ウマ娘とかいう種族に転生した話   作:史成 雷太

35 / 100
前回、なんとお二人ほど関西弁を訂正してくださった方がいらっしゃいました。
泣いて喜びました。
本当にありがとうございました。


God or emperor, Domain

「かっこよかったじゃーん、稲妻仮面ライダー?」

「ふ、そうだな。まるで正義のヒーローだったぞ」

「言わないでよ。これから大悪党になるんだよ?」

「ははは! じゃあ、アタシたちはその一味?」

「それも悪くないな。肩を並べて走るのは、初めてだしな」

「……終わったらだまして一緒に出場したって噂流さないとな……」

 

僕は仮面を置いて、汚れていないジャージに着替える。

今回はゼッケンに数字とは別にエンブレムが描かれている。

僕たちのチームは馬で、プロミス先輩たちのチームは車だ。そして、シンザン会長は学園のエンブレム。

 

「そっちは準備万端かしら?」

「一応、確認だけどわたしたちが内側でいいんだよね?」

「ええ、よろしくお願いしますね」

「もちろん、先頭というのは慣れませんがみなさんを導いて見せます」

「最後の直線は任せろ」

 

全員が闘志を燃やしている。

調子も絶好調だ。

 

「そうだ! あれやりましょうよ! あれ!」

「あれって何ですか?」

「円陣よ!」

「円陣ですか?」

「そう! 円陣組んでエンジン全開ってね!」

「……はあ」

 

マルゼンスキーが提案をしてくる。

ちょっとやる気が下がりかけたが、うちのチームの二人は笑いをこらえている。

え?

そういうのが好みなん?

 

でも、円陣というのは悪くない。

しゅうごーう! とマルゼンスキーが全員を集めて円を描くように立つ。

 

「さ、何か言って?」

「僕ですか!?」

「だって、あなたが発起人じゃない」

「まあ、そうですけど……」

 

僕はこほんと咳ばらいをする。

よし。

 

「僕たちは今から神話に挑戦する! そして、その神話を終わらせることにしよう! 次は、僕たちの時代だ! シンザンを超えるぞ!」

「「おうっ!!」」

 

……少し、いや結構気合が入った。

 

それから僕たちはターフに向かった。

 

 

 

『さあ、学園のレース企画も終盤に差し掛かって来ました。次はエクストラレース! 特別仕様のこのレースにはなんと、生きる伝説シンザンが出場します!』

 

沸く観客と声が大きくなる実況。

そんな中、僕たちはターフに出て行く。

 

『なんと、このレース4対3対1の超異例のレース! 1着を取ったチームが優勝となります! 発起人は今何かと話題のウマ娘、ミスターシービー!』

 

このレースはシービー発案ということにした。

なんというか、シービーは僕が言わなくても発案しそうだったというのもあるが、僕が言い出したと知られれば何かと問題があるように思えたからだ。

 

とはいえ、メンバーの中に僕がいることに観客たちは少なからず驚きの声が上がる。

僕は怪我で休んでいるということがすでに知れ渡っているはずだから、それも仕方のないことだろう。

耳を澄ませば走れるのか、怪我は小さかったのかと話し声が聞こえてくる。

 

URAは事故に関しては情報をあまり公表しなかった。

それはもちろん解決していない事件を周知してはいけないという理由もあるが、僕のイメージをコントロールしたかったからだ。事故に遭った可哀想なウマ娘として報道されてしまうと積み上げたものが無駄になるし、URAの管理能力に疑問が出るだろう。

シンボリ家のおかげでURA内で安全確保のための決まりは制定されつつあるらしいが、それはそれとしてURAのイメージを下げたくないのだ。

 

ずる賢いと思うと同時に僕はそれでいいと考えている。

問題は生徒の安全が確保されるかという一点だけで、URAのイメージはどうでもいいのだ。というか、下がらないなら下がらない方がいい。

外から無駄に攻撃されて辞めることになるのは責任感のある人だけだから。

 

『「神の名を持つウマ娘、シンザン。その人に勝つために用意した舞台です。伝説の終わりは楽しいレースじゃなきゃね」とのコメントを残しています』

 

コメントもちゃんと読み上げてくれる実況さん。

ありがとね。

 

『距離は3200m。右回り、芝。今日のターフは良となっています。さあ、チームメンバーを紹介しましょう! Aチーム、マルゼンスキー、キョウエイプロミス、メジロモンスニー、ダイナカール! Bチーム、ミスターシービー、ブラックトレイター、シンボリルドルフ! そして、Cチーム、シンザン! ……ここで、ターフにいるシンザン生徒会長の言葉を聞きましょう』

 

そう実況が言うと、会長にマイクが渡される。

会長はそのマイクを受け取ると、観客を見渡す。

 

『……長らく、私に挑戦する者はいなかった。私とてウマ娘、正直なことを言うならば、少し寂しかった。――私はこの感謝祭を持って生徒会長を辞める。次の生徒会長はそこのシンボリルドルフだ』

 

そう言うと、知らなかった者も多いのかざわめきが起こる。

 

『だから、このレースに誘ってくれた後輩を私は嬉しく思う。そして、だからこそこの次世代のウマ娘たちを全力で叩き潰そう。『Eclipse first, the rest nowhere』唯一抜きん出て並ぶものなし。さあ、その体現者がここにいる。全力でかかってこい』

 

その風格は間違いなく、最強のウマ娘だった。

 

シンザン会長はマイクを帰すと僕のところへやってくる。

 

「ブラックトレイター」

「会長」

「今日を楽しみにしていた」

「僕もですよ」

「今日、ここで私は神話を終える。勝利という形でだ」

「現役は続けるんでしょう?」

「ああ。だが、出るレースは絞られるし、URAの依頼で出ることになるだろう」

「それでいいんですか?」

「もちろん。私はレース以外にやりたいことがたくさんあるからな」

「そうですか。……ですけど、一つ間違いがあります」

「なんだ?」

「勝つのは、僕たちです」

「……ふ、君は本当に面白いウマ娘だ。その大口に見合うようなレースを頼むよ」

「もちろんです」

 

いよいよ、ゲートインが始まる。

 

1番 メジロモンスニー

2番 キョウエイプロミス

3番 ダイナカール

4番 マルゼンスキー

5番 ブラックトレイター

6番 ミスターシービー

7番 シンボリルドルフ

8番 シンザン

 

順番ですら、僕たちに有利になるようにした。

会長はそれを了承した。

それでも、勝てると豪語したのだ。

 

『さあ、名立たる次世代の代表たち! そして、最強のウマ娘神バ、シンザン! そのレースが始まろうとしています! シンザン神話はどのような形を迎えるのか! その力ですべてをねじ伏せるのか、それとも次世代が神に手をかけるのか! ――エクストラレース、スタートです!』

 

僕たちは一斉に飛びだす!

そして、どんどんと加速し、同時に一直線の列を作る。

 

「ほう」

『な、なんということでしょう! Aチーム、Bチーム、ぴたりと一直線の列を作りました! 息もピッタリだ! なんという連携! これでは一人のウマ娘のようです!』

 

僕とモンスニーちゃんが先頭を引っ張り、速度を上げていく。

後続はぶれない。

ピッタリとくっついていきている。

その後ろには会長が控えている。

追い込みの位置だ。

 

僕は自分の体内時計によってラップを刻む。

先頭は僕たちBチームだ。次にAチームが走っている。

だが、Aチームが走るスペースは十分に空けている。

 

『早くも3ハロンを通過! 33秒……33秒!? 先頭のBチーム自殺的ハイペースで進んでおります!』

 

それでいい。

僕の持ち距離は2000m。

3ハロン33秒21で駆け抜ける。

シービーとルドルフはひたすら僕の後ろで足を温存している。

そのままどんどんと進んでいく。

 

Aチームのみんなもその後ろを追随する。

とても縦長なレース展開だ。

 

『どういうことだ、このレースは!? 一体何が起こっている!? あのシンザンが追い付けないほどのハイペース! シンザンは最後方でAチームとの距離が1バ身ほどあります!』

 

どうする、会長。

どう出る?

このまま僕たちは駆け抜けることができるぞ。

 

1500mを通過する。

相変わらず僕の体内時計は等間隔にラップを刻んでいる。

 

その時、ドン、ドンという爆発音が聞こえてきた。

一瞬、花火でも打ちあがっているのかと僕は思った。

だが、それは違った。

 

それは足音だった。

 

シンザン鉄。

それは会長専用の蹄鉄だ。

会長は踏み込みが強すぎて普通の蹄鉄を付けた靴だと踏みつぶしてしまうのだ。

それを改善するために創られたのがシンザン鉄。

その蹄鉄の重さはなんと通常の2倍。

異常なパワーがないと扱えない代物。

 

それが鳴いている。

 

極限までに研ぎ澄まされた感覚の中、僕は会長の声を聞いた。

 

「スリップストリームか。面白い。どこでその技術を学んだのかは知らないが、それなら私が壊してやろう。本命はAチームだな?」

 

その瞬間、後ろからの圧力が強まる。

自分の走っているコースが正しいのかわからなくなる。

足音がすぐ後ろに聞こえて、ペースを上げそうになる。

その精神的な圧力によってがりがりとスタミナが削られているのがわかる。

 

僕は知っている。

何度も何度も会長とのトレーニングでこれを味わったからだ。

シンザン記念でのテクニックは会長から授けられたものだ。

本家本元はさらにえぐい威力を発揮する。

 

そして、なによりも恐ろしいのはそれが向けられているのは、僕ではないと言うこと。

 

『おおっと、ここでAチームの隊列が崩れる! 再び集まろうとするが、上手く行かない! そのまま1800m通過!』

 

Aチームが一瞬で瓦解してしまう。

その攻防を僕は見れなかったが、ほんの一瞬だということはわかった。

 

まずい、と思う。

僕たちの本命はマルゼンスキーだった。

マルゼンスキーが僕たちの最高速。

その末脚を最後の直線に発揮してもらう予定だった。

だが、あと1400mは走れない。

モンスニーちゃんもハイペースで走り切れるスタミナを残していない。

 

もうAチームは走り切れない。

 

なら、僕たちがやるしかない。

だが、思った以上に消耗が激しい。

僕は叫んだ。

 

「シービー、ルドルフ! 2500mだ! そこまで運ぶ! 残りは頼んだぞ!」

「……おーけぃ、ルドルフ! アタシは500m! 1ハロンだけは頼んだよ!」

「いいだろう、みなに必ず勝利を!」

 

500mの追加。

それがどれだけ苦しいことなのか、僕は知らない。

だけど、シービーとルドルフの力はどうしても必要だ。

死ぬ気で走れ。

根性だけは会長にだって負けない。

 

『2200mを通過! シンザンを瓦解したAチームが押さえ込んでいたが、ここでシンザン抜け出す! そのままBチームに迫ろうとする! だが、Bチーム相変わらずハイペース! どこまで続くのか!』

 

苦しい。

苦しい。

肺が破けそうだ。

まだか。

2500mはまだか。

そう思った時、12本目のハロン棒を通過した。

あと、100m。

 

足が鉛のように重い。

体は僕の言うことを聞かず、動きを鈍くさせる。

タイムは遅くなる。

 

そうだ、これがレースだ。

忘れていた。

けど、思い出した。

 

ずいぶん足を引っ張った。

けど、これならシービーたちがどうにかしてくれる。

そう思った瞬間だった。

 

 

――ぞ、と背筋に悪寒が走った。

瞬間、僕はあるはずのない山を幻視した。

それは風景だった。

神々の山を写した光景。

それは幻覚だった。

会長の圧力が僕たちに見せた幻覚。

すさまじい音が後ろから迫っている。

 

『シンザン、外側から急速に加速! すさまじい速度だ! これが神バの力なのか! 2500mを通過! ブラックトレイター、ここで垂れる!』

 

僕はどうにか先頭を譲り、ルドルフの後ろに付く。

スリップストリームをどうにか受ける。

 

会長はスピードもパワーも集中力でさえも上がっているように見えた。

しかも、息が整っている。

ゲームで例えるならば、全てのステータスが底上げされ、技のレベルすら上がっているようだった。

 

なんだこれは。

こんなことをできるウマ娘がいるのか。

 

まさに神の領域だった。

 

「これが、私の持つ唯一無二のスキルだ。この領域内で私は負けたことがない。打ち勝って見せろ」

「上! 等! いくよ、ルドルフ! アタシの仕事はここからだ!」

 

シービーは加速していく。

どんどんと加速していく。

それはシービーの真骨頂。

ロングスパート。

それだけなら、会長にだって負けない。

坂道での加速。

それは過去にシービーがやっていたこと。

そして、それはここでも発揮された。

 

シービーと会長は似ている。

その才能という力を容赦なくぶつけてくる戦法を好む。

坂道での加速など、他のウマ娘にはできない。

しかし、シービーはそれを可能にする。

暴力的なまでの才能は坂すら踏み均す。

 

「! 驚いた。まさか――」

 

会長は心底面白いという笑みを浮かべる。

嫌な予感が全身を駆けまわる。

 

 

「まさか、私と同じことをできるウマ娘がいるとはな」

 

 

会長も加速したのだ。

じりじりと、じりじりと会長が迫る。

一体、いつになったらスタミナが切れるんだ!?

まだか、ゴールはまだか!?

 

シービーは気合で速度を上げていく。

だが、まさに3000mを通過した瞬間。

 

「私の勝ちだ」

 

僕たちは会長に抜かされた。

 

「……! いいや、まだだよ! ルドルフ!」

「ああ!」

 

そして、僕たちの勝敗は皇帝に託されたのだった。

 

 

――後にこの1ハロンは伝説となる。

 

 

飛びだしたルドルフは会長を追って加速する。

だが、あまりにも縮まらない距離。

あまりにも短い距離。

残りの1/2バ身が縮まらない。

 

『残り1ハロン! ここでシンボリルドルフが飛びだす! シンザンを追う! 皇帝vs神バ! ――だが! だが、縮まらない! ここまでして勝てないのか、最強のウマ娘! 強すぎる!』

 

誰もがダメかと思った。

やはりシンザンは最強だったと。

未だに油断はなく、その強者としての空気を纏って進む。

 

だが。

だが、皇帝シンボリルドルフはその底力を発揮する。

残り50m。

ほんの、ほんのギリギリまでシンザンを追い詰める。

 

その瞬間。

僕は確かに感じた。

空気を。

――あの、シンザン会長と同じ空気を。

 

僕たちはほとばしる稲妻を幻視した。

 

『――ゴールっ! まさに同着! ここからではどちらが勝ったのかわかりません! 写真判定が行われます!』

 

僕たちはそのまま遅い速度でゴールする。

3着がシービーで、4着は僕だ。

Aチームのみんなもゴールにたどり着く。

 

「ど、どっちが勝った?」

「……まだ、わかりません」

 

僕たちはその瞬間を待つ。

7番か、8番か。

ルドルフか、会長か。

 

そして。

そして、判定が終わる。

掲示板に書かれた番号は7番。

それはルドルフの番号だった。

 

『7番! 7番、シンボリルドルフ! 次世代の皇帝が、なんと! あの、最強の、ウマ娘、シンザンを! 討ち下しました!! なんということだ! まさに伝説のレースとなりました、エクストラレース! 残り、50m! 確かに我々はその姿に神威を纏うのを目撃しました!』

 

勝った。

勝った。

僕たちの勝ちだ。

 

ルドルフは呆然と掲示板を見ている。

その気持ちはわかる。

何故なら僕たちも実感できていないからだ。

 

そこへ会長がやってくる。

表情は負けたと言うのに柔らかな笑みが湛えられていた。

 

「三人とも」

「……会長」

「負けたよ。油断はなかったし、万全だった。特に最後の50m。ルドルフの領域に引き込まれた。驚いたよ、まさか入学した直後のウマ娘がそこまで達するとは」

「……いえ、あれができたのは無我夢中だったし……それに、チームで掴んだ勝利です」

 

会長はルドルフと握手をする。

まるでG1の勝利のような歓声が僕たちを包む。

 

「次の時代は君たちだ」

 

『シンザンを超えろ、そうみなが口々に言いました。しかし、それを叶えるウマ娘は今の今まで現れませんでした。そう、今までです! 皇帝シンボリルドルフが現れるまでは! 超えたかどうかをいまさら論じることはしません! ですが、次代のウマ娘は確かにシンザンに届いていたことを証明しました!』

 

会長は笑って、観客と共に手を振る。

 

「では、次のレースもあるから、退場しよう」

「はい。……会長!」

「ん? なんだい?」

「また走りましょうね。次は勝ちます、正々堂々と!」

「ふ、ははは! 本当に君は面白いウマ娘だ、ブラックトレイター」

 

 

 

僕たちは退場する。

そして、控室へ帰って来る。

 

シービーが僕を見る。

僕は頷いて、ルドルフの方へ行く。

そして、僕は右手を、シービーは左手を手を高く上げる。

 

「ルドルフ! 僕たちの勝ちだ!」

 

そう言うと、ルドルフは初めて笑った。

 

「――ああ!」

 

僕たちは大きく音を鳴らしてハイタッチをした。

 

 

 

こうして、僕たちの感謝祭は終わった。

 

 




伝説となったシンザン。そして、『シンザンを超えろ』というスローガンを終わらせたシンボリルドルフ。
その戦いを書きたかったのです。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。