東京優駿。
またの名を日本ダービー。
それは一生に一度のレース。
そのレースに勝った栄光は計り知れないものだ。
その年の全ウマ娘の頂点を決めるからだ。
マルゼンスキーはダービーに勝ったことでその力を証明して見せた。
僕もこのレースにかける思いは並々ならぬものだ。
一度は破った約束を叶えるため。
夢を諦めようとしているウマ娘との約束のため。
トレーナーの目標のため。
僕を世話してくれたルドルフとその家の人達のため。
そして、僕の目標のため。
勝ちたい。
いや、勝つんだ。
そのためにはシービーの三冠も打ち砕く。
東京レース場はすさまじい熱狂に包まれていた。
多くのヒトたちがシービーの勝利を願い、誰もが僕の敗北を願った。
その瞬間を見るためにやってきているのだ。
当たり前だが、枠順はもう決まっている。
1番 メジロモンスニー
2番 ハートオーダス
3番 ダケノステップ
4番 イズミシュシュ
5番 スイートパルフェ
6番 ハッピーミーク
7番 ブラックトレイター
8番 ミニタカフジ
9番 ジャラジャラ
10番 スズカコバン
11番 ブリッジファイアー
12番 ミスターシービー
13番 リボンパック
14番 リードシャダイ
15番 ロイヤルリニアル
16番 ショートスキー
17番 キクノスリーパー
18番 ジュエルダンディー
19番 ファンドリヒクマ
20番 アクアソフィア
21番 デュオパワー
『パドックでは各ウマ娘が今か今かとその時を待っています。では、出走するウマ娘の紹介に入ります』
僕たちはパドックで準備運動をしている。
みんな一様に集中力を高めている。
一番内枠はモンスニーちゃんだ。
当然紹介も一番初めになる。
『皐月賞2着という好走を見せました。長距離を得意とする彼女は皐月賞よりも長い東京優駿でどのような結果を残すのでしょうか』
『仕上がっているようですね、期待できるウマ娘です』
モンスニーちゃんは無視できない相手だ。
柔軟な頭と、どんな作戦をしてでも相手を打ち取ろうとする気概がある。
絶対に上位に食らいついてくるという確信がある。
その後も、解説実況のヒトたちは紹介に熱が入る。
いつもよりもパドックでは時間がかかっている。
『……続きまして、6番、ハッピーミーク。オールラウンダーの彼女はその安定性をダービーでも発揮できるのか』
『緊張はしていなさそうですね、精神的に優位に立てそうです』
ハッピーミークちゃんも実力を伸ばしてきている。
その珍しい毛色も相まって人気はシービーに次いでいるようで、グッズの売れ行きも良いと聞いている。
プッシュされていると言う点ではモンスニーちゃんよりも上だろう。
『そして、今回注目されているウマ娘、7番、ブラックトレイター。青葉賞ではレコードを叩き出した優勝候補のウマ娘です』
『……いつ見てもすさまじい仕上がりですね』
『ダービーには青葉賞で勝ちあがったウマ娘は勝つことができないというジンクスがあります。果たしてこのウマ娘はそのジンクスに、人気に、名立たるライバルたちに打ち勝つことができるのでしょうか!』
自分の番が来たのでパドックに出る。
というか、そんなジンクスあったんだ、知らなかった。
僕は少しぼろい勝負服を身に着けている。
だが、それを隠すようなことはしない。
堂々として、挑発的な笑みを浮かべておく。
ボロボロのコートがはためき、髪が揺れる。
「よう、俺の勝利を祝いに来てくれてありがとう。ハッピーミークもメジロモンスニーも、ミスターシービーも俺に敗北する。その瞬間を目に焼き付けておけ」
そう言うと、ざわめきが大きくなる。
中には罵倒も混じっている。
今までの比ではないほど大きい。
『本当にあんなウマ娘なのか……』
『さっさと負けちまえ!』
『URAはどうして出走停止にしないんだ?』
『弱み握ってるっていう噂があるぞ』
『シービー! やってやれ!』
『フロックで威張んな!』
『あれ、勝負服についてるの血じゃないか?』
『いや流石に……ないよな?』
『でも、顔はいいよなブラックトレイター』
『あんな表情しなければな……』
そんな声が聞こえてくる。
うんうん、噂程度しかしらない人もいるみたいだ。
是非僕のことを覚えていってほしい。
僕は鼻を鳴らして、そのまま引っ込むことにした。
『12番、ミスターシービー! 事前人気投票では1位を獲得しています! 皐月賞を優勝し、三冠を狙うウマ娘でもあります! 枠順は良い位置ではありませんが、それを覆すことができるのか!』
『今までにないほどに良い仕上がりですね。皐月賞以上の実力を見れそうですね』
シービーはいつも通りに笑っているようだが、僕にはその闘志が燃え上がっていることを知っている。
「今日は今まで以上に楽しいレースができそう。みんな、応援してね」
『シービー!』
『三冠取ってー!』
『ブラックトレイターをぶっ倒せ!』
『信じてるぞ! 人気投票にも入れるからな!』
『こっち向いてー!』
『デビューから見てるぞ!』
『センター待ってるぞ!』
その歓声はひと際大きく、次の子がやり辛そうな顔をしていた。
やはり人気は絶大で、これなら人気投票も1位だろうなと思える。
シービーは人気だ。
かつてこれほど人気の出たウマ娘はいないだろうと思う。
だが、シービーにとってそれは些細なことでしかない。
人々はその自由さに惹かれ、憧れるのだ。
それからも順調にパドックは終わり、いよいよターフ入りが始まる。
ターフへの廊下は静かだ。
もちろん、関係者以外立ち入り禁止だし、ここまではトレーナーも来ないからだ。
薄暗い廊下に足音だけが響く。
ターフに出るために歩いていると、立ち止まっている影があった。
「シービー」
「やあ、やっと来たね」
「うん、待たせてごめん」
「ほんとだよ? でも、その仕上がりに免じて許してあげる」
「ありがと。シービーも、すごい仕上がりだ」
「もちろん。だってずっと楽しみにしてたんだ」
そう語るシービーは澄んだ瞳をしている。
威圧感なんてないのに、大きな存在感があるように思える。
「ずっと、ずっとだ。あの時、君に負けた時からこのレースを楽しみにしていた」
「シービー……」
「アタシの何かが言うんだ。君がいたらもっと楽しくなるって」
シービーは熱に浮かされたような表情をする。
「ラック。君にはずっと負けてきた。けど、今日アタシが勝つよ」
「シービー。それは違うよ。今日も僕が勝つ」
僕たちは笑い合った。
じゃあ、行こうかと言われて、二人でターフに出る。
眩い光に少しだけ目を細め、視界を取り戻す。
ターフだ。
いつも通りのはずのターフ。
だけど、決定的に違う。
ホープフルSの時とも違う。
これがダービーか。
『出走ウマ娘、次々とターフに出てきました。その代の主役を決めるとも言われる日本ダービー! 今年の役者は一味も二味も違います! 強力無比のステイヤーも異端のヒールも、三冠を狙う風雲児も出場しています! 見てください、聞いてください。未だかつて、ここまでの盛り上がりのあるダービーがあったでしょうか! どんな結果が出ても、伝説となることは間違いないでしょう!』
僕は深く呼吸をして、周りを見渡す。
観客も、ターフも、ウマ娘も、輝いて見える。
少し目を凝らせば、トレーナーやルドルフ、シリウスを見つけることができた。
今、僕は世代の頂点を決める戦いに挑むことになる。
だけど、緊張はなく、沸き上がるのは闘志だけだ。
『人気上位のウマ娘を紹介しましょう。この人気は不満か、3番人気ハッピーミーク。オールラウンダーは世代の最強に上り詰めることができるのか。2番人気、メジロモンスニー。名家の意地を見せ、ステイヤーとしての強さを証明できるのか』
『私イチオシのウマ娘です、頑張ってほしいですね』
『そして、1番人気! ミスターシービー! ここまで投票の集まったウマ娘は初めてでしょう! その人気に恥じない力を発揮できるのか! ……各ウマ娘、ゲートインが始まります』
いよいよ、ゲートインが始まる。
枠順で言えば、一番有利なのはモンスニーちゃんだ。
このダービー、最も運のいいウマ娘が勝つという理由はここにある。ダービー、大外のウマ娘は勝てないのだ。
もちろん、特出して強いウマ娘なら勝つ可能性はある。
だが、ダービーに出走するウマ娘は多い。皐月賞も菊花賞も出ないがダービーには出るというウマ娘もいるくらいだ。
強いウマ娘でもこの多いバ群の中に埋もれた瞬間、負けがほぼ確定する。大外はその可能性が高いのだ。
僕やシービーの真ん中も出遅れたらバ群に呑まれる可能性を秘めているので、油断はできない。
順番が来たので、ゲートに入る。
静かに前を見据える。
そして、とうとうその時が来る。
――約束の時だ。
『……今、東京優駿スタートしました! ……ああっと!? ミスターシービー出遅れた!! なんということでしょう!』
僕はスタートを決め、シービーは出遅れたようだった。
なにやってんの。
ちょっと呆れそうになりながらも僕は体内のタイムをスタートさせる。
今回もラップ走法だ。
だが、そのタイムは青葉賞より少し下だ。
早速先頭に立った僕はちらりと後ろを見る。
シービーはもちろんだが、モンスニーちゃんがいない。
どこだ?
少なくとも先頭集団にはいない。
でもきっと来る。
二人はきっとやってくる。
僕はどんどんと距離を空けていく。
「ブラックトレイタアアアアアアアアア!!」
最初に仕掛けてきたのはスイートパルフェちゃんだ。
スイートパルフェちゃんは僕のタイムの怖さを知っている。
僕を逃がすことの怖さを知っているのだ。
『最初の直線、最初に出たのはブラックトレイター! それを追うようにスイートパルフェ! 最初の叩き合いはこの二人だ! 掛かっているようなタイムで走り抜ける!』
僕はほくそ笑む。
計画通りだ。
青葉賞の僕のタイムはここにいる全員が知っていることだろう。
そして、僕に逃げられたら勝てないことを知っている。
だから、僕について行くしかない。掛かりというレベルのペースに付き合うしかないのだ。
自分のレースをできないウマ娘は焦る。
焦り、スタミナを失っていく。
逆に僕はスタミナをキープしている。
むしろ、ペースはほんの少しだが抑え気味だ。
スイートパルフェちゃんは僕に追い付いているが、前には出れない。
これ以上のスタミナ消費は自殺行為だとわかっているからだ。
勝つためには抑えるしかない。
『波乱のレース展開となりました、日本ダービー! 先頭はブラックトレイター! それに比べて、メジロモンスニー後ろから5番手、ミスターシービー後ろから3番手となりました! ハッピーミークは前から5番手、先行の位置を取っています』
モンスニーちゃんは下がったのか。なら最初はスイートパルフェちゃんとハッピーミークちゃんを注目しないといけない。
このコース、終盤まで坂道は少ない。
だが、最終直線から急な上り坂が存在する。
ここでスタミナを消費するのは敗因になる。
逆に、スタミナを消費させることができれば勝因となる。
僕は直ぐ近くの先頭集団に会長から教わったテクニックを駆使して揺すっていく。
スイートパルフェちゃんは思いっきり顔をしかめ、ハッピーミークちゃんも走りにくそうにする。
二人は横に展開し、ロスしてしまう。
そして、展開が動いたのは第三コーナー手前200mだった。
スイートパルフェちゃんとハッピーミークちゃんがとうとう僕の先頭を嫌って、前に進出し始めたのだ。
『おおっと、ここでスイートパルフェ、ハッピーミーク同時に先頭へ! ブラックトレイター、ここで先頭を譲りました! やはりスタミナが持たなかったのか!?』
キツイ展開だ。
前に出るとは思わなかった。
ここでのスタミナ消費は自殺行為。だが、二人は自分のスタミナが持つことに賭けたのだろう。
僕のラップ走法は乱されたら一気に弱くなる。
きっと、この二人には僕は負けない。
だが、その後に控えるシービーとモンスニーちゃんとの戦いに勝てなくなってしまうのだ。
僕は覚悟を決める。
前は譲る。
今、先頭じゃなくていい。
最後に1着ならいい。
心を固め、前を睨みつける。
『第三コーナーを下って行きます! 先頭はスイートパルフェ! 2番手にはハッピーミーク! しかし! 両名とも表情を険しくしています! ブラックトレイター、不気味に息をひそめている!』
僕のタイムは正確に刻まれている。
僕は大丈夫だ。
だが、僕以外は大丈夫ではない。
先頭集団のタイムが落ち、僕たちとの距離が離れる。
どこまで持つ。
どこまで行くんだ、スイートパルフェちゃん、ハッピーミークちゃん。
でも、いいよ。
付き合ってあげる。
長い長い第三コーナーが終わる。
そして、とうとうその時が来る。
『第四コーナーに差し掛かる直前! スイートパルフェ、ハッピーミークが下がっていきます! やはり殺人的なタイム! 波乱のダービーとなりました! ここでブラックトレイター先頭を取り戻す! ここが指定席だとばかりに躍り出る!』
僕が先頭だ。
第四コーナーに入る。
さあ。
ここからだ。
ここからは種も仕掛けもない、実力勝負。
僕を含めた三人がレースを引っ張った。
それは後続のスタミナも消費させたはずだ。
僕もスタミナを温存できているわけではないが、それでも青葉賞よりもタイムは下。
走り切るには十分以上。
普通なら、僕にレース展開を任せた時点で他のウマ娘は僕に追い付けない。
だけど、来る。
来る。
絶対に来る。
シービーは絶対に来るんだ。
その時、ひと際大きな足音が響き始めた。
『最終コーナーを回る! そして! そしてやはりやってくる! 脅威のパワーを持つスパートをかけてやってくる! ぐんぐんと二冠目を取りにやって来るぞ、ミスターシービー! 最終直線に入る! メジロモンスニーも上がってくる!』
モンスニーちゃんはシービーとの真っ向勝負か。
その末脚はすさまじいものだ。
だが、シービーの末脚はさらに上を行った。
大外からシービーがやってくる。
坂道に入る。
まだシービーとの距離はある。
今までのシービーなら僕に追い付けない距離だ。
――今までのシービーなら。
『ブラックトレイター、坂道を駆け上がる! そのペースは落ちない! スピードはほとんど落とさない! 大悪党のプライドか! だが、ミスターシービーがじりじりとその距離を詰める! 3番手にメジロモンスニーが上がってくるが、追い付けるか!?』
やっぱりシービーはシービーだ。
獰猛な笑みを浮かべて、僕の予想のはるか上を進化する。
坂道を登りきる。
さあ、今度は僕と真っ向勝負だ。
『やはり、この二人! 最強の大悪党と最強の風雲児! もうどちらが勝ってもおかしくない! ミスターシービー追い上げる! ブラックトレイター逃げる!』
「ラックウウウウウウウウウウウウ!!!」
「シイイイイイビイイイイイイイイ!!!」
息が苦しい。
足がはち切れそうだ。
すさまじい速度だが、シービーはそれを上回る。
負けたくない。
負けたくない。
勝ちたい。
シービーには。
だけど、現実はいつも僕を追いこんでくる。
シービーの末脚は僕の想像のはるか上。
ゴールが遠いって言うのに、その切れ味は僕の喉元を捕らえた。
そうだ。
それこそがミスターシービー。
僕がこの目標を掲げてから培ってきたアドバンテージを踏み越えようとやってくる。
『シービーは強くなる。もっと。でも、あなたはそれに追いつけない。今はライバルかもしれない。じゃあ、将来は? きっとあなたはシービーに勝てなくなる。その時、シービーはあなたを対等なライバルと言えるけど、あなたは言えない。だって、勝てないから』
そうかもしれない。
僕は先のことを考えずにかっこうをつけただけかもしれない。
僕は、『今』を見る余裕しかなかったのだから。
でも、だからこそ、今だけは勝ちたい。
――今だけは、諦めたくないんだ。
朦朧とする意識の中、僕は今までのことを思い出す。
何かに絶望し、URAを恨んでいたトレーナー。
強すぎた故にライバルも、レースすらも諦めていたマルゼンスキー。
教え子のためになにもできないと歯がゆい思いをしていた東条トレーナー。
自分の所為で一人のウマ娘が終わったと思っていた会長。
海外に追い付けと言いながらもそれができないと思っているURA。
大きな夢を掲げ、だからこそ始まる前から不安に苛まれていたルドルフ。
海外を夢見ながら家がそれを許さないシリウス。
誰も彼もが何かを諦めようとしていた。
『ミスターシービー! 並んだ! 並んだ! ブラックトレイター抜かされた! 残り1ハロン!』
嫌だった。
僕は、そんなの嫌だった。
なるべくなら誰もが悲しい思いをしないでほしかった。
シービーが僕の視界に映る。
だから、僕が証明するんだ。
何も諦めないでいいということを。
見ろ。
僕を見ろ。
これが。
これこそが――。
「――っ、諦めないってことだアアアアアアアアアアアアア!!!!」
絶叫し、息を全て吐く。
ガチンと歯を鳴らして、呼吸を止める。
もう一滴の空気もないだろうと思うほど体は締まりきる。
キツイ。
苦しい。
だから、どうした。
僕が学んだことはこれだけじゃないぞ。
僕はプロミス先輩の走りを思い出す。
その末脚を。
『!? ブラックトレイター再加速! なんということだ! 1ハロンもない状況で加速した! 差し返そうとひた走る!』
勝つ。
勝って証明するんだ!
『――今、並んでゴールイン! 全くの同時に見えました、ミスターシービー、ブラックトレイター! 1バ身後にメジロモンスニーが3着!』
シービーと僕は同時にゴールを踏んだ。
僕はそのまま、足がもつれ、膝をつく。
酸欠で視界が真っ白だ。
掲示板があるだろう方を向くが、何が映っているのかわからない。
僕はどうにか呼吸を整える。
そうしていると、手を引かれる。
「シービー?」
「ラック」
シービーだ。
シービーに支えられてどうにか立ち上がる。
ようやく戻ってきた視界に酷く満足そうなシービーの表情が映る。
掲示板を見るが、そこには『写真判定』の文字。
勝ったのか?
負けたのか?
僕にはわからなかった。
シービーに聞こうとすると、いきなり抱き着かれる。
あ、柔らかい。
じゃなくて!
「ちょ、シービー!?」
こんな場所で!?
みんな見てるよ!?
なんなら全国中継だよ!?
「~~最高だった!! ラック! ラック!! こんなに楽しいレース!! 初めてだった!!」
「うん、わかったから、わかったからシービー! みんな見てるから!」
「ねえ、ラック、キスしていい? いいよね!」
「ちょ!」
テンションが上がって、愛情表現なのか、僕の頬にキスをするシービー。
汚れてるから!
レース後だから!
口の中じゃりじゃりしちゃうよ!
「全く、何をしているんですの、あなたたちは」
「も、モンスニーちゃん助けて!」
「はいはい。ほら、はしたないですわよ」
モンスニーちゃんに引きはがされてようやく自分の足で立つことができた。
「勝敗は!? どっちが勝った!? シービー!」
「わかんない! 同時に思った!」
「後ろから見ててもそう思いましたわ」
どっちだ。
どっちが勝ったんだ。
未だに写真判定の文字が消えない掲示板を穴が開くほど見ていると、シービーが不敵に笑った。
「もし、負けてても泣かないでよね、ラック」
「楽しかったんでしょ! 勝ちは譲ってくれてもいいんじゃない?」
「ダメダメ! アタシは勝ちたいの!」
「じゃあ、恨みっこなしね」
「もちろん!」
「あら、表示されましたよ。あ、うふふ」
僕とシービーは掲示板を見る。
最初僕はその意味がわからなかった。
初めて見る表示だったからだ。
でも、先に意味を飲み込んだシービーはお腹を押さえて笑い始めた。
「あ、あははははっはははっはは!! うそ! そんなことある!? おっかしいなあ!! 『同着』なんて! 初めて見た!!」
『同着』
つまり、つまりどういうことだ?
勝敗は?
「も、モンスニーちゃん、同着って……?」
「文字通りですわ。全く差がなく同時にゴールということです。勝者が二人いるということです。ダービー優勝おめでとうございます、シービーさん、ラックさん」
そう言われて僕は初めて実感がわき始める。
同着……確かにそれは完璧な勝利とは言えないだろう。
だけど、僕は確かにダービーで勝った。
勝ったんだ。
「――うん! ありがとう!」
『なんということでしょう! 波乱万丈の日本ダービー! 最初から結末まで波乱万丈だ! なんと勝者は二人! ダービーウマ娘が一度に二人誕生しました! そして、ミスターシービーは二冠目! 三冠まであと一つとなりました!!』
ここで主人公が勝つのか、負けるのかをずっと悩んでいました。
それこそこの小説を書こうと思った時からの悩みでした。
自分としてはこうあってほしいという願望のため、この展開になりました。
その理由はいつかわかります。
先ほどツイッターで知ったのですが、今日でアニメターボ師匠のオールカマーから1年だそうですね。