ウマ娘とかいう種族に転生した話   作:史成 雷太

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実はミスターシービーのキャラ性は想像です。
まだ実装前だしね。


First race with Mister

「アタシの名前はミスターシービー。よろしくね」

 

なんで!?

どうして!?

決心が揺らぐんですけど!?

 

未来のスーパースターウマ娘を前に僕は動揺を隠せなかった。

そして、僕は現実逃避気味にこのウマ娘との出会いまでのことを思い返した。

 

トゥインクルシリーズを盛り上げようと決心をした僕はとりあえず体を鍛えることにした。

小さい頃から筋肉を付けすぎると成長が阻害されると言われているが、それは一部正しくて一部間違っていると言われている。

子供の時は体が丈夫じゃないので、間違った方法でトレーニングをすると、痛めてしまうのだ。それによって成長が阻害されることはある。

しかし、筋肉が骨の成長を阻害したり、圧迫して細めたりすることはない。

結論を言うと、無理せず正しくトレーニングできるのであれば別に問題ないのだ。

そして、僕は実は前世で陸上の選手だったことがある。

そもそも走り方が違ったり、レースでの配分などは全く参考にはならないが、体の形や基本構造は同じだ。慎重にではあるが、自分で鍛えるのは問題ない。

……とは言いつつ、不安なので痛んでないか整体師の人に定期的に見てもらってはいるが。

 

苦労したのは体作りのための食糧の確保だ。

正直言って、僕の住む孤児院は貧乏だ。食べるものだって少ない。特に僕はウマ娘で、大量のエネルギーを必要とした。

だから、商店街の手伝いをして必死に物乞いをしたり、調べて食べれる野生のものは周辺から取りまくった。クッソまずかったが。

だが、その甲斐あって僕は柔軟と食トレによって最強に丈夫な体を手に入れた。

丈夫な体というのはそれだけで値千金だ。アスリートは怪我に泣かされることが多いし、馬だって『無事之名馬』という言葉があるほどだ。

だから、僕はその丈夫な体を作ることに執着し、完成させたのだ。

これは成長前のこの時期しかできなかっただろう。

 

体を作るのと同時にもう一つやっていたことがある。

それは速度とレースに慣れることだ。

ウマ娘はなんとサラブレッドと同等の速度を出すことができる。最高時速で言うと70キロを超える。

それを生身で出す、というのは正直人だった時の記憶もあって恐怖心があるのだ。

もちろん、転んだら死ぬ。

だから慣れる必要があった。

そして、勝つためにレース勘というのも養いたかった。

だから出れるレースはバンバン出た。

 

小さい子が出れるレースなんてあるの? と思ったことだろう。

ある。

むしろ、多い。

草レースというものがある。ここでの草とは芝のことではなく、草野球とかの草だ。

他にも商店街主催のちびっこウマ娘レースや年齢制限なしの駅伝マラソン大会などもある。

孤児院の先生は僕を心配してくれたが、「レースでいっぱい勝って孤児院にお金入れるんだ!」と言ったら泣きながら許可してくれた。

実際、同年代レース以外で勝つことは難しかったが、少しだけ孤児院にお金を入れることができた。その日の夕食は豪華だったことを明記しておこう。

 

そして、そんなことをしていると、中央トレセン学園から声がかかった。

ある日、院長先生に呼び出されると、スーツを着た神経質そうな人がいたので驚いた。

 

「君がブラックトレイターか?」

「はい、そうですけど……どなたですか?」

「はあ、私はURAの者だ」

 

名乗りもせずにその男は言う。

 

「君には中央トレセンに入ってほしいという要望があったのだが……もちろん受けないよな?」

「え、受けたいです」

「……わかっているのか? あそこは由緒正しき学園だ。君のようなウマ娘が来るべきところではないんだ」

「まあ、でも確かにお金がないことは確かですね」

 

そう言うと、その男は頷いた。

 

「そうだろうそうだろう。だから、この話は断ってくれ」

「うーん、どうにかなりませんか? 僕、どうしてもトレセン学園に入りたいんです!」

 

僕の予定では入学は諦めて、レースでお金を貯めて編入しようと思っていた。

トレセン学園には奨学金制度などもない。

貧乏なウマ娘はそれだけで夢絶たれるのだ。

その男は眉間にしわを寄せて僕を睨む。

 

「ガキが。お前にはデビュー戦も未勝利戦も勝てやしない。行っても無駄だ」

「じゃあ、どうして僕は入ってほしいって要望が来たんですか?」

「ふん、そこらにあるレースで勝っているからだ。だが、トレセン学園では通用しないさ」

「それはあなたが決めることなんですか?」

「本当に生意気なガキだ。そうだなぁ、デビュー戦で勝てば学費は出せる。だが、そこで負けたらお前は学費という借金を背負うことになる。そして、学費を払えなければ退学だ。つまり、そこで負ければお前は学びもできない学費を払うことになる。それでいいと言うのなら、認めてやらんこともないが?」

 

男はそう言って、できるはずもないだろうという目で僕を見る。

だが、その挑発は渡りに船だった。

 

「じゃあ、それでお願いします!」

「なっ! 何を言ってるのか、わかっているのか!?」

「わかってますよ。あなたが言ったんですから、ちゃんと学園側には認めさせてくださいね? ……後で学園に確認しに行きますから」

「ちっ! クソガキが」

 

こんなこと、普通に考えて認められないことだった。

学費を払わずに入学させてくれなんて。

だけど、驚いたことに確認したら認めるとの旨が伝えられる。

ただし、その代わりにいくつかの条件があると言ってきた。

僕はそれに一も二もなく頷いた。

これくらい乗り越えられなければスターウマ娘なんてなれないだろうから。

その条件の一つがとあるレースに出ることだった。

 

それは『未登録バ戦』。

 

未登録のウマ娘なら誰でも出れる、いわば公式が主催するアマチュア大会なのだ。

だからこそ、魔境になっているのだが。

ここで必ず勝つ必要はないそうだが、僕としては勝って勢いのあるまま入学していきたいところ。

意気揚々とそのレースに向かって行った。

 

レースが開催される場所は府中にあった。

未登録バ戦とは言っても、ウマ娘にとっては自分が出れる祭みたいなものだ。年齢も関係なく出れるので出場の幅は広い。

レース場は混雑していた。

 

僕は体が小さいので、人混みに悪戦苦闘していると、不意に手を引っ張られた。

 

「ほら、こっち。大丈夫?」

「あ、ありがとうございます……」

 

そのウマ娘は僕と同じくらいのウマ娘だった。

碧に近い緑の瞳に黒鹿毛の長髪で毛先が跳ねているのが特徴的なウマ娘。『CB』と書かれた髪飾りをしている。

 

「もしかして、君噂の子?」

「噂?」

「うん、学園のスカウトを『メイクデビュー戦は楽勝だからそこまで学費は払わない』って言った子」

「ら、楽勝とは言ってないよ……」

「あはは、そうなんだ」

 

見れば、そのウマ娘もジャージを着ている。

学園指定のジャージで、レース参加者は着用するようにと渡されたものだった。

 

「君もレースに?」

「うん? そうだよ、アタシもレースに出る。頼んだんだ、レースに出してほしいって」

「自分から言ったの?」

「うん。だって、同級生になるウマ娘がそんなビッグマウスをして、なおかつその実力の証明のために出るレースなんて、出なきゃ損じゃん」

「あ、僕が出るからレースに登録したんだ。しかも同級生」

「そういうこと。一足早いけど、未来のライバルだもん。気になってね」

「そっか。嬉しいな……同級生で僕に敵うウマ娘はいなかったから」

 

そう言うと、そのウマ娘は心底楽しそうに笑った。

 

「レース、楽しもうね」

「うん、あ、名前聞いてなかったね。僕の名前はブラックトレイター。好きに呼んで」

 

自己紹介をすると、そのウマ娘も名乗る。

運命というのがあるのであれば、きっと僕の場合はここがそうだったのだろう。

 

「アタシの名前はミスターシービー。よろしくね」

 

三冠馬、『ターフの偉大なる演出家』の魂を受け継ぐウマ娘、ミスターシービーとの邂逅だった。

 

 

 

固まった僕を見て、ミスターシービーは顔を覗き込んできた。

 

「どうしたの? 大丈夫?」

「だ、大丈夫……。その、ミスターシービーちゃんは」

「シービーでいいよ」

「シービーちゃんは、同級生?」

「同級生」

「同学年?」

「同学年」

「来年入学?」

「来年入学」

「そっかぁ」

「そうだよ」

 

どうしよう!

本当にどうしよう!

人生の予定変更を余儀なくされている!

 

ミスターシービー。

その競走馬は史上3頭目の三冠馬だ。その名前は深く競馬の歴史に刻み込まれていると友人は言っていた。

単純にミスターシービーの世代は強者揃いで、その中で三冠を手にした伝説的名馬なのだ。

しかも、ミスターシービーと同年代ということは……一つ下の世代には……。

 

いや、考えても仕方がない。

ともあれ、このレースで実力を示さなければ入学でさえ怪しくなってしまうのだ。

シービーに勝つことは難しくてもやるしかないのだ。

 

「シービーちゃん、負けないから」

「うん。アタシもラックには負けないから」

「ラック?」

「ブラックもトレイターも可愛くないし、ラック」

 

なるほど……。

いつもはブラックとかトレイターって呼ばれているからちょっと新鮮だった。

ちなみに僕は名前から分かる通り、青毛で真っ黒な髪をポニーテールにしている。瞳は明るい青で、よく夜に瞳だけが浮いているように見えて怖いから目を瞑ってトイレ行けと言われている。どうしろと。

 

レースは芝1200mの20人。

僕の年齢から3歳上までが参加する。

短くて人数が多いという混戦待ったなしのレースだ。

僕は外枠20番。

正直言って不利もいいところだ。

外枠というのはそもそもロスがあるというのに、人数が多いのでさらにロスが広がる。

バ群に呑まれづらいというメリットこそあるが、スタートダッシュの苦手じゃない僕にとってはメリットはないに等しい。

しかもシービーちゃんが相手だ。

 

「僕は外枠20番だけど、シービーちゃんは?」

「あ、お隣さんだ」

 

そう言ってゼッケンを取り出して見せてくる。

19番。

不幸中の幸い、地獄に仏です。

 

「すぐにお隣さんじゃなくなるけど、大丈夫?」

「アタシが前で君が後ろってことね」

「逆だよ」

 

挑発してみるも特に効果はなかった。

話しながら準備を終えると、そのタイミングでシービーちゃんと共に名前を呼ばれる。

 

「良いレースにしようね」

「うん、楽しいレースにしよう」

 

僕たちはターフに歩いて行った。

 

 

 

ターフの雰囲気は今まで走ったレースとは違った。

公式で使うレース場だ。

このターフの上で様々なドラマが生まれ、これから生まれていく。

その歴史がのしかかってくるようだった。

だけど、それはプレッシャーじゃない。

口角が上がるのがわかる。

そして、自覚する。

 

欠陥品でも僕はウマ娘だ。

レースが楽しみで仕方ない。

 

『さあ、未登録バ戦。ここ東京レース場では様々なドラマが生まれてきました。それは未登録のウマ娘も同じことです。歴史に埋もれてなるものかと燃やす闘志はトゥインクルシリーズのウマ娘に負けず劣らず』

 

実況の前口上が聞こえてくる。

 

『このレースは年少のウマ娘が集いました。人気上位のウマ娘を紹介しましょう。三番人気ジャラジャラ、気合十分のようです』

『二番人気はブラックトレイター。近場のレースを総なめ、大人のウマ娘も出場するレースでの優勝経験も持っています』

『そして、一番人気はこのウマ娘、ミスターシービー! 名家の秘蔵っ子、早くも次世代のトゥインクルシリーズの代表と言われています』

 

そして、ゲートインが始まる。

僕は一番最後だ。

だけど、メンタルトレーニングは前世で飽きるほどやったのだ。集中力が途切れたりはしない。

 

ゲートインをすると、シービーちゃんと目が合う。

不敵に笑みを浮かべれば、シービーちゃんも口角を上げる。

 

そして。

そして、一瞬の静けさの後。

 

『未登録バ戦、年少。スタートしました!』

 

僕はスタートダッシュを決める。

クラウチングはできないが、スタンディングならば人間の頃と同じ。数少ない僕の長所だ。

僕はハナを切って先頭を取ろうと突き進む。

シービーちゃんは直ぐ後ろだ。

1200mは短い。

東京レース場は1400mからしかレースがない。そして、1400mの場合、短い直線の後、すぐにコーナーがある。

1200mならなおさらすぐにコーナーが来る。

僕はバ群に呑まれないためにそれまでに先頭に行きたかった。

 

そして、それは実行される。

僕は遊びではなく勝つために鍛えてきた。そして、勝ちたい理由がある。

そもそも、地力の差があるのだ。

――シービーちゃん以外とは。

 

『スタートダッシュを決めたのはブラックトレイター! スルスルと先頭へ上っていきます。そのすぐ後ろにミスターシービー、ぴったりとくっついています。その二人はさらに後続との距離を放していきます。すでに3バ身ほどの距離があります』

 

僕とシービーちゃんはすでに二人旅となった。

最初のコーナーを曲がる。

シービーちゃんの呼吸音が近づいてくるのがわかる。

 

才能があるのはどちらかと言われれば、シービーちゃんだろう。

だけど、今、レースが上手いのはどちらかと言われれば僕だ。

 

僕は内側にプレッシャーを与えるように動く。

進路妨害はしない。

けど、シービーちゃんは走り辛そうにする。

その少しの減速を狙ってさらに加速する。

完全に内側を取って、次のコーナーに備える。

 

最終コーナーも曲がって、僕は変わらず先頭だ。

 

正直、勝ったと思った。

しかし、それは最後の直線に起こった。

 

『ブラックトレイター先頭! このまま決めてしまうのか!? ……いや! ここで上がってきたミスターシービー! なんと、上り坂も衰えるどころか難なく登っていきます! ブラックトレイターと並ぶ!』

 

なんと、最終直線でシービーちゃんは加速してきたのだ。

どこにそんな足が残っていたんだ!?

 

だけど、僕も負けるわけにはいかない。

それが、ミスターシービーでもだ。

 

ありったけの力を込めて足を動かす。

 

「ああああああ!!」

 

目の前が真っ白になるほどの全力。

その末、僕たちは同時にゴールへ飛び込んだ。

 

息を整えながら掲示板を見る。

『写真判定』の文字が光っている。

 

そして、長い時間が経って、1着のところに『20』の文字が写される。

僕は自分のゼッケンを確認する。

確かに20だ。

 

勝った。

ミスターシービーに勝った。

 

思わずガッツポーズをする。

 

「よっしゃ」

「くっそぉ! 悔しいな」

「シービーちゃん」

「負けたよ、ラック。勝ったと思ったんだけど」

「正直、僕も負けたと思ったよ」

「言うじゃん。次は負けないよ」

「うん。僕も、次も負けない」

 

シービーちゃんはそれでも清々しく笑った。

 

「来てよかった。楽しいレースだった」

「確かに楽しかった」

「次は公式戦だね」

「うん、次はトゥインクルシリーズだ」

「ああ、楽しみだなぁ」

 

トゥインクルシリーズを盛り上げるためにと思ってスタートしたレース人生の最初だったが、それ以上に楽しいレースだった。

 

こうして、僕の未登録バ戦は終わり、学園へ入学することが決まったのだった。

 




主人公は同世代だと普通に強いです。
じゃないと伝説のウマ娘たちと戦うことができないですし。

整体師の人は孤児院の子どもを可愛がってくれる近所のおじちゃんです。
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