ウマ娘とかいう種族に転生した話   作:史成 雷太

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シンプルなタイトルも好きです。



Hopeful Despair

ホープフルS。

それは3番目のG1レース。

中山で行われるそれは芝2000mの右回り。

つまり、皐月賞と同じなのだ。

僕はこのレースでコースの走り方を体感しに来たのだ。G1という高い舞台で。

レースは走力だけじゃない。

レースの研究も実力の内だ。

僕は皐月賞でシービーに勝つ。僕が三冠ウマ娘になるのだ。

ホープフルSはそのためのステップレースだ。

 

「で、なんでお前がいるんだよ」

「G1レースの裏というのを見るのもいいと思ってな」

「帰れよ、お嬢様。でけえテレビがあるんだろ、それで観ろ」

 

それに何故かルドルフがついてきた。

 

「てめえの顔を見ると虫唾が走るんだよ。言わなかったか?」

「似たようなことは言われたな」

「というか口を利くなとも言ったはずだ」

「君から話しかけてきたんだろう?」

「なんで気持ちよくレースしようってのに、てめえの顔見なきゃいけないんだよ……」

「一応、チームメイトだからな」

 

なんでいるの?

あんなに突き放したのに、なにその鋼の意思!

いいんだよ?

僕は放っておいてもいいウマ娘なんだよ?

もう28日なんだよ?

家に帰ってこたつでゆっくりしなさい!

 

「君には聞きたいことが色々とあるんだ」

「俺には話すことなんて一つもねえよ」

「いや、話してもらう。これからは話す機会が減るからな」

「そいつは重畳。パドックに出るから壁にでも話してな」

「……終わったら、待っているからな」

 

鼻を鳴らして僕は控室を出る。

本当にどうしてルドルフが来たのかはわからない。

一度決めたことはやりきるタイプであるし、意外と反骨精神あふれるタイプでもあるから来ることを想定していなかったわけではない。

だが、僕に対する嫌悪感がないように思えてならない。

 

正直この際、理由などどうでも良かった。

だが、せっかく固めた心がルドルフを見ているとほだされてしまうかもしれない。

 

……ああ、認めようとも。

ルドルフは僕たちに情を移しすぎたと考えたが、逆も然りだったのだ。

 

このレースが終わればルドルフとはさよならだ。

だから、今だけはその気持ちを押し鎮めよう。

そうじゃないといけない。

 

僕は深く呼吸をしてパドックへ向かった。

 

今日はG1ということもあって、パドックも勝負服だ。

パドック裏に行くと、すでに出走ウマ娘が集まってきていた。

みんな一様に勝負服を着ている。

可愛い服だったり、かっこいい服だったり。セクシーな服を着ているウマ娘もいる。

……ハッピーミークちゃんは何で変な靴を履いてるんだ……?

 

僕が現れたことによって空気が張り詰める。

僕はそれを鼻で笑って、精神統一をする。

 

運が良いことに今日は内枠。

出走15人中3番目だ。

スタートさえしくじらなければ大丈夫だ。

 

『3番 ブラックトレイター』

 

僕は呼ばれたので、パドックに出る。

ブーイングが吹き荒れるが、涼しい顔をして受け流し、羽織ったコートを投げ捨てる。

前も思ったけどこれ必要?

コート汚れちゃうんだけど。

さて、僕の勝負服は体が見えないようなデザインになっているが、見る人が見れば僕の完成度がわかるだろう。

でなくても、勝負服も相まって僕の威圧感は高まっている。

ブーイングも少しずつ収まっていく。

それが終わると、僕は仰々しく両手を広げる。

 

「今日は俺のために集まってくれてありがとう。ウイニングライブは俺だけでいいと言ったんだが……どうもそれはできないらしくてな? 悪いが、他のウマ娘が参加することを許してくれ」

 

全方位に喧嘩を売るようなことを言う。

すると、再びブーイングが飛ぶ。

僕はそれに対して高笑いをして、ゆっくりとパドックの裏へ帰っていった。

 

よし。

これくらいでいい。

イメージ戦略はバッチリだ。

もちろん、僕の人気は最下位だった。

 

 

 

『さあ、ジュニア級G1、3つ目の王冠を被るウマ娘を決めるレース、ホープフルステークス! 粒ぞろいのウマ娘がそろっています。人気上位のウマ娘を紹介しましょう』

 

僕はターフに出る。

緊張はない。

調子は好調と言ったところか。

ターフの状態は良い。

 

『3番人気、チョコチョコ。パドックでも調子が良さそうでした。2番人気、スイートパルフェ、気合十分のようです』

『私の一押しのウマ娘です。がんばってほしいですね』

『そして、一番人気、ハッピーミーク! 前哨戦では2着という好走をしました。2000mは走り切れるか! ……ゲートインが始まります』

 

ゲートインが始まる。

が、1番目でゲート難の子がいたようだ。時間がかかっている。

前のようにターフの状態を見ていると、近づいてくるウマ娘がいた。

白バのウマ娘、ハッピーミークちゃんだ。

だが、近づいてくるだけ。

じっと僕を見つめるだけだ。

 

「……なんだよ」

「……負けない」

 

ふんすと気合十分な主張をしてハッピーミークちゃんは帰って行った。

うん、いい子なんだろうなぁ。

あんな挑発した僕に罵倒もせずに……。

 

でも、僕はそれに応えることはできない。

まあ、ハッピーミークちゃんも期待していたわけではなさそうだったので、僕はそのまま待つことにした。

 

それからしばらくして1番の子のゲートインが終わり僕も入っていく。

ゲートの中も慣れたものだ。

1番の子はそわそわしているが、僕は特に支障はない。

 

『時間がかかりましたが、全ウマ娘ゲートイン完了しました。ホープフルステークス……今スタートしました! っとああ!?』

 

スタートした瞬間、どんと隣から衝撃を受けた。

1番の子が暴走し、2番の子を突き飛ばして僕に接触したのだ。

 

僕はたたらを踏む。

まずい。

完全に出遅れた!

体幹鍛えてなかったら転倒していた。

 

僕は走りながら後ろを確認する。

1番と2番の子は転んでいるが、怪我はなさそう。

僕は靴が脱げていたりだとかはない。

異状なし。

 

だが、3バ身の出遅れ。

追い込みどころか、完全に置いてかれている。

 

僕はどうにか後続を追う。

ハッピーミークちゃんは先行位置。

追い込みはアマチュアの時にしかやっていなかった。

 

いつだ。

2000mの場合、いつ仕掛けるんだ?

 

『1番と2番はそのままレースに復帰できませんでしたが、3番ブラックトレイター後続を追います。しかし、ブラックトレイターは逃げウマ娘、ここから追いつけるのか?』

 

追い付くのはできるだろう。

しかし、狙うは1着だ。

負けたくない。

 

どうする?

僕は焦っていた。

落ち着け、落ち着け、焦りは体力を削るだけだ。

そう言い聞かせるが、思考が滑っていく。

 

くそ、シービーはいつもこんなレースしてるのか!?

とんでもないやつだ!

逃げが一番心に余裕のできない走りだと思っていたが、どの走り方も余裕なんてないじゃないか!

 

……いや、待てよ?

追い込み、確かに僕は追い込みを練習してこなかった。

だが、追い込みのやり方は知っている。

 

ミスターシービーの走り方は死ぬほど研究したからだ!

 

僕は後続に追い付く。

12人中、10番目の外側に付く。

そのまま、じっくりじっくりと後方からレースを見る。

逃げは誰がどの位置にいるのかを確認するが、追い込みは自分の位置が何よりも大切だ。

 

良い位置だ。

パワーは鍛えに鍛えたからな。

 

そして、そのままレースは進み、第三コーナーに入る。

 

ここだ。

ここからだ。

 

『ここでハッピーミーク先頭に出る。レースは縦長に展開されています。ここからハッピーミークを捕らえるウマ娘はいるのか?! おっと、ここで進出を開始したのはブラックトレイター! 力強い加速だ!』

 

大外からぶっこぬく。

シービーがしていたことだ。

なら、僕だってできる!

もう息を入れるなんて考えない。

何故なら、僕の一番の武器は回復力と根性だからだ。

 

『第四コーナー! ハッピーミーク先頭! ブラックトレイターがそれを追う! 一騎打ちだ! 逃げ切るか、捕らえるか! 最後の直線に入ります!』

 

ハッピーミークちゃんが見えた。

白い後ろ姿はとても目立つ。

後ろから見て思うが、確かに速い。

安定性がある。

確かに僕の上位互換だ。

 

だが。

だが、僕の方が速い。

死ぬほど鍛えた夏合宿は伊達ではないのだ。

 

それに――

 

――シービーなら、ここから抜く!

 

『並んだ! 並んだブラックトレイター! すさまじい加速だ! 足は残っているのか!? スタミナはどこまで残っているのか!?』

 

確かに、スタミナは残り少ない。

持つかどうかわからない。

だが、やってやる。

並んでゴールなんてごめんだ。

全部もってけ。

絞りつくせ!

 

「ああああああああ!!」

「うううううううう!!」

 

『抜かした! ブラックトレイター先頭! ブラックトレイター先頭でゴール!! ブラックトレイターG1の王冠を被りました!』

 

き、きっつい。

吐きそうだ。

だが、だが何かが掴めそうだった。

 

膝をつきそうになるのを気合で我慢する。

僕はヒールだ。

まだ無様な姿は見せられない。

顔を上げて拳を突き上げる。

 

一斉に観客席からブーイングが巻き起こる。

それを僕はデカい声で嘲笑ってやった。

 

 

 

ライブの観客席のライトは2色だったのはむしろ、心地いいものだった。

 

 

 

「で、トレーナーはどこ行ったんだよ」

「ライブを見たら先に行くって帰ったぞ」

「なんでお前を残していったんだよ」

「私が残ると言ったからだ」

「……そーかよ」

 

僕はとぼとぼと歩く。

今日はいつも以上に疲れた。

この疲労はG1だからだけじゃないだろう。

 

ルドルフのこともあるし、出遅れもそうだ。

特に疲れたのはウイナーズサークルだ。

あのアクシデントは僕が挑発した所為だよ~ということをほのめかし、追い込みは舐めプだったんだぜ~みたいなことを言った。

まあ、正直なんの先入観なしにあのレースを観ればただの事故だったとわかるのだが、度重なる悪事にみんな目が曇っているようで良かった。それにゴシップ系の記者たちは僕を叩くことが売り上げにつながることがわかったようで、それがアクシデントかそうじゃないかは重要じゃないみたいだし、印象操作はうまく行っていると考えておこう。

……これで僕の所為ではないと書く記者はちゃんと僕らを見ている記者だから遠ざけないといけないな。そういう人はシービーとかについてほしい。

 

「それで話があるんだ」

「さっきも言ったが俺にはねえよ」

「今まで、ずっと不思議だったんだ。どうして、君があんなことをするのか」

「あんなことって?」

「周囲を挑発するようなことだ。見返したが、デビュー戦の映像では私は君の所為には見えなかった」

「見えなかっただけだろ」

「そうかもしれない。だが、君が直接悪事を働いたことはないだろう?」

「シンザン記念は俺が主導だったろ? ちゃんと調べたのか?」

「あれは悪事だったと思わない。悪事だったのならマルゼンスキーが君と親しくしている意味がわからない」

「……あっそ」

 

ルドルフは色々と調べているようだ。

だから、最近顔出さなかったのか?

捨て置いてもいいのに……。

憎んでくれてもいいのよ?

 

他にも色々と根拠らしきものを話すルドルフ。

僕はそれを全て無視した。

すると、ルドルフが黙る。

 

チラと見れば、悲しそうな顔をしていた。

それにズキと胸が痛む。

そもそも、ルドルフは悪くないのだ。彼女は素晴らしい目標を持って、誰かのために戦っている。

悪いのはエゴをつき通している僕だ。

 

「答えてくれ、君は……本当は悪くはないんじゃないのか?」

「どう思おうが勝手だが、俺がやったことにも言ったことにも変わりねえんだ。……だから、俺を心配するのをやめろ」

「私は君を……」

「っ! ルドルフ!!!」

 

――その車から視線を離したのはルドルフに注意が向いていたからだ。

 

遠目でその車が見えた時は少しだけ危ない運転をする車だなとは思ったが、それでも車道はしっかり走っていた。だから、歩道を歩いていれば大丈夫だろうと考えた。

それが急にハンドルが切られてこちらに向かってきたのだ。

 

しかも、ルドルフの方に。

 

僕は咄嗟にルドルフを突き飛ばす。

だが、僕は逃げることができなかった。

 

巨大な質量によって僕の意識は吹き飛ばされた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




ジュニア級編終わりです。

これから閑話が2つ入ります。
別視点です。
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