、違う。火薬玉の発破音で、呼吸を整える気配を隠した。

 

「音の呼吸・壱ノ型――轟ッ!」

 

 頭の上まで振りかぶって思い切り振り下ろされた一撃は、陽動目的とは別にばら撒いた火薬玉を巻き込み、木刀で地面を抉る程の威力を発揮した。仮に、専用の日輪刀を使用していた場合、どれ程の威力を誇っていたか。

 

「まぁ、簡単には当たんねぇよな」

「天元様が、背中を取られた⋯⋯!」

「あの人、いつ避けたんですかっ!? どうやって避けたんですかっ!? 私、ぜんぜん見えませんでしたっ!」

「須磨、うっさい!」

「いやぁっ! まきをさんがぶったぁ! 天元様~!」

 

 ――まったく、騒々しい。

 しかしこの男、数度の攻防の中で自身の欠点を見極め、即座に修正し、技を繰り出す直前に必ず行う呼吸に合わせた反撃を回避する手段を見いだした。洞察力と判断力、創造力も持ち合わせている。

 

「悪いな。気が散るだろうけど、三人とも俺の大事な嫁でな、勘弁してやってくれ。つーか、捉えたと思った瞬間、目の前から消えた。比喩じゃねぇぞ。気配そのものが消えた」

 

 険しい顔で、背中を振り向く。

 

「今の速さ、雷の呼吸のそれじゃねぇな。雷の呼吸から派生した音の呼吸の使い手の俺にはわかる。そもそも、呼吸も、予備動作といえるもんも無かった。あえてあったと言えば、人差し指と中指を額に添えたくらいだったが、何か関係あんのか?」

「あの刹那の中、目の先で捉えたか」

「舐めんなよ。俺は、元忍びだ。観察眼と動体視力において、俺の右に出る奴はいねぇ」

「なるほど、いいだろう。見せてやろう」

 

 右手の人差し指と中指を額に添え、宇髄が纏う気の位置を把握し、瞬時に背後を取る。

 

「瞬間移動」

「――なッ!」

「鬼殺隊・音柱、宇髄天元。自身よりも素速く、そして強力な鬼と相対した時、お前はどう対処する?」

 

            ☆ ☆ ☆

 

 計十日に渡る、宇髄との手合わせが終わりを迎えた。幾分高くなった夕空を舞空術で、次の目的地へと飛行している。

 舞空術も、瞬間移動も、違和感なく扱えるようになった。全身を巡る気も、身体に馴染んだ。しかし、未だ限界の壁を超えられないでいる。気の高まりからすれば、既に覚醒するに至っていても可笑しくないハズ。以前は、強敵との戦いの中で順応し、自然と覚醒に至った。何かが足りない、今の私には。鬼や、柱と戦いを積み重ねれば、いずれ越える事が出来るのだろうか、以前は越えた限界の壁を――。

 

「ん?」

 

 ふと違和感に気づき、飛行を止める。つい先程まで夕焼け空だったハズが、夜空に変わっていた。

 

「いったい⋯⋯。これは!」

 

 右手の人差し指に嵌めた、時の指輪が反応を示している。神でなければ使用不能である、時の指輪が。一度だけ過去の世界へ移動した事はあるが、時の指輪の時空移動は未来と現在の行き来のみで、過去へは基本的に遡れない。

 つまり、ここは⋯⋯未来の時空である可能性が高い。

 時の指輪が何らかの意図を持って、未来へ送ったということか。

 落ち着いて、周囲を見渡す。夜空ではあるが、町の様子に大きな変化は見受けられない。鬼の気配も消えていない事からして、さほど遠い未来の時空ではないようだ。歩き回る人間も居ない静かな夜、夜風に乗って、甲高い音が聞こえた。

 今の音は――。

 

「斬撃音――」

 

 近くで、戦っている者がいる。音が聞こえた方向の気配を探ると、今まで感じた中でも、強力な鬼の気配を拾った。急いで向かう。

 

「あの鬼は⋯⋯十二鬼月の上弦か?」

 

 やや離れた上空から、森を抜けた先の草原で戦闘を繰り広げている鬼殺隊隊士と、十二鬼月の上弦と思しき鬼の戦闘を観察する。

 互角に戦っているように見えるが。鬼の方は余力を残し、どこか戦闘を楽しんでいるようにさえ思える。更には、腕や脚を斬っても瞬く間に再生し、すぐさま攻撃へ転じる。これが、上弦の鬼⋯⋯あの鬼と戦えば、壁を越えられるか。そう思った矢先、時の指輪が激しく反応した。

 

「か、身体が⋯⋯」

 

 思うように動かない。行くなと言うのか、この戦闘を見届けろと。

 そして、戦いの拮抗が徐々に、確実に崩れてきた。斬られようとも何度でも再生を続ける鬼に対し、生身の人間である隊士は当然体力を奪われ、負傷した怪我もすぐには癒えない。

 周囲には、横たわった物体、人影のようなものも見えるが、大怪我を負っているのか気が弱々しい。

 鬼殺隊隊士と鬼が、互いに距離を取った。遠くて聞き取れないが、言葉を交わしている。そして、隊士の構えに合わせ、鬼も臨戦態勢に入る。一人と、1体の気が高まっていく。

 

 時の指輪――いったい、何を見せようというのだ⋯⋯。

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