ウマ娘とかいう種族に転生した話   作:史成 雷太

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結果から言って、勝った。

とんでもない大差勝ちだ。

どのくらいかと言うと、コースレコードを1秒ほど縮めた。

実況も僕がセーフティリードと見るや、2着以降を実況し始めたくらいだ。

 

全然問題はなかった。

問題が出たのはレースが終わった後だった。

 

ライブも終わり、優勝者インタビューが始まって、適当に受け答えをしている時だった。

その中に質問が問題だったのだ。

 

「ドーピングをしているという疑惑もありますが?」

 

それまでは勝因は? とか、次のレースは? とかの質問に「俺が強すぎただけだ」とか「あー、ホープフルSの方だ。阪神まで行くのは若葉までお預けだ」などと朗らかではないが、記者の仕事はできるくらいは答えていた。

それはまあ、噂の審議を確かめるものだったのだろう。

だが、聞く意味のない質問だ。

そもそも、そんなのやってようがやってなかろうが「やってない」と答えるだろう。優勝してすぐにする質問ではないことは確か。

ゴシップ記事の記者だ。

URAはこういう記者を排除している。あることないこと書かれてURAの評判を落とすことになるし、そもそも、選手は思春期のウマ娘なのだ。がんばって優勝してズルしてんだろなど言われたら普通心に傷を負う。だが、完全に排除できはしない。

普段はこういう記者はリストアップし、会長に渡している。

だが、今回は僕のスタンスを示すことにしようと考えた。

徹底抗戦だ。

僕はその記者を見やる。

 

「その質問、取り消せ。聞かなかったことにしてやる」

「それは質問に答えないということですか?」

「お前、どこの記者だ?」

「質問に答えてください」

「今までの質問の流れ、聞いてなかったのかよ。まずは自分が誰か名乗ってから質問してただろうが。どこの、誰だ?」

「……淳正社です」

「どういう意図でその質問をしたんだ?」

「そういう噂が立っているんです。あなたはドーピングで体を強化していると」

「あのな、そもそも、それを聞いて『はい、そうです』って言うと思ってんのか? 質問をするなら、意味のある質問をしろよ」

「そうやって誤魔化すのですか?」

「お前、いい度胸だ。おい、周りのカメラマン、あいつの顔映しとけよ。いや、待て、いいだろう。そこにいろよ」

 

僕はそう言って台から降りる。

そして、その記者のすぐ近くに行く。

くっ付きそうなほど近くだ。

これでこの記者が映らないということはないだろう。

 

「これで、俺がドーピングしてなかったらお前、どうするつもりなんだ?」

「ど、どうって、どうもしません」

「どうもしない? それは道理じゃねえんじゃねえのかよ。その質問は意味のない質問だった。じゃあ、残るのはなにか? 不快感だけだ。誰かを傷つけようとする質問なんだよ。それをするってことはてめえ、やりかえされる覚悟があるんだろうな?」

「そ、それは……」

「いいぜ、淳正社さんよ。俺がここで答えて、ドーピング検査までやってやるよ。それの密着取材も許可してやる。だが、陽性じゃなかった場合、URAから正式に抗議が行くからな? その抗議が届いた時、てめえもてめえの会社ももうこのURAの関係するものには携わることができなくなるんだからな? もう一度、聞いてやるよ。質問、取り消すのか。取り消さないのか」

「…………取り消します」

「謝罪は」

「……すみませんでした」

「バカが、記者なら考えろ」

 

僕は鼻を鳴らして、正面に戻る。

 

「いいか、一度だけ言っておく。俺のことはどう書こうが構わないし、何を聞いても構わねえ。だが、この場では俺に媚びを売っておけよ。記者として生きていたいだろ?」

 

最後に挑発して、マイクを投げて退出した。

これでブチギレで退出!? 最悪な優勝者インタビュー! とか書かれるだろう。

 

ゴシップ系の記者は順従な人間よりも好戦的な人間を好む。そっちの方が言葉を引き出しやすいからだ。

だから僕は挑発した。そうすれば食い物にしようとする人間を一カ所に集められ、対処が楽になるだろう。……と思う。

まあ、他の子が傷つく回数を少しでも減らせればな、程度の行動だ。

 

控室に帰ると、トレーナーとルドルフが待っていた。

ルドルフは苦い顔をしている。

 

「あまりそういう態度を取ってはいかんぞ」

「聞かねえからな」

「聞け。君のためだ。確かに問題ある記者だった。だが、それを受け流し、後から抗議するという手もあっただろう」

「嫌だね。気に入らないやつは消えろが俺の信条だ。問題ある記者だろうがなかろうが関係ないね」

「こういう問題が重なると、除名だってあり得るんだぞ」

「その時はURAが見る目がなかったということだ。俺という金塊を逃すなんてバカだったなって笑ってやる」

「そうだ、君は必要な人材なんだ。だから、やめないか」

 

僕は思わずびっくりしてルドルフを見る。

なんで?

急にデレ期始まった?

どうしたの熱でもあるの?

 

「……キモ」

「さすがの私も傷つくぞ……」

「なんだよ、急に!」

「君は優秀だ。私が保証する。だからこそ、その性格が惜しいのだ」

「俺は俺だ。これは必要なことなんだよ」

「全く……私は矯正するために来たのだ。諦めないからな」

「はいはい」

 

何はともあれ、僕はホープフルSに出場が決まったのだった。

 

 

 

さて、そんなこともあって、僕は今一度自分がどう書かれているのかを確認することに決めた。

雑誌を買いあさって、学園に持ってくる。

シービーはそれに興味を示した。

 

「なにやってるの?」

「いや、僕の評判気になってさ」

「確かに! 気になる。アタシのこと書いてあるかな?」

「シービーってそういうの、気にするんだ?」

「気にはしないけどね。面白そうだから」

「そう」

「あ、みんなで見ようよ!」

「みんな?」

「うん!」

 

というわけで、そのみんなを集めて大講評会となりました。

メンバーはダイナカールちゃん、モンスニーちゃん、シービー、僕。そして、マルゼンスキー。

 

「ジュニア級のだからマルゼンスキーは載ってないですよ?」

「いいのいいの! せっかく後輩が載ってるんだもの! 見なきゃ損損!」

「まあいいですけど……」

 

僕は買ってきた雑誌を長机に置いて行く。

 

「私は評判は気にしないんだがな」

「まあまあ、カールも固いこと言わないでください。人気の確認というのも上に立つ者の仕事ですわ」

「……それもそうか」

 

ここまでの戦績を確認しよう。

 

僕はメイクデビュー戦1着、東京スポーツ杯ジュニアS1着。

シービーはメイクデビュー戦1着。

モンスニーちゃんはメイクデビュー2着、未勝利戦1着、OP戦が1着を2回、G3が2着と5着の2回。

ダイナカールちゃんはメイクデビュー1着、PreOP戦が1着1回。

 

「こう見ると、モンスニーちゃんが圧倒的だね」

「まあ、わたくしはステップレースですからね」

「ダイナカールちゃんはトライアル?」

「カールでいい。そうだ、私はトライアルレースだな。桜花賞の前哨戦のフィリーズレビューで勝つ」

「僕もラックでいいよ。ティアラ路線だもんね」

「ああ、今年の女王は私だ」

 

自信満々に言うカールちゃんだが、きっとそれだけの実力があるのだろう。

 

「というか、ブラックトレイター! 何だ貴様!」

「え!? なに!? どこが逆鱗だった!?」

「さぞかし名をあげているのだと思ったら、聞こえてくるのは悪評ばかりではないか! 私がティアラに向けて準備を勤しんでいる時に何をやっているのだ!」

 

激おこプンプン丸とばかりに怒るカールちゃん。

シービーとマルゼンスキーは「あー」と言った風で、モンスニーちゃんはおろおろしている。

 

「例えばどんな?」

「モンスニーをレース中に殴り飛ばしただとか、ヒトを劣等種扱いしただとか、同期を雑魚呼ばわりしただとかだ! 弁明してもらおうか!」

「うん、ごめん。ほとんど本当だわ……」

 

言うとズビシっとチョップされる。

 

「なんの意図があってそういうことをしたんだ! バカ者! それが私に勝った者の態度か!」

 

うーん、カールちゃん、良い子だなぁ。

僕を想って怒ってくれているのがわかる。

モンスニーちゃんは責任を感じているのか、カールちゃんを止めようとしている。

 

「そうだね、みんなには説明しておきたいな。僕の目標ってトゥインクルシリーズを盛り上げることなんだよね。で、きっかけはデビュー戦だったんだけど、僕が圧倒的ヒールとして君臨すれば、僕が倒されるところを観に来る人も増えるだろうって思ってね」

「……何を、言っているんだ、このバカは……」

 

カールちゃんは思わずと言った風にこめかみを抑える。

 

「だから、僕を倒したら勇者として名をあげれるよ! 頑張ってね!」

「その言い分だと、自分がいつかは負けるみたいな言い分だね?」

 

シービーがそう言ってくる。

まあ、それはずっと考えてきたことだ。

だけど、それは違う。

 

「負ける気はないよ。そうすれば無敗の最強ウマ娘になるからね。元々はそういう方向性で盛り上げようと思ってたから!」

 

挑発も込めて言うと、みんな一様に僕を見る。

その闘志は心地の良いものだ。

 

「い~な~! お姉さんもそういうことしたい~!」

「そういうことって、マルゼンスキーはもう世代の絶対王者でしょ……」

「違うの違うの! やっぱりライバルっていいものじゃない? 私もほしい~!」

「はいはい、クラシック終わったらちゃんと倒してあげるから」

「それは嫌! チョベリバよ!」

 

駄々をこねるマルゼンスキー。

うん、流石に世代のライバルを作るのは時空を歪めないといけないので、流石にできない。もう少し待ってほしい。

 

ともあれ、戦績が確認できたので、早速雑誌を読んでいくことにした。

 

「カールちゃんはやっぱりティアラ期待されてるね」

「カールちゃん、パドックでも人気ですもんね」

「まあな、期待に応えれるように努力しているかな」

「カールもクラシックだったら楽しいレースできたのにな~」

「私はオークスに勝ちたいんだ」

「いいわよね~オークス! 女王っていう響きが最アンド高よ!」

「ええ、私の夢です」

 

カールちゃんは正当に評価されているようだ。

だが、今年のティアラはライバルが多いらしい。桜花賞もオークスも接戦になると予想されている。

人気もカールちゃんはある。きりっとした目元にアイシャドウの強いメイクは彼女の気合を物語っていて、大人な女性をイメージさせる。学園でも同級生にお姉さまと呼ばれているのを見かけたことがある。

それに面倒見も良く、そのギャップにやられる人も多い。

カールちゃんと走ることになるのは、クラシックとオークスが終わってからだろう。

 

「シービーはデビュー戦だけだけど、やっぱり評価高いね」

「三冠を狙えると言われてるぞ」

「デビュー戦も強い走りでしたものね」

「アタシは早く次走りたいんだけどね」

「でも、トレーナーに止められてるんでしょ。ガッツンガッツン行くのはちょっち早い~って」

「大体そんな感じ。ラックと全力で戦いたいなら我慢だって」

 

シービーの評価は僕たちの中では一番高いみたいだ。

三冠を望む声も大きい。実際それができるだけの実力がある。ただ、むらっけがある分、評価が低い雑誌もある。

人気は絶大だ。実力があって、顔もいい。自由なところもあるが、飾らないところがファンの心を掴んでいる。同級生にも分け隔てなく接しているので、みんなシービーが好きだ。僕が一番シービー好きだけどね!

雑誌を読むと、何回か勇者という単語を目にする。その雑誌は僕のことも取り上げており、僕との比較をしているようだった。

 

「モンスニーちゃんは注目されてるね。シービーのライバルだって」

「そうあれるように精進しますわ」

「クラシックではシービー、モンスニー、ラックが抜きんでているからな」

「後どのくらいで皐月賞来れるの?」

「もう少しですわ。ですが、1月になったらシンザン記念に出走したいと思ってますの。一度負けてしまいましたからね」

「え! 私も出たいわ! 私も負けてるから!」

「……一気に難易度上がりましたわね……」

 

モンスニーちゃんはメジロ家だから予想通りというか、取り上げている雑誌が多い。

それにレースを多く走っているので、その分ファンが多いようだ。

実力も中長距離を走れるので、シービーのライバルとして取り上げられている。シービーのライバルとして挙げられるのが僕かモンスニーちゃんどちらかなのは雑誌の方針で決まっているのだろう。

デビュー戦のことは事故として書かれている。僕はそこら辺をチェックしていたが、一つも悪意あることが書かれてなくて安心した。

 

そのことに気づいたのか、そうでないのかモンスニーちゃんが僕の耳元で囁く。

 

「ありがとうございました、ラックさん。あの時、助けてくれて」

 

バッと僕は耳を抑えて飛びのく。

 

「び、びっくりしたぁ!」

「あはは! ラック顔真っ赤だよ!」

「どうしたというのだ」

「青春の匂いがするわね~」

「ご、ごめんなさい。耳が弱いとは思わず……」

「耳が弱いとか言わないで! 次行くよ!」

 

誤魔化しながら僕は雑誌をめくる。

 

「おぉ~、ここまでくると壮観だね」

「雑誌としてどうなのかと思う罵倒が書いてありますわね……」

「意図はわかったとは言え、ちょっと心配になるぞ……」

「あ、でも、この記事は悪く書いてないよ?」

「あら、本当ね。月刊トゥインクル……ああ、あの……」

「知ってるんですか?」

 

マルゼンスキーが心当たりがありそうなので聞く。

 

「ええ、確か乙名史さんだったかしら? 取材を受けた時にモーレツに感銘をうけたみたいで、すっごい興奮してたのよ」

「……ああ、思い出した」

 

乙名史記者は確か、最初の取材で来てた女性だ。

あの時は大人しかったけど……。

 

「あっ! そうだ! ラックが出てった後に爆発した人だ!」

「爆発!?」

「うん、すっごい勢いでトレーナーの言ったことが大きくなったから笑っちゃったもん。あの人かぁ」

 

シービーも覚えていたようだった。

 

「で、なんて書いてあるんだ?」

「気になりますわ、あの演技を見抜いていますの?」

 

どうなのか気になって覗き込んでみると、あの鍛え上げられた肉体は極限までの努力なしでは到達できないとか悪徳記者を成敗とかレースには真摯とか書いてある。

間違っちゃいないけれども……。

 

「こんなの書いて怒られないのかな……」

「自分を良く書かれてそう言うのはお前しかいないぞ……」

「この悪徳記者っていうのはなんですの?」

「ああ、『ドーピングしてるんじゃないの?』って聞いてきた記者がいたからURAを盾にして逆らえないようにしたんだ」

「あはは、観に行けばよかった!」

「やり方はともかく、それはチョベリグね~」

「というか、そんなに鍛えてますの?」

「見る?」

 

そう言ってシャツを捲ると、みんな一様にびっくりしてた。

マルゼンスキーは夏はずっと一緒だったので、「いつ見てもすごいわねぇ」と言っている。

 

「とんでもないな……」

「いやいや、僕の場合こうまでしないとシービーには勝てないからね?」

「シービーがとんでもない化け物に見えてきましたわ……」

 

実際とんでもない化け物みたいな存在なのだ。

 

ともあれ、他の記事は悪魔だの追放するべきだのと書かれている。まあ、予想通り。一番過激に書いている記事を見たら正淳社と書かれていてちょっと笑ってしまったが。

しかし、孤児院が悪く書かれているものなどはなかった。むしろ、同情的なことを書かれているのが見られる。

僕のイメージ戦略はちゃんと機能しているようで安心した。

 

その中で一つ、トレーナーについて書かれているものを発見した。

昔からURAを取材している雑誌だ。

そこには『テンポイントのトレーナー』と書かれていた。

トレーナーが僕に隠していたのはこれか。

 

テンポイント。

覚えている。

前世の記憶じゃない。

エーちゃんが言っていた名前だ。

そうか。

トレーナーがテンポイントを育てたのか。

 

……とはいえ、今僕には関係のない話だ。

トレーナーが言いたくなったら言うだろうしね。

 

僕は読みたい衝動を抑えてその雑誌をそっと閉じた。

 

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