ウマ娘とかいう種族に転生した話   作:史成 雷太

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ここからは少し短い話が続きます。
この話、だいぶ前に間違えて投稿しちゃったことあります。


The black clothes cover my true feelings

12月に入る。

11月からはG1の大きなタイトルが多かったが、波乱万丈なことは起きなかった。

強いて言うなら10月の菊花賞でマルゼンスキーが優勝したくらいだ。

長距離は不安だったらしいが、スピードでゴリ押しだった。

マルゼンスキーの戦績がとんでもないことになってきているのを感じる。

 

年末には1年の総決算の有記念があり、その後にホープフルSだ。

とはいえ、有記念に出るのはカツトップエース先輩くらいだ。

それも残念ながらその二日後にはレースなので観に行くことができない。すまないカツトップエース先輩、頑張れカツトップエース先輩!

さて、そのホープフルS、有力ウマ娘は僕以外にはほぼいない。前回2着だったハッピーミークが入って来ているくらいだ。とはいえ、油断はできない。何故ならジュニア限定とはいえこれはG1。レベルが違うのだ。

 

さて、そんな中僕はトレーナー室に呼ばれた。

 

「勝負服が届いた」

「お、早いな」

「ああ、クオリティは保証する」

「そういえば、少し前にどれがいいか聞いてきたな、結局どれにしたんだ?」

「スーツだ。……別にお前の案を採用したわけじゃねえからな?」

「わかっているとも」

 

そう言いつつ、ちょっとドヤるルドルフ。

シービーもそうだが、顔のいいやつらはどうしてこう様になるんだろう。

その頬をつまみつつ、トレーナーが勝負服を取り出すのを待つ。

慎重にね?

高かったんだからね?

 

それは注文通りの黒スーツだった。

コートのように長い黒ジャケットに真っ赤なシャツ、黒ネクタイ、黒ベスト、黒パンツと黒づくめだ。なんなら丈の短い黒手袋もあるので肌はほとんど隠れる。

細かい意匠も凝らされており、チラッと見えるベルトのバックルには『馬』のシルエットが入っている。

 

「? このシルエットはなんだ?」

「それは俺も気になってた。入れてくれと言っていたから注文したが……」

「これは、そうだな。俺の目標の出発地点とゴールだ」

 

まともに説明をする気がないので適当に流す。

 

「ちょっと着てみるか」

「ああ、違和感があったら直す必要があるからな」

「……そのための金は?」

「大丈夫だ、そこまでが勝負服作りだからな」

「よし、いいだろう」

 

僕はトレーナーから勝負服を受け取り、着替え始める。

 

「待てバカ者」

 

その前にクリップボードでルドルフにはたかれる。

えなに?

勝負服に一礼とかしなきゃいけなかったりする?

そういう儀礼的なの必要?

 

「トレーナー君も。なに? みたいな顔をしてるんじゃない。ほら出てけ。男性の前で当たり前のように着替えようとするな。どうなってるんだ、まったく」

 

ああ、確かにそうでした。

ルドルフは面倒見がいいなぁ。

確かに僕、今はうら若き乙女なのでした。

トレーナーもそういえば、みたいな顔をして出て行った。

 

そうして、僕は勝負服に身を包む。

 

――確かに、これは。

僕は勝負服の力を実感する。

気合が入り、自然と集中力が上がる。感覚が鋭敏になり、いつもよりも力が発揮できそうだと思う。

きゅっと手袋を付ければ、漆黒のウマ娘だ。

 

「どうだ、ルドルフ?」

「……似合っているよ、本当に驚くほどにな……」

 

ルドルフは真顔になりながら褒めてくる。

僕は鏡で自分を確認する。

そして、少し笑ってしまう。

ああ、確かにこれは真顔にもなる。

カッコイイとかカワイイとかじゃない。

悪いやつだ。

こいつは悪いやつだと一目でわかる見た目をしている。

ポケットに手を突っ込んで顎を引けば、様になっている。

全身が黒の中、明るい青い瞳が妖しい魅力を湛えている。不思議と引き込まれる雰囲気がある。

いい仕事をするじゃないか。

 

「トレーナーいいぞ」

 

そう言うと、トレーナーが入ってくる。

そして、僕を見て少し笑った。

珍しいな。

 

「驚くほど悪党だな」

「だろう? 最高だ」

「おい、いいのか」

「いいんだよ。俺が『俺』であることが大切なんだからな」

「わざわざ、こんな……」

「悪い印象を付ける必要ないって? 今更だ、議論をするにも値しない」

「何故だ。前から思ってたが、君は何故そうなのだ」

「うるせえな。黙ってろ」

 

僕は吐き捨てるように言って、再び鏡を見る。

いいな。

自分とはいえ、ウマ娘はみんな容姿端麗だ。僕もそれは例に漏れない。孤児院のみんなには見せられない姿だけど、結構気に入った。

 

「写真でも撮るか。ルドルフ、俺のバッグから携帯取ってくれ」

 

そう言って、僕はネクタイを緩めたり締めたりする。

どっちの方が悪そうかなぁ。

時計でも買おうかな、いや流石に出費か?

流石にこの姿で安物を付けるわけにはいかないし……必要なお金は残したけど他は孤児院に送ったし……。

 

と思ってると、どさっと何かが落ちる音がした。

ルドルフの方だ。

 

「おい、人のもんを雑に……げっ!」

 

思わず呻いてしまう。

失態だ。

完全に失敗した。

テンション上がって変なこと頼むんじゃなかった!

 

ルドルフはボロボロになった教科書を持っていた。

 

「なんだ、これは……」

「……」

 

困惑と怒りがない交ぜになったような声でルドルフが言う。

僕は何と言えばいいのかわからなくなって、口を閉ざす。

誤魔化すか?

通用するか?

明らかにいじめられていますみたいなボロボロな教科書だ。らくがきもしているし、落としたとか自分でらくがきしてたなんて通用しない。

こんなことならもったいないなんて思わずに捨てておくべきだったか。

 

「おい、説明しろラック。どういうことだ」

 

今までで一番鋭い視線が僕を捕らえる。

 

「説明する……ことはなにもないな」

「はぐらかすな! どういうことだ、これは! 何故、こんなことになっているんだ! 説明しろ!」

 

びりびりとウマ娘の肺活量で発せられた怒声が部屋を揺るがす。

だが、僕は首を振る。

 

「別になんでもねえよ」

「なんでもないわけがないだろう! どうして、私に……っ!」

 

ルドルフはギリっと奥歯を噛みしめる。

そんな中、一番冷静だったのはトレーナーだった。

 

「シンボリルドルフ」

「……なんだ」

「少し落ち着け」

「私は落ち着いている」

「あのな、これは当たり前のことなんだ」

「これがっ! 当たり前なはずないだろうっ! 当たり前でいいはずがないっ!」

「それだけのことを俺たちはしてきたんだ」

 

ただの事実。

トレーナーは淡々と言う。

 

「ちょうどいい。対応してもらっているが、言っておかなければならないことがあるんだ」

「なんだ?」

「昨日電話があってな、いたずら電話だと思うが殺害予告を受けた」

 

その言葉にルドルフは絶句する。

信じられないと言う顔をしていた。

 

「今は警察に連絡してはいるが、気を付けろよ」

「まあ、そうか。そういうこともあるよな……」

 

僕もびっくりしたが、僕も芸能人みたいなものだ。

しかもとんでもなく嫌われている方面で有名だ。

普通の芸能人も殺害予告を受けるというし、こうなるのは必然だったと言える。

なんで今言ったんだとは思ったが、ルドルフにも被害が及ぶ可能性があるからこれだけは知ってもらった方がいいか。

 

「ルドルフ、別に驚くことじゃないだろう? 名家はこういうことはないのか?」

「……確かに私も受けたことがあるさ。私は期待されていたからな、デビューするなと、他のウマ娘を優先しろと言われた」

「じゃあ、それと同じさ」

「本質が違うんだぞ! 私の場合は家に来たものだ。だが、これは君個人のものだ」

「あのな、それは関係ないんだよ。こういうのは来る時は来るんだ。有名になれば仕方ないことなんだよ。それに普通の方法じゃウマ娘の、しかもアスリートなんて殺せやしないんだ」

 

楽観視だと言われたらそうなのだろう。

だが、僕たちにできることは少ない。

犯人を捜すのだって警察の方が優秀だし、下手に動く方が危ない。

ホープフルSが終われば皐月賞直前の若葉Sまで予定がない。だから、警戒を怠らずに待っているのが最善なのだ。

それにこういう問題が明るみに出れば、URAだって対応しなければならなくなる。前例がいるというのは何事にも大きなことだ。

 

「……私は、君のことを……」

 

その後に続く言葉がなんだったのか、わからない。

だけど。

だけど、もうダメだなと僕は思った。

ルドルフは僕たちに情を移しすぎた。

 

僕はルドルフと接する時に必要以上に嫌われないようにしていた。

それはルドルフの学園での立場は僕のチームメイトだからだ。ただでさえ忙しい生徒会にいるのだ。ストレスをためすぎるのは良くないと思ったから。

ウマが合わないというくらいで留めていた。

だが、それは上手くいっていなかったようだ。というよりも、そもそも前提が間違っていたというべきか。

ルドルフは情の深いウマ娘だ。

気に入らなくても僕たちを救おうと願ってしまったのだ。

チラとカレンダーを見る。

もう12月だ。

先行入学で入った場合、1月から一度元の学校に戻らないといけない。そもそも、卒業しないと学園に入学できないからだ。

 

僕はため息を吐く。

ルドルフに心の中で謝る。

許されることではないが。

 

「ルドルフ、お前は俺のなんなんだ?」

「私は」

「思いあがるなよルドルフ、俺はお前が大っ嫌いだ。一緒にいて虫唾が走るんだよ。てめえに心配される筋合いはないし、迷惑だとすら思ってるんだぜ。お前、これ以上囀るならもう来なくていい」

 

愕然とした表情をするルドルフ。

その胸倉をつかんで持ち上げる。

 

「その叶うわけのない理想を抱いて死ぬのは勝手だがな、俺を巻き込むな。俺の目標には多くのウマ娘の不幸が必要なんだよ。俺以外の人間は全員劣等種だ。なら、どうしたっていいんだ。それはお前だって例外じゃないんだぜ」

 

そのまま、ルドルフを落とす。

そして、かばんと制服を乱暴につかんで言う。

 

「帰る。ルドルフ、もうここには来なくていい」

 

僕たちの関係はここで終わりだ。

後は敵同士。

ルドルフ、僕を倒せば勇者になれるんだ。

だから、その時は容赦なく僕を殺しに来てほしい。

 

僕は心を固めてその場を後にした。

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