ウマ娘とかいう種族に転生した話   作:史成 雷太

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Heroes of the God Killer

僕は普通のウマ娘じゃない。

それは立場はそうだし、単純な走力もそうだった。普通に考えて僕は強い。中央トレセン学園に入学してからの戦績は4戦4勝。G1の勝利も入っている。

自分で言うのもなんだがとんでもない強さだ。

ではその強さの源はどこから来ているのか?

それは『回復力』という一点。それに比べたら前世の記憶など特異性にもならない。むしろ、邪魔だと思うようなことが多い。

ウマ娘は『鍛えること』はできても『鍛えすぎること』はできない。出力が強すぎてその前に体を壊すからだ。

しかし、僕はその回復力を最大限に使って頑丈な体を作った。僕は改造ウマ娘だ。

死ぬほど鍛えることができる土台があるのだ。

 

さて、僕が日本ダービー、ないし青葉賞に勝てるのかどうか。

正直言って事故前の僕のタイムなら青葉賞に勝つことはできた。日本ダービーに勝つことすらできただろう。回復力に任せた力任せの合宿で鍛えに鍛えたからだ。

だが、それはシービーがいなかった場合だ。

シービーは強い。事故前は勝てると思うまでトレーニングを積んだが、僕の予想を上回ってくるのがミスターシービーだ。どうなっていたかはわからない。

なら、今の僕はもっと勝てない。

勝つためには事故前の肉体スペックを取り戻さないといけない。

 

取り戻すためにはどうすればいいのか。

もうお分かりだろう。

ただただ死ぬほど鍛える。

結局は、僕にはそれしかないのだ。

 

「ねえルドルフ?」

「なんだ?」

「小学生の時にカエルの解剖やった時に筋肉の反応を知るために電流流して痙攣させる実験をしたことがあるんだ」

「ほう、それは勉学としては為になるな」

「うん、そうだね」

「それで?」

「僕の足って今そんな感じになっていない?」

「その授業を私はしたことがないが……十中八九そうなってる」

「ウケるね」

「いや、ウケない。普通にきもいぞ。淑女としてどうかと思う」

 

酷い。

 

「私は君を見て時折思うのだが」

「なに?」

「勝つために何かを犠牲にしないといけない時はあるが、君は勝つために犠牲にしているものが多すぎないか?」

「……例えば?」

「人間性とか」

 

人間性を失ったウマ娘とかそれただの化け物や。

いやルドルフは僕をただの化け物だと言いたいのか……?

 

「もし僕が怪物に成り果てたらその手で討伐してほしい」

「その時はシービーと会長とマルゼンスキーを誘っていくよ」

 

たぶんそれピクニック気分だな。

しかも厨パ極まってるな。

 

回復した僕は立ち上がる。

そして、体を伸ばして違和感がないか確認する。

うん、いい感じだ。

 

ブランクはある。

だが、うちのトレーナーは優秀だ。

指導力はそんじょそこらのトレーナーよりもあるだろう。

すぐにブランクもなくなるという確信がある。

 

僕はルドルフに抱き着いておんぶしてもらう。

 

「とりゃ!」

「おっ……っと! 危ないじゃないか」

「送ってよ、ルドルフ。送り狼になってもいいよ?」

「はいはい、君を食い荒らすのはターフの上でやることにしよう」

「ルドルフが前みたいに動揺しなくなって僕悲しいよ」

「私とて成長するんだ。……というか、ラックはシービーと似ている部分があるからな」

「あの気分屋と!?」

「……お前たち、ずいぶんと仲良くなったな」

 

話していると、トレーナーが呆れた声を出す。

僕はルドルフの胸元に手を突っ込んで、ネックレスを出す。

そして、トレーナーのネクタイを指さす。

そこには僕があげたネクタイピンがある。

 

「僕たち3人な? 間違えないよーに」

「……はいはい」

 

トレーナーは曖昧にうなずいた。

 

「で、トレーナー。僕は勝てそう?」

「そうだな、青葉賞は間に合うだろう。だが、ダービーは今のままだと難しいな」

「勝てるようにしてよ、トレーナー。できるんでしょ?」

「……簡単に言ってくれるな」

「僕が契約したのは勝たせてくれるからだよ。ほら頑張って! トレーナーが言うなら僕はなんだってやって見せるからね」

「わかったよ」

 

トレーニングが再開してわかったことがある。

それはトレーナーはすでにトレーニングメニューを考えていたということだ。

ジュニア級とずいぶんとトレーニングメニューが変わっており、怪我がないかの確認が多くなっていた。

それに、今の僕に合わせた強度になっていると感じる。

一日二日でできることではない。

 

何が言いたいかと言うと、トレーナーは僕が戻ってこない可能性を知りつつもトレーニングを考えていたということだ。

そのおかげで僕は合間なくトレーニングをすることができる。

 

「そういえば、感謝祭どうするんだ?」

「感謝祭?」

「知らないのか? 4月の初めに感謝祭があるんだ。チームやクラスで出し物をするんだ。会長の最後の仕事だぞ」

「まじ!? ……とは言ってもな、僕チームにいないしクラスでも避けられているからな……」

「……そうか」

「だけど、会長の最後の仕事か。じゃあ、なんかするか!」

「なんかって、何を?」

 

そう言われて僕は少し考える。

そして、思いつく。

 

「よし! 会長を倒そう!」

「なんでそうなる! お世話になったんだろう?」

「もう神話の時代は終わるんだ。次からは皇帝の時代だ。人の時代だ! 僕たちはできるってことを証明しに行こう!」

「……それは、悪くないな」

「でしょ!」

 

よーし、そうなったら。

神殺しの勇者たちを集めよう!

 

 

 

集めたのは、順不同敬称略でマルゼンスキー、ミスターシービー、メジロモンスニー、ダイナカール、キョウエイプロミスだ。カツトップエース先輩は来年度からはドリームシリーズらしいので呼べなかった。

参加者は上記のウマ娘と僕とルドルフだ。

 

「みんな、集まってくれてありがとう! あけましておめでとうございます」

「おひさー」

「元気そうでなによりですわ」

「というか、結構な怪我だと聞いたが……?」

「そうよ! 私もお見舞い行けなくてさびシングスだったんだから!」

 

プロミス先輩以外は事故から会っていないので口々に言う。

僕はこほんと咳払いをする。

そして、みんなを黙らせる。

 

「心配してくれてありがとう。あの事故は確かに軽いものじゃなかった。実際、全治は半年でそこからリハビリが待っていると言われた」

「なっ……!」

「でも、ダービー出たいから頑張って戻ってきました! 前哨戦の青葉賞から復帰です! ぶいっ!」

 

ピースして笑うと、みんな心配そうに僕を見る。

シービーは僕の頬をムニムニする。

やめ、やめなさい!

 

「アタシとの約束だからねー。絶対に守ってもらうね」

「もちろんでふ。こんどこそまもりまふ」

「で? 今度はどういう用事なの? 退院しましたって挨拶?」

「ううん、感謝祭でやりたいことあるんだ」

「やりたいこと?」

「うん、会長倒しておきたいなって。戦えるの今しかないし」

 

そう言うと、みんな呆れた表情になる。

 

「あのですね、シンザン生徒会長がどれほど強いのか理解してます?」

「そりゃもちろん。トレーニング付き合ってもらったことあるし」

「それでよくそんなことが言えたな……加えて貴様はまだ復帰すらしてないんだろう?」

「まあね。でも、走れるよ?」

 

モンスニーちゃんとカールちゃんがそう言ってくる。

だけど、僕は別に勝てると思ってやるわけじゃない。

勝ちたいから走るのだ。

 

「え? じゃあ、みんなは会長と走りたくないの? もうこれが最後かもしれないんだよ? あの、伝説の存在が、本当に伝説だけで終わっちゃうんだよ? 強い相手、結構じゃないか。みんなは相手が強かったら、負けるかもしれないしやめとくかって諦めるの?」

 

そう言うと、みんなの目つきが変わる。

それはそうだ。

みんな、自分の目標がある。

だけどそれには強い相手が立ちはだかる。そして、だからこそ挑戦したいと思ったウマ娘たちなのだ。

 

「僕はやるよ。僕は走る。みんなはどう?」

 

結局、みんなはその言葉にうなずいた。

僕がバカならみんなもバカだ。だからこそ、強いのだ。

 

「よぉし、そうと決まれば会長に頼みに行こう!」

「まだ生徒会長に言ってなかったの!?」

 

プロミス先輩が驚く。

だってみんなで行きたかったんだもん。

 

 

 

ばばーんと扉を開けると、会長は書類の整理をしていた。

引継ぎに必要なものを分けているようだ。

 

「会長!」

「ん? おや、一同そろってどうしたんだ?」

「感謝祭でイベントをしたいと思って相談しに来ました!」

「ほう、君たちで何かやると? どういう関係なんだ?」

「友達です!」

「んふふ、いや、うん。そうだな。別に友達同士で何をしようと構わないが、場所の申請か?」

「はい! 後、会長を誘いに来ました!」

 

そう言うと、会長は首を傾げる。

 

「誘い?」

「会長は感謝祭で生徒会長を辞めるんですよね?」

「そうだね。そのために君にも協力してもらっているからね」

「はい! ですので、最後に会長を倒しておきたいと思いまして! 一緒にレースをしませんか?」

 

会長はキョトンとした後に肩を揺らして笑う。

 

「そうか、まあ確かに最後になるかもしれないな。素敵な提案だ。なら忙しいなどと言って逃げるのは、シンザンの名に恥じる行為だな。いいだろう、私も参加しよう」

「やった! ありがとうございます!」

「ただし!」

 

そう言って会長は指を一本立てる。

その威圧感は衰えを知らない。

びりびりと部屋全体を揺らすような空気だ。

 

「ただし、やるなら本気だ。平等じゃなくていい。全員でかかってこい。私はシンザン、最強のウマ娘なんだからな」

 

 

 

日本最強のウマ娘、シンザン。

その打ち立てた記録は連続連対数19。

そして、八大競走の内、クラシック三冠を含めて5つを勝っている。

5冠。

G1勝利数で言うならば宝塚記念を含め、6冠。

その偉業は日本にいるのならば知らないものはいないほどだ。

そしてURAは「シンザンを超えろ」という目標を出し、今なおそれが成されていない。

誰もが認める最強なのだ。

 

勝てるのか、と問われれば勝てないと答えるしかない。

とはいえ、それはマルゼンスキーの時もそうだった。なら、勝つ方法を考えるしかないな。

 

まず、コース。

コースはこちらが決めていいらしい。

みんなの得意距離は僕とシービーとルドルフが中長距離、モンスニーちゃんとプロミス先輩が長距離、マルゼンスキーとカールちゃんがマイルが得意だ。シンザン会長は僕らと同じく中長距離。

全員芝が得意だ。そして、プロミス先輩以外は重バ場を苦も無く走れるが、それは会長もだ。

これだけ聞くと、マイルでマルゼンスキーが勝負を仕掛けるのが一番いいように思えるが、会長は中長距離が得意なだけでマイルも全然走れる。最初からロングスパートを仕掛けそうだ。

なら、厳しくはなりそうだが、中距離か長距離で仕掛け、全員で倒しにかかるのが得策のように思える。長距離だと走れるメンバーが限られるので中距離だろう。

 

「で! 作戦っていうのはどうするの!」

 

シービーがわくわくしながら聞いてくる。

 

「それ、どうしようかなぁ」

「決めておりませんの……」

「行き当たりばったりだな……」

 

モンスニーちゃんとカールちゃんがため息を吐く。

 

「いや、今回もシンザン記念の時みたいに全員が全員会長を潰しにかかるから僕は僕で自由に動こうと思っててね……」

「その自由にってどんな作戦なのかしら?」

「うん、僕は先行で行こうとしてた」

「珍しいね。わたしが見る限りだけどずっと逃げじゃなかった?」

「プロミス先輩の言う通りなんですけど、実は僕ホープフルSは逃げができなかったんですよ」

「あ! それ見た! アタシみたいだった!」

 

その言葉にシービーが反応する。

うん、シービーの戦法をパクったからね。

 

「そうそう。で、思ったんだ。追い込みは合わないって。でも、後ろからの視界は広かったし、なら今回は前目で様子を見ようって。今回に限っては逃げはやるだけ損だし」

「え? なんで?」

「マルゼンスキーがいるから」

「私?」

「あー……」

 

モンスニーちゃんは僕の言いたいことを察してくれたようだ。

うん、デビュー戦で戦ったもんね。

 

「マルゼンスキーと先頭争いしたら絶対どっちか潰れるから」

「……そうだろうな」

 

カールちゃんも頷いている。

会長倒すのに同じレースで怪物も倒さなきゃいけないのはきつすぎる。

なのでそれは誰かに任せようと思っていたのだ。というか、会長に任せようと思っていた。

その漁夫の利を得ようと思っていたのだ。

 

「しかし、そうなると作戦はないのか? ……まあ、チーム戦での作戦は難しいとは思うが……」

 

ルドルフがそう聞いてくるが、そもそも同レースのチーム戦はないのだ。

僕の覚えている限りでは競馬にだってなかった。まあ、それはそうだろう。馬は賢いとはいえ、レースで勝つように調教されているのに協力するなんてことを教えたらどうなることかわからないからだ。……大昔には八百長とかはあったかもしれないと聞いたことがあるが。

 

「あ」

「なに? なにか思いついた?」

「いや、ちょっと待ってね?」

 

シービーを止めて、僕はバッグを開ける。

僕は事故でぶっ壊れたから新調した携帯で調べる。

この世界にもあるはずだ。競馬がなかったとしても、あれはあるはずだ。

 

「あった」

 

そうだ。

これなら、チームとして戦える。

 

「みんな、行きたい場所があるんだけど、時間ある?」

 

そう聞くと、みんなキョトンとしながら頷いてくれる。

 

「じゃあ、ちょっと準備しといて! 僕はトレーナー呼んでくる!」

 

あそこに行くにはトレーナーの協力が必要だ。

大人の保護者が。

 

 

 

 

目的地へ向かう道中、僕はモンスニーちゃんに声をかけられる。

 

「ラックさん」

「うん? どしたの、モンスニーちゃん」

「怪我、大丈夫ですか?」

「ああうん。全然大丈夫! ダービー楽しみにしておいてよ」

「ええ、もちろんですわ。ところで、なんだかシンボリルドルフさんと仲がよろしいようで……」

「あ。あー……うん。ちょっとね、お世話になったんだ」

「そうですか」

 

モンスニーちゃんはにこりと笑う。

なんだか……威圧感がある。

 

「シンボリ家にお世話になったんですか?」

「……ま、まあ、そうだけど……」

「メジロではなく、シンボリに」

 

そこでモンスニーちゃんが言いたいことがわかった。

この子、シンボリ家に嫉妬してる!?

 

モンスニーちゃんはメジロという名門の教育を一身に受けたウマ娘だ。

シンボリ家の教育を受けたルドルフのように。

モンスニーちゃんは僕に何かが起きたらメジロ家の力を使うと言った。僕が怪我をしている時に、何もできなかったと考えたのだろう。

約束を反故にするのはノブレスオブリージュにも反する。

 

僕が、というよりもメジロ家として嫉妬しているのだろう。

うん、ごめん。

 

「そ、そのぅ、何と言いますか……」

「何と言いますの?」

「これには深い事情がありまして……」

 

泳ぎまくる目をモンスニーちゃんは逃がしてくれない。

だけど、モンスニーちゃんは不意にため息を吐いた。

 

「すみません、別に困らせたかったわけではないんですの」

「いや……こっちこそごめん。心配かけた」

「ええ、それは反省してください」

「う、はい……」

「でも、わかりました」

「? 何が?」

「待っていても約束は履行されそうにないので、待たないことにしますわ」

「……お手柔らかにね?」

「もちろんです。メジロ家の者として、誇り高き行動を心がけますわ」

 

そのモンスニーちゃんの笑顔はまさに貴族に相応しい笑顔だった。

……どういう意味でかは、考えないことにする。

 

 

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