知を致すは物に格るに在り   作:チュータツ

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決闘

【死視迫兎 カトブレプス】と戦ったときから感じていた。

【賢聖】のジョブについているアリシアは<マスター>の中でもかなり強い部類に入るだろう。

1対多数の戦いであっても広域魔法を使えば簡単に倒せるかもしれない。

しかし、純粋に戦闘能力の高い個人戦闘型に対してはあまり相性が良いとは言えなかった。

純竜級程度が相手であれば、ほとんどの場合たいして問題なく倒せるだろう。

だけど、超音速で動く伝説級以上の相手であれば?

【カトブレプス】との戦いで方向性は見えてきたが、それでもアリシアはそういう強敵との戦闘の経験が足りなく、どこかで練習ができないかと考えていた。

しかし、伝説級モンスターなどそうそう出会えるわけではない。

もし偶然遭遇したとしてもそのときには練習などと言っている場合ではないだろう。

その点この決闘は非常に都合が良かった。

超音速で動く直接戦闘タイプ。

それが8人同時に襲ってきて、何度倒しても1体でも残っていれば決して倒れることがない相手。

練習相手としては申し分がなかった。

惜しむらくは5分しか戦えないことだが

 

(ここで大勢に【MPブースター】や【インライフリー】を見られるわけにもいかないしね)

 

そう考えれば純粋な超級職のステータスで戦うのには丁度良い時間かもしれない。

 

「お久しぶりです」

 

「ん-?どこかで会ったかなー?

多分初対面だと思うけど―」

 

「・・・そうですね。はじめまして、でした」

 

決闘王者は運営側の人間と言う噂。

同じ猫というモチーフ。

何よりまったく変わらないその口調(喋り方)

相手のことが全てわかる<エンブリオ>を持つアリシアでなくても、その答えにたどり着く人がいそうなものである。

正直本気で隠そうとしているようには思えないが、相手がとぼけるのであればそれに乗っておくことにした。

 

「今日はよろしくお願いします」

 

「こちらこそよろしくー」

 

『試合開始!』

 

そして決闘が開始した。

 

 

「――いざいざ踊らん、《猫八色(グリマルキン)》」

決闘王者トム・キャットが必殺スキルを使い、連れていた猫がその姿をトムへと変じそのまま8人に増殖する。

 

「《スターダスト》」

 

それをアリシアの放つ光弾がそれぞれ7人の頭を撃ち抜いた。

すぐさまトムは再び増殖8人へと増殖するが、それをアリシアの光弾が再び撃ち抜く。

しばらくはその繰り返しであった。

観客はそれを声も無く呆然と見ていた。

【賢聖】の噂は聞いていた。

だが、自身を護る盾となるものもおらず、また一定以上距離を取ることもできない決闘では、魔法使いは圧倒的に不利と思われていた。

事実決闘ランカーには魔法を使うものがいたとしても、それはあくまで補助のためであり、戦う手段としては直接戦闘を用いるものがほとんどであった。

にもかかわらず、この少女は魔法だけで決闘王者を圧倒していた。

 

「なんだ・・・あの魔法は?」

 

「あれが【賢聖】の魔法?」

 

《スターダスト》。

その正体は《クリムゾン・スフィア》である。“ただの”とは言えないが。

アリシアはこれを高密度に圧縮し、高速で射出する。これを得意としていた。

高密度に圧縮されたそれはすでに紅蓮(クリムゾン)とは言えず白く発光しており、形状も速度ももはや原型をとどめていないことを指摘され、別の名称として《スターダスト》を使うことにしたのだった。

だから、実際には圧縮と高速射出の技術さえあれば【賢聖】でなくとも【紅蓮術師】でも使用可能なものである。

もっとも超級職のステータスで放たれるそれは上級職のそれとは威力が段違いではあり、《魔法多重発動》を一瞬で終わらせるそれも通常では考えられないものではあるのだが。

 

(さてそろそろ様子見は終わりかな)

 

とはいえ、決闘王者がそのままでいるはずもなく、次第に光弾を回避しだしていた。

そうして光弾を躱したうちの1人が遠距離攻撃を仕掛け、それを回避したアリシアへと別の1体が迫り......

そのままそこに置かれていた光弾に頭を撃ち抜かれて消えた。

 

「!?」

 

そして、その光弾にも変化が生まれ始める。

1体が回避した光弾がそのまま逸れて行くのかと思いきや、曲がり別の1体を倒す。

アリシアはさらに【反射術師】で習得した指向操作を組み合わせることで、その軌道を自由自在に変化させることもできるようになっていた。

こうして攻撃を回避しながら、相手の動きを誘導し、そこに魔法を仕掛け、翻弄し、決闘王者と互角以上に渡り合っていた。

だが、《看破》のできるものにとってはこの戦いはアリシアの方が不利だと見ていた。

何人も倒されているトムではあるが、実際にはその消耗はほとんどない。

一方魔法を使い続けているアリシアはみるみるとそのMPを減らしていっていた。

そう。決闘王者に挑んだ他のランカー達と同じ。

今までにも増殖したトムを何人も倒した挑戦者はいた。

しかし、そうであっても8人全員を同時に倒しきることはできず、消耗戦になるとトムの方が圧倒的有利になるのだった。

そして、アリシアのMPが残りわずかとなったところで

 

「5分です。試合終了!」

 

制限時間が終了した。

 

「ふぅ・・・。ありがとうございました」

 

「ねー。君、初めに僕を倒せたはずなのに倒さなかったよねー。

それはどうしてかなー?」

 

そう。多重発動できるのは別に7つが限界と言うわけではない。

初めからもっと数を増やして撃てば、もっと簡単にトムを倒せたはずである。

 

「こういうと気を悪くされるかもしれませんが、もともと超音速で動く相手と戦う練習がしたかったので。

勝っても時間いっぱいまで戦っても景品は変わりませんし」

 

「ふーん。なるほどー。

君なら決闘ランキングでも上がってきそうな気もするけどねー」

 

「別に決闘王者は目指していませんので」

 

「ありがとー。こっちも勉強になったよー」

 

そうしてアリシアの決闘は終了した。

なお、景品は【ギデオンマスク・レプリカ】であった。

かつての都市国家ギデオン最後の王女であるフレイメル・ギデオンが戦いの場で着けていたと言われるマスクのレプリカである。




先日の遺跡からアリシアは【MPブースター】も入手している。
この遺跡自体は先々期文明のものではないが、1000年前に発掘された【MPブースター】をこの遺跡の主である【賢者】が使用していた。
もっともそのせいが早世する原因にもなったのだが。

魔法使いなので鈍足だと思われがちだが、アリシアも一応亜音速程度のAGIは持っている。
連続で攻撃を受けたときの回避に、地に足がついていない状態から《空中跳躍》を活用して空中を蹴って横へ移動するみたいなのも考えたけど、上手く描写を入れ込むことができなかった。

設定
《スターダスト》
アリシアのオリジナル魔法。
基本的な構成はただの《クリムゾン・スフィア》だし、ジョブが【賢聖】であるためアーキタイプシステムによってジョブスキルとして登録されたりはしていないが。
多重発動と合わせると星屑のように見えることからこの名称を付けている。
もっともスキルで発動しているわけではないので、実はスキル名を口に出す必要もない。
対【カトブレプス】戦を想定して練磨していったので、超音速機動相手でも通用するように超々音速近くまで加速して運用できる。
実戦で使うのは初めてだが、練磨には《模擬演算(シミュレート)》を大活用した。
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