キングヘイローまとめ   作:瑞穂国

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十話目です。
ある休日前の夜、キングにかかってきた一本の電話のお話。
(pixivへの投稿はハロウィン直前でした)


腹巻パーティー、近日開催

――私のスマホは心配性。

 

 

 

『――ちょっと、キング。聞いてるの』

「……はいはい。聞いてますから」

 

 学生たちの憩いの場となっている共同スペースの端、通話用に設けられた一人がけの空間に陣取る私は、若干うんざりしながら電話の相手に返事をした。

 夕食も終わったこの時間帯、それも金曜日の夜となれば、レースを控えていないウマ娘たちにとっては一番の息抜きタイミングだ。実際、私もつい先程まで、友人たちとボードゲームに興じていた。それなのにどういう訳か、かれこれ二十分近くこうして電話に拘束されている。やはり「お母さま」という通知が見えた瞬間に、電話に出るのをやめた方がよかっただろうかと、今更ながらに思った。

 相変わらずの心配性――という名の小言を連発するお母さまを適当にあしらいながら、私は仕切りの隙間からチラリと共同スペースの一角を見遣る。友人たちは相変わらずボードゲームを続けていた。その内の一人、グラスさんと偶然目が合う。「大丈夫ですか?」とでも言いたげに小首を傾げた彼女へ、目線だけで「問題ないわ」と答える。グラスさんはこくりと頷いて、またボードゲームへ戻っていった。

 

『――それで、キング。腹巻はどの柄にするの』

「だからいらないってば。今時なによ、腹巻って」

『この季節は寒暖差が激しいでしょう。寝てる間にお腹を冷やしたらどうするの。この前だって――』

「お腹を冷やしたのは小学校一年生の時に一回だけじゃない。そんな前のことを『この前』なんて言わないでくださいな」

 

 まったく、親という生き物はどうしてこうも心配性なのだろうか。いいや、話に聞く限り、スペシャルウィークさんのお母様なんかは、もっとどっしり構えている印象だ。やはりお母さまが特別心配性なんだろう。

 ……いい加減、少しくらい信頼してくれたっていいじゃない。もう子供じゃないし、アスリートとして体調管理くらいは自分でできる。トレーナーだっている。お母さまにいちいち心配してもらわなくたっていい。小言を言うくらいなら、少しくらい別の話ができないのかしら。もしかしてお母さま、私に小言を言う以外の話題がないんじゃないかしらと、最近はそんなことすら思っている。

 折角の時間を台無しにしている気がして、どうしようもなく溜め息が漏れた。

 

「わかったわよ。じゃあ次の週末に、自分で買いに行きますから。それでいいでしょう」

『何言ってるの。それくらい買ってあげるから』

「強情な人ですね!?」

 

 最早溜め息すら出てこない。もう諦めの境地に両足を突っ込んでいる。色々と馬鹿らしくなって、「ならお母さまの好きにしてください」と投げやりに全て任せた。電話の向こうで「仕方ないわね」と答えたお母さまの声音は、どこか嬉しそうに聞こえる。そういえば、小さい頃はよく、お母さまに連れられてお洋服や靴を見に行った。お母さまは、自分の服なんかより、私の服を選んでいる時の方がよっぽど楽しそうだった気がする。

 この週末中に注文して送るからと言うお母さまに「はいはい」と答えた。週末か、と思って私はもう一度共同スペースへ目を遣る。今週末のハロウィンに向けて実行委員たちが作った飾り付けが部屋のあちこちに見えた。カボチャやコウモリ、おばけの姿が広い部屋のあちこちに散らばっている。

 ふと、イタズラ心が湧いてきた。

 

『それじゃあ、キング――』

「待って、お母さま」

 

 電話を切ろうとしたお母さまを呼び止める。お母さまは電話の向こうで随分驚いたみたいだった。しばらく間があって「何?」と短い声が返ってくる。

 クスリと口の端から笑みが零れた。今の私は、きっとよからぬ企てをする、悪役令嬢みたいな顔をしているだろう。

 

「トリック・オア・トリート。――お菓子をくれないと、イタズラします」

 

 今週末やって来るというハロウィンに相応しい言葉をスマホに向かって囁いた。

 

『……そういえば明後日だったわね。でも残念、お菓子なんて用意してないわよ』

「あら。それじゃあイタズラですね」

『……直接会えないのに、どうイタズラをするつもりかしら』

「それは秘密です。でも、一流のイタズラであっと言わせるから」

 

 まあ、ネタはないけど当てはある。お屋敷のメイドたちに頼めば、喜んでとびっきりのイタズラを仕掛けてくれるだろう。お母さまのことだから、きっと簡単に腰を抜かすに違いない。

 例えば、そうね。朝起きたら、スマホの待ち受けが私の一流ブロマイドになっているというのはどうだろうか。それか目覚まし音声が私の笑い声になっているとか。これくらいならそんなに手間もかからないだろうし、メイドたちも協力してくれるだろう。

 画面の向こうでお母さまは妙にあからさまな溜め息を吐いた。

 

『わかったわ。ハロウィンには間に合わないかもしれないけれど、何かお菓子を送るから。それでいい?』

「ええ、結構です。イタズラは勘弁してあげる」

『……もう、勝手なんだから』

 

 体に気をつけて。お互いにそう言って、おやすみなさいもして、電話を切った。やや過熱したスマホをポケットに仕舞い、私は通話席を立つ。途中で抜けてしまったボードゲームはもう終盤に差し掛かっていた。次のゲームから私も加えてもらうことにする。今夜は何だか誰にも負けない気がした。

 

 

 

 数日後、寮監室で受け取った荷物には、温かそうな腹巻が三着と、私一人では食べきれないほどのお菓子が詰まっていた。

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