キングヘイローまとめ   作:瑞穂国

25 / 33
お久しぶりです。
C102で頒布した合同誌「ウマ娘母親小説合同2」に寄稿した作品を公開いたします。
メガドリームサポーターの中でキングが現役時のお母さまとレースをする話です。


描いた夢、ここにある今

 メガドリームサポーター――サトノグループによって開発されたトレーニングサポートAIシステムが学園のVRウマレーターに実装されたのは、記憶にも新しい三か月ほど前のことだ。過去のありとあらゆるウマ娘のデータを集積しているというAIは、その膨大なデータに基づいてトレーニングのアドバイスをしたり、過去のレースやウマ娘のデータを再現して模擬レースを実施したりすることができる。特に手探り感が強い新人トレーナーや、怪我などで脚に負荷をかけられないウマ娘には重宝される存在だった。

 キング――キングヘイローを筆頭に数名のウマ娘を担当する俺もまた、このサポートAIを随所で使用していた。トレーニングのアドバイスをもらうことはもちろん、個人的にはレースの展開予想において非常に有用なアイテムだと考えている。過去のレース傾向や出走するウマ娘の情報の整理が段違いに楽で且つ早くなった。実際には、このAIには蓄積されていないデータ――直近のトレーニングの様子や担当トレーナーの指示の傾向を加味しないといけないが、反対に言えばその部分だけを俺が補って他はAI任せにできる。おかげでレース研究にかける時間が大幅に浮いて、その時間を他の仕事に充ててもお釣りが来た。この三か月は根の詰め過ぎでキングに心配をかけることもせずに済んでいる。

 さて、メガドリームサポーターという新しいツールを手にし、ウマ娘もトレーナーも程度の差はあれどトレーニングに取り入れていく中、これを熱心に活用する人物がいた。他でもない、俺の担当ウマ娘であるキングだった。

 きっかけは、メガドリームサポーター導入直後に、俺がVRでの模擬レースを提案したことだ。当時は有用な使い方を模索中で、そのためキングにも色々と協力をしてもらっていた。VR模擬レースもその一環だった。

 以来、キングは頻繁にVR空間での模擬レースに取り組んでいる。

 VR模擬レースには利点が多い。学園内で実際に行われる模擬レースというと、まず参加メンバーを自分で集めねばならず、集まってもせいぜいが数名だ。実際のレースではフルゲートで十八名が集まるわけで、模擬レースという割に実戦的なトレーニングにはなりづらい。学園内には可能な限り実戦に近い模擬レースの開催を試みる学生の有志団体があるけれど、そういう団体主催の模擬レースは大体月一で実施日が決まっていて、ウマ娘の走りたいタイミングで参加することは難しい。その点VRであれば、レースの人数も実施タイミングもウマ娘の望むままだ。出走相手のレベルも選択できる。おまけに天候やバ場の条件も自由に設定できるため、実際の天気に左右されることもない。VRでも実際に体に負荷がかかるようになっているから、通常の模擬レース同様多用はできないけれど、それを補って余りある利点があった。

 ただ……キングが熱心にVR模擬レースへ挑んでいるのは、そうしたVRゆえの利点とはまた別の理由からだ。

 

 

 

 VR空間でもターフには風が吹いていた。肌を撫でつける空気の感触も、鼻先をくすぐる芝と雨粒の匂いも、そしてレース場に流れる熱気さえも、現実と遜色ないほどリアルに再現されている。だから目の前のレースを見つめる時、握った拳に力が入ってしまうのも無理からぬことだった。

 俺の眼前に再現されているのは東京レース場。天候は晴れ、されどバ場状態は芝・ダート共に稍重。それゆえ前日に降った雨を感じさせる湿った匂いがした。そして、今まさに俺の担当ウマ娘が参加しているのは、芝千八百メートルで開催されている模擬レースだ。GⅡ毎日王冠などと同じ条件になる。

 普段こうした模擬レースを見守る際は、トレーニングコースが見えるスタンドの可能な限り高いところへ位置取り、ストップウォッチと双眼鏡を駆使して担当ウマ娘とレース全体を観察することになる。ところが、VR空間ではその必要はなかった。コース各所へ定点カメラを十数個、バ群を追い駆ける追従カメラを三個まで設定して、それぞれ自由に切り替えてVR空間上で映像を確認できるのだ。それにレースへ参加する各ウマ娘のラップタイムはAIが自動で計測してくれて、こちらも自由に切り替えてVR空間上に表示できる。おかげで普段のように忙しなく手と首を動かす必要もなく、俺はゴール板の側からレースの推移を見つめていた。

 第四コーナー手前に設定した定点カメラをバ群が通過したのを確認して、映像を追従カメラに切り替える。バ群全体が見渡せるカメラで担当ウマ娘の位置取りを確認、すぐにもう少しバ群へ寄ったカメラへ切り替える。トレードマークであるエメラルドグリーンの勝負服を身に纏い、輝く鹿毛をターフに揺らす担当ウマ娘――キングヘイローの姿がカメラに映った。もちろんVR空間上に作られたデータの姿だが、かなり精巧な作りをしている。ゴール板を見つめ、ラストスパートのタイミングを計る真剣な瞳に、思わずドキリとした。どんなウマ娘にも言えることだが、勝負に挑む時の彼女たちは、普段の年頃な少女の姿からは想像もつかない表情を見せる。特にキングは、それが強い魅力となってこちらの目を惹きつけた。思わず仰け反りそうになる迫力なのに、息を飲んで目が離せなくなってしまう。勇ましくもあり、優雅でもあり、頼もしくもあり、美しくもあった。気を抜くといつまでもその姿に魅入ってしまうので、普段は模擬レースの忙しなさがありがたかったのだが、今は何とか自分の精神力で思考を現実――否、VR空間に繋ぎ止めなければならなかった。

 映像を四コーナー終盤のコース外側からの定点カメラに切り替えたところで、六ハロン通過のタイムが刻まれた。集団の先頭がいよいよ最終直線にかかろうとしている。当のキングはというと、まだ後方五番手あたりを走り、外を回してじわじわと位置を上げていた。最終直線での切れ味勝負を考えているのは明白だ。東京レース場の直線は長い。焦りは禁物だ。

 外を回したキングは横に広がる先頭集団を避けて大外へと持ち出す。残り四百メートルを示すハロン棒に差し掛かる直前で、彼女の両脚に備わった一級品のエンジンに火が入った。みるみるうちに加速して先頭へと突き進む。芝を蹴り上げるその姿は風か稲妻か。キングは鮮やかに自慢の鋭い末脚を見せつけた。

 一つまた一つと順位を上げるキングをカメラ越しに、そしてゴール板横から見つめる。視界の端に表示されるラップタイムも、彼女の走りが申し分ないことを如実に示していた。

 圧倒的なスピードを見せつけ、キングはゴール板を駆け抜ける。息を整えつつゆっくりと減速していく背中を見つめる俺は、早速表示される着順に顔をしかめた。

 しばらくすると、レース場に所狭しと響き渡る高笑いが聞こえて来た。勝者が自らを誇示する高らかな旋律。それはキングヘイローというウマ娘の専売特許であった。

 だが、今凱歌を響かせたウマ娘は、キングではなかった。

 肩で息をして苦々しい表情を浮かべるキングの目線の先に、一人のウマ娘が立っている。背格好はキングよりやや小さいが、堂々とした立ち姿がキングに負けず劣らない存在感を醸し出す。凛々しく整った顔立ちも、輝く栗色の瞳も、キングのそれにそっくりだ。ただ、風に吹かれてなびく鹿毛はキングよりいくらか明るい色合いをしている。トレードマークのリボンもキングとは反対の左耳に揺れていた。

 威風堂々とターフに立つウマ娘の姿には俺も見覚えがある。一度――随分前だけど、彼女の走りを研究したこともあった。それに、現実世界の彼女とも何度か顔を合わせたことがある。トゥインクル・シリーズとドリーム・トロフィー・リーグの双方で輝かしい成績を収めた、「伝説」とまで呼ばれる競技ウマ娘。キングを打ち負かした少女は、キングの母親――現役だった頃のお母さまだった。

 一しきり高笑いを披露したお母さまは、自信に満ち溢れた表情でキングを見据える。一つ間違えば生意気にも映る勝ち誇った笑顔は、しかしその勝利がまるで当たり前であるかのような振る舞いによって、勇壮な王者の風格をまとった。吊り上がった口角には、その実力を認めざるを得ないだけの説得力がある。

 まるで姉妹のようにキングとそっくりなお母さまは、悔しさを滲ませるキングにいっそ清々しい笑みで言葉をかけた。

 

「いい筋をしているわね、後輩。――でも残念。今回も私の勝ちよ!」

「むきーっ!」

 

 悔しさが頂点に達したらしいキングは、その場で地団駄を踏み始める。VR空間とはいえ、キングがここまではっきりと包み隠さず悔しさを表に出すのは珍しい。もちろん、強力なライバルである黄金世代の面々には対抗心を隠しもしないが、かといって負けてもここまで悔しさを表に出すことはまずない。彼女は自分が負けた悔しさよりも、自分を負かした相手への称賛と尊敬を優先する子だ。

 ただ……これだけ悔しがるのも無理からぬことかもしれない。お母さまとキングの模擬レースはこれで十度目。対戦成績は零勝十敗。今回もまた、好位でレースを進めたお母さまが最終直線で難なく抜け出し、鬼のような豪脚を披露したキングをいなして半バ身先着していた。

 相手との相性が悪い、と言われればそれまでだ。最後の豪脚で全てを撫で切るキングと違い、お母さまは好位につけてペースを握り展開を支配していた。自身の脚は残しつつ、前のウマ娘にはプレッシャーをかけて体力を削り、後ろのウマ娘には末脚勝負を許さず引き離す。お母さまの走り方は、位置取りを後ろへ下げることの多いキングからすると、すこぶる相性が悪い。何しろ、レース序盤から中盤にかけて、後方からでは好位のお母さまに何も仕掛けることができない。かといって前目につけてマークしようとすると、バ群の競り合いに巻き込まれて折角の末脚を失ってしまう。

 もちろん、相性の悪さだけが敗因ではない。お母さまは重バ場をものともしないパワーも持ち合わせていた。出走するウマ娘たちが脚を取られて嫌がる内側の荒れたバ場でも難なく走ってくる。それに、バ群を捌く観察眼と器用さも一級品だ。最終コーナーで内に閉じ込められていても、必ずどこからか抜けだしてくる。十回も模擬レースを繰り返せば、「伝説」と呼ばれるだけの能力の高さを骨の髄まで思い知らされた。

 普通ならもう嫌になって、やめてしまいたくもなる。けれど……どうやらキングにそのつもりはないようだった。

 

「ふんっ! 今回は勝ちを譲ってあげただけよっ!」

 

 ひとしきり悔しさを露わにした後、キングは尊大に腕を組んで険しい表情を見せ、お母さまに言った。そしてビシッと真っ直ぐに人差し指を突きつけ、宣言する。

 

「覚えておきなさい! 次こそ勝つのは私なんだからっ!」

 

 一切淀みのない宣戦布告が真正面からお母さまを貫く。キングの言葉を受け止めるお母さまは、自信に満ちた微笑みのまま、わずかに目を細めてキングを見つめていた。余裕のある視線に益々キングの瞳が燃え滾る。向かい合う二人の間に、しばらく静かな火花が散っていた。

 

「いいわ、いつでもかかってきなさい。――ま、次も勝つのは私だけれどっ」

「っ! いいえ私よ! 勝手に決めつけないで頂戴っ!」

 

 模擬レースを終えたばかりだというのに、もうすでに次を見据えて互いを主張する二人に、こちらとしては苦笑いする他ない。メガドリームサポーターがウマ娘の性格まで再現できるのかはわからないが、端から見れば親子なのも頷ける似た者同士だ。

 放っておくとこのままもう一戦と言い出しかねないので、ほどほどのところでキングに声をかけVRウマレーターからログアウトする。手を振るお母さまは最後まで律儀に俺たちを見送ってくれた。

 

 

 

 

 

 

――随分久しぶりに、懐かしい夢を見た。幼い頃は頻繁に見ていて、でもこのところはとんと見なくなった、懐かしい夢。私が憧れたとあるウマ娘の夢だった。

 

 

 

 お母さまと走ってみたい。そんなことを思ってしまったのは、ほんの出来心だった。

 過去のありとあらゆるレースやウマ娘のデータを収集しているというメガドリームサポーター。最新技術を駆使して開発されたサポートAIが作り出すVR空間の中では、すでに現役を退いたウマ娘の姿と走りを再現することができる、そんな話は聞いていた。メガドリームサポーターがお披露目された際にも、学園の有志とAIが再現した名だたるウマ娘たちとのエキシビジョンレースが開催され、大きな話題を呼んでいた。でもその時には、ぼんやりと実力を試すのには丁度いいくらいにしか考えていなかった。

 VR模擬レースをトレーナーが提案してきたのは、エキシビジョンレースから少ししてのことだった。その頃は新しいツールの有用な使い方を彼も模索中で、私もできることは協力していた。

 ランダムに生成されたコースは、東京レース場芝千八百メートル。天候は晴れているけれど、バ場は稍重。そこまで設定したところで、トレーナーは私に尋ねた。

 

――「折角だし、誰か走ってみたいウマ娘はいないかな?」

 

 トレーナーとしては、メガドリームサポーター内に蓄積されている過去のウマ娘のデータが、どれほど再現されるのかを試してみたかったのだろう。それじゃあ誰と走ろうかしら、と考え出した私は、けれどすぐに一人の名前が浮かんでしまった。そして彼女以外なんてもう思いつかなくなってしまった。

 

――「お母さまと走ってみたい」

 

 ……そう告げてしまったのは、やはり私の出来心だ。トレーナーも随分驚いていた。けれど取り繕いようもなく、私はそのまま取り下げることをしなかった。彼も少し考えるような素振りはあったけれど、私の提案を了承してくれた。

 かくして、私はお母さまと走ることになった。

 メガドリームサポーターが再現したお母さまは、トゥインクル・シリーズを走っていた頃に着用していた勝負服に身を包んでいた。URAのアーカイブ映像の中でしか見たことのない姿が、VR空間とはいえ目の前に再現されていて、不思議な感覚がした。でも、変に気負ったりだとか、気持ちが昂ったりだとか、そういうことは特段なかった。いつも通りの模擬レースだ、そう思っていた。

 でも、ひとたびレースが始まると……不覚にも私は、お母さまの走りに見惚れてしまった。

 お母さまのレースを見たことが無い訳じゃない。さすがにメイクデビューやOP未満は見つからないけれど、GⅠ含む重賞戦線で活躍してきたお母さまのレース映像を見ることは容易い。……今更隠しても仕方がないことだけれど、実を言うとクラシック級の頃までは、いつもお母さまのレースを参考にしていた。口ではどれだけ否定していても、結局あの頃の私は、お母さまのようになりたかったのだ。お母さまの歩んだ軌跡をなぞろうとしていただけ、ただの真似事だ。でも、「お母さまのあとを追いかけるのはやめる」、トレーナーとそう決めてからは、意識して見ないようにしていた。

 とはいえ、幼い頃から繰り返し見てきたお母さまの走りは、はっきりと私の脳裏に焼き付いていた。だから、今更その走りに目新しさなどなかったはずだった。

 前を駆けるお母さまには、見る者の目を奪う「華」があった。一つの綻びもない流麗なフォーム。ターフの風をはらむ鹿毛が陽の光でキラキラしていて、思わず息を飲んでしまった。お母さまと走ったウマ娘は、いつもこんな光景を目にしていたんだ、って……少し羨ましくなってしまったほどだ。

 結局私は勝てなかった。トレーナーと二人で磨き上げてきた渾身の末脚を披露したけれど、早々に集団から抜け出したお母さまを捉えられなかった。

 そこで終わらせればよかったのに。私はお母さまとの再戦を選んだ。負けても、負けても、負けても、諦め悪く挑んだ。

 十戦十敗。それでもなお、この挑戦を止めようとは思わなかった。ただ、何が私をそこまで駆り立てるのか、一番大事な部分がまだよくわからなかった。意固地になっている自覚はあった。子供っぽくムキになっている自覚はあった。でも、私をそんな風にしているものの正体が掴めず、自分の中で納得がいかなくて、だから無理を言って挑み続けていた。

 

 

 

「ねえ、トレーナー」

 

 十一度目の正直へ挑戦するべくVR空間のレース場へ立った私は、ゴール板近くでレース分析の準備を進めるトレーナーに声をかけた。カメラの設定やタイム計測の準備をしていたらしい彼は、その手を止めて私に目を向ける。

 自分で話しかけておきながら、私は口を開くのにしばらく躊躇した。

 

「……トレーナーはどう思っているかしら」

「この模擬レースのことかい?」

 

 確かめるように尋ねたトレーナーへ無言のまま頷く。もうVRウマレーターへログインしてしまってから訊くことではなかった気もした。でも、ここまで何も言わずにこの模擬レースへ付き合ってくれている彼に、意見を求めたかった。

 トレーナーはほんの少し考える素振りを見せてから、質問に答えてくれた。

 

「この模擬レースは、キングがやりたいことなんだろう? なら、キングが納得するまでやった方がいい。俺はそう思ってるよ」

 

 淀みのない返答に私の方が言葉に詰まる。

 確かに、この模擬レースは私のやりたいことだ。誰かに強いられる訳でもなく、私が望んで挑んでいる。でも……本当にそれでいいのだろうか。

 

「それは、そうなのだけれど。……前に約束したでしょう。もうお母さまの後は追いかけない、って」

 

 私の言わんとするところを、トレーナーも理解してくれたみたいだ。

 私は私の道を――私だけの「一流」を歩む、そう決めたのは菊花賞も終わってすぐのことだった。それは他でもない、トレーナーが私にくれた助言だった。あの日から、私は誰かに求められたわけでも、誰かに決められたわけでもない、私が自分で選んだ道を私の脚で歩くことにした。

 私が固執しているこの模擬レースは、もしかしたらあの日の約束を違えるものではないか。私にはそんな風に思えてしまう。

 私の懸念を吹き飛ばすように、トレーナーは柔らかに笑っていた。

 

「そうだったね。――でもこの模擬レースが、お母さまの後を追いかけていることになるとは、俺は思わないよ」

「それは、なぜ?」

「キングが純粋に、お母さまに勝ちたくて挑んでるから」

 

 トレーナーの答えに目を見開く。声の出ない私を真っ直ぐに見据えて、彼はさらに言葉を続けた。

 

「これまで十戦、確かに勝てなかった。でも、君は一度も『お母さまのように走ろう』とはしていなかったし、思っていなかっただろう? 確かにあと少し届かなかったけど、君は君自身の走りをしていた。君と俺で一つずつ見つけてきた、『キングヘイローの走り』をしていた」

 

 決して激しい響きのない、穏やかな口調のトレーナー。でも一つひとつの言葉には、私に寄せる絶大な信頼が感じられた。菊花賞後のあの日から――いいえ、それよりずっと前、彼が私の担当になった時から、その信頼は変わらない。私だけの才能も、私だけの走りも、私だけの魅力も、その全てを彼は信じてくれている。一度気づいてしまうと、真っ直ぐで曇りのない信頼は、ひたすらにこそばゆい。胸の辺りがくすぐったくて、高鳴る心臓の分だけ頬が熱い。

 その信頼があったから、私は私だけの道を、胸を張って堂々と歩んでいくことができる。

 

「君は今、競技ウマ娘・キングヘイローとして、同じ競技ウマ娘であるお母さまに勝とうとしてる。お母さまの背中を追い駆ける娘として、ではなくね。――それはもう、普段のレースと何も変わらない」

 

 トレーナーはそう言って答えを締めくくった。私の心にわだかまった、もやもやとはっきりしなかった曇りが晴れていく。自然に唇の端が持ち上がるのを感じた。

 

「ねえ、勝てると思うかしら」

「君が勝てないと思ったことは一度もないよ」

 

 一切躊躇のない返事があって、私は堪らずに吹き出し、笑ってしまった。開いた唇の間から笑い声が漏れる度、胸のつかえが外れて流れていく。VRウマレーターを通して感じる私の脚の感触も、心なしか軽くなった気がした。

 

「ふふっ、そうね。私もそんなこと、思ったことないわ」

 

 私なら勝てる、いつだってそう思ってる。世界中の誰よりもまず、私自身がそう信じてる。そして、私が私を信じているのと同じくらい、トレーナーも私を信じてくれている。積み上げてきた努力、重ねてきた悔しさ、磨き続けた私の脚、その全てを信じている。

 だからこそ……君と勝ちたい、いつだってそう思ってる。強く強く、世界中の誰よりも強く、そう思っている。相手がお母さまだからとか、そういうのは関係ない。私は負けたらいつだって誰にだって悔しくて、でもその度に次こそは勝つと心に決めた。私を信じてくれる人たち――ファン、チームの後輩、友人、ライバル、そして何より彼と私のために、私は勝ちたい。

 

「私は勝ちたいの。――だから挑み続けるわ。十回、二十回、百回、千回、何度だって挑み続ける」

「ああ、それでいい。――そして最後に勝つのが君だ」

「ええ、そうね。――勝って来るわ」

 

 二人きりで勝利を誓い合う。それから目を閉じて一つ深呼吸をした。VR空間で再現された芝と雨の香りを肺に吸い込む。感覚の研ぎ澄まされた肌を涼やかなターフの風が撫でた。そして目を開く。自分の中でスイッチの入る感覚がした。

 

「それで、トレーナー。これからレースに向かう一流ウマ娘に、最後のアドバイスをする権利をあげるわ」

「今更、特別付け加えることは何もないよ。――君らしい走りで勝っておいで、キング」

 

 不敵に笑って答えたトレーナーに、私も高笑いで応える。レース前恒例のやり取りだ。私たち二人にもう言葉はいらない。尽くすべき言葉は全てレース前に尽くしている。あとは彼に勝利を誓い、彼の言葉で送り出されるだけだ。

 どちらからともなく差し出した拳を合わせ、ほんの数秒見つめ合う。私たちはそれで十分だ。

 

「いってくるわ、トレーナー」

「いってらっしゃい、キング」

 

 名残惜しく思いながらも合わせた拳を解き、彼に背を向けて走り出す。府中千八のスタート位置は第二コーナーの途中だ。VR空間で「返し」は必要ないけれど、私はいつも通りに足元を確かめながらターフをゲートへと向かう。穏やかな風が、私の自慢の鹿毛と、勝負服の裾を揺らしていた。

 ゲート前にはすでに出走するウマ娘たちが控えていた。模擬レースとしては破格の条件の、フルゲート十六名の参加。ゲート入りを待つ各ウマ娘はそれぞれに煌びやかな勝負服を身に着けている。しかし、そんな華やかな空間にあっても、()()の存在感は圧倒的だった。

 

「――来たわね」

 

 私を見つけると、彼女――お母さまはほんの少し目を細めた。レース場に差し込む陽の光が横顔を照らし出す。鏡映しのように私とよく似た顔が、VR空間上に再現されている。見る者を圧倒する存在感、目を逸らすことなど許さない華やかさ、一目で虜にされてしまう魅力。一流のアイドルと言われたって信じてしまう、まるで完璧で無敵に思える一流ウマ娘が私の前に立っていた。

 私よりいくらか背丈の低いお母さまを見つめる。今のお母さまとはまた別種の自信を纏うウマ娘に正面から相対し、私は口を開いた。

 

「光栄に思いなさい、今回も私と走る権利をあげるわ」

 

 私の言葉に、お母さまは愉快そうにニヤリと笑う。

 

「よっぽど私と走りたいのね、あなた。――いいわ。私は一流のウマ娘。何度だってこの胸を貸してあげる」

「ふんっ、言ってなさい。あなたよりも私の方が一流なんだから。それを今日ここで証明してあげる」

 

 売り言葉に買い言葉で言い返す。バチリ。お互いに黙った私とお母さまの間で、雷にも似た放電現象が起きる。それは、スカイさんやスペシャルウィークさんとの間に生じるものとは、ほんの少し違うように思えた。

 どちらからともなく目線を外し、ゲート入り開始の合図を待って体をほぐす。奇しくも今回は、私とお母さまは隣のウマ番からのスタートだった。

 体の各所を伸ばし、腿上げをしたりして足元の感触を確かめていると、隣で同じようにしてるお母さまが何気ない風に話しかけてきた。

 

「……わかっていると思うけれど」

 

 まるで独り言みたいに、お母さまは発バ機の方を見つめたまま口を動かしている。その横顔をチラリとだけ窺い、私も同じように発バ機へ目を向けて彼女の言葉を聞いていた。

 

「私は所詮、影に過ぎないわ。かつてターフを駆けたウマ娘の、データの集合体。それが私」

 

 お母さまの――いいえ、かつてのお母さまによく似たウマ娘の言葉に私は沈黙を貫く。そんな私を彼女もまた一切窺わない。二人並んで発バ機を、そしてその向こうのコースを見つめる。発走時刻はもう間もなくだ。

 

「私はあなたが本当に走りたい相手じゃない。あなたが求めている答えも言葉も、私は与えてあげられない。それは本物の私の役割でしょう」

 

 私たちの間にVR空間の再現したターフの風が流れる。レース場特有の芝と雨の香り、じりじりとした熱気。それらが近くて遠い私たちを隔てた。

 ……レースの世界に行きたい、そう決めた時からたくさんの夢を描いた。描いた夢はほとんどが叶わなくて、でもほんの少しは叶えることができたりして、そうして今の私がここにいる。でも……一番初めに見た夢は、夢見たその日から叶わないことがわかっていた。

 お母さまと同じターフに立って走ること。その夢だけは絶対に叶わない。

 今目の前にある光景は、あの日の夢そのものだ。でも本物じゃない。それは私もわかっている。

 

「ねえ、あなたは私に何を求めているのかしら」

 

 確かめるお母さまの言葉は、これまで以上に真剣な響きだった。影を追い駆けるのはやめなさい。本物の代わりを影に求めるのはやめなさい。「所詮データ」と自分で言っていたくせに、お母さまの言葉にはそんなニュアンスが含まれていた。

 ……本当に、データでだってお節介で心配性な人だ、まったく。本物のお母さまなら言い出しかねないことなのが尚更。

 でもその心配は、的外れもいいところだった。

 

「何か勘違いをしているようだけれど」

 

 準備運動の手を止める。ファンファーレはないけれど、トレーナーからゲート入りの合図があった。各ウマ娘が順にゲート入りしていくのを待ちながら、私はお母さまの言葉に答える。

 

「私があなたに求めるものは一つだけ、私との真剣勝負だけよ」

 

 叶わない夢をいつまでも引き摺るつもりはない。私は一流のウマ娘、キングヘイロー。一流は過去にはとらわれない。一流はいつだって前を見て進み続ける。希望も絶望も、栄光も挫折も、歓喜も悔恨も、全てひっくるめて受け止め積み上げて、そうして前へ踏み出していく。現状に満足せず、常に高みを目指し、ただ前だけを見据えて進み続ける意志、それこそを一流と呼ぶのだ。

 だから、私がお母さまに――模擬レースを走るウマ娘に求めることは一つだけ。私と真剣勝負をしてくれることだけだ。

 

「私があなたに挑み続けるのは、単に私があなたに勝ちたいから。それ以上でもそれ以下でもないわ」

 

 そして勝つことで証明してみせる。今日の私は、確かに昨日の私よりも前に進んでいるのだと。そしてこれからも前に進み続けるのだと。

 私の答えにお母さまは満足したらしかった。小さな笑い声を残して、私よりも先にゲートへ入った。それから少し遅れて、私もゲート内に収まる。背後で扉が閉まった。

 

「それを聞いて安心したわ。――勝てるものなら、勝ってみなさいな」

 

 隣のお母さまがコースの先を見据えたまま最後にそう言った。大外のウマ娘が収まって発走準備が完了し、全員が身構える。張り詰めた沈黙が周囲を満たした。

 次の瞬間、ゲートが開く。各ウマ娘が一斉に駆け出して、レースが始まった。

 私とお母さまはほとんど同時にゲートを飛び出した。そのまま緩やかに加速して前の位置を取りに行くお母さまに対して、私は最低限の速度に乗せるだけで後方へ下げた。出走しているウマ娘の傾向からして、先行勢と後続勢で大きく二つの集団ができることは、トレーナーとの事前分析から予想できた。思い切りよく逃げるウマ娘もいないし、隊列もそこまで長くならないだろう。そうすると、終盤にはウマ娘たちが固まって団子のようになる可能性が高いと、トレーナーは見ていた。バ群に巻き込まれるのは、私が最も不得手とする展開だ。

 勝つための選択肢は一つだけ。距離のロスはあるものの集団の外を回してバ群に巻き込まれることを避けるしかない。とはいえこれが問題だった。私の入った枠は三枠六番。内枠だ。そのままスムーズに大外へ持ち出すことはできない。普通はそのままの位置でレースを進め、コーナーなどで外へ持ち出すことになる。

 だけど私は別の手段を選んだ。

 外枠から飛び出てきた先行勢と後続勢が互いを牽制し、激しい位置取り争いをしながら私を追い抜いていく。自分の位置がみるみるうちに下がっていき、内心を冷や汗が伝った。でもそれを何度か深く息を吸うことで落ち着かせる。勝負は私より外枠のウマ娘が全員私より前に行ってからだ。

 序盤の位置取り争いが一段落をする頃には、先頭を行くウマ娘が向こう正面の直線に入っていた。後ろから二番手の位置まで下げた私からは、それ以上の情報は手に入らない。共にスタートを切ったお母さまは、おそらくいつも通りに先行勢の真ん中あたりにつけているだろうけれど、それもここからでは確認できなかった。

 覚悟を決めて一つ息を入れる。私の勝負はまだ先、集団が第三コーナーにかかってからだ。それまではじっと機を窺い、脚を溜める。

 大きく隊列が動くことなく、ウマ娘たちの集団は第三コーナーへと突入していった。先頭のウマ娘を皮切りに、先行勢、続いて後続勢もカーブに差し掛かる。私のすぐ前に形成されたウマ娘の集団が、荒れた内のバ場を避けつつ内ラチに沿って曲がっていく。一方の私は、彼女たちよりもわずかに大きく膨らみながらカーブに入った。同時に抑えていた速度のギアを一段階上げる。位置をわずかに上げて、私は後方三、四番手で後続集団の大外につけた。

 大外でレースをするために私が選んだのは、集団を捌いて外へ持ち出す方法ではなく、思い切って最後方付近まで下げ、集団を後ろから丸ごとかわして外に出る方法だ。周囲に気を配りながらバ群を捌いていくよりも確実に大外へ持ち出せるが、距離のロスが一番大きいうえにレースの半分以上を大外へ回すことに使ってしまうため、最終盤までに位置を上げておくことが難しい。直線が長く差しのレースが決まりやすい東京と言えど、この走り方は大きなリスクを伴う。でも、この走り方が一番私の実力を発揮できる。私もトレーナーもそう判断した。

 第三コーナーを集団の外へつけながら回り、大ケヤキの影を越える。試しに前方の様子を窺ってみるけれど、カーブからでは前の集団が壁になって見えない。先頭からどれくらい距離が開いているのか、先行集団の動きはどうか、今はわからない。でも逆に、それがよかったのかもしれない。いっそ割り切って自分の走りに集中できる。大外を回すことで、私は他のウマ娘よりもやや長い距離を走っている。焦りも(はや)りも命取りだ。

 大ケヤキを越えて第四コーナーへ差し掛かる。レースは後半戦だ。すでに残り八百メートルのハロン棒を越えている。千メートルの通過は体感で六十一、二秒だろうか。だとすると先頭は六十秒を少し回ったくらい。千八百メートルとしては平均かやや遅いタイムだ。展開としては先行勢が有利となる。

 思考と判断の時間はほんの数瞬、一定のリズムで繰り返す呼吸一回分の間だ。私は意を決して脚に力を込める。それまでよりもほんのわずかに強く地面を蹴り、走りのギアをさらに一段階上げる。私の体がグンと加速して前に出た。スパートというほどではないがペースを上げ、位置を上げる。前目有利の展開で、いつもの位置から仕掛けても勝てない。

 大外を回りながら前に出て、後続集団中央付近の外を走る。見慣れた東京レース場の景色が視界の端で流れ、もう間もなく最終直線へ向くことを報せた。あと数秒もすれば、先頭のウマ娘は長い東京の直線に入る。そこからさらに数秒で全てのウマ娘が最終コーナーを回り切り、後は直線勝負だ。

 後続集団の中にさざ波のようなざわめきが広がる。誰もが勝負の時に向けて備えていた。すでに動き出しているウマ娘も少なくない。

 そしてついに、ウマ娘の隊列は最終コーナーを越えて、五百メートル超の最終直線に入った。激しく動き出した集団越しに、残り四百メートルを示すハロン棒が見える。私の勝負はあのハロン棒を越えてからだ。

 みるみるうちに「四」の数字が書かれたハロン棒が迫り、数秒の後に視界の端を通過した。残りは四百メートル。ここからが最後の正念場だ。

 脚に力を溜める。わずかに腰を落としてぐっと踏み込む。丁度、バネが縮むような感覚だ。そして縮んだバネは、解放してやれば凄まじい速さで飛んでいく。

 溜め込んだ足の力を一気に解放する。瞬間、体がふわりと浮き上がるかのような錯覚を受けた。キングヘイローというウマ娘の醍醐味である豪脚が解放された瞬間だ。一度スパートをかければ、私は風とも稲妻とも競える。ターフに吹くそよ風など置き去りにして、私は先団を目指し大外一気に駆け上がった。

 だけど……予想通りに、ほとんど同じタイミングで私よりも前に躍り出たウマ娘がいた。

 走りながら思った通り、レースは先行有利な展開になっていた。先行集団は十分な脚を残してラストスパートに入っている。けれどその中にあって、苦も無く一足抜け出したウマ娘がいた。置き去りにした風に艶やかな鹿毛をなびかせる一人のウマ娘。それが一体誰かなんて、今更確かめるまでもなかった。

 先行集団から一歩前に出たお母さまは、すでに先頭を走るウマ娘を捉えていた。そのまま難なく抜き去って、隊列の先頭へ躍り出る。先行勢が必死に追いかけるが、彼女の脚に敵う者はいない。じりじりとその差が開いていった。

 でも。だけど。たった一人、彼女に届いて勝てるウマ娘が、ここにいる。

 そのウマ娘は、十度の敗北を経験してなおここで走っている。敗れても、敗れても、敗れても、決して諦めることなどしない。だってそうでしょう。たったの十回なんて、ライバルたちに負かされた数に比べれば、取るに足らない。だからそれぐらいで音を上げて、絶望して、諦めるなんて、絶対にありえない。俯くにはまだ早い。一流のウマ娘は常に顔を上げて、前を見据えて走る。汗も涙も速さに変えて、勝利という栄光へ邁進する。不屈で編んだエメラルド・グリーンの勝負服を、ターフを駆ける緑の閃光にして走る。そのウマ娘の名は――

 

「キングヘイローッ!」

 

 猛スピードで後方へ流れていく風の中、私の名前を呼ぶ叫び声が耳を掠めた。誰の声かなど言わなくてもわかる。前を駆けるお母さまがチラリと振り返り私を窺った。汗を滴らせる一瞬の横顔が、「来るなら来なさい」と挑戦的に口角を吊り上げる。

 言われなくても――絶対に勝ってみせる。

 残り四百メートルからスパートをかけた私の脚は、残り三百メートルを切ったところでついに最高潮を迎えた。最後の末脚が私の売りだけど、残念ながらエンジンのかかりが若干遅い。一瞬で最高速まで加速できるわけではない。だけど、一度エンジンに火を点けてしまえば、私とトレーナーで鍛えてきたこの脚は、誰よりも速い。

 後続集団はすでに抜き去り、先行集団の後方へ取りつく。まだ十分に脚を残してしぶとく走っている彼女たちだけれど、いかんせん集団が固まっているせいで全力を発揮できているわけではなかった。早めに抜け出したお母さまが正解だ。私は何とか外に持ち出そうとする彼女たちに針路を邪魔されないよう、距離を取りながら大外を捲っていく。一人、また一人、ウマ娘を抜いていく。一歩、また一歩、前へと踏み出していく。そうしてその先に、今二百メートルのハロン棒を通過したお母さまが走っていた。

 奥歯を食い縛ってなおも全力で走る。体中に疲労が溜まっている。意識しないようにしているけれど、早鐘のような心臓と、振り絞った肺が痛い。でもまだ脚は動く。全力で走れる。零れる汗を滴るそばから後方へ流して、私はお母さまへ迫った。

 残り二百メートルを切ったところで、先行集団の最後の一人を捉えきり、抜き去った。残るはただ一人、お母さまだけだ。鹿毛を揺らす背中がもうはっきりと見える。あと少し、あと少しで手を伸ばせば届きそうだ。勝負はもう十秒ほどしかない。そのたった十秒で十一度目の決着がつく。

 追いかける背中には、もう一バ身の差もない。あと数歩で追いつける。あと数歩で追い越せる。そんな距離だ。でも、そのあと数歩が果てしなく遠い距離だと、私はよく知っている。半バ身差、クビ差、アタマ差、そんな差で負けたレースは数知れない。記録される時計には、コンマ一秒の差すらないことだってある。そのほんのわずかな差をかけて、ウマ娘たちは鎬を削っているのだ。簡単に抜かせてくれるウマ娘など、この世のどこにも存在しない。

 私にできることは、ただ前に出ること。私の全力が――積み上げてきた努力と、磨いてきた才能と、勝ちたいと願う心の全てが、前を行く背中に届くと信じて走ることだけだ。

 腕を振り、脚を上げ、大地を蹴って走る。全身全霊でお母さまの背中に迫る。残りはもう百メートルもないだろう。ようやく半バ身まで近づいたけれど、私たちの距離はじりじりとしか詰まらない。もう目の前に見えるゴール板を越えるまでにこの差をゼロにして前に出れるかは五分五分だ。

 走る。走る。走る。走る。走る。ただ我武者羅に走る。目の前のゴールだけを見つめて走る。共に走るお母さまの熱い息遣いを聞いて走る。駆ける疾風となり、轟く迅雷となり、ひたすらに走る。

 勝ちたい。周りよりもほんの少し負けず嫌いな心を燃やして、私は走る。

 クビ差まで迫り、アタマ差まで並んで、ハナ差まで詰め寄った。東京レース場のゴール板はもう目の前だ。私が前だとか、お母さまが前だとか、もうそんなのわからなかった。ただひたむきに走った。ただひたすらに走った。すでに上がり切った息を二人で吐いて、それでも負けじと歯を食いしばり走った。燃え滾る呼吸も、早鐘のような心音も、芝を舞い上げる足音も、切り裂いた風の轟も、一体どちらのものかわからないくらい。まるで世界には、私とお母さまのたった二人しかいないみたいに、私たちは互いに譲るまいと走った。

 

「――ふふっ」

 

 ゴール板を駆け抜けたその時、小さな笑い声を確かに聞いた。最初、それは隣で走るお母さまのものだと思った。でも少しして、自分も同じように笑っていることに気づく。どうしようもなく可笑しくて、嬉しくて――楽しくて。私は自然に笑ってしまっていた。

 全力を出し切った脚は、ゴールを駆け抜けて減速しようとした瞬間に、すっかり力が抜けてしまった。惰性で走る体を何とか支えながら減速し、他のウマ娘の邪魔にならない場所でターフに仰向けで倒れ込む。隣のお母さまも同じように、私のすぐ右隣りで寝転んだ。散々酷使した肺へ新鮮な空気を送り込む。しばらく言葉も発せずに、私たちは荒い呼吸を繰り返した。そうこうする間に全員がゴールし、AIがすぐさま着順を発表する。ハナ差でレースを制したのは――私だった。

 

「――よっし!」

 

 思わず声が漏れて、眼前の青空に向け右の拳を突き上げた。息はまだ整っていなくて、それ以上の言葉は出てこない。でも、それ以上何かを口にする必要もない気がした。青い空に勝者の拳を伸ばす、それだけで私は十二分に満足だ。

 ふと、私の突き上げた拳に、別の拳が伸びてくる。コツリ。私の隣で握られた左拳が、私の右拳を軽く叩いて合わさる。チラリと隣を見遣ると、お母さまが私と同じように青空を見上げていた。横顔に見える頬がすっかり緩んでいる。私の視線に気づくと、彼女は汗まみれの顔を私に向けて、益々笑みを深めた。艶やかにリップを引いた唇がゆっくりと動く。

 

「おめでとう」

 

 笑顔で贈られた祝福の言葉に、私も負けないくらい満面に笑って応えた。

 

「ありがとう」

 

 雲一つない空をもう一度見上げ、合わせた拳を私も軽く叩き返す。お母さまはコロコロとくすぐったそうに笑って、掲げた拳を降ろした。私もゆっくりと手を下げる。もう少しの間は息を整えていたい。

 三十秒ほど息を整えた後、沈黙を破ったのはお母さまだった。

 

「――あーあ、負けちゃったわね」

 

 悔しさの滲む声を青空へと吐き出す。私はそれに、今までの仕返しとばかりに言葉を返す。

 

「ふふん、言ったでしょう。私の方があなたより一流だ、って」

「……あら、今日はたまたま、勝ちを譲ってあげただけよ。次は私が勝つんだから」

 

 負けず嫌いな返事に私はつい笑ってしまう。お母さまは不満げに鼻を鳴らしたけれど、すぐに気の抜けた笑みを零した。そうして柔らかな溜め息を一つ吐く。それまでの悔しそうな雰囲気とは打って変わった、清々しく満足げな溜め息だった。

 

「認めるわ。あなたは確かに一流のウマ娘。走りも、気迫も、素晴らしかった」

「……今更ね、そんなこと。当然の事実だわ」

 

 青空を見上げたまま答えた私に、お母さまはまた堪えきれなかったように小さく笑う。コロコロした笑い声を彼女が収めるまでの数秒間、私は黙ってそれを聞いていた。私の言葉をバカにする響きはちっともなくて、むしろ嬉しそうだと私には聞こえていた。記憶の中のお母さまも、嬉しいことがあると同じように笑っていた。

 笑いを収めた後、お母さまはぽつりと呟く。

 

「あなたなら、きっといいライバルになれたわ」

 

 とても寂しそうな言葉に、そっと隣を見遣った。お母さまは目を閉じて静かに息をしている。表情は変わらず穏やかだ。横顔から何かを窺うことはできない。

 ……お母さまにも、私にとってのスカイさんやスペシャルウィークさんのようなライバルがいたことは、知っている。でも、お母さまがライバルと走れた期間は短かった。トゥインクル・シリーズの後半、そしてドリーム・トロフィー・リーグを走っている間、お母さまにはライバルらしいライバルはいなかった。極端な話、お母さまはその間、競い合う相手もなく一人で孤独に走っていた。

 目の前の彼女は、所詮はお母さまの影。お母さまというウマ娘の過去のデータを集めて作られた存在。走りはともかく、お母さまという一人のウマ娘を、その内面まで再現できているのかはわからない。

 でももしかしたら……お母さまはずっと、ライバルが欲しかったのかもしれない。

 

「……あなたはライバルなんかじゃないわ」

 

 お母さまの横顔を見つめるのはやめて、私は上体を起こした。上手く言葉にできるかはわからない。だから、レース終わりの頭をフル回転させて、よく考え言葉を選んだ。

 

「ライバルとは、共に競い合い、高め合う存在。でも、私にとってのあなたは違う」

 

 黄金世代とも呼ばれる、私のライバルたちが浮かぶ。いつでも、どんなレースでも、たとえ模擬レースでだって負けたくない、私のライバル。彼女たちに勝ちたい、そう思う気持ちは今日のお母さまへのそれと変わりない。でも……勝ちたいという気持ちは同じでも、そう思う動機は少し違うのだ。

 その違いを説明する言葉を、私は一つしか知らない。私にとってお母さまが、ライバルではなく何なのか。そんなの一つしか思いつかない。

 

「あなたは……私の憧れ。そして憧れとは、いつか自分の脚で越えるべき存在よ」

 

 最初からわかっていた。自覚したのは随分経ってからで、認められたのはつい最近だ。はっきりと口にしたのは、もしかしたらこれが初めてかもしれない。

 記憶すら曖昧な、幼かったあの日。ターフで笑うお母さまに憧れた。汗にまみれてなお、ターフに吹く風を纏って眩く笑うお母さまに憧れた。いつか私もお母さまのようになりたい、そう思ったから私はレースの道を選んだ。

 お母さまのようになることは、もうやめた。お母さまの真似事ではなく、私自身の道を歩くと決めた。もうその背中を追い駆けることはしない。でも、憧れることをやめるつもりはない。随分時間がかかったけれど、私はお母さまに憧れているのだと認められた。その気持ちを捨てるつもりはない。

 憧れているからこそ、負けられない。憧れたその背中に追いつき、追い越したい。もちろん、私が信じた、私の走りで。

 寝転んだまま私の言葉を聞いていたお母さまが、見開いていた目を細く和らげる。緩んだ唇から零れる笑い声に、寂しい響きはもう無かった。

 

「ふふっ、憧れなんて光栄ね。――きっと本当の私も、それを聞いたら喜ぶわ」

 

 何気ない呟きに私は思わず言葉が詰まる。お母さまに憧れている、そんな単純なことすら、認めるのに随分時間がかかった。それを口にすることだって、まだこそばゆい。まして本人に直接聞かせるなど、今はできる気がしない。

 覚悟を決めて息を一つ吸う。レース後の火照りとは違う頬の熱を自覚して、目線は明後日の方へと逸らした。例え本物でなくたって、本人を前にして口にするのは気恥ずかしさが勝った。

 

「すぐにではないけれど……いつかきちんと、伝えますから」

 

 お母さまは何も言わなかった。ただ静かに、満足した様子で頷いた雰囲気だけが、芝の擦れる音で伝わってきた。

 

「ええ。ぜひ、そうして頂戴」

 

 私たちの話はそれで終わった。そしてタイミングよく、トレーナーが私のもとへ歩み寄ってくる。私とお母さまの話が終わるのを待っていたのだろう。

 私もお母さまも立ち上がって、裾を払い、身なりを整えた。私は踵を返し、トレーナーのもとへと歩み寄る。私を出迎えた彼は、「いい走りだった」と短く褒めて、私とハイタッチを交わした。詳細なレースの振り返りは、VRウマレーターをログアウトしてからだ。

 

「キング」

 

 ログアウトしようとした私をお母さまが呼び止める。スラリと伸びる二本の脚でターフに立つ姿は、やはり堂々としてこちらの目を惹いた。私の憧れによく似た少女は不敵に笑う。

 

「またいらっしゃい。私はいつでもここにいる。――いつだって相手になってあげるわ」

 

 VRウマレーターの生み出すターフの風が、私たちの間に吹く。決して強くなく、けれど確かに吹いた風は、私の鹿毛と、お母さまの鹿毛を梳いてなびかせた。

 風に舞った髪を押さえ、嘆息と微苦笑を混ぜて私は答える。

 

「もうしばらくは来ないわ」

「あら、そう」

 

 お母さまは短い返事をしただけだった。

 ログアウトを確認するメッセージに「はい」と答えると、VRウマレーターからのログアウトが始まる。次第に消えていくVR空間の中で、お母さまは最後まで律儀に手を振って、私とトレーナーを見送ってくれた。

 

「さよなら、私の光輝ある君(ヘイロー)。――いいえ、キングヘイロー」

 

 

 

 

 

 

「ほら、あと少しよ! 気合い入れていきなさい!」

「トレセーン! ファイ!」

「オー!」

 

 外周トレーニング中の後輩たちを鼓舞する声と、それに応える掛け声が午後の空に響いていた。目標としていた公園まではあと一キロほど。額に汗を流すウマ娘たちは、一列になった隊列を崩さず同じペースで走り続けている。その隊列から一人はずれ、キングはメガホン片手に後輩たちを激励していた。特に最後方で苦しそうにしている新人には頻繁に声をかけている。そんな自チームの様子を、俺は併走する自転車から見守っていた。

 三分ほどでチームは公園まで辿り着いた。デビュー済みの子たちにはまだ余裕があるが、新人二人は揃って肩で息をしていた。特に最後方だった青鹿毛の子は息も絶え絶えだ。まだ断じるのは早いが、彼女の適性はスプリント路線かもしれない。

 キングは自転車の荷台に積まれたクーラーボックスを開けて、早速よく冷えたスポーツドリンクのペットボトルを差し出していた。

 キングを中心にして休憩を取るウマ娘たちを見守りつつ、俺は鞄からタブレット端末を取り出した。メガドリームサポーターの実装と同時に各トレーナーに配られた、学園支給の端末だ。このタブレットと、ウマ娘の速度や脈拍を計測できる端末を併用することで、リアルタイムでのデータの蓄積と分析が可能になっている。限定的ではあるが、もちろんメガドリームサポーターの支援も受けられる。各ウマ娘ごとに次のトレーニングの負荷を考える参考になった。

 

「――ねえ、どんな感じかしら」

 

 担当ウマ娘たちの状態を確認して、次のトレーニングの負荷に細かい調整を入れていると、隣に立ったキングがタブレットを覗き込んできた。俺はキングの方にタブレットを差し出し、彼女も見やすいようにする。最近はこうして、二人でトレーニングの内容を考える機会が増えた。キングは俺と同じかそれ以上に、後輩たちの様子を気にかけてくれている。

 データの見方や分析、AIの見解と俺の見解、そしてキングの意見。それらを交えて話を進めていく。開けっ放しのスポーツドリンクに口をつけるのも忘れて、キングは俺の話を聞いていた。時折自分の意見を口にする時は、必ずタブレットから顔を上げて俺の方を見る。栗色の瞳は真剣そのものだった。

 一つのタブレットを覗き込んで話をしていると、ふいにお互いの二の腕が触れる。俺とキングはお互いの体がぴたりとくっつくほどに身を寄せ合っていた。キングはチラリとだけ俺を窺ったけれど、特に気にした素振りもなく話の続きを促す。

 

「――ん、そうね。これで行きましょう」

 

 キングは納得して頷いて、思い出したようにスポーツドリンクへ口をつけた。細く白い首筋が薄い汗を伝わせながら動く。彼女が小さく息を吐くのを聞きながら、俺はタブレットの電源を落とした。

 

「はい、トレーナー」

 

 手にした鞄へタブレットを仕舞うと、キングが俺の方へスポーツドリンクを差し出して来た。蓋の開いているペットボトルは、つい今しがた彼女が口をつけていたものだ。

 

「あなたも相当自転車を漕いだでしょ。きちんと水分は取らないとダメよ」

「ああ、ありがとう」

 

 有無を言わせぬ表情と口調のキングからありがたくペットボトルを受け取り、一口含む。最初は割と気にしていたのだが、キングは平然と自分のものを差し出してくるし、反対に俺のものを口にしたりするので、少なくとも彼女に対して俺は気にしないことにした。話を聞くと、小さい頃からお母さまやメイドたちと食べ物や飲み物をシェアするのが当たり前だったらしく、俺に対してもその延長線なんだと思う。多分、年の離れた兄のような感覚なのだろう。

 一口もらったスポーツドリンクを返すと、キングはもう一度口をつけてから蓋を閉め、ペットボトルをクーラーボックスへ仕舞った。他のチームメイトもそれぞれのペットボトルを戻す。ここからは学園への復路だ。

 体を解す担当ウマ娘たちを確認しながら、俺もまた併走用のママチャリに跨る。キングはというと、やはり列からは外れて一番後ろの新人に話しかけに行った。

 

「ほら、あと半分よ。私も隣で走るから、一緒に頑張りましょう」

「は、はいっ」

 

 キングに話しかけられた新人は、嬉しさと緊張を半々にして、うわずった声で返事をしていた。キングを見つめる瞳には純粋な憧憬の色が見えている。それに気づいていないフリをしているのか、キングは至って平静を装って走り出す準備をしていた。でも、尻尾がソワソワしているのは俺からだと丸わかりなので、こちらとしては笑いを噛み殺すのに必死だった。

 

――「わ、私っ。キングヘイローさんが憧れなんですっ。キングヘイローさんに憧れて、トレセン学園に来ましたっ」

 

 選抜レースのその日、俺に走りを見ていてほしいと話しかけに来た彼女は、頬を上気させながらそう言った。そして同じことを、俺がスカウトして初めてチームに加わった時も、威勢良く宣言していた。

 確かに、もうそういうことがあってもおかしくはない。キングがデビューしてすでに三年以上。彼女に憧れて学園にやって来たウマ娘が現れてもいい時期だ。

「憧れ」という言葉をキングが強く意識したのは、きっとそれがきっかけだったのだろう。

――キングとお母さまの、最後の模擬レースからすでに一か月以上。あれ以降、キングが俺にVR模擬レースを提案してくることはなかった。

 十一戦目にしてお母さまに勝った、というのも一つの理由ではあるだろう。でもそれだけではなく、むしろあの時の勝利はキングにとってきっかけでしかなかったのだと思う。

 キングがお母さまを強く意識していることは、彼女をスカウトする前から知っていた。彼女を担当するようになってからは、そのこだわりが俺の――あるいは彼女自身の想像よりずっと強かったことにも気づいた。「お母さまのようになりたい」は比喩表現でも何でもなくて、キングはお母さまと同じ王道を歩むことで自らの才能を証明しようとしていた。お母さまの真似事をしていた、と言ってもいい。

 菊花賞を契機にお母さまを追いかけることはやめ、キングはキングだけの道を歩み始めた。お母さまの真似事をしなくたって、キングにはキングだけの魅力があることを、今の彼女は知っている。そんな彼女だけの素晴らしいところを、好ましく思っている人たちがいることも、よく知っている。キングが以前のようにお母さまへ強いこだわりを見せることは、もうなくなった。でも、かと言って全く意識しなくなったかというと、そうではない。いつでも頭の片隅にお母さまがいることは、俺もキング自身もわかっていた。

 今回、VR模擬レースを通して、キングはお母さまに対する感情が「憧れ」であると気づいた。いや、正確に言えば、もう随分前に俺もキングもその答えには薄々勘付いていた。あくまで今回、その「憧れ」をはっきりと認識して、そして認めることができた。ただそれだけのことだ。でも、キングにとってその意味は、とても大きかったのだと思う。

 

――「私の憧れはお母さまよ。今更それをやめるつもりはないわ」

 

 模擬レースが終わった後、キングははっきりとそう言い切った。俺としては、その答えには大満足している。だってそれは、きっと何より強くて純粋な、キングの原動力になるのだから。

 憧れは止められない。キングはこれからも、憧れに近づき、いつか追い越すために努力と研鑽を重ねるのだろう。もちろん、彼女自身の脚で。彼女自身の選んだ道で。

 そして今、自身で決めた道を邁進するキングの背中に、憧れる者が現れた。きっとこれからも、何人も現れる。かつてお母さまに憧れて走り出したキングが、今度は誰かの憧れになっていく。

 多くの人が憧れる一流ウマ娘、キングヘイロー。そんな彼女の隣に立ち、その走りの一助となれたのなら。これ以上の栄誉はあるまい。そのために俺もまた、彼女に負けず劣らない努力を積み重ねよう。彼女と歩む一流トレーナーとして、そして彼女が選んだ一流トレーナーとして、相応しくあるために。

 

「――それじゃあ、始めるぞ」

 

 腕時計で時刻を見ながら、スタートの合図を送る。先頭のペースメーカーが腕時計型の端末でタイムを計り始め、走り出す。一列で学園への帰路についたウマ娘たちを、俺も一拍遅れて自転車で追い駆けた。俺のすぐ前を走るのは、キングと、キングに見守られる新人だ。

 後輩を励ましながら走るキング。緩やかに巻かれた鹿毛が風になびいて、しなやかに流れていた。誇り高くシャンと伸びた背筋。スムーズな脚運び。時折覗く横顔には、競技ウマ娘としての真剣な眼差しと、後輩を見守る柔らかな笑みの両方が垣間見える。

 なるほど、憧れるのも頷ける。見る者を惹きつけて離さないキングの魅力。彼女をスカウトすると決めた時から、その魅力にすっかり心奪われていたことを、今更ながらに思い出した。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。