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3月。
僕は完全にリハビリを終え、走れるようになっていた。
主治医さんも「感嘆ですね、筋力もほぼ落ちていません。奇跡と言ってもいいでしょう。もちろん、あなたの努力の結果ではありますが」と言ってくれた。
そして。
そして!
僕は!
「帰ってきたぞー! トレセン学園!」
実に3ヶ月ぶりにトレセン学園に帰って来たのだ。
感慨深いものがある。
たった3ヶ月。されど3ヶ月である。
「あまりはしゃぐなよ。せっかくこっそり抜け出してきたんだからな」
「あ、ごめんごめん」
ルドルフの家にお世話になっていたのは周りには内緒なので静かに出てきたのだ。
僕が泊っている部屋とか埃だらけだろうな。
シンボリ家の方々には本当にお世話になったので何かお礼をしたいと言ったのだが、「元気に走ってくれればそれでいい」とそれをやんわりと断られた。
それは優しさでもあったし、海外の最先端のリハビリ方法と僕の体がどこまで通用するかを見てみたいかららしい。
今は3月。
授業はないし、実家に帰っているウマ娘がほとんどだ。
生徒は少ない。
「さて、理事長室へ行こうか」
「うん、そうだね」
最初に行くのは理事長室だ。
めちゃめちゃ迷惑をかけたからね。
会長にもお礼を言わないといけない。色々と便宜を図ってくれたらしい。
理事長室をノックすると「入りたまえ!」という元気な声が聞こえてくる。
入ると、理事長とたづなさんと会長がいた。
「歓迎! 怪我は大丈夫か?」
「はい! おかげさまで完治いたしました! 今日からトレーニングです!」
「驚愕! 今日からか!?」
「もちろん、これまでの分を取り戻します!」
「そうか、君の勤勉さには感服だ」
僕は頭を下げる。
「理事長、たづなさん、会長。便宜を図っていただいたと聞きました。本当にありがとうございます」
「うむ! 問題ない!」
「ブラックトレイター、君には返しきれない恩があるからね」
「会長、あれは恩を感じることじゃないので……。僕が勝手にやったことです」
「ははは、なら今回のことは私が勝手にやったことだ」
「む……」
会長は朗らかに笑う。
「ブラックトレイター! 君が再びトレセン学園に帰って来たことを嬉しく思う」
「理事長……」
「理事長ったら話を聞いた時にひっくり返って慌ててたんですよ?」
「そうなんですか? それはどうもすみません……」
「たづな!? それは言わない約束だろう!?」
「いいじゃないですか、こうして帰ってきてくれたんだから」
「むむ、そうだな」
僕はその流れで早速理事長に頼むことにした。
「理事長! お願い……というか、聞いてほしい話があるんですけどいいですか?」
「む、なんだ?」
「日本ダービーに出たいんです」
「何!? それは無茶じゃないか!?」
理事長だけじゃなく、会長も驚いていた。
まあ、そうなるだろうけど、絶対にここは通したい。
「約束があるんです。僕はダービーに出て1着を取る」
「……拒否! 急いで怪我をしてしまうようなスケジュールは許可できない!」
「理事長、僕はもう治りました。完治と言いましたが、もう本当になんともないんです」
「しかし、それでもブランクがある。復帰からダービーなど、無謀だ!」
「お願いします! 出走条件は満たしているはずです!」
僕は必死に頭を下げる。
そこで会長が間に入ってくる。
「それはミスターシービーとの約束か?」
「それもあります。ですが、それ以外もあります」
「ほう、それはどんな約束だ?」
「後輩のウマ娘との約束です。僕がダービーで一着を取ったのなら、夢を諦めないと」
「ははは! 君はいつもビッグマウスだな!」
「難しいからこそ信じてくれるそうです」
「そうだなぁ。……理事長」
「なんだ? 私としては許可したくはないぞ」
「彼女のおかげでダービーに出れたウマ娘がいます」
「む! しかし、それは……」
「それも我々では解決できなかった問題を解決してくれました。なら、その分を返してもいいんじゃないですか?」
「……わかった。そこまで言うのなら止めはしない」
「ということだ、ブラックトレイター」
「ありがとうございます!!」
お礼を言うと、会長は一転厳しい表情をする。
「だが、URAが君にレースを許していたのは、君の提案に乗ったからだ。君が悪役を買って出ると言う約束だ。しかし、弱い悪役など要らない」
それはURAとしての視点だった。
「だから、証明してみせろ、ブラックトレイター。日本ダービーのトライアルレース、青葉賞で勝って見せろ」
青葉賞。
それは4月の後半に行われるレース。
そのグレードはG2。
とんでもなく難しい要求だ。
だが、それが勝てなければ僕はダービーに勝てないだろう。
僕は頷いた。
「わかりました。必ず、青葉賞に勝って見せます」
「いいだろう、その約束必ず果たせよ」
「はい! あ、そうだ会長」
「ん? なんだ?」
「お勤めご苦労様でした」
「ははは、ルドルフに代わるまで会長も続行だぞ」
「そうでしたね」
聞きたい言葉は聞けた。
なら、やるだけだ。
僕は理事長室から退出した。
「またあんなことを約束して……」
「やるしかないなら、やる! 後には引けないんだから」
「……そうだな」
「ルドルフ」
「なんだ?」
「ありがとうね、付き合ってくれて」
「ああ。とはいっても選抜レースまでだからな」
「うん、もちろん!」
さて、次は。
「ちょ、ちょっと待て、本当に行くのか?」
「もちろん! 僕には時間がないから今日行くよ!」
「というか、いるのか!?」
「いるでしょ!」
ばばーんとドアを開ける。
そして、僕は大きく宣言する。
「トレーナー! ダービー出るよ! あと青葉賞!」
トレーナーは僕を見ると、いつも通り頷いた。
「……最初から説明しろ」
「まったく、トレーナーはまったく!」
僕はぷんぷんと怒っていた。
これは激おこである。
ルドルフは激おこぷんぷん丸ムカチャッカファイアーである。
「まじで契約解除してやんの!」
そう、トレーナーまじで契約解除していたのだ。
「そこは実は契約解除してなくて『待ってたぞ、マイハニー……これから俺とランデブーだな』って言うパターンでしょ!?」
「そのパターンは私としては見たくはないな。だが、本当に契約解除していたとはな。冷血漢という評価も間違いじゃないようだ」
ゴゴゴゴとルドルフは怒っている。
怒り方が会長に似てきたな……。
「俺とお前はそういう関係だったろう」
「そうだけども! 乙女心というものもあるんですー! また契約書書かないといけないし、二度手間でしょ!」
「待て。再契約するとは言ってない。お前はもう走れないんだろう?」
僕は思ってもいないことを言われて目を瞬かせる。
そして、あくどい笑みを作る。
「へえ? この俺を逃すのか? 評価してやっていた時からしたらずいぶんと節穴になったな?」
「夢なんぞ見るのは誰でもできる。走れないお前を評価する者はいないぞ」
「本当に走る姿を見せなきゃいけないとはな。いいぜ、ターフに出ろ」
「カメラで撮ってこい」
「そこはのってよ!」
さらに怒った僕はそのパワーに任せてトレーナーをターフに拉致したのだった。
僕はこの3ヶ月間、肉体の維持を目標に生活してきた。
それは無駄に終わることなく、全盛期ほどではないが肉体を留めている。
そして、この3ヶ月間で成長したこともある。それは厳しいリハビリによる根性と、座学によるテクニックの学習だ。
走りたいという欲求とイメージによるトレーニングはバカにはできないのだ。
そして、シリウスとルドルフのトレーニングによって学んだスキルがある。
芝、2000m。
ここに立つと帰って来たという実感がわく。
たった3ヶ月というのに、酷く懐かしい。
僕はルドルフの持っている旗を見る。
さあ、ここから再スタートだ。
「俺はドッキリでも仕掛けられているのか?」
「なに? ご不満?」
「……いや、前言撤回しよう。確かにお前は走れる。しかも、今までと遜色ないほどにな」
その言葉に僕はガッツポーズをする。
「じゃあ、契約するよね!」
「……お前は……それでいいのか?」
「そうだ、聞いておきたい。ラック、他のトレーナーでもいいんじゃないのか?」
「またその話? もう飽きたよ、僕は!」
そう言うが、トレーナーは首を縦に振らなかった。
「お前は、俺とは組まない方がいい。最初に言ったはずだ。俺は自分の目的のためならウマ娘を道具として扱う。わかったろう? 俺がお前にした仕打ちが」
「はあ? あのね、トレーナー。僕たちはそういう関係だったじゃん。さっきそう言ったのはトレーナーだよ?」
「確かにそうだ。そして、ブラックトレイター、俺はそれを変える気はない。俺は担当を道具として扱うことになるだろう。自分の目的に使うことになる」
「うん。いいよ、それで」
そういうとトレーナーは眉間にしわを寄せた。
「自分が何を言っているのか、わかっているのか?」
「わかってるよ。必要なことだ」
「お前には選択肢がある。トレーナーはごまんといる。しかもここは中央。優秀なやつしかいない」
「あのねえ、今からトレーナーを探す時間あると思う? それに怪我から復帰して2ヶ月でダービー走りたいって無茶を聞くトレーナーがいると思う? いないよ。断言できる。それが正常な判断だってこともわかってるもん。だけど、やらなきゃいけないんだ。だから、トレーナー、君の力が必要だ。もう一度僕と契約してほしい」
僕に必要なのはそういう関係だ。
トレーナーとの絆があればいいとは思うが、それは僕の目標を叶えてくれる上での話だ。
だから、僕にはトレーナーしかいない。
僕は手を差し出す。
トレーナーはその手を……取……ろうと……して……。
「ああもう! じれったいな!」
優柔不断なトレーナーの手を僕は取る。
「はい契約! これからよろしくね、トレーナー!!」
「お前は……わかったよ、これからよろしく」
「最初からそう言えばいいんだから! さっさと準備して! ダービー勝つんだから!」
こうして、ようやく僕のダービー挑戦は準備が整ったのだった。