ウマ娘とかいう種族に転生した話   作:史成 雷太

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今日は3回投稿します。
これと、19時半、21時半です。
お見逃しのないようお願いします。


At the Emperor's stronghold

目を覚ます。

そして、妙な確信があった。

遅刻だ!!

 

起き上がろうとして、激痛に呻く。

 

「いってええ!」

「ラック!? 起きたのか!?」

「え、ルドルフ? なんで僕……俺の部屋に?」

「ここは病院だ……」

「病院……?」

 

あれ、今日は何日だ?

確か僕はホープフルSに出て、その帰り道に……。

 

「る、ルドルフ! 大丈夫? 怪我はない!?」

「あ、ああ、私は大丈夫だ……」

「そっか、よかった……」

 

よかったー、未来の生徒会長が怪我なんて良くないからね。

で、僕どうなってんの?

うん、足にギプスつけてるわ。

まじ?

 

「ルドルフ? 俺っていつ退院? 明日?」

「……全治は半年だそうだ」

「半年?」

「そうだ」

「一か月とかじゃなく?」

「半年だ」

「あれからどのくらい経った?」

「3日だ」

 

え、半年!?

クラシックは!?

 

「し、シービーには?」

「その日のうちに来たぞ。覚えてないか? 君は『先に行っててほしい』と言ったんだぞ」

「そう、か……」

 

そんな気もする……。

全治半年か。

年の初めから半年。

全治ということは入院が半年ということだ。

 

……とりあえず話を聞こう。

 

 

 

ということでルドルフとお医者さんの話を聞いた。

 

ルドルフの話によると、あの車はまだ捕まっていないらしい。

だから、僕を狙った犯行なのか、ルドルフを狙った犯行なのか、それとも単純な事故なのかはわからない。

色々と不幸が重なって、調査が難航しているらしい。

うん、ここまで不運だと陰謀を感じるよね。

とはいえ警察も仕事は仕事。難航しているのは本当なのだろう。

 

それと学園に関しては何も問題ないので、気にしなくてもいいとのこと。僕は学業も優秀だったので多少の休学でもどうにかすると会長が言ってくれたらしい。

神か?

神バだったわ。

 

お医者さんには全治半年、走れるようになるのは秋。そして、厳しいリハビリになることが聞かされた。

骨折自体はきれいに折れたのが幸いして比較的すぐにくっつくらしい。

 

体が元々頑丈だったのと、とっさにバッグを盾にしたのが幸いしたとのこと。そうじゃなかったら完全に走れない体になっていただろうと言われ、ゾッとした。というか、3日で目を覚ますとは思われていなかったようで、大層びっくりされた。

ナイス僕。

 

ともあれ、全治半年なのでそれだけで皐月賞どころかダービーにも間に合わない。

 

話を聞き終わった僕はどうするべきか、悩んでいた。

こういう時、トレーナーに話を聞きたいが……僕のトレーナーから降りただろうなぁ。

僕たちはそういう関係だった。

 

……うん、正直、思ったよりもきついな。

 

「……ラック、その、私の所為で……」

 

ルドルフが隈を作った顔で申し訳なさそうな顔をしている。

今まで悪役ロールをしていたが、ここで責めるようなこと言うとルドルフ絶対病むね。

……まあ、不測の事態だし、仕方ないか。

 

「ルドルフ、こっちおいで」

「……わかった」

 

僕は動けないので、こちらへ来てもらう。

ルドルフをよしよしと撫でる。

 

「ルドルフが無事でよかった。僕はそれが嬉しいんだ」

「しかし! 私の所為で君の、競走人生が終わったんだぞ!」

「む、それはまだわからないぞ! とっとと治して皐月賞……は無理でもダービーには出るぞ、僕は」

「無理だ! そんなことはっ、できないんだよ、ラック……」

「ルドルフ、僕はね、才能がないんだ」

「そんなことは……」

「だけど、そんな僕でもシービーとタメ張れてたのには理由があるんだ」

「どういうことだ……?」

「僕は回復が早いんだ。疲労も体力も、怪我もね。それが僕に許されたたった一つのズルなのさ」

「だからと言って、ダービーには……」

「ルドルフ」

 

僕はルドルフの頬を両手で挟んでこちらに向ける。

 

「悪役のすごいところはどこだと思う?」

「悪役……?」

「それはやられてもやられても、諦めないことだ。僕は世紀の大悪党、ブラックトレイター。必ずやミスターシービーの三冠を阻止するさ」

「ラック……」

 

僕はルドルフを放して頭を下げる。

 

「だから、ルドルフ。虫の良いことはわかってる。その上でお願いしたいんだ。僕の復帰に協力してほしい。もし協力してくれるなら、なんでも言うことを聞く。だから、お願いします」

「ラック……」

 

ルドルフは少し泣きそうな顔をして、頷く。

 

「わかった。その代わり……と言える立場じゃないが、どうしてあんな振る舞いをしていたのかを教えてほしい」

 

まあ、今更取り繕えないよね。

僕は頷いて、これまでのことを話し始めた。

 

僕の目標。

学園のスカウトと条件。

シービーとの出会い。

マルゼンスキーとのレースとその理由。

デビュー戦での事故と僕の方針。

ルドルフとの出会いと決心。

後は知っての通りだ。

 

話し終わった僕はもう一度ルドルフに頭を下げる。

 

「ごめん、これまで君には酷いことを言ったし、酷い態度を取った」

「……バカ者だ、君は……」

 

そう言ってルドルフは僕の胸に顔を押し当てる。

 

「ルドルフ……?」

「私は、こんな夢を持って、いいのかとずっと不安だったんだ。君を見ていると、強くそう思った。でも、同時に君が悪いウマ娘じゃないかもしれないと思うと、むしろ、希望が湧いて出てきたんだ」

 

ルドルフは言葉を短く切って話す。

僕はルドルフの頭を撫でて話を聞く。

 

「同じ夢を見れるウマ娘がこんなにうれしいとは、思わなかった。もっと、はやく、いってほしかった」

「うん、ごめんね、ルドルフ。僕も、君に出会って君の夢を聞いて、嬉しかった。もし、僕がしくじっても君が叶えてくれる。君との日常は楽しかったんだよ。嘘じゃない」

 

それからしばらくルドルフは泣いた。

僕はその頭を撫でる。

孤児院では1つや2つ上の子をあやすことはあったけど、まさか皇帝をあやすことになるとは思わなかった。

 

落ち着いたルドルフは僕にとある提案をしてきた。

 

「私の主治医を紹介しよう」

「主治医?」

「ああ、優秀でな、医者一家なんだ。他の良家も雇っているんじゃないかな?」

「へえ、すごいね。あ、じゃあ、お金はかかっちゃうんじゃ……」

「いや、それは大丈夫だ。うちの主治医だからな」

「でも、お世話になるのに……」

「ふふ、君がふてぶてしくないと違和感があるな。ダービーに向けての費用も必要になるだろう?」

「……むぅ、じゃあ、ダービー終わったら払うからね」

「まあ、平行線になりそうだし、今はそういうことにしておこう」

 

ルドルフ、なんていい子なんだろう……。

僕はルドルフに甘えることにした。

 

 

 

 

「でもまさか、シンボリ家に入院するとは思わないじゃん」

「うん? 主治医はうちに雇われているからな。うちにいる方が都合がいいんだ」

「そうですよね……」

 

僕はシンボリ家で診てもらうことになった。

一応茶菓子などを買っていったが、ここに入院するならもっと色々としておくべきだったな……。

 

そして、その主治医さんと会って診てもらうと、難しい顔をされた。

 

「治すことはもちろん可能です。努力次第では早くに走るようになれるでしょう。しかし、ダービーに出走するのは難しいと言わざるをえません」

「どうにかなりませんか」

「どうにか、ですか。……あなたなら、という注釈がつきますが、できる可能性があります」

「本当ですか!?」

「レース先進国であるイギリスやフランス、アメリカで採用されているリハビリ方法です。シンボリ家の施設を使えばそれをすることができます。ですが、厳しいリハビリがさらに厳しくなります。その上で、間に合わない可能性もあります。私としては、おすすめはしません。そして時間がないのでこれはあなたの頑丈さに任せた強引なリハビリです」

「……そんなにラックは頑丈なのか?」

「ええ、誤解を恐れずに言うのであれば。ブラックトレイターさんの体は計算しつくされた体なんです。ここまで調整されたウマ娘は私としても見たことがありません。きっと奥様にこのことをご報告すればブラックトレイターさんを欲するでしょうね」

「……僕、寒門もいいとこなんですけど」

「良家のプライドというものはあるが、人材に家柄は関係ないからな。どうしても良家の方が人材も厚くなるから良家を重視しがちだがな」

「ふうん。まあそれはどうでもいいや。間に合いそうな方でお願いします!」

「……本当にいいですね?」

「もちろん!」

 

とはいえ、今できることは注射の恐怖に耐え、骨折を治すことだ。

幸いなことは日本ダービーの出走条件はおそらく満たしていると言うことだ。日本ダービーは18人の出走の中で9枠が優先出走権を持つウマ娘で、残りが収得賞金額によって決まる。

そして、僕の収得賞金、なんとすでに1億を超えている。ジンバブエドルとかではなく日本円だ。デビュー戦が500万、東京スポーツ杯ジュニアSが3800万、そしてホープフルSが7000万だ。

え、やべえ。

改めて見るとやべえ。

孤児院建て直そ。

こんなん、お金だけ見ればレースやめられませんわ。

で、確か、例年ではボーダーは1億に遠く及ばなかったはず。

なので、治しさえすれば僕はダービーに出れるのだ。

 

シービーには『皐月賞勝っておいて。シービーにダービーと菊花賞勝って実質3冠ということにするから。いや、マルゼンスキーとホープフルS勝ってるから実質5冠ということする』と送っておいた。

シービーからはニッコリマークの後に首を掻っ切るジェスチャーのマークが送られてきた。

安心安心。

というか、今のところ僕無敗じゃない?

すげえな僕。

 

骨折が治るまで2ヶ月ほど。

つまり、2月からリハビリがスタート。そして、5月の後半に日本ダービー。

 

正直に言えば、この事故さえなければ僕は実力的に同世代からしたら一歩先を行っていた。

夏でのトレーニングはそれほどに効果があった。

事実、僕はG1という舞台で大きな出遅れから苦手な追い込みで1着を取っている。

どこまでこの体を維持できるか、リハビリがどれだけ早く終わらせられるかが重要になってくる。

 

とはいえ、できるトレーニングもある。

……トレーニング機材貸してくれるかな?

無理なら小さいのなら全然買えるし、買おう。

それをルドルフに相談したら、首を傾げられた。

 

「何をするんだ?」

「とりあえず、懸垂とプールかな。肺活量トレーニングだけは欠かしたくないし」

「うん、ダメだ」

「なんで!?」

「バカなのか、君は? 怪我は骨折だけじゃないんだぞ? 鏡を持ってこようか? そのガーゼだらけの顔でよく言えたな」

 

ルドルフに相談すると断られた。

 

「というか、事故から2週間も経ってないんだぞ。トレーニングを始めるな」

「ルドルフぅ~」

 

ルドルフに泣きながらしがみつくと、ルドルフは固まる。

 

「う、うむ。それが君の素だとはわかってはいるが、慣れないな。とんでもない悪漢を屈服させた感じがして、なんかこう、何かに目覚めそうだ」

「僕、ルドルフになら何されてもいいよ?」

 

ルドルフの耳元で囁くと、ぺいっとベッドに捨てられる。

いやん、いけず。

 

「そ、そういうことを気軽に言うな! まったく、どういう教育を受けてきたんだ!」

「えー? 中央トレセン学園でお世話になっています」

「……認めたくない事実だ。シンザン会長も頭を抱えるだろうな」

「会長に言ったら本当に何されるかわからないから言わないモーン」

「……早く入学して私がトレセン学園を変える」

「頑張ってね、カイチョーさん」

 

しかし、トレーニングダメか。

ダメ?

ほんとにダメ?

 

「……上目遣いしてもダメだ」

「シービーなら半分くらいの確率で通るんだけどな」

「嘘を吐け」

「逆に落とそうとしてくるから遊んでるだけなんだろうけど」

「……うむ」

 

うむじゃないが。

とはいえ、さっさと治すしかないか。

……トレーニングできるまでは。

 

 

 

 

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