主人公のは結構素です。
何もなければ7時半と19時半に毎日更新を予定しています。
入学しました、トレセン学園!
広い! 綺麗! いろんな機材がある!
確かにウマ娘にとっては最高の場所だ。
今になってよく入学できたな、と思う。
僕は家柄的なバックはないのだ。
それどころか、親もわからないと来た。
よう受け入れたな。
僕はあれから色々と考えた。
ミスターシービーと同年代、つまり、彼女とは常に争う立場にある。もし、前世と同じ実力を持っているのであれば、シービーちゃんは三冠を取るかもしれない。
それを僕が邪魔をするのか?
もちろん、僕はシービーちゃんを甘く見ていない。
未登録バ戦は勝ったが、結構ギリギリだった。これからのシービーちゃんの成長はとてもじゃないが、追い付けるものじゃないだろう。
だが、出るのであれば勝つ気でやる。
じゃあ、僕が三冠を取ってヒーローになるのか?
それこそシービーちゃんを甘く見ていないのでできるとは断ずることはできない。
結局は、いい案は思いつかなかった。
そもそも、シービーちゃんがいるのだ。
トゥインクルシリーズは盛り上がるのではないかとすら思った。
だけど、それはだめだ。
そもそも、今までだって三冠ウマ娘は2人誕生しているのだ。
それじゃトゥインクルシリーズは十分な盛り上がりとは言えない。
それ以外の何か、それ以上の何かが必要だ。
少なくとも、圧倒的な三冠ウマ娘になるくらいじゃないといけない。
悩めども、解決策はやってこない。
僕はとりあえず、学園に順応することを決めたのだった。
シービーちゃんとは同じクラスだった。
ニコニコと猫のように笑う彼女を見た時に安堵したものだ。
意外と僕も緊張していたらしい。
「シービーちゃん、久しぶり」
「ひさしぶり、ラック。元気だった?」
「それなりかな。アマチュアレースに出ようと思ったらトレセンに入るウマ娘はダメって怒られるくらいには元気だよ」
「あっははは、ダメじゃないと思うけど、ラックが出ると勝負決まっちゃうからね」
道理で探してもいなかったわけだとシービーちゃんはつぶやく。
賞金目当てだったから、仕方ないかと引き下がったが、蹄鉄の消費がえぐいのだ。結構ピンチだ。
「蹄鉄、学園が負担してくれないかなぁ」
「まー、そういうの、トレーナーが就いたりチームに入ってからだろうね」
「そうだよねぇ……」
「アタシが出そうか?」
「そっ……れは遠慮しとく。友達との貸し借りはしません! でも、ありがとう」
「ふーん、まあ、いいけど。でも、勝負服とかも自己負担だから、無理だったら言いなよ?」
「うん……え、勝負服?」
「勝負服」
「ジャージじゃなくて?」
「グレードが高いのはジャージじゃダメだよ?」
「うっ、なんかわからんけど、そうかぁ」
まあ、確かに映像で見たレースはみんな華々しい服を着ていた。
そういうの、注文しなきゃいけないんだろうな。
「いくらするんだろう。1着あればいいかな?」
「ダメでしょ。汚れたまんまウイニングライブ行くつもり?」
「ウイニングライブって?」
「え?」
「ウイニングライブって何?」
「ウイニングライブだよ?」
「え?」
「え?」
シービーちゃんはウイニングライブについて説明してくれた。
それはそれは丁寧に説明してくれた。1+1は2なんだよと言わんばかりの説明だった。
驚愕の事実。
ウイニングライブというものはレースと同じくらい大切なもので、アイドルよろしく歌って踊るものらしい!
「ほんとに知らなかったの?」
「だって、テレビはないし、レースのことしか調べなかったからそんなものがあるなんて思わなかったんだよ……」
「いや、草レースもあるし、未登録バ戦も歌ったよね?」
「テンション上がって、レースも終わったし歌って踊ろう! みたいなノリ的なやつかと思ってた……」
「お宝をゲットした海賊かなんかと勘違いしてる?」
ちゃんとしたものだったのね、あれ。
エーちゃんが歌ってたから流行りの曲かと思って、覚えてたんだけど、それなかったらやばかったんだな。
え、じゃあ、僕アイドルみたいなことしなきゃいけないの?
もしかして、レース出るウマ娘って、アスリートよりそっちの側面の方がデカい? いや、聞く限り半々……だと思いたい。
勝負服のためのお金も、歌もダンスもどうにかしなきゃいけない。
問題が山積みすぎる。
「ま、ちゃんと練習しときなよ。ただでさえ評判悪いんだから」
「え、まだ何もしてないんだけど、評判悪いの?」
「忘れた? メイクデビューは楽勝って言ったって知れ渡ってるよ? 同級生からしたら舐められてるって感じるだろうね」
「いや、それはお金がないから払えるとしてもメイクデビューで勝てればですって言ったんだよね。入学を許してくれるなら、それくらいの覚悟で頑張りますって」
「あはは、弁明しているようでできてないよ? ニュアンスは違うけど言ってることは同じだからね?」
「た、確かに……」
どうしよう。
学園生活詰みかけてるわこれ。
「シービーちゃん、友達だよね……?」
「何死にそうな顔してるの? 友達じゃなくてライバルって言ったら死にそうだから友達って言っておいてあげる」
「シービーちゃん……!」
ひしっと抱き着く。
シービーちゃんはめんどくさそうに笑った。
「色々問題はあるだろうけど、何はともあれ選抜レースでトレーナー探さないとね?」
「うん……そうだね」
トレーナーか。
今まで自己流だったからな。
どんな人だろう。
できればベテランで優しくてお金持ちがいいな。性別はどうでも。
それから数週間後、一回目の選抜レースが開催された。
それとシービーちゃんは「ちゃんつけなくていいよ」と言ってくれたので、これからはシービーと呼ぶことにした。
選抜レース。
それはいわば、自分を売り込むためのレース。
ここでトレーナーについてもらって初めてレースに出る権利がもらえる。
実はこの選抜レース、二つある。
一つは授業としてトレーナーたちに見てもらう選抜レース。
もう一つは有力なチームが主催する試験としての選抜レース。
チームは実績があるため、チームの選抜レースは人気だ。
しかし、僕はそちらには興味がなかった。
チームだとトレーナーに見てもらえる時間は減るし、僕の目標から言ってフットワークが軽い方がいい。
だから専属トレーナーが欲しいのだ。
なんだったら実力があるなら新人でも全然いい。
ちなみにシービーは入学前からスカウトが来ていたらしい。
本人は家が有名だからねぇ~と意に介してはいなかったが。
僕としてはこの選抜レース、残念なことが一つある。
このレース賞金が出ないのだ。
いやまあ、当たり前なんだけども。
授業の一環だしね。
ともあれ、さっさと勝ってトレーナーをゲットしたい!
勝ちました。
トレーナーはつきませんでした。
あれ!?
勝ったらつくんじゃないの!?
なんか遠巻きにひそひそされてるんだけど!
結構強いレースしたんだけどなぁ。
選抜レースを何回か走ったが、それでもトレーナーはつかなかった。
落ち込んでいると、シービーが話しかけてくる。
シービーは死ぬほどトレーナーに囲まれていたが、抜け出してきたらしい。
シービーは何故かまだトレーナーを付けていない。
「見事に遠巻きにされてるねぇ」
「あの噂、そんなに根が深かったなんて……」
「ここにいるとトレーナーが来なくて快適だぁ」
「僕を人避けにするなぁ!」
手を振り回すが、にょほほと避けられる。
「ま、まずいぞ! もう蹄鉄これがラストなのに! 次の選抜レース勝てる自信ない!」
「そんなにすり減ってるの?」
足を上げて見せると、シービーは腹を抱えて笑った。
「あっはははは、よくそれで勝てたね!? もう1ミリくらいしか残ってないじゃん! それもう蹄鉄じゃなくて靴底で走ってるじゃん!」
「うるせい! 手入れ大変なんだぞ! そもそも靴がへたってるから修繕して履いてるんだぞ!」
「もぉ~、アタシ、こんな子に一敗したの?」
「あの時は万全だったよぉ」
それからシービーは数分かけてようやく笑い終わった。
「だけど、どうするの、トレーナー」
「うーん、どうしよ。シービーはどうするの?」
「アタシは……ベテランの人から声かけてもらってるから、その人かチームの方の選抜出てから決めるかな」
「引く手数多だなぁ」
「まあねぇ。むしろ、勝って遠巻きにされてる方が珍しいよ? レアだよ、レア!」
「くっそぉ! もう誰でもいい! ……わけじゃないけど、勝たせてくれるなら使い潰すくらいの人でも全然いいのに」
「それは……」
「おい、ブラックトレイター」
シービーが何かを言おうとしたら、唐突に声をかけられる。
顔を上げると、サングラスをかけたクソいかついスーツの男性が立っていた。その胸にはトレーナーバッチが付いている。
「だれですか……?」
あまりの威圧感にシービーの後ろに隠れながら聞く。
「トレーナーだ」
「ブラックトレイターです……」
「知ってる。お前をスカウトしに来たからな」
「……」
「……」
「……シービー?」
「え、何?」
「言われてるよ?」
「もしかして、国語苦手?」
「テストはいつも100点でした」
「アタシはサボってました」
「よくここ入れたね」
「スカウトだったからね」
「……」
「……」
「……あの」
「なんだ?」
「僕ですか?」
「そうだ」
僕か!
僕のスカウトか!
シービーの後ろから飛び出してその人の手を掴む。
こわもてだけどよく見れば天使に見える。
あれ、天使の輪と羽生えてる?
「よろしくお願いします! ブラックトレイターです!」
「さっきも聞いたし、知っている」
「専属ですか!?」
「チームは持っていない」
「後から噓でしたとかなしですよ!?」
「そんな予定はない」
「……もしかして、噂知らないんですか?」
「お前がビッグマウスで学園を挑発した上に学費は払わないと抜かしたことなら知っている」
「違いますけどね!」
「そうなのか、どうでもいいが」
「これからよろしくお願いします! ブラックトレイターです!」
「……よろしく」
よっしゃ、トレーナーゲット!
「シービー、トレーナーゲットした!」
「ゲットされた立場だけどね」
確かに。
「じゃあ、契約書書いてくる!」
「あ、待って」
「え、何? あげないよ?」
「いらないけど。本当にいいの?」
「何が……?」
「その人、良い噂聞かないけど」
そうなの?
トレーナーの方を向くと、見つめ返された。
「どういう噂?」
「ウマ娘を道具みたいに扱うとか、オーバーワークを強要してくるとか」
「そうなんですか?」
「前者は間違っていないが、後者はトレーナーとしてギリギリを見極めている」
「じゃあ、いいです」
「あ、いいの? 言ってること、嘘かもしれないんだよ?」
「うーん、それは僕も同じでしょ。でも、その中で声をかけてくれたから」
「ま、いいけど」
「ありがと、シービー」
そう言うと、僕はトレーナーを押していく。
「さっさと契約しましょう!」
「ああ、わかったが、何を焦っているんだ?」
「いえ、せめてトレーナーから離れられるなら靴と蹄鉄買わせてからにしようと思って」
「意外と強かだな、お前……」
ずんずんと僕たちは歩く。
少し行ったところで、トレーナーに話しかける。
「それで、どうして僕をスカウトしたんですか?」
「お前が速かったからじゃダメなのか?」
「それでもいいんですけどね。トレーナーって速いとスカウトしたくなるものなんですか?」
「大体がそうだ」
「その大体に入っているんですか?」
「……いいや」
トレーナーはため息を吐く。
「お前が『誰でもいい』と言ったからだ」
「言……ってませんよ? 勝たせてくれるならとは言いましたけど」
「俺なら勝たせてやれる」
「なるほど、じゃあ、当てはまってますね。それで?」
「……俺は、トゥインクルシリーズが嫌いなんだ」
おっと、問題発言。
「理由は言わないが、ともかく、トゥインクルシリーズ……もっと言うとURAだな。……にあぐらをかいている奴らを全員引きずりおろしてやりたい。そのために勝つウマ娘が欲しかったんだ。道具として扱ってもいいやつが良かった」
「そうですか……」
「それで?」
「え?」
「契約を取り消すか?」
「え! どうしてですか!? 僕を捨てるんですか!?」
「……話聞いてたか、お前」
「いや、冗談ですけどね。まあ、正直に言いましょうか」
なんかやばいことを正直に言ってくれたので僕も正直に言うことにする。
「僕、孤児院出身なんですよ。それでお金なくて。今のところ、二つ目標があって、その一つが孤児院にお金を入れること。もう一つがトゥインクルシリーズを変えることです」
「変える?」
「そうです。そもそもお金がなくてトレセン学園に入学できなかったり、実力があって走りたくても走れないレースがあったりする。ウマ娘に生まれて思うことがあるんです。窮屈だって。だからそれを少しでも解消したいんです」
「それでお前が壊れてもか?」
「うーん、それは嫌ですけどね。というより、話しておかないといけないことがあるんですよ」
「なんだ?」
「僕の噂、半分くらいは本当で、学費払ってないんですよ。で、その学費、メイクデビューで勝ったら払うってことになってて、負けたら退学です」
「メイクデビュー戦は一回しかないんだぞ」
「わかってますよ。だから、勝たせてくれるなら誰でもいいっていうのは本当です。そもそも、勝たなきゃ残れないですからね。でも、実は僕は強いのでメイクデビュー戦は勝つ自信があります。なので、トレーナーとしての指導は別に期待してないんです。その後に契約解除もできますから」
「おい」
「でも、もちろんトレーナーが強くしてくれるなら契約続行ですよ! それならなんでもオッケーです! その時は一緒にトゥインクルシリーズをぶっ壊しましょう!」
「いいのか、それで。変えたいんだろう?」
「まあ、そうですけど、変えるのとぶっ壊して作り直すのも同じかなって」
そう言うと、トレーナーは「俺は別にぶっ壊したいわけじゃないが……」とつぶやく。
「まあ、いい。それならよろしく」
「はい!」
「……ああ、後、敬語じゃなくてもいい」
「そう? じゃあ、よろしく!」
こうして、僕はトレーナーをゲットしたのだった。
トレーナーはスーツにいかつい顔をしています。