ウマ娘とかいう種族に転生した話   作:史成 雷太

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毎回こういう話を挟んでいきたい。


The Beginning of Doubt

トレーニングは地獄のようだった。

まず砂浜。

確かに足には負担が少ないことがわかる。

だが、その分進まないのだ。

踏ん張れないからだ。

しかも、上半身にも力を入れないと体幹がぶれる。

砂浜で走るだけで筋トレをしているようなものだった。

負担が少ないからとルドルフも参加するが、流石に歳の差で先にダウンしていた。

だが、しきりに東条トレーナーがルドルフのことを気にしているようだった。

「質実剛健で、根性も志もある」と言っていたしどうやら気に入ったらしい。

やっぱりルドルフはシービーの言う通りリギルに入るのかな?

僕は意地でも最後までやり抜いた。

 

そして、次に日差し。

ウマ娘は37度から38度が平熱だ。若い時期だともう少し高いというので、人よりかは熱がある生物だ。

そんなウマ娘にそれ以上の直射日光と砂浜からの反射光が襲い掛かるのだ。

なまじ僕は特に人だった時のことを覚えているのでさらにきつかったと思う。

最初はデカいテントが張られていてなんだろうと思ったが、あれは倒れたウマ娘を介抱する場所だったんだな。

ルドルフはダウンした後にそこでずっと他のウマ娘を看病していた。

 

最後にヘイトだ。

うん、これについては自業自得だけど、きついものはきつい。

砂浜での併走トレーニングになると、全員が僕と走りたがった。

ひしひしとこいつぶっ潰してやるぜという気概を感じる。

ちなみに、プロミス先輩もマルゼンスキーも僕と走りたがった。

プロミス先輩は「根性あるみたいだから一緒に走ってみたかったんだ!」と言い、マルゼンスキーは単純に僕とトレーニングをしたかったみたいだ。

僕は頑張った。

この上なく頑張った。

誘われた勝負は全て受けた。

そして、すべてを走り切った。

最後の方は勝率が1割を下回ったが、それでも気力を振り絞って走り切った。

終わる頃にはちょっと引かれていた。

 

砂浜トレーニングが終わると、僕は体を引きずるようにして宿舎へ帰った。

これがあと1ヶ月続くのか……!?

き、きつすぎる!

だが、ここで逃げるわけにはいかない。

僕はモンスニーちゃんを思い出す。

メイクデビュー戦、モンスニーちゃんは僕よりも遅かった。だが、彼女はそれでも僕に食らいついてきたのだ。

シンザン記念で力不足を感じてからすべてをかけてトレーニングをした。その上で勝つための作戦を練ったのだ。

きっと、帰る頃にはシービーは進化を遂げているはずだ。

なら、僕もモンスニーちゃんにならないといけない。彼女に教えられたことを活かすのだ。

 

とはいえ。

 

「ひゅー、ひゅー」

「ここまでくると、生命の神秘を感じるな……」

 

五体投地の状態でいると、ルドルフが憐みの目で見てくる。

きみだって2年後にはこうなるんだぞ!

 

「しかし、よくあのトレーニングを乗り越えられたな……素直に関心する」

「おれに、できないことは、ない……」

「わかった。わかったから話すな……」

 

うん、ありがとう。

この後も食事の後に賢さトレーニングがあるのだ。

少しでも休もう。

そういえば、ここを出る時に聞こうと思ったことがあったんだった。

 

「ルドルフ」

「なんだ? ドリンクならここだ」

「ありがとう……。じゃなくて、お前料理できんの?」

「うん? なんでだ?」

「いや、ここ料理出してくれるなんてことたぶんないぞ? 材料はトレーナーが用意してくれると思うけど」

「そ、そうなのか……? てっきり、料理くらいは出るものだと」

「で?」

「……毎日口にしているのだ。経験がなくても、うまい料理を振る舞おう!」

 

ルドルフはそう言って立ち去った。

僕は根性で立ち上がる。

死にそうな時にとんでもない料理を出されたらたまらん。

僕は慌ててルドルフを追った。

 

結果的に言うと、ルドルフは料理はできなかった。

とはいえ、常識はずれの行動を取ることはしなかったし、包丁で手を切るようなことはなかった。

僕が教えることになったが、このままいけばすぐにできるようになるだろうということがわかった。

 

「しかし、意外だな」

「なにが」

「料理、できたんだな?」

「そりゃあな。うちじゃ普通の家庭よりも人数いたんだ。料理くらいできるようになる」

「そうか、てっきり私は『俺に全部寄こせ!』なんて言っているのかと思ったが」

「そーだな。間違っちゃいねえよ。ずっと腹減ってたからな。隣の料理をずっと狙ってたさ」

 

まあ、狙ってただけだけど。

だから、賞金を獲得して夕食が豪華になった時には嬉しかったのだ。

そんな背景があるから体作りはまじで大変だった。

 

「……そんなに貧しかったのか?」

「あ? 憐れむなよ? 虫唾が走る。……俺はウマ娘で、他の孤児はヒトだったからな。力の制御が上手く行かなくてよく物を壊してたんだ。その分食わないことにしてたんだよ」

「孤児院が決めたのか?」

「違えよ。俺が自分で決めたんだ」

 

悪役ロールはするが、孤児院を悪くは思われたくない。

そう思って受け答えするが、ルドルフが唐突に黙る。

 

「……? なんだよ?」

「君は、ずいぶん優しい目をするんだな」

「はああああ?」

 

唐突に変なことを言うルドルフ。

手を振って抗議する。

 

「急になんだよ! バカにしてんのか?」

「いや、別に。孤児院のことを好きなのかと思ってな」

「はん! あんなところ、好きじゃねえ。むしろ大っ嫌いだね! 俺は俺以外の全てがクソだと思ってる! それは孤児院だって例外じゃねえ!」

「なんでそんなに頑ななんだか……」

「さっさと手を動かせよ、なんのためについてきたんだ。俺よりも雑用できないとか、存在意義ねえぞお前」

「む、それは嫌だな。すぐに君よりもできるようになるさ」

「まじで給仕で雇ってやろうかなこいつ……」

 

僕はそのまま手を動かす。

ルドルフも手を動かす。

ルドルフと出会って一か月ほどになるが、本当に良いウマ娘だということがわかった。才能もあるし、努力もする。意外と負けず嫌いだが、それもレースじゃプラスだ。

前世とか抜きにこいつは三冠を取るという予感がある。

もしかしたら、ルドルフがいれば僕がいなかったとしてもトゥインクルシリーズは良くなっていたかもしれない。

そんな気持ちがふと湧いた。

だが、そんな気持ちを振り払うように頭を軽く振った。

もう孤児院に帰ることはできない。

最近、自分のやってきたことへの実害が出始めたのだ。

学園では物はなくなるわ、教科書にはらくがきされているわで嫌でも自分がいじめられていることがわかった。……とはいえ、シービーがいるのでそんなに表立って受けることはない。……まじで物を粗末にするやつはぶっ飛ばしたいが、まあ、教科書の中身はすでに暗記しているし、大丈夫だ。

トレーナーの方も無言電話がかかってきたりなどがされているらしい。

ただでさえ、孤児院を貶す発言をしているのだ。そもそも、孤児院が僕を拒否するだろう。

もう僕はここで生きていくしかない。

……ちなみにルドルフにはいじめの件は誤魔化しているのでバレていないだろう。

 

「よし、完成」

「おお、自分で作る料理というのはある種の感動があるな」

「これからはお前が作るんだからな?」

「もちろん、これも勉強。清廉恪勤でやっていくさ」

「そういうところ、素直だよな」

「ラックはこういうところ、素直じゃないのでね」

「うるせえよ。……ところでトレーナーは?」

「そういえばいないな」

「呼びに行くか」

「そうするとしよう」

 

僕たちはその宿舎のトレーナー室へ向かう。

ギシギシと軋む廊下を歩く。

 

「そういえば、ラック」

「なんだよ」

「この宿舎、出るらしいぞ」

「出るって何が」

「幽霊」

「……へえ」

「なんだ、怖いのか?」

「なんでそんなこと知っているんだよ」

「休憩中に先輩に聞いたんだ」

「あそう」

「なんだ、反応が薄いな」

「別に出てこられて困るもんじゃねえし」

 

というか、幽霊なんてお仲間みたいなものだし。

一度死んでるから。

 

「それで? ルナちゃんは怖いのか?」

「なっ!? なんでその呼び名を知っているんだ!?」

「自由人の口は念入りに閉じさせておくことだな」

「クソ! シービー! 報復してやるからな……!」

「で、どうなんだよ、ルナちゃん」

「次言ったら殺すからな」

「……幽霊よりお前が怖いよ」

 

とんでもない威圧感で睨んでくる。

というか、ルドルフが挑発してきたんじゃん。

 

「別に、私は怖くない」

「ふうん、そう」

 

適当に話を切り上げてトレーナー室に入る。

トレーナーは熱にやられてダウンしていた。

一食冷たいものを余計に作る羽目になった。

 

流石に体が限界だ。

床に入ったら今日はもう起きないだろうな……。

僕は意識を必死に保ちながら賢さトレーニングをこなした。

 

 

 

深夜、体を揺すられて意識が半分覚醒する。

なんだ、また寝相が悪いのがいるのか?

だが、そうではないらしい。

 

「……どうしたの?」

「いや、その」

「ああ、トイレに行きたいの?」

「そ、そういうわけじゃ、いや、そうなのだが……」

「いいよ、大丈夫。暗いと怖いもんね」

 

僕はそう言って頭を撫でて、手を取る。

トイレ、トイレ……。

……?

どこだっけ。

ああ、向こうか。

 

トイレに押し込めて、僕は歌い始める。

こうしないと、ここに僕がいるのか、不安になる子がいるからだ。

そういえば、連れてきたのは誰だっけ。

まあ、いいか。

 

「~~♪」

 

水が流れる音をして、出てくる。

 

「手洗った?」

「あ、ああ」

「ん、えらい。じゃ、行こっか」

 

僕はその手を取り、再び歩き出す。

布団に入って、子守唄を歌いながら、優しく叩いてやる。

すぐに眠るだろう。

僕もとんでもなく眠いし、すぐに寝てね。

 

「~~♪」

 

案の定すぐに寝息が聞こえてきた。

良い子だ。

 

 

 

目を覚ますと、ルドルフと同じ布団で寝ていた。

 

「くぉら! ルドルフ! 寂しん坊か! 人の布団に入って来るんじゃねえ!」

「うお! な、なんだ!?」

「人の布団に入って来やがって! 道理で暑苦しいと思ったわ!」

「い、いや、これは君が……」

「言い訳無用! ホームシックなら家に帰りな!」

「帰るわけないだろう! というか私の布団だ!」

「……え? まじ?」

「まじだ」

「……それはぁ」

「……まあ、今回は別に怒ってない」

 

そうなの?

良かった、いつもならここぞとばかりに突いてくるんだが。

僕は咳払いをする。

 

「よし、朝練の準備だ!」

 

そして、誤魔化すように言った。

 

疲労が酷い。

なるほど、ジュニア級が来ちゃいけないのが納得できる。

だが、やってやる。

乗り越えて最高の状態でクラシックに乗り込むんだ。

 

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