ウマ娘とかいう種族に転生した話   作:史成 雷太

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本日3度目の更新です。
前話は19時半に更新されているので、そちらからご覧ください。


Villain, make, up, debut

その部屋には多くの人がいた。

カメラやマイクが乱立し、その正面には長机に座る会長がいた。

数十人の記者と思わしき人たちがおり、外の観客にも中継されている様子だった。

 

「トレーナー、メイクデビュー戦にしては注目度高くない?」

「まあ、それはそうだ。だが、これはウマ娘の競争人生を左右することだからな。生徒会長切ってのことらしい。……それとは別にメジロ家が関わっているからな」

「というか、どうして会長がいるの?」

「メイクデビュー戦はアクシデントが多いからな、理事長か生徒会の役員がつくことになっている」

「……僕とモンスニーちゃんだけジャージなんだけど」

「気にするな」

 

とは言うが会長は制服だし、僕たちはそのまま連れてこられたから雨と泥でボロボロだよ?

と、言えない雰囲気だ。

緊張感が漂っているという感じ。

 

僕たちは長机の方へ連れていかれる。

写真は許可されていないのか、フラッシュは焚かれない。

 

会長に近づくと、話しかけられる。

 

「やあ、お疲れ様」

「ご苦労様です。会長、審議ってこんなに長いんですか?」

「ああ、いや、これは例外だ。本当はもっと短い時間で決まる」

「じゃあ、どうして? ライブの準備に時間を取るのはともかく、着順に時間をかけるのはまずくないですか?」

「全く持ってその通りだ。だが、ちょっと揉めてな。着順は決定されたが、その正当性を示しておかなければならない」

「そうですか……ちなみにどちらが優勝ですか?」

「その前に。メジロモンスニー、少しいいか」

 

会長はモンスニーちゃんを呼ぶ。

モンスニーちゃんは彼女のトレーナーさんと話していたが素直に従う。

 

「シンザン会長、ご苦労様です」

「ああ、そちらもお疲れ様。それで少し確認を取りたい」

「はい、なんなりと」

「最後のアクシデント、あれはわざとか?」

「ちょっと、会長!」

「ラックさん、いいのです。当然の疑問です。しかし、あれはわたくしの実力が及ばなかったゆえのアクシデントです。もし、着順で揉めているのなら、わたくしを降着してください」

「ふむ、覚悟はあると」

「はい。あそこで倒れれば、降着どころか死んでいた可能性すらあります。あの時、わたくしの意識はありませんでしたから」

「そうか。先に伝えておこう。メジロモンスニー。君は斜行したとして降着だ。……だが、我々は生徒の味方だ。もし、困ったことがあったのなら協力するからな。それを覚えておいてほしい」

「はい、謹んで承知しました。ありがとうございます。メジロ家に生まれたウマ娘ですから覚悟はしています。ラックさん、改めて感謝と謝罪を」

「……別にいいよ」

「そんな不満そうな顔をしないでください。わたくしは嬉しかったのです。全力で走り、それに応えてくれた。わたくしが沈むのを待たず、走り切れると信じてくれたからの勝負。結果はどうあれ、わたくしはこの勝負を誇りに思います」

「そっか。わかった、僕もとやかく言うのはやめるよ」

「はい、そうしてくださいませ」

 

そう言ってふわりと笑うモンスニーちゃんは流石ご令嬢と言った風だった。

僕たちはそこまで確認して、会長に促されカメラの方へ向く。

 

『それでは、メイクデビュー戦で起きたアクシデントと審議の結果をお伝えしたいと思います』

 

会長が話し始める。

記者はペンを走らせ、カメラは回る。

 

『まず最初に言っておかなければならないことがあります。それは発表する結果が最終決定で、誰がどう言おうと覆らない結果だということです』

 

そう言った会長は後ろのスクリーンに結果を出す。

いつの間に準備したんだ。

 

『ブラックトレイター1着』

『メジロモンスニー2着(降着)』

 

『メジロモンスニーは降着として決定されました』

 

そして、次にレースをスローで映し出す。

後ろと正面から取られたそれは雨でよく見えない部分が多く、足を取られるシーンなどはわからないが、動きだけならよく見えた。

 

『メジロモンスニーは最終直線にて斜行をしてしまい、それによってブラックトレイターと接触。ブラックトレイターは失速してしまい、2着となりました。しかし、それがなかった場合でも、メジロモンスニーはセーフティリードだったので降着は2着となりました』

 

会長はそのまま少し映像を進める。

僕がモンスニーちゃんを支えた部分だ。

僕とモンスニーちゃんが接触して僕が失速するのが見て取れる。前に転びかけているのでモンスニーちゃんの体は僕よりも前に出ている。

 

『それだけでは審議の判定は終わったのですが、『ブラックトレイターもメジロモンスニーに近づいた』という指摘もあり、再審議となりました。しかし、それに関して斜行と取れる距離ではなかったため、再審議前と同じくメジロモンスニーの降着で決着しました。そして、これは両名とも死力を尽くした結果であり、不幸なアクシデントだったことを明言しておきます』

 

そう言い切って会長はよくわかるように複数の視点から取られた映像を流す。

 

そうか、僕も斜行を行ったのではないかという意見があったから時間がかかったのか。

それは申し訳ないことをした。

とは思わない。

ああしなかったらモンスニーちゃんは無事じゃなかったのは確実だからだ。

 

そうして、映像が終わり、ループ再生に入る。

 

『では、これにて会見は終了したいと思います』

 

そう言って、会長は礼をして退場していく。

トレーナーもそれに続き、僕たちも退場する。

 

が、その瞬間、つぶやきが聞こえてしまった。

 

「ってことは、メジロモンスニーが勝つためにわざと斜行した可能性もあるよな」

「映像じゃわからないけど、そういう風にも見えなくはない、か……」

 

僕は思わず、モンスニーちゃんを見る。

彼女も聞こえていたようで、立ち止まり唇を嚙みしめていた。

 

やがて、そのつぶやきは周りに伝播していく。

 

そんなことはない。

そう言おうとして、記者がどうして会長の言っていることを一部無視しているのかが思い浮かぶ。

 

メジロ家だから。

大きな家はそれだけでやっかみを生む。これが名家の生まれではなかったら、こんなことを言われなかったのかもしれない。

さっきの会長とモンスニーちゃんの会話はこのようなことが起きるかもしれないとわかっていたのだろう。

それは仕方のないことかもしれない。

どうやったって、そういう人間が消えることはないからだ。

 

だけど、僕にはそれが許せない理由があった。

 

『天皇賞はメジロ家の悲願ですから』

『天皇賞や有記念に出るには人気は重要なファクターになるし、そもそも悪い噂のあるウマ娘を出バさせることはできない』

 

モンスニーちゃんがこのレースの所為で天皇賞に出れなくなる可能性がある。

それだけは避けなければならない。

 

しかし、どうやって?

 

その記者はモンスニーちゃんが立ち止まったのを見て、話しかけてくる。

会長やトレーナーは気づいていない。

 

「メジロモンスニーさん、実際のところ、どうなんですか?」

「……あれは、わたくしの至らなかった実力の所為で起きたアクシデントです」

「まあ、そう言うしかありませんよね。ブラックトレイターさんだって、あんな気持ちの良くない決着、嬉しくないですよね?」

 

そう言われて、僕はその記者を見る。

記者はにやにやと意地の悪い笑みを浮かべてこちらを見ている。

 

どう答えればあのレースの正当性が伝わるのだろう。

いや、どうあっても伝わるものではない。

何故なら、記者は正当性なんて求めていないからだ。

 

その時、不意にエーちゃんの言葉を思い出した。

 

『あたし、正義のヒーローウマ娘になる!』

 

どうしてその言葉をここで思い出したのかはわからない。

だけど、それはヒントだった。

 

なんだ。

そうか。

 

トゥインクルシリーズをこれまでにないほどに盛り上げる。

今、その方法を思いついた。

 

僕の目標に必要なのは、三冠ウマ娘ではない。

 

僕はその記者に向かって笑いかける。

なるべく悪辣に、下劣に。

 

その笑みを見て記者は押し黙った。

 

「いや? むしろ、最高に気持ち良いぜ? 加速しきれない時にあんな事故が起こるなんて。せっかくなら突き飛ばしてやろうと思って、逆に失速した時は焦ったがな」

「ラックさん……?」

「ははは、だが結果は結果! 俺の勝ちさ! あのメジロ家に土つけてやったのも最高だ! 俺はお高く止まってるやつらが大嫌いなんだ! 感謝するぜ、モンスニーちゃん。お前のヘマの所為で俺に勝ちが降ってきたんだからな」

「な、なにを……っ?」

「ちょ、ちょっと待ってください! 突き飛ばそうと思ったって、あの接触はわざとだったんですか?」

「あー? うるせえな。さっき会長も言ったろ? 何があっても結果は覆らない。これはURAの決定だぜ? 突き飛ばしてようが、なかろうが関係ないね」

 

そう言うと、ブーイングが起こる。

レースを何だと思ってるだとか、抗議してやるとか。意地の悪い記者も僕のことを信じられないといった目で見ている。

それをあえて僕は涼しい顔で受け流して、肩をすくめる。

 

「はいはい。俺は突き飛ばそうと『思った』って言ったんだ。やったなんて言ってねえだろ? これでいいか?」

「ふざけんな! それはやったって言ったようなものじゃないか!」

「あー、うるせえな。じゃあ、証拠を出せよ。あの映像じゃそこまではわかんねえだろ?」

「それは、そうだが……」

 

言い返せば、記者は勢いを弱める。

僕は終わったとばかりにモンスニーちゃんに振り向く。

向こうからは騒ぎに気づいたのか、トレーナーや会長が戻ってきているのが見えた。

 

「おい、邪魔だ。早く行けよ」

「あ、あなたはっ……!」

 

余計なことを言いだしそうだったので、僕は乱暴にモンスニーちゃんの口を掴んで止める。

痛かったらごめんね。

 

「お前もうるせえよ。勝ちは勝ちだ。敗者は何も言う権利がねえんだよ。悔しかったら、勝って言え」

 

そう言うと、モンスニーちゃんは眉をハの字にして、涙を流した。

僕はそのまま、モンスニーちゃんを押し出すようにして、その場を後にした。

 

僕の目標に必要なのは『ヒーロー』じゃない。

『ヒール』だ。

 

 

 

「どうしてっ! どうしてあんなことを言ったんですかっ!」

 

控室についてモンスニーちゃんを解放すると、そう怒鳴られた。

その場にいる会長もトレーナーも怖い顔をしている。

 

うーん、どういえばいいのだろうか。

流石に善意でやりました、なんて言いたくないし。そもそも善意ではないし。

とは言っても、モンスニーちゃんに悪役ムーブをしても遅いし……。

 

「うーん、むしゃくしゃして言った」

「そんなっ、それであなたはどうなると思ってるんですの!?」

「まあ、それは追々かな」

「わたくしは、メジロ家のウマ娘です。あんなやっかみ、なんでもないんです! あなたがあんなことを言わなければ終わっていたことなんです!」

「それは違うよ。メジロ家のウマ娘かどうかは傷つくことに関係ないじゃん」

「じゃああなたもです! あなただって傷つくでしょう!」

「いや、別に。僕は気にしないよ? そもそも噂で言うと僕は結構な感じだったらしいし」

「そんなこと関係ありません!」

「少し落ち着きなさい、モンスニー」

 

彼女のトレーナーさんがモンスニーちゃんを止める。

モンスニーちゃんのトレーナーさんはメジロ家専属のトレーナーらしく、優秀な女性トレーナーだ。

 

「しかし、あんまりではないですか……」

「あー……モンスニーちゃん。実はあれ、モンスニーちゃんのためだけにやったことじゃないんだ」

「……どういうことですの?」

「パフォーマンスだよ。話題性が欲しかったんだ」

「だからって、あんなの……」

「僕の目標はトゥインクルシリーズを盛り上げること。結構ああいうパフォーマンスって受けるんだよ? だから、気にしないで」

 

そういうと、モンスニーちゃんは僕を訝し気な瞳で見る。

僕は軽薄な笑みを浮かべて、肩を叩く。

 

「さ、ライブの準備だ! 応援してくれた人たちは長い時間待ってるし、すぐに始められるようにしよう!」

「……わかりましたわ。ですが、もしあなたに何かあったらメジロ家が総力を挙げてどうにかすることを覚えておいてください」

「もう、気にしなくていいのに」

 

僕はそう言って、半ば強引にモンスニーちゃんを押し出した。

 

「ふう」

「ブラックトレイター」

「トレーナー、ごめんね。せっかくどうにかしようとしてくれてたのに」

「……全くだ。これでお前は俺にとっての優良物件じゃなくなったな」

「あはは、逆に僕はトレーナーしか請け負ってくれる人材がいなくなっちゃったかな」

 

トレーナーを見ればいつもの仏頂面だ。

会長が間に入ってくる。

 

「待て待て。契約解除などは困るからな」

「俺とこいつ……ブラックトレイターの問題だが?」

「そうは言うがな、ここで契約解除されるとURAの決定だった着順に疑念が出る」

「……つまり、組織のために我慢しろと?」

 

トレーナーが怖い顔をしている。

どうやら地雷はそこにあったようだ。

 

「はあ、そうは言っていないだろう」

「要約するとそういうことだ」

「URAに疑念が出ると君たちが不利になるんだ。ブラックトレイターもそうだが、トレーナーくんも悪い噂が流れているんだぞ。一つ忠告するが君たちはURAの庇護下にあるし、無意味に反抗するな」

「そうは言うが、もうブラックトレイターはクラシック路線には出れない可能性が出てきたんだ。いや、可能性じゃないな。そのURAが許可しないだろう。専属契約のウマ娘がごく潰しになるんだぞ」

「それを一緒に乗り越えるのがウマ娘とトレーナーの関係だろうに」

「そんなこと、決まっていない」

「あのさ、そのことなんだけど」

 

僕が声を上げると二人がこちらを見る。

強面と威圧感のあるレジェンドに見つめられて少したじろぐが、どうにか口を開く。

 

「会長に頼みがあるんだけど、いい?」

「内容によるな」

「会長はURAに意見できる立場なんだよね?」

「通るかわからないが、その通りだ」

「じゃあさ、僕を売り込んでよ」

「売り込み? ……悪い噂はURAの内部にだってあるんだが?」

「逆だよ逆。だから売り込むんだ」

「どういうことだ」

「僕をヒールとしてレースに出してよってこと」

 

そう言うと、会長は目を細める。

 

「不正をしろと?」

「不正じゃないよ。さっきも言ったでしょ。僕はトゥインクルシリーズを盛り上げたいんだ。ちゃんと賞金稼いで出場資格は取るよ。ラフプレーはしないし、ドーピングの検査も毎回したっていい。URAも悪いことする選手はいらないけど、ただの悪役だったら使えるって思うでしょ?」

 

会長は押し黙って、目を閉じる。

トレーナーの方を向くと、いかつい顔がさらにいかつい。

 

「トレーナーも、まだ僕のトレーナーでいてよ。僕がURAにとって必要な人材になればトレーナーの目標に近づけるでしょ? まあ、方向性は真逆になっちゃうけど」

「……そこまで言うのであれば、俺は請け負おう。完全にお前が走れなくなるまではな」

「うん、それでいいよ。会長、ダメかな?」

「……それは茨の道だぞ」

「気にしないよ。というか、今までとあんまり変わらないし」

「だが、通るかどうかは別だ。お前は強いからな。ヒールは倒されるまでが役目で、お前は倒れないかもしれない」

「それはまあね。僕だって負けるつもりでやらないし。強ければ強いほどヒールは輝くと思うんだ。だけど、シービーがいる。それにマルゼンスキー先輩もいるしね」

「……わかった」

 

会長が頷いたことで話が終わった。

モンスニーちゃんにも言ったけど、まだやることがある。

折角のライブだ。

楽しまないとね。

 

「……ところであの臭い演技はなんだ。悪役をやるなら演技力を磨け」

「トレーナー……契約続行になった瞬間から言うね……」

 

ライブは僕以外を応援する声と、僕へのブーイングで盛況だった。

 




これが主人公ではなくエーちゃんだったら物語は正反対の方向へ進んでいたでしょう。

主人公は結構無鉄砲です。
でも、自分のことは冷静に物事を進めるタイプだと思っています。
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