知を致すは物に格るに在り   作:チュータツ

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やせいのますたーがあらわれた


他の<マスター>との遭遇

よく考えると学術院に籠りっきりでほとんど何もしていなかった。

デンドロにログインしたアリシアは、街を散策しようと考えていたのだが・・・

 

□【数学者】アリシア・ノイモント

 

「待ちな」

 

突然【戦士】と【魔術師】の二人組が話しかけてくる。

 

「デスペナになりたく無ければ、金を寄越しな」

 

「え?いきなり三下ムーブのロールプレイ?」

 

「だれが三下だ!」

 

「ごめんなさい。あまりにも定番すぎたもので。

ですが、今はあまりお金は持ってませんよ」

 

「嘘を吐け。お前が頻繁に図書館で働いて稼いでいるのは知っているぞ。

そしてお前が戦闘職で無いことも分かっている」

 

「知っているか?<マスター>が<マスター>を殺したとしても、別に犯罪にはならないんだぞ」

 

「それは知ってますが、さすがに街中でそういうことをしていたら、衛兵が飛んでくると思いますよ。

せめて街の外でやらないと」

 

「誤魔化そうとしても騙されないぞ。

犯罪でもないのになんで衛兵が来るんだよ」

 

「いや本当のことなのですけど。《真偽判定》があればわかると思いますが」

 

学者系統では早い段階で覚える《真偽判定》ではあるが、【戦士】や【魔術師】では覚えていないのだろう。

しかし、こんなに人目のある広い場所で襲いかかるつもりとは思っていなかった。

街中で襲うにしても人目のつかない裏路地とかもっといろいろとあるだろうに。

まあ、狙いはなんとなくわかる。

注意をひきつけて置き、別の仲間が不意打ちをするのだろう。

そうでなければわざわざ声をかける理由がない。

もっとも先ほどからチラチラと目線が動いていることが全てを台無しにしているが。

あえて裏路地のような隠れるところが無い場所で、物陰などの警戒が必要ないことを逆手に取った不意打ち。

まず間違いなく高度な隠蔽の<エンブリオ>だろう。

であれば、後は襲ってくるタイミングさえわかれば自分ならばまず間違いなく対処できるはずだ。

アリシアはそのことを悟らせないように相手との会話を続けた。

 

■【暗殺者】シンゴ・サネザキ

 

一方、隠れていた【暗殺者】シンゴはアリシアのステータスを《看破》して少し驚いていた。

(アイツなんでこんなにレベルが高い?)

彼らは未だ1職目であり、そのジョブですらカンストまでには今しばらくかかりそうな状態である。

デンドロが開始してからゲーム内では1か月以上が経過しているが、多くの者達はレベリングに苦心していた。

デンドロは普通のゲームとは異なり、モンスターが自動でポップして補充されることがない。

もともと王都周辺のモンスター達はティアンだけでも対処できる程度の数しかいなかった。

そこに大量の<マスター>が流入し、そのほとんどがレベリングのために狩りをすればどうなるか。

王都周辺のモンスター達は狩りつくされ、新たに現れても大勢が群がり瞬殺される。

このようなことが続き、<マスター>達のレベリングは遅々として進まない状況にあった。

最も一部の強者は早々に初心者エリアを卒業し、遠出をすることで着実に進んではいるのだが。

しかし、今回襲ってきた彼らはそこまで強くはなく、一度遠出を試みたときも突然襲ってきた亜竜級モンスターに瞬殺されてしまった。

彼らがPKを行うことにしたのも、そういった事情から外で狩りをすることにうんざりしてきたからでもある。

にも関わらず、アリシアのレベルは150近くあった。

 

(外に出ることもしない雑魚じゃなかったのかよ)

 

その理由はジョブクエストにあった。

冒険者ギルドで受注できるギルドクエストと異なり、各ジョブの専門ギルドで受注するジョブクエストはその難易度に応じて経験値が入る。

難易度の低いジョブクエストで入る経験値は大した事はないのだが、難易度が上がればその分入る経験値は多くなり、一度のクエストでレベルがいくつも上がることも少なくない。

アリシアは<エンブリオ>の特性により学術院で発注された高難易度のクエストでもクリアできることが多く、その結果レベルを大きく伸ばしていた。

 

(しかし、MPやSPは高いがその他のステータスは大体低い。

AGIが少し高めなのが気になるが、一撃で倒せば何も問題ない)

 

自身の<エンブリオ>【隠姿潜巾 ハデス】があれば姿を見破られることはない。

HPやENDが低ければ不意打ちの一撃で倒すことも容易だろう。

そう考えアリシアの背面からスキルを発動させる。

 

「《バック・スタブ》」

 

背面からの攻撃に限り攻撃力を倍増させるスキル。

戦闘職でない相手であれば一撃で葬ることができるだろう。

万が一耐えられたとしても、ナイフに塗った痺れ薬で動けなくなるはずだ。

 

□【数学者】アリシア・ノイモント

 

「フッ・・・」

 

完璧な隠蔽からの不意打ちにもかからわずそれに合わせて軽く呼気を吐き出し、アリシアは横に避けながらシンゴの手首を取り、そのまま腕を捻り上げた。

 

「ぐっ・・・」

 

そのまま、シンゴの手から離れたナイフを手に取りシンゴの太ももを傷つけ、すかさず【魔術師】へと投擲する。

 

「がっ・・・」

 

回転しながら飛んだナイフは【魔術師】の胴へと当たって傷を付けた。

どちらも致命傷からは程遠い傷ではあるが、大してENDのない【暗殺者】や【魔術師】ではその毒をレジストすることもできず、身体を痺れさせる。

 

「てめぇ!」

 

「・・・いや、今のはどう考えても正当防衛でしょう」

 

「うるせぇ!」

 

激高した【戦士】の攻撃を避けながら、しかし内心ではアリシアは少し焦っていた。

アリシアの<エンブリオ>【確知日進 アカシックレコード】は周囲の状況を完全に把握することができる。

スキルの発動中は常時MPを消費するため常に発動状態を維持することはできないが、それでも襲ってくることがわかっていればその間発動し続ける程度には余裕がある。

相手の動きを完全に把握していれば、《高速思索》を併用して思考速度を上げての対処は容易だと考えていたのだが。

 

(あぶなかった。見よう見まねでやってもカッコよくは決まらないなあ)

 

アリシアのイメージの中では太ももへの攻撃も刺すつもりだったし、投擲も真っすぐに投げたつもりだった。

しかし、ナイフを手にしたとたん《高速思索》は使えなくなり、元々そんな技術を持っているわけでもなくただ動画で見たものをまねただけでは、そこまで上手くは動くことができなかったのである。

 

「てめぇ、ちょこまかと!」

 

しかし、それでもナイフを手放した今は再び《高速思索》も使用できるようになり、自身よりもAGIの低い相手の攻撃を避けるだけであれば造作もない。

そのまましばらくの間攻撃を避け続けていると、

 

「そこまでだ!」

 

通りから騎士が近寄ってくる。

 

「チッ」

 

「逃がすな」

 

騎士を目にしたとたん、逃げようとした【戦士】も完全にレベルの異なる騎士からは逃れられず、あっさりと捕縛されたのだった。




この主人公無自覚に相手を煽ることがある。
このことはカンニング騒動にも一役を買ったかもしれない。
本人に自覚は無いけど。

設定
【確知日進 アカシックレコード】
TYPE:テリトリー
到達形態:Ⅱ
スキル:
《アイデンティファイ》
SPを消費して物を知るスキル。
第一形態のときから取得していた。
テキストを読むのではなく、情報を知っている自分に置き換える。
イメージとしては物事を思い出す感じ。
<エンブリオ>や<UBM>の能力や固有スキルまで知ることができる。
第一形態時には手で触れたものにしか使用できなかったが、第二形態では後述の《パーセプション》の範囲に対しても使用できるようになっている。
《パーセプション》
MPを消費して場を知るスキル。
第二形態のときに取得した。
見るのでも感じるのでもなく、そこに何があるのか知っている自分に置き換える。
イメージとしては部屋のどこに何があるのか覚えた後に、真っ暗な中で記憶を頼りに行動するような感じなので、これを頼りに行動するのには慣れが必要。
第二形態では効果範囲が6メテル程度と他の周辺探知型エンブリオと比べて狭いが、その分得られる情報は格段に多い。
備考:本作の主人公アリシアのエンブリオ。
特性としては知ることに特化している。
知らなければ対応のしようがないスキルや、一見不死身にしか思えないようなカラクリのタネ、隠しておきたい弱点まですべてが事前にわかる“初見殺し殺し”。
相手からすればカンニングの(ズルい)<エンブリオ>であり、本人にとっては不正行為(覗き見)ではなく単に知っているだけというものでもある。
一見なんでも知ろうとしているように見えて、その実自分に関係した狭い範囲しか知ろうとしていないことの現れでもある。
テリトリーの<マスター>らしく、本人の性格は独善的で一匹狼的なところがある。
なお、語源である“格致日新”の“格致”の部分に当たる“格物致知”が本作のタイトルになっている。
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