ウマ娘とかいう種族に転生した話   作:史成 雷太

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That devil stole something precious and priceless

6月のオープン戦は勝利に終わった。

僕は才能はともかく、中長距離でなら同世代で5本の指に入る。ニホンピロウイナーちゃんがいないのなら負ける要素はなかった。

それも終われば、気温も上がり夏に入る。

夏と言えば、夏休み!

そして、夏休みといえば夏合宿だ!

去年は長いこと友達と会えてなかったからちょっと寂しかったが、今年はシービーもモンスニーちゃんもカールちゃんもいる! もちろん、先輩方もだ。

気を抜くわけではないが、ちょっと楽しみだ。

 

「私としても、トレーナーの言い分も理解できる。それが秩序を保つという意味でも。ジュニア級の私が行くなら他のウマ娘はどうなるという話だろう。だが、それは怪我の心配などを含めた話で、その点私は去年参加していたし、心配ないんだ」

「そうだね。でも、東条トレーナーは聞いた上でダメって言ったんでしょ?」

「ああ。……しかし、ラック、去年君も私と過ごしていたのだから少しは力添えをしてくれてもいいんじゃないか? 元々同じチームだったろう?」

「いや、そうだけど、今は同じチームじゃないでしょ……」

 

夏合宿直前、ルドルフはジュニア級なのでリギルの中でもお留守番と言われて盛大に拗ねていた。

去年行ったんだし、私も行きたい! と言っているのだ。

ルドルフだったらリギルに従うと思っていたけど……。

 

「あははは! こんなルドルフ久しぶりに見た! 最近はお堅くなっちゃったから寂しかったんだ~」

「シービー! 君からもトレーナーに言ってくれないか?」

「うーん、じゃあスピカに来なよ! うちならトレーナー許可してくれるよ? 放任主義だから! この前はトレーナーのお財布で焼肉行ったし!」

「あ! ずるい! ならまた一緒になろうよ、ルドルフ! うちならトレーナーに道具にされるだけで、利用価値あるうちは効率良く強くしてくれるよ!」

「……いや、私はやはりリギルが好きだ」

 

ルドルフは何とも言えない顔をする。

シービーは気に入った相手はとことん懐柔しようとする。ルドルフはその最たる相手だ。隙あらばいっしょに走ろうとするし、引き込もうとする。僕もついでにされる。

でも、シービーにルドルフを取られるのは面白くない。取られるくらいなら僕のにしたい。

 

「でも、それを言うならマルゼンスキーに頼んだら?」

「確かに。同じリギルでしょ?」

「……マルゼンスキーとは対等にいたいのでな……」

 

マルゼンスキーには頼みごとをしたくないらしい。

ルドルフとマルゼンスキーの関係はルドルフがリギルに入ってから少しずつ変わっていった。

本能的にわかっているのかもしれない。

同世代では追い付けない才覚を持っているということ。そして、それ故に同じ孤独を味わうだろうということを。

ルドルフは強い。

才能があり、それを発揮できる丈夫さがあり、それを活かすための努力も惜しまない。

だからこそ、違う世代で同じ才覚を持ち、なおかつ同じチームのルドルフとマルゼンスキーは惹かれ合ったのだろう。

ちょっと嫉妬する。

 

「じゃあ、アタシたちはいいんだ?」

「よぉしよしよし、ルナちゃん! 僕たちお姉ちゃんがその分可愛がってあげるからねぇ~!」

「ええい! やめろ! 近づくな頭を撫でるな!」

 

ルドルフはそう言うが、本気で抵抗してこない。

愛いやつめ、大人しく可愛がられろ!

しばらくわちゃわちゃして満足すると、シービーが話を戻す。

 

「でも、そうだなぁ、説得は難しかったとしてもどうにかしてあげたいかなぁ」

「あれ、そうなの? 意外だね、シービー」

「置いてかれる寂しさは共感できるからねラック?」

「確かに他でもないルドルフのためだしちょっと考えるくらいならやぶさかでもないな僕はうん全くそう思うよし僕らがどうにかしよう!」

 

シービーは猫みたいな目をかっぴらいて僕をじっと見つめる。

去年のことを根に持っているようだ。

 

「ただまあ、トライはしてみるけど、ルドルフが言ったようにトレーナーの言うことが正しいからね? ルドルフは僕ほど丈夫じゃないんだから、学園でのトレーニングの方がいいんだから」

「むう、わがままを言っているのは自覚があるが……」

「わかっているよ、ルドルフ。だから、どうにかしてあげたいんじゃない」

 

シービーの言う通りだ。

ルドルフは自制が利くウマ娘だ。というより自制が利きすぎる。

そのルドルフのわがままだ。できるかどうかはともかく、頼まれたらどうにかしてあげたくなっちゃう。

 

 

 

早速僕とシービーは準備をし、ルドルフと共にリギルに突貫することに決めた。

装備は帽子やサングラスだ。

 

「っておい、リギル以外のウマ娘は入らないようにと張り紙がしているだろう」

「じゃあ、僕今からリギル! しゃきーん!」

「アタシもリギル! しゃきーん!」

「なんだ、しゃきーんって! おい、話の前に怒られるぞ!」

 

ルドルフを無視してリギルの部屋に入っていく。

 

「こんにちはー」

「こんにちはー」

「こんちはー」

「こんにちは」

 

挨拶をすると挨拶で返される。

うん、リギルはいつもいい子たちだ。

 

「なんでバレないんだ……」

「リギルは人数多いからね」

「アタシたちの変装技術のおかげだよ」

「というか、そもそも話をしに来たのなら変装しててもバレないか?」

「え?」

「なに言ってるの、ルドルフ?」

「……なにかおかしなことを言ったか?」

「僕たち、話し合いに来たなんて言ってないよ?」

「そうだよ、ルドルフ。おっちょこちょいなんだから」

「待て、すごく嫌な予感がしてきたぞ」

 

そのタイミングで東条トレーナーが入ってくる。

 

「「こんにちは!」」

「ああ、こんにちは。全員そろって……なんか人数多くないか?」

 

速攻バレた。

だが、別に問題ない。

シービーと一緒に帽子と眼鏡を派手な動きで取る。

全員の視線がこちらへ向く。

そして、ルドルフにズタ袋をかぶせる。

 

「お、お前ら! またか! また説教を食らいたいのか!?」

「油断したな! シンボリルドルフは頂いた!」

「返してほしかったらルドルフの合宿用のトレーニングメニューを合宿所まで書いてくるんだな! 合宿所で返してやろう!」

「お、おい!? ラック、シービー!?」

「「では、さらばだ!」」

 

僕とシービーはそのままルドルフを担いで窓から脱出する。

東条トレーナーが怒気を孕みながら追ってくるが、こちとらダービーウマ娘姉妹、ヒトが追い付けるわけもなく。

そのまま学園を脱出する。

 

「ふう、大成功だ」

「世紀の大怪盗になっちゃった」

「いい加減出せ! どこから出してきたんだ、このズタ袋!」

「ごめんごめん」

「これ? これはスピカの勧誘の時用に用意したんだ」

「普通に勧誘しろ! というか、どういうことだこれは!」

 

ルドルフを袋から出す。

その間にシービーが説明してくれる。

 

「合宿、スピカとラックのところはボロボロの合宿所使うの。聞いたところ料理とかも自分たちでしなきゃいけないらしいじゃん。だから、その準備のために他のチームより先に行くの」

「去年死にかけたからね~」

「だから、先にルドルフ拉致っちゃえばいいかなって。東条トレーナーってとんでもなく真面目だからこうすればメニュー考えてくれるかなって」

 

袋から出たルドルフは頭痛がするのか、頭を抑えている。

 

「……向こうに行っても強制送還されるかもしれないだろう」

「メニュー考えてなかったら取引はできないなぁ。メニュー考えてたら帰す理由もないでしょ?」

「そゆこと」

「穴だらけだし、こんなことして許されると思ってるのか……?」

「ルドルフ」

「……なんだ?」

「行くの? 行かないの?」

「……行くさ。去年と同じだ」

「じゃあ、決まり! 拉致だから今日は準備してお泊りしようね!」

「寮でか?」

「寮長いるから夜に学園に忍び込んでトレーナー室にお泊り!」

「その大胆さはどこから来るんだ……」

「普通にやばいけどね」

「他ならぬルドルフの頼みだからねー」

「君たちに頼むと穏便に済まないんだな……君たちは童話に出てくる魔女か?」

「うーん、悪役、その方向性でも良かったかも」

「確かに、ラックは青鹿毛だから似合うかもね。勝負服新調するならいいかも」

「待て待て、やめるんだ。もっと明るい勝負服にしなさい。そうだ、それがいい。今の勝負服もボロボロだったろう」

「だめでーす! 捨てませーん!」

「みんなで同じモチーフの勝負服でも作る?」

「……私はそもそもまだ1着目も持っていないんだが」

「そういえば確かに」

「ルドルフはどんな勝負服にするの?」

「そうだなぁ、家のデザイナーに任せているが……ドレスか、スーツか……」

「ルドルフはかっこいい系が似合いそうだよね」

「そうだね、アタシとラックはパンツスタイルだけど、ルドルフは足長いしミニスカでもいいかも」

「足が長いのは君たち二人もだろう……」

 

勝負服の話になる。

僕の勝負服、菊花賞までに直るかな。

それはともかく、ルドルフの合宿の準備をしないといけない。

 

「ルドルフは家に連絡しておきなよ?」

「あ、いや、そのまま家に行っちゃうか。服とかも取りに行かないといけないし」

「いや、もう準備はしてあるんだ。荷物はまとめてある」

 

じとっと僕とシービーはルドルフを見る。

ルドルフはすっと目を逸らす。

こいつ、初めから行く気だったな。

 

「……いいじゃないか、君たちに頼んでダメだったら諦めるつもりだった」

「別に? ルドルフは可愛いなぁと思っただけだよ?」

「ほんとにね。そんなに楽しみだったの?」

「うん、その評価は仕方ないが、今すぐ口を塞ぎたい気分だ」

「ま! でも都合いいし荷物取ってトレーナーの部屋に行こうか!」

 

こうして、ルドルフ拉致計画は意外と上手く行ってしまったのであった。

 

 

 

「ただいまー」

「おじゃましまーす」

「お邪魔する」

「……なんだ、お前ら」

「え、お泊り会だけど」

「……明日から合宿だということをわかっているのかと、どうしてここでやるのかを聞いていいか」

「うん、わかってるし、ルドルフを拉致してきたから寮には帰れないんだ。大丈夫、外泊許可は取ってあるから!」

「……どこから拉致してきたんだ。シンボリ家か?」

「リギルから」

「……なあ」

「なに?」

「頼むから返してきてくれないか?」

「ダメでーす! 明日から一緒に合宿に行くので!」

 

そう言うと、トレーナーは天井を見る。

というか、睨みつける。

 

「……俺はどうすればいい?」

「帰ってゆっくりお風呂に入って、ゆっくり寝なさい。ここでは何も見なかったし、明日は合宿だ。予定通りに行かなきゃいけないからすぐ寝なきゃいけないし、知らないことはどうしようもない。そうだよね?」

「……確かに、そうかもしれない」

「トレーナーは明日からの準備をやればいいよ。それが仕事で、それ以外は気にしなくてもいい。でしょう?」

「……ああ、確かに。そうだな。うん、帰るとしよう」

 

トレーナーはそう言って、コートを手に取る。

その時、不意に机にあったトレーナーのスマホが鳴る。

電話だ。

画面には『おハナ』の文字。

僕たちはそのスマホを固唾を飲んで見守っていると、それが鳴り終わる。

そして、今度はぴろん、ぴろんとメッセージが流れてくる。

 

『ルドルフがそっちに行ったわよね?』

『外泊届が出ていたわ』

『実家にもいなかった』

『沖野は縛り上げたけど、知らなかった』

『あなたのところよね?』

『今から家に行くから』

『待っていなさい』

『待っていなさい』

 

トレーナーはそれを見つめた後、ゆっくりとコートをもとに戻した。

 

「……今日、俺は帰りたくない」

「彼女か、おのれは」

「……どうするんだ、これ。合宿所に連れて行っても、リギルに会うんだぞ?」

「うん、合宿所で引き渡すよ? それまでの逃避行だよ」

「………………ルドルフ」

「なんだ?」

「帰ってくれないか?」

「私は今、捕虜みたいなものだ」

「お小遣いをあげるから」

「ラックとシービーに言ってくれ」

「ラック、シービー……」

「うん、僕がトレーナーを脅すよ。ヒトは力じゃウマ娘に勝てないよね」

「アタシも」

「…………脅されるとしよう」

「じゃあ、証拠として縛り上げて椅子に固定した写真を撮ろう」

「面白そう!」

「面白そうじゃないが」

 

文句を言うトレーナーを縛り上げて椅子に座らせる。

そして、その写真を撮る。

ついでにその膝に乗って悪い顔して自撮りもする。

 

「おい、それ必要か?」

「必要必要。誰が脅したのかわからせないと」

「……そうか」

 

そして、さらについでに縛られているトレーナーと3人で『走りで来た』とばかりに記念写真を撮った。

ルドルフはトレーナーに言う。

 

「……ラックがああなのは、君の監督不行き届きな気がしてならないぞ」

「珍しくだが、俺もそう思っていたところだ」

 

僕とシービーはそれを無視してルドルフが荷物を取ってきているうちに作った料理を温めていく。

別にコンビニ弁当でも良かったのだが、バランスを考える手間を考えると作った方が早かったのだ。

たくさん作ったのでトレーナー一人増えたところで大丈夫だろう。

 

「おぉー! ラックって料理上手いんだね」

「あ、そっか。シービーは食べたことないんだっけ」

「ケーキはあるよ。……ほかの二人は食べたことあるような口ぶりだね?」

「あるよ? 合宿では最初の方は作ったし、クリスマスは作ってトレーナーと一緒に食べたし」

「そうなの?」

 

シービーは話していた二人の方へ向く。

 

「あ、ああ、実は料理をしたことがなくてな? 教えてもらったんだ」

「……俺は誘われただけだ」

「というか、トレーナー君? クリスマスに一緒に過ごしたというのはどういうことだ?」

「…………俺は誘われただけだ」

「ルドルフ、それはほんとだよ。あの時は楽しかったなー。トレーナーからのプレゼント嬉しかったし」

「不純異性交遊か? しょっ引くぞ?」

「やめろ、大体、お前らが家に帰るから一緒に過ごす羽目になったんだぞ」

「え……? そんな風に思ってたの……? 僕、トレーナーに喜んでほしくて頑張ったのに……」

「……別に、嫌だったわけじゃないが」

「そういえば、トレーナー君。君が契約を解除したのはその直後だったな? ラックがそんなに君のことを想っていたのに、契約を解除したのか?」

 

飛び火に飛び火が重なって、修羅場になった。

やめて!

僕のために争わないで!

というか、トレーナーの縄を解いてないので、ルドルフに脅されている図が完成している。シービーも自分をのけ者にして楽しいことをしていたのが許せないのか、空洞みたいな目で見ている。

写真撮っておこ。

 

「はい終わり! 食べよ!」

 

準備をして机に並べていく。ついでにトレーナーの縄も解く。

トレーナー室は来客用のテーブルやソファはしっかりあるので、そこを使う。

 

「じゃあ、いただきます!」

「いただきまーす」

「いただきます」

「……いただこう」

 

しっかりできている。

凝り性なところもあるので、100%満足とは行かないけど、それなりの出来だ。

シービーたちは美味しそうに食べてくれる。

 

「そういえば、シービーは料理できるの?」

「できるんじゃない?」

「……やったことはある?」

「ないよ? でも、いつも食べてるんだし、できるでしょ!」

 

同じ事言っていたなとルドルフを見ると、目を逸らされる。

 

「……シービー、料理とは勘でできるものじゃないぞ?」

「えー? そうなの? ルドルフはできるんだっけ?」

「……まあな」

「ルドルフ、合宿所にいるのを許されたとしても、こっちに来ない?」

「トレーナーが許すとは思えないが……」

 

今年も、料理を教えるところから始めないといけないのか……。

せめてシービーがルドルフと同じくらい器用で素直なことを祈ろう。

 

次の日、僕たちはそそくさと合宿所に向かったのだった。

 

 

 

「で? 俺たちが泊まるところはどんなとこなんだ?」

「前も言ったろう。木造の古い建物だ。部屋数自体は多いし、手入れもされていないわけじゃない」

「でも、雨降ったら雨漏りしそうだよ?」

「そんなに古いのか……」

 

僕たちは沖野トレーナーが運転するバスで合宿所に向かっていた。

シービーはしきりに外を気にして、ルドルフはそんなシービーの世話をしている。年齢的には逆だと思うけど……。

沖野トレーナーは顔を引きつらせながら言う。

 

「……もひとつ聞きたいんだけど、いいか?」

「……俺は何も知らないからな」

「いやそれは通じないだろ! どうすんだよ、シンボリルドルフ行方不明って聞いたけど!?」

「行方不明じゃないです。僕たちが拉致したから。合宿所に行ったら返すって言ったし」

「言ったしじゃないが!? おい、なんで止めなかったんだ!」

「……流石に家までくるおハナには恐怖を感じた」

「その顔の威厳はどこ行ったんだ! くそぉ、別々に行きゃ良かったぜ……」

 

沖野トレーナーはハンドルからは手を離さないものの、背を丸めて怖がる。

 

「ブラックトレイターって噂に違わぬ問題児だな……」

「ありがとうございます、照れますね……」

「全く褒めてないが」

「でも、今回はシービーと一緒にやったことですよ?」

「……なあ、これって俺たち、監督不行き届きで折檻されないか?」

「……お前は昨日されただろう?」

「いや、すぐにルドルフを探しに行くって行っちまったから……」

「……もう、諦めるしかない、か」

 

上機嫌なシービーとルドルフと反対にトレーナーたちは沈んだ表情だった。

そんなこんなでバスは合宿所に向かって行った。

 

 

 

 




サブタイは『やつはとんでもないものを盗んでいきました』というセリフの英訳です。
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