ウマ娘とかいう種族に転生した話   作:史成 雷太

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短いです。


That's how we're going to live

合宿は基本的に体の基礎作りだ。

スピード、スタミナ、パワー、根性、賢さ。

この5つの中だと僕は根性とパワーが高い。

なので、ラストスパートの伸びがある。

だが、そもそもスピードやスタミナという基礎がなければ単純な性能差で負ける。

 

だが、それを鍛えてもシービーには勝てない。

会長が言っていたように、スキルが必要だ。シービーに言った必殺技が。

 

しかし、しかしだ。

僕にそれを身に付ける暇があるかは別だ。

トレーニングは厳しい。

厳しすぎるほどにだ。

これはむしろ扱きを超えた拷問だと言ってもいい。

1週間、2週間と時間が過ぎても慣れることはなかった。

 

疲労が、日光が、暑さが僕の正気を削る。

必死で隠していたものを炙り出す。

 

朦朧とする意識の中、焦燥感に襲われる。

 

「くそっ!」

 

ボトルを投げると、クスクスと笑われる。

うるせえ、黙ってろ。

 

僕は荒れていた。

いつも幻視するのだ。

大舞台、なすすべもなく敗北する僕。

その中でシービーが嬉しそうに観客に手を振るのだ。

掲示板にすら入れない僕に罵倒する観客。

これが僕の望んでいたことか?

そうだ、盛り上げることこそが僕の本懐じゃないか。

これで満足だろう?

だが、本能が言うのだ。

違うだろうと。

負けに価値はないのだ。

勝てない言い訳に目標を使うなと。

 

シービーのデビュー戦。

それは強烈な光を放っていた。

最初は大きく出遅れた。

だが、お構いなしにシービーは最後方からすべてのウマ娘を撫で切りにした。

唖然とした。

あれが三冠の器。

僕には届かないものだと感じた。

だけど、体が疼く。

勝てと。

あいつを倒せと。

僕はその疼きをどうにか抑え、自分に言い聞かせる。

 

勝つさ。

勝って目標を達するんだ。

そうじゃないといけない。そのくらいじゃないといけないんだ。

 

だが、どうしろと言うのだ。

この合宿、そもそもがクラシックやシニアなどの本格化が終わったウマ娘のための合宿なのだ。

僕はついていくことがやっと。

できるのか、僕に。

いや、やらなきゃいけないんだ。

もどかしい。

シービー。

彼女をがっかりさせたくないんだ。

シービーにだけは負けたくないんだ。

 

僕はトレーニングに戻った。

 

 

 

夜。

僕は砂浜に来ていた。

何かヒントが欲しかったのだ。

そのためには、体力だとか気力を振り絞ることは苦じゃなかった。

それにルドルフが料理ができるようになったので、今日は頼んだのだ。

ルドルフは心配そうに僕を案じて頷いてくれた。

 

だが、それでも一人じゃヒントなんてつかめない。

 

「はあ、はあ、はあ」

 

ボトルを投げ捨て、もう一度走る。

ダメだ、これじゃ昼の焼き増しだ。

 

「……っ!」

 

砂に足を取られて転びそうになる。

だが、僕は地面に転がることはなかった。

 

「おっと」

 

僕を受け止めたのはがっしりとした体だった。

顔を上げると、そこにいたのはプロミス先輩だった。

 

「やあ、こんばんは」

「プロミス先輩……」

「はい、これ。ちょっと休憩しない?」

 

プロミス先輩はなげたボトルを砂を拭いて渡してくれた。

僕はそれに逆らう気力がなかったので、大人しくうなずいた。

 

プロミス先輩は僕を引っ張って、豪華な方の宿舎脇の自販機に連れてくる。

そして、その横のベンチに僕を座らせる。

 

「いや、びっくりしたよ。わたし以外でこんな夜にも練習してるウマ娘がいるなんて」

 

しかも、一番扱かれてるブラックトレイターと来た。

と言ってプロミス先輩は人好きのする笑顔を向ける。

 

「でも、ダメだよ。明らかにオーバーワークだ。トレーナーもいないし」

「先輩は……」

「わたしは大丈夫。ちゃんと許可下りてるから」

 

そういうが、扱かれている量で言うと僕の次にプロミス先輩がされているはずだ。

 

「で、どうしたの?」

「……いえ、別に。話すほどのことじゃ、ないので」

「あはは、君、昼間は演技してるの?」

 

そう言われて、僕は悪役ロールをしていないことに気づく。

そこまで追いつめられていたか。

 

「話してよ。楽になることもあるよ?」

 

プロミス先輩はそう言って、僕の頭を撫でる。

ぐっと、僕は胸に熱いものがこみ上げる。

泣くな。

こんなところで。

大丈夫、大丈夫。

涙を我慢すると、僕はどうするか考える。

だが、そもそも演技だということはバレてしまったのだ。

相談することに決めた。

 

「プロミス先輩は……ジャパンカップを優勝したいんですよね?」

「うん、そうだよ」

「無謀だとは思わないんですか? あれは日本にあるだけの海外レースだ。レベルが違う。現に先輩はバカにされてる。できっこないって。それに逃げ出したくなることはないんですか?」

「そうだなぁ」

 

先輩は少し考えた後に言う。

 

「あるよ」

「じゃあ」

「でも、それはわたしの夢なんだ。逃げたら後悔する」

「……それじゃ呪いみたいなものじゃないですか」

「まあ、夢と呪いなんて表裏一体だとは思うよ? 叶えられなければ、一生引きずることもある。でもさ」

 

そういう先輩は強い瞳をしている。

 

「夢と呪いだったら、夢って言った方が素敵じゃない? ジャパンカップ、初めて見た時にびっくりしたよ、レベルの高さに。ジャパンカップは『ウマ娘の競争のオリンピックだ』って言われてるの後から知った。じゃあ、日本代表は誰だ? それはわたしだって思ったんだ」

「……なるだけなら、いけると思います」

「なるだけならね。でも、この胸が言うんだ。勝てって。夢を叶えろって。なら、やるしかない。結局、わたしたちはそうやって生きていくしかないんだ」

「……僕は、不安なんです。負けたくない相手がいる。叶えたい目標がある。だけど、どっちも大きすぎる。無残に負けて破れた後に何も残らないんじゃないかって」

「そうだね。……君が誰を相手にして、何を目標にしているかわからない。だけど、きっと君はわたしと同じなんだね」

 

プロミス先輩は自販機でジュースを買う。

そして、それを差し出してくる。

 

「明日、併走トレーニングあるらしいよ。わたしはマルゼンスキーと走る。見ててよ、君の同類がどこまでやるのか」

 

 

 

マルゼンスキー。

それは今もなお健在する怪物の名。

彼女が負けたのは生涯で1度きり。

その負けも純粋な負けではない。

誰も彼もが彼女というスーパーカーには追い付けなかった。

 

逆にキョウエイプロミスというウマ娘はその戦歴は傷だらけのものだった。

勝ったり負けたり。

クラシックに向けて連戦をするが、賞金が間に合わなかったことも含めての評価なのだろう。

人気が低くて勝ったからちょっと驚いた、みたいな話を聞くくらいだ。

 

もしこれがマルゼンスキーがジャパンカップを目指しますと言ったのなら、周囲は盛り上がったのだろう。

だが、言ったのはプロミス先輩。

何を馬鹿なと言われるのが関の山だった。

 

プロミス先輩が言っていた通り、今日は併走トレーニングだった。

今までは僕はずっと誰かの相手をしていたが、この時はそれを止め、レースを見ることにした。

 

すると、ルドルフがやってくる。

 

「珍しいな、走っていないなんて」

「マルゼンスキーが出るんだ」

「ああ、彼女が。その走りを見たいと?」

「それもある。だが、今回はキョウエイプロミスだ。ジャパンカップを目指すと言ったんだし、何かしらがあると思ってな」

「ふむ。確かに、キョウエイプロミスは戦績こそ振るわないが、自信があるように思えた。何か策があるのかな?」

 

併走が始まる。

 

一斉にスタートしたはずだが、やはりマルゼンスキーがハナを切っている。

マルゼンスキーが走るレースは彼女が引っ張るのでいつも縦長になる。今回も例にもれず、縦長になる。

特にみんな疲労困憊であるため、後ろに固まっている。

プロミス先輩は2番手だ。

最後の直線でセーフティリードにならないような位置取りをしている。

 

「ふうむ、根性があるな」

「確かに、あれはスタミナで走ってるって感じじゃねえな」

 

すでに一通りのトレーニングが終わっているため、プロミス先輩は疲労がたまっている。

逆にマルゼンスキーは脚部不安から負担をかけすぎないよう調整されている。

そもそも、トレーニングなため平等なスタートとはなっていないのだ。

 

そのまま、カーブを描き、最終コーナーを目指す。

この時点で、マルゼンスキーどころかプロミス先輩も3番手とはセーフティリードになっている。

リギルを相手によくこんなことができると思う。

 

最終コーナーを回る。

その時もプロミス先輩は動かなかった。

もう、完全にスタミナが切れたのか。

 

そう思った瞬間だった。

 

「これが、わたしの、『全身全霊』だァ――――っ!!!」

 

最終直線、プロミス先輩が加速したのだ。

しかもただ足を残していたような加速じゃない。

残るすべてを出しつくすような、文字通りの全身全霊。

どんどんとマルゼンスキーとの距離を詰めていく。

 

そして。

そして、レースは終わる。

 

ほぼ同時のゴールだった。

マルゼンスキーが有利な体勢だったとは思う。

だが、あのマルゼンスキーをあそこまで追いつめた。

そのことにリギルも、僕もルドルフもざわめいた。

 

「すっげえ……」

 

思わずつぶやいていた。

全力を出す、というのは誰でもできる。

だが、最後の一滴まで絞りつくすといのはできることではない。

それができるようになるまでにどれほどの努力をしてきたのだろう。

どれほどの時間をかけてきたのだろう。

思わずプロミス先輩の方を見る。

 

「あ」

 

ちょうど、プロミス先輩が倒れた時だった。

僕は慌ててプロミス先輩に駆け寄った。

 

このレースは大きな収穫だった。

全身全霊で最後の一滴まで絞りつくすことは僕にはできないが、あの末脚。その大きなヒントになったのだ。

スタートは得意だ。マルゼンスキー以外には負けない自信がある。

僕は最後の直線を学ぶために残りの合宿をプロミス先輩を観察することを決めた。

 

 

 

――そして、合宿が終わる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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