ただ、そこに主人公を参加させると有利すぎてひどい気もする。
宝探しは順調に進んでいた。
今回のルールとしてアリシアは圧倒的に有利だ。
なるべく他の<マスター>に出会わないようにしながら、お宝を回収していく。
《気配遮断》を使用してなるべく静かに、それでいながら誰よりも早くアリシアはお宝を手に入れて行っていた。
アリシアの<エンブリオ>であればイベントアイテムが無くても近くにあるお宝であればすぐにわかる。
アリシアはあえてモンスターを倒さずにこのゲームを進めていた。
おそらくはイベント中盤以降は<マスター>同士の殺し合いが激化する。
多くの<マスター>にとっては自分だけで多数のお宝を探して回るのは大変だろうから、序盤から他の<マスター>を倒しても仕方がない。
今回のルールを考えるとなるべく序盤は他の<マスター>にもお宝を探してもらったうえで、お宝を手に入れた後のそれを奪うために狙うと思われた。
もちろん序盤から手当たり次第に殺していく<マスター>もいるのだろうが。
そのため、お宝を持っていることがわかっていれば序盤からでも狙われる可能性は高い。
そう考えるとモンスターと戦った痕跡もあまり残さない方が得策だと思えた。
流石に宝箱のあった痕跡を完全に消すことはできないが。
多くの宝箱は地中に埋められていたので、これを掘り返したときには必ず痕跡が残る。
アリシアは掘り返した跡は再び埋めるようにはしているが、それでも見つけるものは出てくるだろう。
(おそらくは激化し始めるのは半分ほど時間が経過してから)
あまり遅すぎると今度はある程度の量のお宝を見つけた<マスター>が妥協してイベントから退出してしまうかもしれない。
そう考えた<マスター>達が他の<マスター>を狙うラインは6時間後辺りだとアリシアは予想していた。
◇
もっとも、そんなことに関係なく戦いに行く<マスター>もいた。
「いざ尋常に勝負!」
「くくく。かかったな」
「死ねぇ~!」
それもアリシアの想定よりもはるかに多く。
アリシアには血の気の多い<マスター>、特に天地に所属するものたちについては正しく理解していなかった。
◇
そうした争いとは関係なく、島には一体の<UBM>が置かれていた。
<UBM>の名は【小虚隠滅 ヌルヴォイド】。
古代伝説級のエレメンタルである。
その姿は真っ黒な何かとしか言いようのないものであった。
移動した先にあるもの一切を吸収し、通った後には何も残らない。
一番初めに出会った<マスター>は<UBM>に出会ったことを幸いとして、
「《
数十万のダメージを与えられる必殺スキルを使用し、
......そのまま触れた先から消失した。
その後も多くの<マスター>が強力な攻撃を加えるが、あらゆる攻撃を亜空間へと吸い込んでしまう【ヌルヴォイド】には一切ダメージを与えることはできず、逆にそれに触れたものは一瞬で消失してデスペナルティとなった。
◇
□【賢聖】アリシア・ノイモント
「え?あれ何?」
その周囲は混沌としていた。
すでに何人ものマスターの犠牲により、その<UBM>【ヌルヴォイド】に触れると一瞬で死ぬことがわかっていた。
しかし、その一方【ヌルヴォイド】の移動速度はそれほど速いわけではなく、また<マスター>を積極的に狙うわけでもない。
進行方向にさえいなければ攻撃し放題である。
そう考えた<マスター>達は遠距離攻撃を中心に戦うようになっていた。
ただし、それぞれがパーティーを組んでいると言うわけではなく、倒せば特典武具を手に入れることができる<UBM>である。
必然的に誰かが【ヌルヴォイド】を攻撃しようとすると、他の<マスター>はその邪魔をし、
......【ヌルヴォイド】の周辺では<マスター>同士の殺し合いに発展していた。
(あそこはあとにしておこう)
アリシアはそっとその場を離れた。
◇
他の<マスター>が<UBM>狙いに走ったためか他の場所には人が少なく、アリシアは順調にお宝を集めていった。
ついでに島の土や植物、石なども採取しておいた。
そうしてしばらくしてから<UBM>のところに戻ると、すでに殺し合いの様相は終わっており、何人かの<マスター>が<UBM>の様子を伺っているだけだった。
(倒すのを諦めたのなら、宝探しに戻れば良いのに・・・)
倒し方はわからない。
だが、そのまま放置するのは惜しい。
そういったどっちつかずの手合いが残っているのだろうと思われる。
まあいいだろう。離れている間にこれを倒す方法も思いついた。
折角の<UBM>である。これを倒してからこのイベントから退出することにした。
「《エクスティンクション》」
固定ダメージを応用した消滅魔法。
元がMPを2400使用して800の固定ダメージを与えるものであり、あまり効率の良いとは言えない魔法である。
アリシアはこれを<墓標迷宮>に現れる対スライム用の魔法としてMPを注いだだけ与えるダメージを大きくできるように改良していた。
【ヌルヴォイド】のHPは約30万。
改良したとはいえダメージと必要MPの比率は変わらず、これを倒すためには約100万のMPが必要である。
普通の<マスター>であればまず不可能なMPであり、超級職であっても厳しい量ではある。
しかし、順調に超級職のレベルを上げ、また【MPブースター】を装備しているアリシアであれば問題なく可能な量。
そうして放たれた魔法はそのままであれば亜空間に吸い込まれて終わりだが、【ヌルヴォイド】に接触する寸前に炸裂させることで、その周囲ごと消滅させることに成功した。
【<UBM>【小虚隠滅 ヌルヴォイド】が討伐されました】
【MVPを選出します】
【【アリシア・ノイモント】がMVPに選出されました】
【【アリシア・ノイモント】にMVP特典【虚塞隠盾 ヌルヴォイド】を贈与します】
そうしてアリシアはイベントに出現した<UBM>を討伐したのだった。
■【剛剣士】ディンギル
だが、それを見ていた<マスター>が当然そのまま放っておくことはなく
「お前のその特典武具は俺が貰う!」
アリシアへと襲い掛かってきた。
通常、特典武具は所有権が他の者へ移ることはない。
だか、このイベントにおける“イベント中に死亡するとお宝は全てドロップする”と言うルールがある。
そのことに期待した<マスター>が襲ってくるのは当然とも言えた。
もっともこれは誤解であり、実際には特典武具は“お宝”扱いではないのだが。
(お宝の位置はあそこ・・・)
念のため脱出方法だけ確保しておき、アリシアは魔法を発動する。
「《アースピラー》」
そうしてその<マスター>であるディンギルは足の裏から貫かれて死亡した。
(バカな・・・)
消える寸前そのディンギルは疑問に思う。
彼の【硬無疵則 ジークフリート】の必殺スキル《
ジークフリートの逸話にちなんでどこか一か所弱点を設定しなければならず、その部位から攻撃を受けた場合にはダメージが10倍化する欠点こそあるものの、初見ではそれを足の裏に設定していることは絶対にわからないはずだ。
(こいつまさか不正か!?)
そうして疑念を抱いたままディンギルは光の塵となり消滅した。
□【賢聖】アリシア・ノイモント
《アースピラー》で相手を倒すと同時に自身の姿を覆い隠し、
「《ピットフォール》」
そのままアリシアは続けて穴を掘り、宝箱を開けてお宝を手に入れる。
【イベントから退出いたしますか? Y/N】
このアナウンスに対してアリシアは迷わずYを選択する。
こうしてアリシアのイベントは終了した。
■【狙撃名手】シーマ・ハイヴ
「・・・チッ」
アリシアを狙おうとしていた<マスター>の1人であるシーマは舌打ちをする。
(こちらに気づいてやがったのか?)
そう考えるが、半分正解である。
アリシアはイベント開始前の会場で、周りの<マスター>達の能力を確認しており、その中で危険な<マスター>が何人かいることを把握していた。
そのうちの1人がシーマである。
アリシアの【アカシックレコード】は周囲を把握できる<エンブリオ>であるが、その範囲の狭さが欠点でもある。
そのため範囲外からの狙撃は一番に警戒すべきものであった。
そこでディンギルを倒す際には外からの視界を邪魔しやすいことも兼ねて《アースピラー》を使用したし、倒した後も範囲外からの攻撃を警戒してすかさず脱出を図ったのだった。
もっとも、その相手がシーマである確証があったわけではなかったが。
だが、シーマにはそんなことはわからず
(お宝の位置も初めからわかっていたみたいだった。
なんだか怪しいな)
彼もアリシアに対して疑念を抱くのだった。
なお、土や植物等の採取物は持ち出せなかった模様。
捏造設定
《アースピラー》
地属性魔法。
ファンタジー作品ではよく見かける地面から上向きの杭を発生させて相手を串刺しにする魔法。
《殺気感知》に反応があったため、多重発動して目の前の相手を倒すと同時に目隠しにも使用した。
《エクスティンクション》
アリシアのオリジナル魔法。
固定ダメージ魔法を応用している。
消費MPの1/3の固定ダメージを与えることができる。
固定ダメージなので最大HPに対する割合に応じた体積を消失させることができる。
元の魔法の消費MPを勝手に3倍の2400だと捏造設定した。
【禍勁騰剣 レーヴァテイン】
TYPE:エルダーアームズ
到達形態:Ⅵ
スキル:
《
大ダメージを与えることができる必殺スキル。
ただし、あくまで剣で相手を斬る必要がある。
備考:【ヌルヴォイド】に初めに殺された<マスター>の<エンブリオ>
剣で斬った相手に大ダメージを与えることに特化している。
モチーフは雄鶏ヴィゾーヴニル殺しの武器。
炎の武器として有名だけど、この<エンブリオ>は炎とは関係ない。
【硬無疵則 ジークフリート】
TYPE:ルール
到達形態:Ⅵ
スキル:
《
無敵化のスキル。
基本的に体表からのダメージが一切なくなるが、かならず身体の一部に欠点を設定する必要がある。
備考:特典武具を横取りしようとした<マスター>ディンギルの<エンブリオ>。
欠点からのダメージは通常の10倍になるので、広域殲滅のような全身を巻き込む攻撃を受けるとあっさりと死亡する。
状態異常に対しても無敵化するわけではないので、本人が思っているほど無敵ではないかもしれない。
【小虚隠滅 ヌルヴォイド】
古代伝説級の<UBM>
表面に触れたものすべて亜空間へと吸い込む特性を持つ。
そのためほぼすべての攻撃に対して無敵である。
接触したら亜空間に吸い込まれて即死する。
遠距離攻撃も亜空間に吸い込んで無効化する。
空間干渉のできる攻撃やHPへ直接ダメージを与えられる攻撃以外の攻略が思い浮かばない。
ただし、相手を驚異と感じないためか積極的に周りを襲うこともしない。
ゆっくりと周囲を吸い込みながら移動するだけなので、遭遇しても死なないだけなら簡単な相手である。
倒す手段がないのであれば無視をするのが正解。
【虚塞隠盾 ヌルヴォイド】
古代伝説級特典武具
小さな盾(片手武器)
装備補正:無し
装備スキル:
《
盾の前にあらゆるものを亜空間へ送る結界を作る。
結界の大きさは半径2メートルほど。
発動中は継続して大量のMPを消費する。
光も吸い込むので結界の見た目は黒い壁のようになる。
備考:盾の形状をしているが、防御性能はこの固有スキルに依存しており防御力はほとんどない。
アイテムボックス的な役割もしており、入れたものはあとから取り出すこともできる。(ただし、ただの出し入れにも大量のMPを消費する。)
<UBM>のものとは異なり、触れた相手を吸い込んで即死させるなどはできない。
例え手を突っ込んでも、引き抜けば無事である。