ダイブ型ゲーム。
それは20世紀末から小説等の創作物の題材として取り扱われていたものであり、21世紀に入ってからインターネット環境が発展してMMORPGが流行り出すとともに、VRMMOとして取り扱われるようになり、多くの人の間で夢の技術としてその実現が待ち望まれるようになった。
一つの完全な世界と見紛うばかりの綺麗なグラフィックス
一般人との見分けが分からないほどリアルな反応を返す完璧な人格AI
システムに制限されない自由な行動
どれだけ遊ぼうと尽きることのない豊富なコンテンツ
ダイブ型のVRMMOはこれら創作物の中で夢のゲームとして扱われており、その実現はゲーマー達よりもむしろそういった創作物を好む人たちの間でずっと望まれていた。
だが、ついに五感全てを網羅するダイブ型ゲーム<NEXT WORLD>が発売されたときにはすぐに多くのものたちが殺到したが、現実にはグラフィックスはリアリティに乏しく、その操作性は違和感だらけであり、その性能は理想からは程遠いものだった。
特に健康を害して病院に運ばれる被害者が続出したことが問題となり、すぐにサービスは終了、被害者との訴訟でも大敗したことから開発会社はあっさりと倒産した。
「夢のゲーム機は作れたが、夢を作ることは出来なかった」と言う言葉がその年の流行語としてノミネートされたりしたくらいである。
大きな理想とのギャップは大きな失望を招き、その後も何度かダイブ型ゲームが発売されたがほとんど見向きもされなくなった。
のだが
◇
□日富理子
「買ってしまった」
ゲームを買うのは初めてだ。
もちろん、今までだって興味はあったが、本体が高すぎて購入は難しく、また大きすぎて置き場所が無いなどの問題があった。
また、ゲームを楽しむためには同じことを繰り返しひたすら時間を費やす必要がある。
それを短縮するための課金などの手段もあったが、理子にはそんなにお金はかけられない。
そのどちらもできない者達は結局は取り残されていくだけであり、結果得られるものが少ない割に失うものが多いなどと様々な言い訳を考え、理子はずっと敬遠してきた......のだが。
偶然聞こえた売り文句に完全に踊らされた形だ。
わずか一万円という自分でも購入できる価格であることと、頭を覆うだけの機械という置き場所に困らない小ささなども購入理由の一つだが、実際には“可能性”と言う言葉にわけのわからない運命のようなものを感じたことが実際の理由の大半である。
あの言葉が聞こえた後すぐに家電量販店へと向かい、そのまま衝動買いをしてしまった。
正直言って自分らしくないと思う。
ダイブ型ゲームで健康被害があったことは有名な話だ。
であれば、先に安全性を確認してからじっくりと購入を検討するべきだ。
ゲーム機としては破格の一万円とは言え理子にとってはそれほど小さいとも言えない金額だ。
無駄に遣ったとなればそのショックは大きいだろう。
なのに、初めて手に入れたゲーム機になぜか自分の頬がゆるむのが止まらなかった。
順序が逆になってしまったが帰ってからインターネットで調べてみると、このゲームは昨日から発売が開始し、すでに多くのユーザーが遊び始めているが健康被害なども特に起こっていないようである。
それどころかそのリアリティの高さは往年の創作物の実現を彷彿とさせるものであり、発売開始時点でこそたいして見向きもされなかったが、現在では品切れが続出するほどの人気ぶりであるらしい。
その話が本当であればあのときすぐに購入したのは正解ということだ。
(店員さんは
本当に運が良かった。
とりあえず健康被害がないのであれば問題ない。
それでもしばらくはこまめに休憩を挟んで様子を見ながらあそぶことになるだろうが。
インターネットで確認するとゲーム内の情報も多く出ているが、錯綜しすぎておりどれが正しいのかの判断が付きにくい。
そこまでの人気であれば購入できなかったものの嫉妬、購入できたものの情報の出し渋りなどから、嘘の情報も数多く混ざっているだろうし、この辺りは結局のところゲームをしながら確かめるしかないだろう。
とりあえず公式に発表されている情報だけはざっと目を通しておき、さっそくゲームを始めてみることにした。
なんとなくダイブ型VRMMOはゲーマーよりもそういった題材の小説を読んでいる人たちの方が待ち望んでいる気がした。