ウマ娘とかいう種族に転生した話   作:史成 雷太

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昨日は21時にも一度投稿したので、御見逃しのないようお願いします。
デビュー戦後の話です。


Villains should be pompous

ともあれ、メイクデビュー戦を勝った。

その賞金、なんと500万円。

 

通帳を見た時ににやにやが止まらなかった。

その一週間後には学費を払って最低限の生活費を抜いて残りを孤児院に送って0近くになったが。

しかし、トレセン学園に残ることができた。

もやもやした勝負の結果とはいえ、嬉しいことは嬉しい。

 

トレーナーとの契約も続行だ。

トレーナーは元々評判なんて気にしない性質らしく、僕との契約は徹頭徹尾目標を達成できるかだった。

どんだけURA嫌いなんだ。

 

晴れて制約のない学園生活をもぎ取った僕ではあったが、青春とはいかないようで、クラスのみんなからは完全に孤立していた。

デビュー戦が噂になっているのだ。

それが普段のトレーニング風景も相まって悪のサイボーグだとかショッカーなんて呼ばれてたりするらしい。

 

「で、いいの、シービーは」

「んー? なに?」

「いや、僕と一緒にいて。あ、もしかして知らない?」

「知らなーい」

「そうなんだ。僕、メイクデビュー戦でめちゃめちゃやらかしてるから多分ゴキブリより嫌われてるんだよね。シービーの評判にも影響するから離れてた方がいいよ?」

「ふーん、そう。今日、何食べる?」

「シービー? 話聞いてた?」

「言ったじゃん、知らないって。アタシに関係ある?」

「いや……」

「評判気にしてラックから離れたら足が速くなるの? アタシが強くなるの? ならないでしょ? じゃあ、どうでもいい。そんなつまんないこと気にしない」

「シービー……!」

 

なんて良い子なんだ。

僕はひしっと抱き着こうとするが、顔面を掴まれて阻止される。

 

「そういえばさ、紹介したいウマ娘がいるんだ!」

「え、このタイミング? というか、放してくれない?」

「うん。会うなら早い方がいいかなって思って」

「へー、誰? 放してはくれないの?」

「うーん、ま、会う時に言うよ」

「えぇ、気になるなぁ。いつ会うの? すぐ? あの、そろそろ痛くなってきたんだけど……」

「その子ちょっと忙しいし、学園の子じゃないから週末かなぁ」

「予定は決めてないのね」

「じゃあ、週末で!」

「その子の予定は大丈夫なの?」

「大丈夫でしょ!」

「忙しいって言ってたのに……」

 

いつものシービーだ。

ちょっと不安だったが、僕の評判に対しては本当に気にしていないようだった。

顔面は放してという主張をやめたら放してくれた。

 

「そうだ、シービーもおめでとう」

「ん、ありがと」

「何バ身差だっけ?」

「2バ身差。ちょーっとスタート遅れてね」

「シービーゲート苦手だもんね」

「んー、狭いのがね。あーあ、蹴って開くルールにならないかな」

「ならないでしょ」

 

シービーもメイクデビュー戦を勝利したのだ。

しかも危なげなく、強いレースをしたので、ファンも多くついたらしい。

クラシックレースを期待されるウマ娘として特集が組まれると聞いた。

ライブも見事だった。

ハチマキしてライト振ってたらこっちを見たし、本当に良い友達を持ったものだ。

隣の男性が「こっちを見た!」と言っていたが、それは違う。

シービーは僕を見たのだ。

絶対にそうだ。

トレーナーに言ったら「普通暗くて見えないだろう」と言われた。

悔しい。

 

「ゲートの練習はしたくないしなぁ。ラックはどうやってるの? スタート」

「うーん。僕はそもそもゲート嫌いじゃないし」

「そっかー」

「あ、でも、ゲートなしでスタートダッシュの練習は死ぬほどしたかな?」

「効果あるの?」

「スタートは0.01秒で順位変わるからね。タイミング大切よ。一緒に練習する? 今日は予定あるから無理だけど」

「しようかな。トレーナーにもなおせって言われてるし。アタシも今日は予定あるから」

「そうなんだ。なんの予定?」

「取材。デビュー戦で勝ったウマ娘にしてるんだって」

「あ、僕もそれだ。二人でやるのかな?」

「どーだろ。まあ、放課後になればわかるんじゃない?」

「そうだね」

 

放課後、結局呼び出された場所は同じ場所だった。

トレーナーは同伴してもしなくてもいいらしい。

なので、トレーナーに聞いたらただ「行こう」とだけ返ってきた。シービーのトレーナーさんも来るらしい。

シービーのトレーナーさんとは一度シンザン記念で会っているがそんなに話したことがなかったので人となりはよくわからないが、悪い人ではなさそうだった。あとタバコ臭かった。

 

集合場所の部屋の前まで行くと、トレーナーとシービー、シービーのトレーナーさんがすでに来ていた。

 

「お待たせ、待った?」

「いいや? 今来たところだよラック」

「ほんと? 嬉しいわ、今日はよろしくね」

「ああ、エスコートは任せてほしい。退屈させないと誓おう、子猫ちゃん」

「きゃー!」

「おい、何ふざけてるんだ」

 

じゃれていると、トレーナーが遮ってくる。

いいじゃんかよぅ。

 

僕はシービーのトレーナーさんに挨拶しようとすると、いつの間にか後ろから僕の足を触っていた。

 

「こりゃすげえ。鍛え方が違うな、シニア級でもここまで絞ったともはない。しかも、無駄がないように筋肉がついているのもいい……柔らかさも十分だ。一体どれほどのトレーニングをしてきたんだ」

 

びっくりして反射的に蹴りそうになるのをどうにか止める。

 

「おい、沖野。なにやってる」

 

トレーナーがゴミを見るような顔をしている。

それに気づいたのか、シービーのトレーナーさんは両手を上げて言い訳をする。

 

「おっと、すまない。良い足があると確認したくなっちまってな!」

「お前、いつか死んでも知らないぞ」

「頑丈さならウマ娘にも負けないから大丈夫だ」

「というか、戦うかもしれない相手の状態を触って確認するな」

「いやぁ、これはトレーナーの性だろ」

「トレーナー、それでウマ娘に避けられてスカウト上手く行ってないんだからね」

 

シービーがそう突っ込むとシービーのトレーナーさんは頭をかいた。

 

「おっと、自己紹介しておこう。俺は沖野だ。知っていると思うがシービーのトレーナーをしている」

「ブラックトレイターです。シービーにはお世話になってます」

「おお、良い子じゃないか。足を触っても蹴らないし」

「危なかったですけどね。慣れてるので大丈夫でした」

 

そう言うと、今度はトレーナーがシービーと沖野トレーナーにゴミを見る顔で見られていた。

 

「お前……」

「……許可は取っているからな」

 

同じ穴の狢。

結局トレーナーはこういうものなんだろうか。

 

「ねえ、シービー」

「なに?」

「もしかして、僕たちって問題児のトレーナーの担当ウマ娘?」

「そうなるね」

「おい」

「お前たちも大概だからな?!」

 

へへ、なんのことか。

 

「というか、シービーも問題児扱いなの?」

「アタシ? アタシ何かしたっけ?」

「お前、いつも同級生誑かして遊んでるだろ……スピカにファンレターと言う名のラブレターが山になってるんだぞ。同期にも『うちのウマ娘を誑かさないでくれ!』って怒られてるんだからな……」

「あー……」

 

それは納得だ。

シービーはナチュラルに人を誑かそうとするからな。口説くというか、どちらかというとカリスマ性から惹かれるというか。

 

「それで? ブラックトレイターは何をやらかしてるんだ?」

「あれ? 知らないの?」

「いや、そりゃ噂は聞いてるが、最近はデビュー戦があって忙しかったからな。どこまでが本当なんだ?」

「うーん、どれも間違いだとは言えないかな……? 後は、デビュー戦で争った相手が降着して、めちゃめちゃ煽ったあげくラフプレーして勝ったんだぜって言ったくらいかな」

「何やってんだお前……」

 

予想以上の問題児ぶりで沖野トレーナーはちょっと引いてた。

 

「だから、今日の取材もちょっとやらないといけないことがあるんだよね」

「なに? なんかするの?」

「ロールプレイをね……」

 

そうこう話していると、時間がやってくる。

部屋に入ると、女性の記者がいた。他にも何人かの記者がいる。ネームプレートを見る限り所属は違うらしい。

女性記者は礼儀正しくお辞儀をして、自己紹介をする。

 

「来てくださってありがとうございます。月刊トゥンクルの乙名史と申します」

「ミスターシービーでーす。こっちはアタシのトレーナー」

「俺はブラックトレイターだ。こいつが俺のトレーナー。無視してくれていい」

 

シービーは何をするのかわかっていたようだが、沖野トレーナーはびっくりしてた。

 

「さっさと終わらせるぞ。何が聞きてえんだ?」

 

そう聞くと、乙名史記者は僕のセリフを意に介さずに話し始める。

 

「お二人はメイクデビュー戦で目覚ましい活躍をしました。やはりクラシック路線を目指すのでしょうか?」

「うん、そうだよ。どっちもクラシック路線」

 

僕はシービーが答えたから黙っておく。

 

「お二人は友人関係でライバルの関係だと伺いました。シンザン記念でも素晴らしい順位を残しております。お互いのことは意識しているのでしょうか?」

「うん、そうだよ。どっちも意識してる」

 

え、そこはシービーが答えるところなの?

抗議する視線を向けると、ウインクしてくる。

やだ、顔が良い……。

じゃなくて。

僕も言っておかないと。

 

「そりゃあ、こいつは他の雑魚とは違うからな。だが、勝つのは俺だ。どんな方法を使ってでも勝ってやるさ」

 

そう言うと、他の記者たちはペンを走らせる。

きっと、僕をこき下ろすようなことを書いてくれてるのだろう。

事実ではないけど、僕は前科があるようなものだから。

 

乙名史記者ではない記者が手を上げる。

そちらを見れば、許可が出たのだと思ったのか質問する。

 

「ミスターシービーさんは今の発言についてどう思われますか?」

「え? いいんじゃない?」

「ど、どんな方法もと言いましたが」

「そりゃあ、みんなそう考えてるんじゃない? ルール違反だったら失格になるから勝てないし」

 

そう言うと、その記者は黙る。

シービーも僕を貶すようなことを言ってくれてもいいのだが、僕は別にそれを望んでいるわけではない。

シービーとは戦うことになるしライバルだが、僕が勝手に悪役を始めたのであってシービーにヒーロー役を押し付けようとは思っていない。

何故なら、自由に走るのがミスターシービーだからだ。

楽しんだ結果英雄になるのはあるだろうが、英雄を押し付けられて英雄になるウマ娘じゃない。

 

次は乙名史記者が質問してくる。

 

「お二人が出会ったきっかけを教えてください」

 

そう言うと、シービーは少し嬉しそうに話し始める。

 

「出会ったきっかけは実は理事長なんだ」

「理事長が?」

 

それは初耳だ。

 

「うん。入学前で、アタシはスカウトで入ってきたから話す機会があったんだ。そこで、他の入学者の話を聞いたら、アマチュアレースに出まくっているっていうウマ娘がいるらしくて、気になったんだ」

「そして、入学して出会ったと?」

「ううん、アタシ気になったらすぐ会いたくなっちゃう性質なんだ。だから、すぐ会いに行ったの。で、おかしいのが詳しく話を聞くと『入学金がないからデビュー戦で勝って払う』なんて言ってるらしくて、それで学園を納得させるために未登録バ戦に出ることになってたんだ。そこに会いに行った」

「じゃあ、初対面でレースを?」

「負けちゃったけどね」

 

シービーがそう言うと少しざわめく。

未登録バ戦を見ていた人はいないみたいだ。

次は男性の記者が質問してくる。

 

「ブラックトレイターのデビュー戦についてどう思われていますか?」

「それは、俺にも聞いてるんだよな?」

「い、いえ、それは……ミスターシービーさんに」

「アタシ? 最後のデッドヒートはすごかったね。アタシもあのレースに参加したかった。ラックは?」

「俺もそう思うぜ。シービーがいたらまとめて叩き潰してたからな。名前に箔がつくってもんだ。名家に土を付けるのは楽しいからな」

「あはは、そう言ってくれるとこの家に生まれた甲斐があったよ」

 

シービーは不機嫌になることもなく、受け答えをしてくれる。

とてもありがたい。

 

「それは寒門だから意識しているのでしょうか。孤児院出身と聞きましたが」

 

間に入るように先ほどの記者が質問を重ねてくる。

仮にも記者が寒門とか言っちゃうの良くないと思うんだけど……。

 

「あ? なんだ、お前。もしかして、家柄だけで実力が決まると思ってんのか? お前、記者辞めろ。才能ないぜ」

「な、なにを! あなたに言われることじゃない!」

「そもそも、俺は生まれた場所なんて気にしちゃいないんだよ。それにあの孤児院は俺は大っ嫌いなんだ。せっかく俺がウマ娘に生まれたって言うのに、全く優先しやがらねえ。清貧っていうのか? ばかばかしい。劣等種は俺を優先しておけば良かったんだ」

 

そう言うと、こちらを見る目がさらにきつくなった。

僕だってこんなこと言いたくない。

だが、僕はこれから一層嫌われていく。

何かの事件に巻き込まれるわけにはいかない。

それに育ててくれた孤児院を付き合わせるなんて、僕にはできない。

……でも、この記事、院長先生も見るだろうなぁ。

ちょっと、いや、結構気が滅入る。

 

というか、寒門が嫌われる問題もどうにかしないとな。

僕が寒門だから寒門が嫌われるということを防がないといけない。

そこは自分だけじゃどうにもならないことはわかっているので、理事長あたりを頼らせてほしい。

 

ともあれ、今は集中しよう。

 

「つまり、あなたはヒトを下に見ているのですか? 自身のトレーナーも?」

「この世界には二種類の人間がいる。俺と、俺以外だ。俺以外はみんな劣等種だ。正しく理解しろよ」

 

レスポンスで僕の立ち位置を示したかったが、もういいか。

僕はそう思い、仰々しく立ち上がる。

挑発する笑みを浮かべながら記者たちを見渡す。

 

「そんなことしか、質問できないのか? こんなことをいくら聞いたって意味なんかないぜ? いい加減俺のことはわかったろう? ――そこでお前らにちゃんとした仕事をやらせてやる」

 

ゆっくりと両手を広げて大きく宣言する。

 

「すべてのウマ娘に伝えろ。俺が気に入らなければレースで倒せ。勝者だけが正義だ。そして、俺はここじゃ負けなしだ。雑魚ども。もっと鍛えろ、もっと速くなれ、もっと強くなれ。そして、かかってこい。俺こそが最強だ」

 

宣戦布告。

今回、僕がこの取材を受けるにあたってやりたかったことだ。

あとは、孤児院との関係とかちゃんと記事にしてくれればいいかな。

 

ブーイングの嵐。

それを心地よいという風な顔で受けた後に、僕は扉に向かう。

もう帰っちゃお。

あ、でも、普通に今後のことを聞きたい人もいるかもしれないな。

 

部屋を出る前に立ち止まり、トレーナーを指さす。

 

「飽きた。後はそいつに聞け」

 

僕は今度こそその部屋から出た。

 

 

 

ぞろぞろと記者が出て行く。

そして、おそらく最後の乙名史記者も出て、部屋からの声はなくなる。

その後、トレーナーとシービーと沖野トレーナーが出てくる。

 

「しかし、おもしろかったね、あの人」

「月刊トゥインクルの記者のことか?」

「そうそう。他の記者も拡大解釈して記事書きそうだけど、あの乙名史記者はとんでもないこと書きそうだ」

「……うちのブラックトレイターはどう書かれるんだろうな」

「いや、というより、あれはなんだ? ロールプレイと言ってたが」

「まあ、お前たちには隠さないみたいだし、言ってもいいか。トゥインクルシリーズを盛り上げるためにヒールをやりたいんだと」

「じゃあ、何か? 悪いこと書かれた方が都合がよいってか?」

「そういうことだろう。……だが、俺に丸投げしたのは許せんな。明日は折檻だ」

「だってよ、ラック。今日はセーフらしいよ」

 

びくっと肩が震える。

シービーにはバレていたようだ。

トレーナー二人もこちらを向く。

仕方ないので出て行くことにした。

 

「いやぁ、ご苦労様です……」

「お前、待ってたのか?」

「うん、勢いで出ちゃったけど、みんなが仕事してるのに帰るのはなぁって思って……」

「そこまで律儀なら出て行くな。明日は坂路トレーニングだからな」

「えーん。シービー、トレーナーがいじめるよぉ」

 

そう言ってシービーに泣きつくと、シービーは僕の顎を掴んで、瞳を覗き込んでくる。

顔がよい……。

 

「じゃあ、そんなトレーナー捨てて、スピカに来なよ。うちのトレーナーも評判なんか気にしないよ?」

「ひょぇ~……」

「そうだ、それがいい。我ながら良いアイディアじゃん。一緒にトレーニングする約束もある。いいだろう、ラック?」

 

シービーが良い顔で勧誘してくる。

そのシービーの肩をがしっとトレーナーが掴む。

 

「引き抜きはやめてもらおうか。そいつは俺のウマ娘だ」

「へぇ? スピカに来ればアタシとトレーニングできるんだ。効率もいい。ラックのためにもなるんだよ?」

「いやぁん、二人とも、僕のために争わないで~」

「さっきのやつと同一ウマ娘だとは思えないな……。とはいえ確かにウチは気にしないぞ」

 

頬に手を当ててくねくねすると、沖野トレーナーが飽きれた顔で見てくる。

失礼な、ロールプレイって言ったじゃん。

 

「スピカには行かないけどね」

「えー」

「まあまあ、シービー。常に一緒にトレーニングすると必殺技開発できないじゃん。本番を一番楽しむためだよ」

「む、確かに。じゃあいっか! 楽しみにしておくよ、必殺技」

「そうしておいて~」

 

次の日はしっかり坂路トレーニングでした。

 

 

 

 




次回、あのウマ娘登場。
ようやく出せます。
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