黒衣の探求者 ~神殺しの刃~   作:黒の夢

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今話から、かなり飛びます


第八話 確信

 隊士と鬼の一騎打ちを見届け終えると、再び時空移動が起こった。戻った場所は、宇髄邸と蝶屋敷を直線上に結ぶ空域。つまり、未来へ飛ばされた場所と同じ場所に戻された。空は夕空、時刻もほぼ同じ時間帯。目を落とし。何の反応も示さない、時の指輪に問いかける。

 ――いったい何が目的だったというのだ、時の指輪よ。

 鬼の力の前に無情にも消えゆく儚き命。弱さを嘆き、無力を痛感し泣き崩れる人間の姿。結局のところ、人間の力では、鬼の始祖・鬼舞辻無惨の頸はおろか、十二鬼月の上弦の鬼の足下にも及ばないということか。人間の業によって世に生み出された鬼に、人間の生活が脅かされる。何とも皮肉の効いた話しではないか。

 

「フッ⋯⋯」

 

 思わず漏れた軽い笑み。舞空術で向かうよりも速いと判断し、額に指を添えて気配を探ったところ、とある異変に気がついた。急遽予定を変更し、異変を感じた土地へ向かう。

 

「これはいったい、どういう事だ⋯⋯?」

 

 もう一度、今度は更に深く、より注意深く気配を探る。やはり、それらしき気配は感じ取れない。消えた、と判断するのが無難なのだろうが。いったい誰が、どういった目的を持ち、わざわざここへ――鬼殺隊入隊試験・最終選別が執り行われる「藤襲山」へ入ったのか疑問は拭えない。

 

「――見つけた」

 

 真相を確かめるべく、探し出した気配は、妙に弱々しい。行けば分かること。感じ取った気配を辿り、瞬間移動を発動。

 

「ち、父上⋯⋯!」

「どうしたんだい? 輝利哉」

「少し見ない間に、ずいぶんと病魔が進行したようだな。産屋敷」

「その声は、まさか⋯⋯」

 

 畳の上に敷かれた布団に座る産屋敷は、焦点の定まらない目を向けた。どうやら、微かに残されていた片目の視力を失ったようだ。しかし――。

 

「悟空⋯⋯なのか? 本当に、孫悟空なのかっ!?」

「は、はい、孫悟空様です、間違いありません! 母上をお呼びいたします!」

 

 慌ただしく部屋を出て行った黒髪の子供は間もなく、あまねを連れて戻って来た。産屋敷と同様に感情を表に出さないあまねは、まるで亡霊でも目の当たりにしたかのように口元を手で覆って、膝から崩れた。

 

「二年?」

「ああ、天元の屋敷を出てから消息を絶って、もう二年が過ぎた」

「指定日に姿を現さないと聞き。(かくし)の隊士を動員し捜索に努めましたが、ひと月あまり手がかり一つとして見つけられず、消息不明のまま死亡として処理いたしました」

 

 にわかには信じがたい話しだが、虚偽を話す理由はない。何より、同席している子供の背丈が、これを事実であることを物語っている。最後に見た記憶の中の姿よりも一回り以上成長した姿。時の指輪の力は、現在と未来の行き来のはずだが、帰還にズレが生じている。本来使用不能な人間だから生じた事案なのか、もしくは⋯⋯私が居ては、世界にとって不都合な理由があった。

 

「しのぶを始めとした蝶屋敷の者、直前まで手合わせをしていた天元は、受け止めるまで少し時間を要した。私も、キミが鬼の手にかかるなどと信じられなかった。しかし私は、前を見なくてはならなかった。私が揺れれば、鬼殺隊が揺れる。それだけは、避けなければならなかった」

「そんな事はどうでもいい。確認がある。上弦は?」

「残念ながら。四年前を最後に認知できていない」

 

 時の指輪に連れて行かれた時空は、現在の時空よりも先の未来と考える方が妥当。

 

「けれど最近になって、無惨と遭遇した隊士がいる」

「よく生きていたものだな」

「遭遇した場所が、繁華街だったからね。無惨も、大事にはしたくなかったのだろう。鬼に変えた市民を盾に逃亡し、再び消息を絶った」

 

 話しが切れた場面を見計らったかのように「失礼します」と、黒髪の子供と同じ顔をした別の子供が部屋に入ってきた。

 

(カクシ)の隊士より緊急伝令です。那田蜘蛛山の戦闘において被害が拡大している件で発令された救援要請を受け、現場に向かった冨岡義勇、胡蝶しのぶの柱二名が那田蜘蛛山に到着しました」

「そうかい。義勇としのぶが。至急、連絡を取ってくれるかい。額に痣のある市松模様の羽織を着た隊士・竈門炭治郎と、口に竹を咥えた少女の姿をした鬼・竈門禰豆子に危害を加えないこと。事態収拾後、両名の身柄を確保でき次第本部へ連れて来るように、と」

「承知しました。至急、伝令の鴉を飛ばします」

「頼んだよ、かなた」

 

 鬼殺隊と鬼が行動を共にしているとは、何とも不可思議な絵面が目に浮かぶ。

 

「二人は、兄妹なんだ。二年前の冬、生身のキミが鬼を撃退した時期を同じくして、炭焼き一家が惨殺された事件の生き残り。鬼舞辻と遭遇したというのが、兄・竈門炭治郎。妹の禰豆子は、鬼でありながら血肉を欲せず、人を襲わない特異な鬼。直接会話する機会を持ちたくてね。間に合えばいいのだけれど⋯⋯」

「産屋敷。今回は、お前の思惑に乗ってやる」

 

 ――私自身、今一度確認しておきたい事がある。

 

「あまね、那田蜘蛛山とやらの方角はどっちだ?」

「あちらの方角になります。ですが、今からでは⋯⋯」

「問題ない。ヤツらの気は、既に把握している」

 

 戦闘中ならば気は高まる、より探知しやすい。あまねが差した方角に意識を向け、気配を探る。消えかけの多数の気、鬼の気配も幾つか感じる。それらの中でも、一番大きな鬼の気配を探し出す――⋯⋯捉えた。

 

           ☆  ☆  ☆

 

 瞬間移動した先は、月の光が差し込む薄暗い山の中。

 

「なんだ? お前。どこから現れた」

 

 紅い斑点と蜘蛛の巣の様な柄が入った白い着物を着用した全身が色白の子供⋯⋯気配と風貌からして、鬼。急所の頸が胴体から外れ、空中に浮いている顔は竹を咥えていない。

 

「き、気をつけてください⋯⋯」

 

 背中から聞こえた警告に振り向く。声の主は、顔から血を流し、地面に這いつくばっている隊士。産屋敷が話していた市松模様柄の羽織を着ていて、竹を咥えた娘も近くに横たわっている。

 

「そ、その鬼は、十二鬼月。山に入った仲間の殆どが殺された。頸を斬ったのに⋯⋯」

「当然だよ。僕は、自分の糸で頸を斬ったんだから。可哀相に、ぬか喜びだったね。もういいよ、お前も妹も殺してやる。こんなに腹が立ったのは久しぶりだよ」

 

 空中の首を持って、胴体と頸を繋ぎ合わせた。

 

「大人しくしてるなら一瞬で殺してあげる。でも、僕の邪魔をするなら、ゆっくり刻むよ?」

「フッ、くだらない冗談だ。が、その前に」

「――なッ!?」

 

 距離を詰め、鬼のアゴを上げる。白濁した左の瞳の中に「下伍」の文字が刻まれている。鬼は血相を変え、大きく飛び引いた。

 

「下弦の伍、か。以前は顔色の悪いヒゲ面の大男だったが、討たれたか? あの程度の鬼ならば、頸を落とされても不思議ではないか」

「ぼ、僕の顔に触れた? ⋯⋯刻む、ズタズタに切り刻む! 血気術――」

 

 広げた手のひらの間に紡がれた糸らしき物体が、鮮血の様に赤く染まっていく。

 

「危ない! 避けて――」

「刻糸牢⋯⋯!」

 

 空間に張り巡らされた格子状の赤い糸が迫ってくる。竈門兄妹の切り傷は、この糸による裂傷。見えてしまえば、どうとでもなる。迫り来る赤い糸の攻撃を躱し、竈門炭治郎の横で屈む。

 

「怒りに任せて判断を誤ったな。糸が透明なままであれば、ひとつくらい傷をつける事も出来ただろうに」

「あの、それは⋯⋯」

 

 竈門炭治郎の手に握られている根元から折れた刀を、奪い取る。

 

「避けた? 僕の糸を? そんなはず⋯⋯血鬼術――」

 

 技を繰り出される前に、手首を切り落とす。

 

「今の技は、片腕では使えないようだな」

「くっ、手くらいすぐに再生出来る。僕は、鬼だから!」

「ならば、頸はどうだ?」

 

 背後に回り込み、下弦の伍の頸を目がけて刃を振るう。

 これで分かる、はっきりする。

 そして、予想通りの事が起きた。

 

「⋯⋯く、頸、斬られてない?」

 

 困惑する鬼を横目に折れた刀を放り投げ、背を向ける。

 

「興醒めだ。お前は、私が戦うに値しない」

「⋯⋯ふざけるな、逃がさない、絶対に刻む! 血気術・殺目篭!」

「――不味い、逃げ⋯⋯!」

 

 周囲に展開された赤い糸が逃げ場を奪う。

 そこへ現れた、片身羽織の着物の隊士、冨岡義勇が下弦の伍の頸を落とし、一連の騒動は一旦の終幕を迎えた。

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